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仮面ライダーAP

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第一章 鉄仮面の彦星
  第3話 迫る闇

 場所は変わり、地下深くに位置する、とある場所。

 天井からは水滴が滴り、コンクリートの床には、所々に水溜まりがある。

 あちこちを蝙蝠が飛び回り、周囲には不気味な機械類が散乱していた。

「データの最終調整を始める」

 一筋の光明さえ差さない暗黒の空間に、一人の男のしゃがれた声が響き渡る。

 それを合図に、地べたを駆け回る鼠を踏み潰し、何人かの白衣の男達が、黙々と機械へ向かう。

「人工筋肉、及びパワーソースの最終データチェック完了」
「特殊装甲……及び固定兵器の最終データチェック完了。全てのデータチェック、完了しました」

 まるで機械の一部であるかの如く、白衣の男達は黙々と各々の作業をこなしていく。

 一糸も乱れぬその動きで作業が終了すると、指揮を執っていたと思しき男が、声を張り上げる。

「よし――事前データは完璧だ。『食前酒計画(アペリティフけいかく)』の完成の日は近いぞ」

 下卑た笑いを浮かべる彼の下に、作業を終えた一人の若い白衣の男が歩み寄る。

「No.5の基礎データを基に設計された量産型を配置し、それを前座として奴にぶつける。そして、弱った所を……!」

 刹那、若い男の体から一筋の光が放たれ、異形の怪人に変貌する。
 人体模型のような風貌を持つその全身は、毒々しい粘液で覆われており――彼の足が地に触れる度、びちゃりびちゃりと粘つく音が響き渡っていた。

「この私……エチレングリコール怪人が一網打尽に! 完璧な作戦ですね」
「うむ。あとは被験体の調達のみだ」

 統率者らしき男は、コンピュータに表示された数値データを眺めて腕を組むと、眉間に皺を寄せる。

 被験体の調達。一番の問題はそこだった。

「7年前の織田大道(おだだいどう)の失態のおかげで、我々は貴重な被験体を大勢失っているのだからな。手当たり次第に捕縛するほかないが……」

「隊長、ご安心を」

 彼の傍にひざまづき、異形の怪人はニヤリと笑う。

「大義ある『食前酒計画』。その被験体のうちの一人は、既に目星を付けております。他の候補も、必ずやこの私が手に入れてご覧に入れましょう……」
「ほう……? 楽しみにしているぞ……わが同胞よ。して、あのエリュシオン星人の方はどうなっておる? 抹殺には成功したか?」

 男を見上げる怪人は、さらに粘つくような下卑た笑みで口元を吊り上げ、言葉を紡ぐ。

「いいえ。あの娘は捕縛し、こちらで管理することとしました」
「なんだと? なぜそんなことをする必要がある。あの娘は危険だ、生かしておけば次々と我々の作品を台無しにされてしまうのだぞ!」
「ええ、無論その通りです。しかし、脅威となるのは野放しであれば――という話です。我々の手中に収めれば、これ以上ない便利な『道具』になるでしょう」
「なに……?」
「あの娘は改造人間を生身に戻してしまう。それは裏を返せば改造手術に失敗しても、被験者が死ぬ前に元に戻せる、ということです」
「ほう……」
「ならば丈夫で新しい被験者を探す手間が省ける上、トライ&エラーを繰り返し、より精強な怪人を創り出せるようにもなりましょう。それに何と言っても――奴は女。我々の手で、改造人間を元に戻せる『道具』を量産する『母体』に調教すれば……」
「ククク、なるほど……。聞けばあの娘、なかなかに見目麗しい女だという話ではないか。我が配下の野獣共も、さぞ喜ぶだろう……。いいだろう、ドゥルジ。お前の望むようにやって見せろ」
「はい……フフフ……」
 
 

 
後書き
※エチレングリコール
 粘り気のある無色透明の液体。トラクターや自動車などの不凍液として主に利用されている物質であり、消防法により危険物の一つに指定されている。
 毒性がある物質であり、1980年代にワインに甘味を出すために使用され、問題になった。
 
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