| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

テイルズ魔術をプリヤ世界にぶちこんでみたかった。

作者:あしゅき
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

蒼き君

 図書室というのは静けさの象徴であると最近僕の中で意識が固まってきた。どうしてだか知らないがこの部屋には黙らなければならないという不思議な空気が漂っていて、それに従わないものは注意をされ、酷い時は追い出されたりする。

 何故と言われればすぐに理由を答えることができはする。読書をしている人の迷惑になるからだとか、貼り紙に提示されている通りのルールだからだとか、昔からの伝統だからだとか、色々と押し付けることはできる。しかしそれで彼らが納得するかどうかと聞かれれば、難しいと思われる。あれは元気の塊であるから、そんな理不尽を理解できるほどまだ拗らせてはいない。僕は当然拗らせているし伝統を守る良き読者であるから沈黙こそ尊きとまで思っているが。

 しかし手に取ったこの本、中々に面白い推理小説である。小学校にどうしてここまで凝っている本が置いてあるのかは甚だ疑問ではあるが、そんなことはどうでもいい。どうせ重要なことじゃあない。
 そこら辺の火曜のお昼にやっているような再放送しているサスペンスとは雲泥の差だ。文字だからこそ伝わる緊張感と、引き込まれていく自意識、文字を追う目とページを捲る指が止められなくなるのは久しぶりかもしれない。犯人は一体誰なんだ、一体どんなトリックを使って事件を起こしたんだ――!?

 ふと、目の前に誰かが座るのが視界の端で見えた気がした。目の休憩も兼ねて指を止め目をそちらに移せば、そこには姿勢よく座っている女子の姿が見える。

 彼女は確か、別のクラスで今日一番人気者である女子だったか。やけに見覚えがあるなと思っていたら、うちの生徒だったのか。通りであの時、既視感があると思った。しかし正体が分かったところで僕にはなんの関係もない、こんなすっからかんの部屋でどうしてわざわざ僕の目の前に座ったかは確かに気になることだが、僕にとって今一番気になるのはこの小説であって彼女ではない。僕なぞ相手にされないことぐらい誰でも察しがつく。
 さて、まず登場人物それぞれのアリバイを固めていくところから始めるか――

「……それ、お手伝いさんと長男が犯人」

「………………………………………………は?」

「お手伝いさんは遺産相続を狙ってる長男とできていて、二人で結婚生活をより豊かなものにするために作戦を決行。長男はフェラーリが欲しくて、お手伝いさんはエルメスのカバンが目当て」

「……よ、良くできた妄想だな。チラシの裏にでも書いていればいいんじゃないか?」

「因みにアリバイにもなった当主の服が何故違うのかというと、一人が薬を持った後に一人が服を着替えさせ、一人がそのあとに刺したから」

「おい待てそれ以上はやめろ」

「こうすることで当主が死んだのは風呂に上がった後という虚実を作り出し、その間に二人はアリバイがあるように工作、そうすることで二人は警察の目を逃れ事件を迷宮入りにして幸せに生きようとした」

「やめてくれ、もうやめてくださいお願いします」

「最後は主人公に看破されたから二人で自殺しようとしたところを母親に叱咤され二人は思い直し、お手伝いさんだけ風に煽られて無惨に死んだ」

「お前なんで全部言うの!? もうそれ脳みそにこびりついちゃって離れないじゃん! それがでたらめだとしてもそれが離れないせいで純粋に楽しめないし、合ってたら合ってたで虚無感に襲われるじゃん! なんてことしてくれるんだこのアマ!」

 僕の今日一日の楽しみが全部パァだよ。ここまでこの小説のために費やしてきた時間ももれなくパァだよ。もう何も残らないし何も得られないことがここで確定してしまったと言えるだろう。糞が。小説の華が、これじゃ台無しだ。

「なんでって……趣返し」

「はぁ……? 僕はお前なんか知らないんだけど」

「――うん。そう、私たちは、赤の他人だ」

「……?」

 なに、こいつ。まるで僕に合ったことがあるかのように喋ってくるそいつは、静かに目を伏せた。当然ではあるが、僕は彼女のような人間とは会ったこともないし見たこともない。僕は回りの同級生よりは多少は精神的にも知性的にも優れているとは思っているが、わからないことの方が圧倒的に多い。その一つに、彼女という存在を今追加した。

 事実と食い違う彼女の態度。矛盾、それが僕にとっての彼女への第一印象だった。


 今さらながら、ここは図書室である。その用途は主に読書であり、ここに訪れる子達の主目的となっている。だから目の前の黒髪の彼女が鞄から本を取りだし読書を始めることに、僕はなんの疑問も抱かなかった。それはもう随分と長い時間読み込まれてきたのだろう、表紙は日に焼けていて色を失い、何度も手に取られたせいで全体的に磨耗していた。そんなせいでタイトルは読みにくくはなっていたが、薄くなったインクで『西の魔女が死んだ』と書かれていた。

 これはまた、有名な本だ。確かに面白い本ではあるが、そんなに飽きもせずに何度も読み込めるような内容だっただろうか。僕には難しくて所々てんで分からなかったから、そこまで興味が引かれる本とは思えなかった。

「……知ってるから、言わなくていい」

「見ればわかる」

 舌打ち混じりに言葉を返す。先程のは大人げないことだがマジにムカついたから趣返し返しをしてやろうと思っていたのに、今日といい昨日といい上手くいかないことばかりじゃないか。そんな僕の表情が面白かったのか、彼女は穏やかに頬を緩ませた。なんだか微笑ましいものを見られているような目をしているのが大分鶏冠に来る。

「僕は帰るぞ」

「待って」

 ランドセルを持った後にかかる待ったの声に、渋々従って振り返る。彼女の琥珀色の目がこちらをじっと見つめている。

「名前を教えてほしい」

「……名乗るようないい名前はしていないよ」

「それでも、教えて」

 明確に拒否をしても彼女は引こうとせず、琥珀の瞳により強く光を籠めて迫ってくる。その姿にどこぞのアホの姿が被るのが、ますます持って不快だった。あんなの一人もいれば十分だと言うのに。

 小さくため息を溢す。確かに名前を教えるだけなのに強い態度で否定するのもおかしなものだ、もう価値のない小説から僕の名前が記載された図書カードを出して彼女へと投げ飛ばす。

「ついでにそれ、カード置き場に返しておいて」

「……わかった」

 少し強く出すぎただろうか、彼女の声はさっきのような力はこもっていない。しかしお互いに別のクラス、諸事情で会うことはあるだろうが僕は踏み込むつもりは毛頭ない。小学生がいうのもあれだが、僕たちはビジネス上でだけ成立するようなそういうドライな関係だ。それが相応しいし、それ以外で僕たちの関係が立証されることはない。
 少し重苦しくも感じてきた部屋の空気に耐えきれずドアを開け退出しようとすると、後ろで椅子を引く音が聞こえた。

「私はっ、美遊。美遊・エーデルフェルト」

「……」

 彼女の名乗りは成立することはないし、そもそも名乗った理由そのものが成立していない。自己紹介とは、互いに名乗ってこそ意味があるものだからだ。僕は名前を教えはしたが名乗っていない。だから僕にとって彼女の名前など至極どうでもいい、というかさっきのネタバレでかなり苦手意識を植え付けられたから出来るのであればあまり関わらずに生きていきたい。
 しかし、やはり引っ張られるものだなと思う。あの馬鹿のせいにしておこう。

「覚えとく」

 今度こそ返事を待つ気も、新しい言葉を聞くつもりもない。
 僕はドアを閉めた。

◆◆◆

 今日という日は散々だったのではないだろうか、と重くのし掛かる思考で愚痴を溢す。

 始まりは深夜に遡る。戦いの末に止めをさせたんだと彼と喜び舞い上がっていたらそれは見事なフラグ、あの女の人は最後に残っていたであろう僅かな力を全て振り絞って死力の攻撃――後でルビーやサファイアが言っていたが、宝具と呼ばれる必殺技を繰り出そうとしていたらしい――を繰り出そうとしていた。私は何が起こるのか、何故そんなにルビーや凛さんが慌てるのかが理解できず、ただ座り込んであたふたとしていただけの時、アイツは動く。

 実は魔法使いであったらしい彼は短い言葉で魔法を繰り出し、女の人の集中をきって時間を稼ごうとしていたが、それが逆の結果を呼ぶ。女の人は宝具を二つ持っていたのだ、ルビーは魔眼と呼んだ不思議な目は相手の動きを止めるすごく強い力を持っていて、それを見てしまった彼の動きが止められてしまったのだ。

 私はその隙にルビーが引っ張ってくれたからなんとか逃げれたが、アイツはそうできない。完全に直撃コース、女の人が今まさに力を解放しようとしていた時、私はただ叫ぶことしかできなかった。
 その窮地を救ってくれたのが、今日うちの学校に転校してきた"美遊・エーデルフェルト"さん。なんとルビーと同じようなステッキはもう一振りあって、彼女はそのマスターであるらしい。私は聞いてなかったが、凛さんはやっぱり知ってたらしい。この人思ったよりかなりのうっかりやさんなんだと思った。

 救った人の特権として救助者に駆け寄るのは当たり前だとは思うけど、脇目も振らずっていうのは可笑しいと思うの。私はアニメでいうライバル魔法少女みたいな立場なのに、もうなんか相手にもしないというか鼻にもかけないというか。言ってないけれど、その様にはちょっとショックを覚えた。
 その後にもゴチャゴチャとしていたが気がつけば朝、また新しい日がやって来ていて、同時に学校へと登校する必要があることを示していた。

 そうしてさっきの通り美遊さんが転校してきたのだけれど……これが予想外で思った以上だった。

 まず美遊さんは、とても頭がよかった。私たちが3.14を使って大体という言葉を使って求める答えを見たことも聞いたこともない計算を使って完璧に解いたのだ。理系寄りなんて、アイツとも気が合いそうだなとなにとなしに思った。
 続いて美遊さんは、芸術もすごい。自由に描け、と先生の課題。私は特に思いつくものなかったから、なんかこうすごい感じの魔法使いを描いていたのだけど、美遊さんはきゅぴずむ? とかそういうのを使って美術室に飾ってあるようなすごい絵を描いていた。因みに陣が描いてあったからどこか魔法使いっぽい感じがした。
 さらに美遊さんは、家事も上手い。ハンバーグ、豚バラとアスパラの肉巻き、ベリーパイにサラダ。これらをフライパン一つで仕上げたのだ。先生はあまりの美味しさに声を荒げていた。どれもアイツの好物だったから、もしアイツがこの場にいて食べてしまっていたら、靡いていたかもしれない。それだけ、彼女の料理はやばかった。

 ここまでは超人と言えるだろう美遊さんの活躍、しかしそこで私はストップをかけなければならない。その後にきた時間は体育の時間で短距離走、私が最も得意とする種目の一つではからずも彼女との勝負の時がきたのだ。

 ――これにさえ負けてしまったら、私の面目は何一つない……!
 そう思って挑んだのだが、結果はあっさり惨敗。窓からこちらを覗いた彼が意地悪く笑っていたのだとても印象深い。今日は一緒じゃなかったけど、明日絶対殴ってやる。

『いつまで凹んでるんですか、イリヤさん。帰りましょうよ~』

「いや、なんか才能の差をまざまざと見せつけられたっていうか……」

 本当に短距離走は自分の中で唯一彼に勝てる私の自慢要素だったのだ。それをあっさりと打ち砕かれちゃったから、すぐに吹っ切ることはできない。くぅ……足がもっと早かったらなぁ……。

「なに、してるの?」

『おや美遊さん、奇遇ですねぇ』

 ルビーの声に振り返ると、そこには言葉通りに美遊さんが立っていた。なにしてるのと聞かれましても、貴方に記録を抜かれて凹んでましたー、なんて情けなくて言えないし。黄昏てましたーなんて引かれちゃうかもしれない……なんとも無難な答えが見つからないと悩んでいると、彼女から声をかけてくれた。

「あなたは、どうして戦うの?」

 どうして戦うのか、彼女からふと投げ掛けられた質問に、どうしてかどこか重く感じるオーラのようなものを感じた。

「え、っと……どうしてって、言われても……」

「あなたは自主的にではなく、そこのルビーに巻き込まれただけの一般人に見える。なのにどうして無理して戦うの?」

「それはルビーが……!」

「ルビーだって本気で言えば無理強いはしない、そんな風に見えるけど?」

 一々刺さる正論が痛い。……これはもう、取り繕うのは無理なんじゃないかな。

「ほ、本当のことを言うと。憧れてたんだ、こういう状況に。ほら、こういうのってアニメや漫画の中だけかと思ってたから実際に会ってみたら思ったよりも動揺もなかったし、それになんだか楽しくなってきて――」

「――もういい」

 それ以上の言葉を許さないと、重く鋭い一閃が話を断ち切る。呆けて彼女の瞳を見ると、その綺麗で夕日に煌めくオレンジには強い力がこもっているように見えた。

「その程度? そんな理由で戦うの? そんな気持ちで英霊に敵うと思っているの? そんな半端さじゃ、本当の彼を、■■を知ることはできない。まともに彼の役に立つとも思えない」

「――」

 息をのんだ。どうして、どうして貴方が、彼を引き合いに出すの。美遊さんとアイツは昨日が初対面で、それ以前に会ったことないって、ずっと一緒にいた私が否定できるのにどうして美遊さんが彼を思っているの? 貴方がアイツの何を知っていると言うのだろうか。

「あなたは戦わなくていい。カード回収は全部私がやる。彼にもそう伝えて、二度と連れてこないで。そしてあなたは、せめて私の邪魔をしないで」

 そうして彼女は去っていった。多くの矛盾と、解けきれない疑問を私のなかに植え付けて。

 そんな状態で彼女と鉢合わせするのは、ほんの数分後の話。

 嗚呼また、夜が来る。 
 

 
後書き
原作との相違点
『彼を知るもの』…二次創作に細かいツッコミや読者の個人的好き嫌いなら不要よ 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧