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雲は遠くて

作者:いっぺい
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116章 マンガの『クラッシュ・ビート』が連載開始される

116章 マンガの『クラッシュ・ビート』が連載開始される

 10月8日の土曜日。午後2時。曇り空で気温は22度ほどである。
 
 下北沢駅北口から歩いて3分の、商店街から静かな通りに入ったところの、
建物の1階に、緑の植物や動物たちのぬいぐるみで、とてもメルヘン的な、
『森の中の小さな隠れ家』をイメージしたカフェの、
『cafe tint (カフェ ティント)』はある。

 『ティント』は、(いろど)りという意味で、彩りあふれる料理やデザートを、
楽しんでほしいという思いからつけている。

 ソファー席には、川口信也や森川純、高田翔太(しょうた)岡林明(あきら)たち、
ロックバンド、クラッシュ・ビートのメンバーと、マンガ家の青木心菜(ここな)と、
親友でマンガ制作のアシスタントの水沢由紀、
大手、マンガ雑誌、三つ葉社の編集者の青木葵(あおい)、7人がいる。

「みなさま、きょうは、お(いそが)しいところを、
お集まりいただいて、ありがとうございます!」

 若くて初々(ういうい)しい編集者の青木葵が笑顔でそう言って、話を続ける。

青木心菜(ここな)先生の(あら)たな連載マンガ『クラッシュビート』も、
おかげさまで、スタートできました。ありがとうございます!」

 みんなからは、拍手がわいた。

「このマンガ、『クラッシュ・ビート』には、クラッシュ・ビートのみなさまと、
株式会社のモリカワさまとエタナールさまのご理解が、必要、不可欠でございました。
そのタイアップも、見事(みごと)に、みなさまの全面的なご協力で、
実現いたしました。本当ありがとうございました!」

 マンガ家、青木心菜(ここな)の担当編集者の青木葵(あおい)は、
みんなに満面の笑顔でそう言うと、深々(ふかぶか)と頭を()げる。

 「まあ、何と言ったらいいのかな、とかく、タイアップという
相乗効果をねらう、協力や提携というものは、商業的手法として、
芸術性を求めるヨーロッパやアメリカなどでは、ネガティブなイメージを(ともな)うもの
なんですよね。しかし、経営学者のピーター・ドラッカーは言っているけど、
企業にとって利潤が重要であることは認めてはいるけど、
『企業の経営目的は、利潤ではなく、顧客(こきゃく)の創造である』と言っているんですよね。
つまり、企業の目的も、ロックバンドとかのミュージシャンの目的も、マンガ家さんの目的も、
顧客や観客や読者の創造であるって言ってもいいと思うんですよ、おれは。あっははは」

 クラッシュ・ビートのリーダーでドラマーの森川純がそう言って笑う。

「人を楽しませて、なんぼ、とか、どの程度、とか、言うけれど、
人を楽しませることが目的のエンターテイメントならば、
楽しませないことには価値はないと思いますよ。
おれらの音楽も、エンターテイメントや娯楽の要素があるんだし、あっははは」

 そう言って笑うのは、ベーシストの高田翔太だ。

「そうそう、芸術性の高さがどうだこうだとか言って、知識や論理を自慢げに語るようなのは、
本当につまらないよな、楽しくないし、元気も出ないよ。なあ、(しょう)ちゃん、あっははは」

 と言って、笑うと、ギターリストの岡林明は、チョコバナナミルクティーをおいしそうに飲む。

「わたし、お笑いの明石家(あかしや)さんまさんが好きなほうんです。さんまさんが、
『おれらは、楽しんでいるとこ見せて、なんぼ。まじめに努力しているとこ見せて、どないするねん!?
結局、自分が楽しんでいれば、相手も楽しい気分になる!』ってこと言ってますけど!」

「それは、大正解よね、由紀ちゃん!さすがは、サンちゃんだわ!
わたしも、マンガは楽しんで()いてるもん!」

 青木心菜(ここな)は、親友の水沢由紀と目を合わせて微笑(ほほえ)む。

「ところで、第1話の『クラッシュ・ビート』は、大変おもしろく、読ませていただきました!心菜ちゃん。
おれたちをモデルにした、あのロックバンドのこれから先の、未来は、どうなっていくんですかね!」

 そう言って、ギターとヴォカールの、川口信也は、心菜に微笑んだ。

「これって、絶対に、ここだけの秘密ですけれど。
友情とロックの情熱で結束も固いクラッシュ・ビートは、
いろいろと笑いや涙ありの苦労や、成功や失敗とかを乗り越えながら、
世界的なロックグループに成長していくんです。
たとえば、あのビートルズのように、ビッグになっていって、
世の中の平和やみんなの楽しい人生にも貢献(こうけん)していくっていう、
ストーリーの展開なんです!いまのところ。うっふふ」

 そう言って、心菜は、みんなを見ながら、少女のように目を輝かせて微笑んだ。

「なんだか、それじゃ、現実のおれたち、クラッシュ・ビートと、違って、偉大だよな。
おれたちも、マンガに負けてられないって気になるよな!あっははは。
よし、おれたちも、夢を大きく持って、ビッグなロックバンドを目指して行こうか!あっははは」

 信也は、そう言って、森川純や高田翔太や岡林明と目を合わせた。
みんなは、声を出して明るく笑った。

「あくまで、マンガは、フィクションですから、虚構ですから。
マンガの原型やモデルは、クラッシュ・ビートのみなさんたちですけどね。うっふふ。
毎回、マンガの最後には、『このマンガは、すべてフィクションであり、
実在の人物・団体等とは一切関係ありません。』って明記しますから。
読者にも誤解を持たれないように、誰にも迷惑がかからないようにと、
実名は、一切使用していないのです」

 心菜は明るい笑顔で、そう言った。

 マンガの中では、川口信也は、河口信也だった。森川純は、守川純。
高田翔太は、鷹田翔太。岡林明は、丘林明。そんな名前になっている。

≪つづく≫  --- 116章 終わり ---
 
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