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神剣の刀鍛冶

作者:gomachan
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EPISODE02勇者Ⅰ

「さあ!ワシを一体の人外、一体の悪魔だと思い……かかってこい!!」

独立交易都市、三番街自衛騎士団団長、ハンニバル=クエイサーはニッと笑みを浮かべた。
その双眸は、これから獲物を捕食する肉食獣に酷似しており、悪鬼のような表情で戦闘意欲を剥きだしにしていた。
絶望に塗りつぶされる団員、悲哀に嘆く団員等、様々な反応を示してくれた。
ただ一人の青年を除いては――
そして時は工房アトリエに訪れた先より進み、事は数時間前まで遡る。





【独立交易都市ハウスマン・三番街自衛騎士団詰所】






「今日、その噂の傭兵がウチに来るんだって?」

「もうじき来るはずだ」

「しかし、あのハウスマン市長が一押しする位だしな。相当な腕の者だろう」

弩弓の矢が飛び交う射的場、剣戟が反響する修練場、あらゆる脅威から市民を守る為に設立された独立交易都市自衛騎士団の為に、戦士達の修行場は存在する。日常業務をこなす自衛騎士団の裏側で、一陣の風を巻き起こす噂が囁かされていた。

「わざわざ出稽古に来るなんて……その男は結構真面目な奴なんだな」

「返り討ちにすれば、我が三番街自営騎士団の名も上がるぜ!レジナルド!」

「油断は大敵だぞ。ヤツの名を逆に上げる事にもなりうるのだからな」

そうなのだ。これからその「ウワサ」の傭兵が自衛騎士団へ入隊する為に、騎士達の門を叩いた次第。

「名前は何ていうんだ?」

「確か……」

伺う名前は突然の駆け足による騒音でくしゃくしゃにされる。
ドタドタと子供の用に急かす足は、不思議な高揚感によって生まれたものかもしれない。もしくは、嵐の前の静けさかもしれない。いずれにせよ、騎士達は新たな旋風に巻き込まれているのは間違いなかった。

「とうとう来たぞ!訓練所の門に!」

「よっしゃ!俺が真っ先に逢ってやる!」

「お前等!剣の手入れくらいしておけ!」

レジナルドの忠告も軽く跳ね除けて、他の団員達は我が先にと兵舎控室を後にした。

そして……

(一体何者なんだ?シシオウ=ガイという男は?)

(あのハンニバル団長が自分から言い出すなんて……)

凱は並み居る騎士達と総当たりし、確実に勝利を掴み取っていく。
対戦に備えて騎士達は馴染みの獲物を携えて凱に挑むが、綺麗にあしらわれてしまう。
一方的ではないが綺麗かつ大胆な試合内容が三番街自衛騎士団の団長、ハンニバル=クエイサーの目に留まり、直接ハンニバル団長と試合をするハメになった。
配下の騎士達では、凱が持つ実力の片鱗すら引き出すことができないと判断したハンニバルは、「奴の実力が本当かどうか……ワシが直接確かめる!」といい、自ら対戦相手として躍り出た。
その当人である二人は、互いを見据えたままの膠着状態を保っていた。

(行くぜ!)

空気の均衡状態を崩したのは凱だった。
大地を蹴り、駆け抜ける様は一陣の風よりも速い!
目の前の標的に対して一気に距離を縮める!
互いが持ち合わせている物は……無い!
というよりも、拳だけが二人の唯一の武器!

「うおおおお!」

「フン!」

交錯する鉄拳!
聖剣、もとい正拳が両者の身体に轟突する。凱はハンニバルの腹部に拳を直撃、ハンニバルは凱の下顎から拳を振り上げる。

「ぐっ!!」

先にひるんだのは凱だった。ハンニバルの剛腕に、たまらず凱の身体は豪快に空中へ放り出される。

「決まった!流石ハンニバル団長だ!」

「これでヤツも終わりだな!」

半数以上の団員が同じ結末を予想するが、一人だけ冷静に二人の戦いを分析する団員がいた。

「どうした?レジナルド」

「……いや、まだだ!」

レジナルドの発言に、他の団員の注目を集める。
空間の斜め後方へ吹き飛ばされる形になったが、凱は地滑りされつつも、即座に態勢を立て直す。
まるで、ハンニバルの剛腕が何とも無かったかのように。
凱の双眸は臆した様子を見せず、戦意を露わにしている瞳をハンニバルに差し向けた。
片手で受け身を取り、片手だけの瞬発力で再びハンニバルに肉薄する!

「うおおおおお!」

獅子の如き咆哮と共に、凱はその拳をハンニバルの顔面に差し向ける!
しかし、それは虚しくも空振りという結末に終わる!
なぜなら、ハンニバルは「消えた」と思わせる程の動作で体移動をしていたからだ!
そして再び凱に轟襲するのは、丼のようなハンニバルの大拳骨!
隕石と錯覚させるような大拳骨は、確実に凱の頭部を捉える……はずだった!

シュカッ!――

凱もまた、「消えた」と認識させる程の速度でハンニバルの大拳骨を回避!見事にいなす!

「そこだぁ!」

ハンニバルの側面がガラ空きだ!この勝機を逃す手立てはない!
凱の拳がハンニバルという怪物の顔面に直撃!

「ぐおっ!?」

拳の重量と速度でハンニバルの巨体はたまらず後ずさりする!
頬に妙な違和感が生じる!
三番街自衛騎士団団長、ハンニバル=クエィサー自身の血が伝っていた!
自らの血で汚れた巨大な十字傷を背負った頬を軽く拭う。それは、久しぶりに強敵と巡り合えた事を確かめる動作でもあった。

「フッ……面白い!」

まさかこれ程とは……と思わざるを得ない。
――代理契約戦争――という修羅場を潜り抜き、数多の難敵を屠り倒してきたが、人間でここまで実力を持つ者とは遭ったことはない。
人間をはるかに超越した戦闘力をもつ人外や悪魔なら分かる。
だが、今立ち会っているのは間違いなく人間だ。
これ程の実力を持っているのなら、相当名の知れている傭兵のはずだ。
無名でいる方がおかしい位に。

「さあ!ワシを一体の人外、一体の悪魔だと思い……」

迷いのない真っ直ぐな凱の戦いぶりは、その強さはハンニバルの闘志に火をつけた!
凱がハンニバルに与えたのは肉体的損傷だけではない。闘志に火をつける添加剤をも含まれていたのである。

――――かかってこい!!―――― 

独立交易都市、三番街自衛騎士団団長、ハンニバル=クエイサーはニッと笑みを浮かべた。
その双眸は、これから獲物を捕食する肉食獣に酷似しており、悪鬼のような表情で戦闘意欲を剥きだしにしている。
再び両者は互いの四肢を突き当てて、応酬を開始!
そして時間は流れていき――――決着は保留となったまま今回の模擬戦は終わりを告げた。

――畜生!早速今から訓練だ!――

三番街自衛騎士団達は、疲れた体を推して訓練に励んでいた。
本当なら本日の課程を修了しているのだが、凱とハンニバル、二人の激闘に気持ちが震えたのか、再び獲物を得て己の修練に没頭していた。
そんな騎士団達の様子が見渡せるほどの高所に位置する見張り廊下で、激闘の出演者である二人が互いを称えあっていた。

「大した腕前だよ君は。ハウスマン市長が推し進めるのもわかる」

「いえ、俺の方こそ多くの事を学ばせて頂きました。ありがとうございます」

「その若さでこれ程強いとは……君には並々ならぬ出来事があったのだろう?」

「……」

彼は黙したまま何も語らなかった。

「いや、やはりやめておこう。無理に聞くのも野暮と言うしな。とにかく、部下達にはいいクスリになったよ。改めて礼を言わせてくれ。ガイ」

どういたしましてと言わんばかりに、凱の表情はちょっとテレていた。
眼下に広がる熱気混じりの訓練を見て、ハンニバルは言葉を続けた。

「最近どうもたるんでいてな。平和が続くことはいいことだが、それが返って精進を怠ってしまう」

そう言葉を紡ぐハンニバルの表情には、何故か危機感が滲み出ていた。
昨夜、独立交易都市ハウスマンの市長室で行われていた密会を思い出す。

――彼を……ガイ君を三番街自衛騎士団に入れてみてはどうでしょう?ハンニバル君――

――ワシに異論はない。だが他の団員達は素性も知らぬ者が入団する事に納得してくれないだろう――

――そうですね……彼は独立交易都市にとって……いや、大陸三国一都市の人間にとって、全くの未知なる人物でありますから。ですが、彼は必ずや独立交易都市の大きな力となります。私にはその確信があります!――

――どうやって部下共を納得させるか……フム、いいコトを思いついたぞ!――

――「いいコト」とは一体何なのですか?――

――言葉ではなく拳で語る!これしかあるまい!部下共の前でワシと演じれば納得してくれよう!――

――どこが「いいコト」何ですか!--

――いや、そうでもないぞ。ヒューゴー――

――そうでもない……とはどういう意味ですか?――

――拳とはただ目の前の敵を倒す為にあるのではない。己が歩んできた人生みちを表現する道具なのだ。鍛錬し、研ぎ澄ませ、己が心を鍛える為に存在する。ガイがもし騎士として……いや、それ以上の心を持っているとしたら、必ず団員たちに届いてくれるはずだ――

――あの……まさかとは思いますが……単にあなたがガイ君と戦いたいだけなのでは?――

――気のせいだ。きっと――

――やっぱりそうなのですね!――

ヒューゴーは苦しそうに頭を抱えた。また一つ気苦労が増えたと思うと以下省略。

「ハンニバル団長、どうしました?」

意識が過去そっちのけになりつつあるハンニバルに対し、凱は軽く声を掛けた。

「すまんすまん。ようこそ独立交易都市三番街自衛騎士団へ。シシオウ=ガイ、我々は君を心より歓迎するぞ!」

力強いハンニバルの歓迎の言葉に、凱の心は素直に喜の声を上げた。
こうして数多の騎士が守護する宝物庫に、一人の勇者が降り立つ事になる。

「ガイ。この後予定は空いているか?」

「いえ、特にありませんけど……」

「疲れているところ申し訳ないが、実は君に合わせたい人物がいる」

「一体、誰なんです?」

「ガイと同じ新人騎士でな。彼女は一か月程前に三番街自衛騎士団に入団したばかりなのだが」

彼女と、確かにハンニバルはそう言った。
女性の騎士なのだろうか。僅かな数日差があるにせよ、その人は、たった今入団した凱にとっては先輩にあたる。

「その人の名前を、聞かせてくれますか?」

「彼女の名は……」

――セシリー=キャンベル――

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