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神剣の刀鍛冶

作者:gomachan
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EPISODE04勇者Ⅲ

「セシリー=キャンベルと申す」

「……ルーク=エインズワースだ」

しばし、沈黙が流れた。

「ここは鍛冶屋と聞いた。ぜひ注文がしたい」

「なんだ客か」

独立交易都市ハウスマンのはずれに位置する工房リーザ。
騎士として、初めての実戦を体験したばかりのセシリーは、とある場所へ足を運んでいた。
あまりにも人里から離れている為、工房リーザに至るまで少し彷徨っていたようだ。
セシリーが来る以前にも、実は一人の青年が訪れた事がある。
その青年とは、ちょうど彼女が三番街自衛騎士団に入団した数日後に流星の如く現れた。
彼の名は獅子王凱。
既に工房リーザの親方、そして弟子とは凱と面識があることを知ったセシリーは、リーザに至るまでのルートを求めた。
一応リーザも『街』に属するが、それも名目ばかり。
基本的構造は根っからの農地であり、それを幾重にも分断するような農道が枝分かれしている。ただでさえ理解しがたい住所なのだから、凱が手掛けた詳細地図なしではとてもたどり着けない。
よくガイはここが分かったなぁ、とセシリーは改めて凱に感心していた。

「言っておくが、ウチは実用品限定だぞ」

「打ってくれないか?あなたの剣と同じ業物を!」

無機質な眉毛がピクリと動いた。それが目的かと言わんばかりに、その瞳も鋭さが増す。
誰にも気づかれないような仕草で――

「悪いが剣の鍛錬は親父の代で廃業したんだ」

「何!?」

「悪いが別の店をあたってくれ」

この台詞をあの男に吐いたばかりだな、とボヤくルークを余所に、諦める事ができずセシリーはしぶとく食い下がる。

「え?でもあの剣はあなたが作ったのだろう!?ガイとリサに聞いたぞ!」

「お茶が入りました♪」「リサ!」ルークの視線がギロリと光る。標的となるのは弟子のリサただ一人だ。
はわわと怯えるリサが慌ててお茶をこぼしつつ、ひょっこりと身を隠すのだった。なんとタイミングが悪いことか。

「素晴らしい技術じゃないか!なぜ無名でいる!?」

「……」

「ルーク!あの剣の……カタナの力を自覚しているはずだ!」

「悪いが帰ってくれ」

同じ台詞を繰り返し吐くルークは、まるで独り言のように己の心境を呟く。

「俺は俺の為に刀を打つ」

――昔に……そう決めたんだ――

窓越しから、はるか遠くに映る活火山を見つめるルークの横顔は、どこか寂しげに見えた。

「セシリーさん、刀をご存知ですか?」

「いや、ガイからその剣の名を聞いただけなんだ」

「ああ、あの髪の長い人ですね」

二人が凱の名前をいい、ルークは感心を引きつけられる。

(シシオウ=ガイ……か)

不思議な雰囲気のする人だなぁ、と以前リサが言っていたのを思い出す。
確かに、リサでなくとも、あの空気には魅かれる何かがある。ルーク自身にもそれは分かる。
得体のしれない翠碧の短剣を携え、誰も知り得なかった知識もある。
独立交易都市どころか、この大陸の人間にはない何かがある。
一体、どこからやってきたのだろうか、ふと考えてしまう。
ブレア火山より遥か西の、戦姫が織りなす戦争の大陸から――?
いや、それとも……




                    Ⅱ




(盗賊団の討伐か……なるほど、自衛騎士団が自力で解決したいと思うわけだ)

多次元防衛勇者隊所属改め、三番街自衛騎士団所属の獅子王凱は、人ごみに塗れながら街をフラついていた。
独立交易都市の市長を務めるヒューゴー=ハウスマンの話によれば、どうやら事件の背後には他国が関与しているらしい。襲撃犯は、正式に独立交易都市へ書面を提示し、堂々と目的物を奪取したというのだ。ヒューゴーからすれば、何としても大陸国家との関連性を公表せずにすませたいはずだ。
もしかしたら、この独立交易都市内にて介入者が潜伏しているかもしれない。そう大胆な事態を視野に入れた市長は直々に、凱だけ別任務を言い渡した。
新米団員の凱をこのような単独任務に就かせるのは、騎士団編成以来、極めて異例な事だった。
だが、彼ならこの事件を迅速に集束できるかもしれない。規則を覆す判断が解決に導くと、そう市長は判断したのだろう。

(しかし、問題は奴らが魔剣というのを手中に収めているかもしれないという事だな)

魔剣とは、代理契約戦争終結後の初頭から相次いで発見された謎の剣である。現在確認されている魔剣は、各国によって情報がバラバラ、正体不明の能力を有する為、悪魔との関連性が疑われていた。その為、帝国を始めとした国々が血眼になって探索しているのが現状だ。
具体的根拠があるわけではないが、帝国と魔剣という言葉の組み合わせに、凱はひどく不安の信号を感じ取っていた。
そして街は、相も変わらず湧き上がる賑やかさを見せていた。
流通の激戦区と言われる『市』なら、魔剣のきっかけがつかめるかもしれない。そう考えた凱はとりあえず足を運んだのだった。
市とは、三年に一度開催される独立交易都市のお祭りである。都市の大事な収入源となるこの時期に、いらぬ不安要素は削除したい。いち早く解決したい市長の気持も何となく分かる気がする。

どーん――

ぐるぐると考えている内に、どうやら女性の一人とぶつかってしまった。
だが、服装柄からみて、職種がはっきりとは分からない。おそらく踊り子の類だろうか。かなり露出度の割合が高い格好をしている。

「いったーい」

「あっ、すまない……怪我は?」

慌てて凱は、涙ぐんで倒れる女性の手を優しくとる。細く、それでいて柔らかい女性の手の感触に、少しだけドキッとした。

「……ここは?」

「へ?」

「ここはどこ?あたしはダレ?」

「おいおい、大丈夫か!?」

真顔になって女性に迫る凱は、本気で心配になった。もしかしたら、この流れでいけば記憶そう……

「なーんちゃって♪ウソだよ」

可愛げに舌をチョロッと出しながら凱を見上げた。
心配するどころか、本気で叱ってやろうかと思った。

「こら!タチの悪い冗談はやめろ!」

「あ、もしかして本気にしちゃった?あなたの反応が面白かったからつい……」

あははと笑い女性を余所に、凱はぷるぷると身体を震わせていた。この子は完全に俺を弄んでいやがる。

「でもちょっとだけ責任とってくれない?」

「責任?」

「ぶつかっちゃったせいで、あたしの頭にコブができちゃったから」

「い、いや、それは俺も悪いと思って……」

「い・い・な!」

凱は女性の妙な迫力に思わず飲まれ、凱は首を縦に振った。
大事な任務が……という凱の意見を軽くあしらい、女性はムリヤリ凱と凱旋すると宣言していた。

「まいったな、魔剣を探さなきゃいけないのに」

「魔剣?」

どうやら思わず口に出してしまったらしい。彼女は魔剣という単語を聞き逃さなかった。
凱は慌てて誤魔化そうとするが、既に遅かった。

「ん~~今日一日あたしにつきあってくれたら……魔剣の在り処を教えてあげるよ」

何やら胡散臭い気もするが、魔剣の情報が入らない現状では、どこで何をしようと変わらない。

「分かったよ。俺で良かったらとことん付き合うぜ」

OKサインを差し出すと、彼女は大いに喜んだ。どうして彼女が魔剣の所在を知っているのか、謎が多い部分もあるけど、とりあえずスルーする。
彼女の喜びようを見ていると、不思議と凱も同じような気持ちになった。

「じゃあ早速あそこにいこうよ!何か面白そうなお店があるよ!」

強引に手を引っ張られ、凱を勢いよく引きずっていく。
今日はもう仕事OFF。踊り子みたいな女の子の理不尽に付き合ってあげようと、仕事の事は忘れたのであった。

太陽が頭上で輝くのを許す限り、二人は凱旋という探索を尽くしていた。むしろ、はたから見れば、探索と言うより遊びという言い方がいいかもしれない。
中世時代を思わせるこの街は、意外と娯楽施設が多かった。それ以上に、凱にとって馴染み深い設備もあった。

「ボウリング?」

首をかしげるように、女性は店の看板を見上げていた。

「懐かしいなぁ、ボウリングかぁ」

「何それ?」

「まぁ、説明するより実際にやってみたほうがはやいぜ」

しかし、大陸のボウリングは、凱が思っているような単純な道楽ではなかった。
鋼の玉を転がして全てのピンを打ち倒す単純なルールだと思っていた。が――
なぜかボウルが自走式の玉鋼だったり壁伝いを奔ったり爆発したりと意味不明な規則が盛り込まれ、もはやボウリングとは次元がかけ離れていた。
「やだ!なにこれすっごく面白い!!」
初めて体験する為だったのか、彼女は大いにはしゃいでいた。
凱の世界でいう、いわゆるストライクを連発しているから、気分はとても爽快だった。
隣の凱は、彼女がストライクを出す度に起きる爆発に巻き込まれていた。
こんなのボウリングじゃない。

娯楽が終わればお昼である。お昼といえば最高の喜び、即ち「食」へと移行する。片っ端から店を食べ歩いていく最中、凱は女性の食欲に目が釘付けになった。

「すげぇよく食うなぁ」

「ふぁっふぇ、ふぁんふぉふぇんふぉう。ね♪」

頬張ったままなので、それ以上何を言っているのかよく分からなかった。
目の前の女性は、間違いなく命に引けをとらない食欲を持ち合わせていた。凱の方が先に胃袋を満たされ、逆に頬張りつづけるのは女性の方だった。
もちろん、持ち合わせは凱が担い、伝票を見た瞬間、凱は倒れたくなった。
市長から支給された有り金は、この瞬間羽を生やして空を飛ぶ事となる。
彼女の懐が膨らむ代わりに、凱の懐は一層寂しくなった。

「あー面白かった!」

あらゆるお店を踏破しつくした二人の頭上には、いつのまにか、ぼんやり輝く天体が浮かんでいた。
満月である。すっかり夜も更けているせいか、人ごみあふれた昼間とは景色が180変容し、妙な静けさが漂っている。
今頃は自衛騎士団が盗賊団討伐の遠征から帰還している頃だろう。
自分も今から役所に戻ってセシリー達からの報告を聞かなければ、と思い、空を見上げた時。

「……一日が終わっちゃったね……」

「そうだな」

何故か彼女の横顔は、とても寂しそうに見えた。

「あたしね、一度でいいから都市の中を自由に歩いたり、遊んでみたりしてみたかったの」

普通の女の子のように。そう呟く彼女の横顔はより一層寂しく見えた。
栗色の長い髪が、月の光で輝いて見える。
昼間に垣間見えた活発な姿とは対照的に変わり、今度は鳥肌の立つ美しさと仕草を見せた。

「今日は一日ありがとう」

無理矢理付き合わされた割には、悪い気持はしなかった。それに加え、改めてお礼を言われたから凱の心は大いにストライクされた。

「なあ、名前……」

「ん?」

「君の名前を教えてくれよ。俺は凱」

「あたしの……名前?」

「また遊びに出かけようぜ」

素直で真っ直ぐな凱の言葉に、彼女は思わす心を震わされた。

「あたしは……アリ」

「おい、そこのお前!」

名乗りかけた時、乱暴な介入を果たす賊に出くわした。人目のつかない夜を狙っていたのかもしれない。夜の戸張とマントのせいで特徴が確認し難いが、小柄な体格からして少女と推測できる。

「あんたが騎士で……」「あっちが魔剣でいいんだな」

何を言ってるんだと、凱の中の不安感は一段と高まる。黒衣で登場する地点で、少なくとも一般市民ではない事が理解できる。そして、その不安は的中する形となる。

(あいつらの狙いは……この子か)

彼女を庇うように凱は前方へ躍り出る。

「お前達の狙いは何だ!?」

「あんたに用はない!そこの魔剣をよこしな!」

ますます意味が解らない。魔剣が一体何処にあるんだと言わんばかりに、凱の表情は険しくなる。まさしく魔剣と言う単語が彼女を差しているかのような言い方だ。
思考する暇を相手が許すはずもなく、三人の賊は臨戦態勢に入る。

「俺はシャーロット様の従者が一人、ドリス」

一人は両刃の大剣クレイモアを引っ提げて――

「そして私はマーゴット」

一人は逆刃刀ならぬ逆刃の長槍ロンパイアを携えて――

「私の名はペネロペ」

一人は球状の鍔が特徴的なナイフを掲げて――

三人の戦士は獅子王凱という標的を定めて肉薄する!

「「「全てはシャーロット様のために!」」」

鬼気迫る三人に対し、凱は応戦態勢に入る。

「ちっ!戦うしかないのか!」

「本気なの!?向こうは三人だよ!」

凱の背後に隠れながら、彼女はあたふたしはじめた。

「だけど、向こうはやる気満々だぜ」

凱の言葉通り、賊の一人であるドリスは大剣を優々と掲げていた。

「死んでも……恨むなよ!」

大剣を大地に突き立てた!
凄まじい力の奔流が凱を目がけて突き進んでいく!
対して凱は背後にいる彼女を庇うように、左手を突き出して――

「大地の魔剣を受けとめやがった!?」

「うそ!あいつ本当に人間なの」

分厚い外壁を吹き飛ばす力場をも受け止める。その事実はこの場にいる全員を驚かせた。
全身を翠碧に染め上げ、左手の甲には「G」の文字が浮かび上がる。

「ぐっ!なんてパワーだ!」

凱を襲う大地の衝撃波は凄まじく、踏ん張っていた足はたまらず後ずさりをする。
徐々に大地が減りあがっていく。逆に凱の足がめり込んでいく。
大地の衝撃波と翠碧の力場が均衡状態を演出する中、頭上の視界にはロンパイアの刃が延長された赤光が襲いかかる!

「これはどうかしら!?」

「何!」

「これなるは赤光の魔剣、ロンパイア!」

長槍の紅き刃が凱の頭上に降りかかる瞬間……凱もまた翠碧の刃を抜剣する!

「ウィルナイフ!」

バチィィン!!
異文明の獅子からもたらされた基本設計を元に製造された短剣が、マーゴットの魔剣ロンパイアと激突する!

「そんなひび割れたナイフでいつまで耐えられるのかしら?」

その指摘はごもっとも。事実、工房リーザへ打ち直しを依頼したが現状変わらず、ナイフは芯が損傷を受けたままである。
今の凱はまさに両腕を封じられている。後方に控えていたペネロペは気を伺おうとナイフを光らせている。

「おおおおお!!」

それでも負けまいと、凱の意志が強くなる!
ウィルナイフは、所有者の意志の強さでその切断力は増していく。折れそうな外見とは裏腹に、翠碧の刃が徐々にロンパイアの光の刃へめり込んでいく。
その尋常ならざる現象に、マーゴットは戦慄を覚えた。
だが、凱が不利な状況である事は変わりない。
市街地における周囲の被害と背後の彼女を気にせずにはいられない凱より、造作物を薙ぎ倒しつつ迫る三人の方が優位に立つのは自明の理だ。
そんな凱を心配した彼女は、激しくまくし立てた。

「ねえ、早く逃げようよ!三対一じゃ勝てっこないよ」

「それは出来ない!」

「どうして!?怖くないの!?」

「怖いさ、だけど!」

――怖いキモチ以上の感情が、勇気が俺を動かしてくれるんだよ――

「ユ……ウ……キ?」

「そうさ、一度怖いキモチから逃げちまったら……」

――勇者として二度と敵に立ち向かえなくなる!――

最高にまで高められた意志の強さは、折れない心は確かな力となって均衡状態を打ち破る!
右手のウィルナイフは大地の魔剣を振り払い――
左手が発する翠碧の力は、赤光の魔剣を打ち砕き――
蓄積された分の奔流は、全て弱い方へ流れていく!

「だから俺は……勇気だけは捨てないのさ」

後ろを振り向き、親指をグッと軽く立てて、優しい笑顔を彼女にふりまく。凱の仕草一つ一つが、大きな安心感を後ろにいる彼女にもたらしてくれる。

(……バカ……かっこよすぎじゃないの)

少し顔を赤らめ、凱の視線からちょっと目を背けた。これ以上凱の凛々しい顔を見ていると、震える心が、感情が沸騰してしまいそうだからだ。
強烈な奔流に弄ばれていたドリス達は、辛うじて体制を立て直し、尚も凱に牙を向ける。
その動作が示す意味は、まだ闘志を失っていない証拠だという事だ。

「仕方ねぇ……じゃ、こっちも本気を出すか!」

「あいつら、まだやる気か!?」

どうやら、事態は収まる気配を見せない。互角に見える戦いかもしれないが、結果は火を見るより明らかである。
長期戦になれば、確実に殺される。
IDアーマーさえあれば……しかし、今は無い物ねだりをしている訳にもいかない。
切り開くんだ。何としても。
せめて、彼女だけでも逃がさなければ。

「あなた、剣を使えるよね?」

真剣な表情で、まるで再確認するように凱を尋ねた。
凱もまた、「あ……ああ」と軽く返事をするが――

「ガイ、あたしを使って!」

「君は……何を……」

凱の問いかけに振り向くことなく、前に躍り出て、「何か」を呟き始めた。
意を決したような彼女の横顔は、祈祷に挑む神官のように、神秘的な雰囲気が出ていた。

――眠りを解け――

――真実を掴め――

――風をこの手に――

――神を殺せ!――

文言を終えると、白銀の疾風が彼女を包み込む。天高く舞い上がる可視粒子の光が満たされていく。その劇的に変化する神秘的な光景は、凱の目を釘付けにさせた。

(何だ……一体彼女に何が起きてるんだ?)

驚いたままの凱とは対照的に、ドリス、ペネロペ、マーゴットは待ちわびたように舌を巻いた。

「やっと姿を現したな!」

姿を現した、凱にとってその言葉の意味を理解するには時間を有した。
まさか、とは思うが……

――今日一日あたしにつきあってくれたら……魔剣の在り処を教えてあげるよ――

ああ、そういう事か。
彼女の言葉がとても頼もしく聞こえたのは、その為だったのか。

――ガオガイガー!俺を使え!――

――ガイ、あたしを使って!――

某勇者高校生が使う剣星人の姿と重なって見える。
凱の世界ではありえない、幻想的な展開。
目にしたのは、刺突専用の剣、1本のレイピア。
ゆるぎない意志が伝わるかのような、真っ直ぐな刃。
そんな剣の柄を、凱は迷いもなく手を取る。
街の大地に突き刺さっている魔剣に、手を差し伸べる。

――これが……魔剣――

握る手触りが、儚い刃の美しさが、全てが凱を引きつける。
そして……
彼の左腕に勇者の証、Gの紋章が浮かび上がる!

「行くぞ!お前達!」

勇者の口火に、3人娘が吼える!

「行くぜぇぇ!!」

「行くわよ!」

「行きますわ!」

一人と三者が突入宣言を果たし、第二回戦開始の幕が上がる。

「喰らいやがれぇぇ!!」

大地の魔剣が唸りを上げて、ドリスの咆哮と共に眼下を揺るがす奔流が襲いかかる!
先ほどの、余力を残した攻撃とは違う。全力の一撃だ。
絶対に避けられない、確実に捉えたと確信したドリスだが……
数メートル寸前に迫る危機を前にしても、凱は冷静に対処方法を見出そうとしていた。

「あいつ、何をする気だ?」

凱の不可解な行動に、ドリスはたまらず声を漏らした。
なぜなら、凱は「大地に対して魔剣を垂直に構えていた」からだ。

「はああああ!」

一瞬の風が垂直上昇し、凱の長身を包み込むように生み出される。
爆発的な速度で今まさに、大地の衝撃波は我意を飲み込もうとしていた!

「う……ウソだろ!」

この瞬間、ドリスは我が目を疑った。
大地の衝撃波が凱の身体を吹き飛ばす……はずだったが、影響を受けることなくやり過ごした!
なぜ、クレイモアが生み出した大地のカーテンを潜り抜けられたのか?
理屈は簡単だ。
大地の衝撃波と同じ方向ベクトルに合わせ、垂直上昇する風の螺旋を、全身に纏ってしまえば難なくやりすごせるはずだ。
ドリスのお蔭で、土煙のカーテンコールが出来上がった。視界を封じられた彼女達に比べ、凱は的確に敵の位置を把握している。このチャンスを逃す手はない。

「はああああ!」

「私に任せて、ドリス!」「マーゴット!?」

ドリスに肉薄する凱の前に、再びマーゴットが立ちはだかる!
おそらく、凱と同様、三人も彼の位置を視野に入れていただろうか。何の戸惑いもなく襲いかかる!
赤い光の刃が凱の頭上へ迫る!
鋭く延長された剣は、これ以上ない位に、血の色より紅い。
そして……またも凱は彼女等三人にとって、不可解に見える行動をとった!

「俺に二度も同じ技は……通用しない!」

凱はレイピアを地面に突き立て、剣先で猛然と蹴り上げた!
剣閃に匹敵する風の速度で、瞬間的にマーゴットと間合いを詰める!

風の力を先端に集約させ、剣速を高める!

糸状のような「閃光」は、的確に相手の戦闘手段を奪っていく!

目にもとまらぬ瞬速の16回斬り!

刹那の交錯を終えた瞬間、再び互いは距離を開ける。

「くっ!なんてヤツですの!?」

落としそうになるロンパイアを無理につかみ、マーゴットは憎々しげに凱の双眸を見つめていた。
先ほどの戦いを見て、はっきりと確信した。
あの青年は、相当戦い慣れている。まずはそれを認めなくてはならない。
魔剣を手にした瞬間、反則的に状況をひっくり返す行動力バイタリティ。
誰にも得られなかった技術と発想で、魔剣の可能性ポテンシャルを最大限に生かしている。

「くそ!このままじゃ魔剣が!」「待ってドリス!誰かが来たみたいよ!」

大勢が奔って駆け付ける足音が、夜の街中を木霊する。武装を施した自衛騎士団が、大きな騒ぎを聞きつけて、現場に急行したのだ。

「一端逃げましょう!このままじゃみんな捕まってしまいます!」

「冗談じゃねェ!やっと魔剣を見つけたんだぞ!」

「奪い取る機会は必ず来るわ!だから……今は我慢して!」

でもシャーロット様が、そう口に言いかけている間にも、確実に騎士団が押し寄せてくる。これ以上判断を遅くするわけにもいかない。
腹が煮え返るほどの悔しさと共に、彼女等3人は背を向けて、漆黒の戸張を駆け抜けていった。

(絶対に……絶対に魔剣を奪って見せる!)

ドリス、マーゴット、ペネロペの後ろ姿を見送っていた凱は、言い知れぬ胸騒ぎを感じていた。
近いうちにまた会うかもしれない。
その時は、また敵として会うのかもしれない。
いずれにせよ、この出会いが凱に何をもたらすのか、誰一人として、知る由もなかった。

この日の夜、三番街周辺物の被害は幸いにも、致命的な損傷は受けていない。巻き込まれた市民がいない事は、何よりの朗報だろう。
独立交易都市の公務役所へ来所した凱は、魔剣から人の姿へ戻った彼女と共に、これまでの一部始終を報告していた。
規則的なフォルムを残す市長室内において、凱は市長と団長と対面していた。

「……以上が今回の事件記録レポートです」

「ご苦労様です。ガイ君」

「でも、流石に彼女が魔剣だなんて思いませんでした」

率直に感想を述べる凱を見て、ヒューゴーはハンニバルと顔を見合わせた。

「ハンニバル君、説明してなかったの?」

「ああ、その方が面白いからな」

「悪趣味だねぇ、おっちゃん」

三者がそれぞれ言った。それも面白そうに。
取り残された凱は、改めて自分の立場を自覚した。
もしかして……俺はかまされた?
冗談じゃない。
こちとら危うく殺されかけたんだぞ。
ぶつぶつと呟きながら、凱の周囲には暗いオーラがまき散らされていく。

――あたしは魔剣アリア。宜しくね、ガイ――

しかし、微妙に沈んでいる凱の耳には、もはやアリアの言葉は届いていなかった。
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後書き
凱が魔剣アリア使用時に使った『16回斬り』――求めたは幽遊白書の飛影(中の人繋がり)です。 
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