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モンスターハンター 〜故郷なきクルセイダー〜

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第2話 双剣の姫騎士

 ――あの日から、十年。
 とある小さな村の集会所に――二人のハンターが現れた。

「おい、誰だあいつら? 見ねぇ顔だが……」
「知らねぇよ。……しかし、イイ身体してる女じゃねぇか……」
「見ろよあの胸、あの尻……たまらねぇな」

 ハンターという荒事を生業とする、荒くれ者達の視線を浴びる、二人組のハンター。特に、全身を甲冑で固めた大男の傍らを歩く、金髪の少女の美貌は、男達の粘ついた眼差しを一身に惹きつけていた。
 触れるもの全てを切り裂かんとする、切れ目の碧眼。ショートに切り揃えた艶やかな金髪。透き通るような白い肌。薄い桜色の唇。くびれた腰周り(ウエスト)に、滑らかなボディライン。そして――無骨な鎧の上からでもわかる、豊満な巨乳(バスト)臀部(ヒップ)
 片田舎の小さな村を拠点にする男性ハンターにとっては、類を見ない上玉だった。彼女が一歩歩む毎に上下に揺れる膨らみが、ケダモノの本能を焚き付ける。

 だが、彼らはすぐに彼女の側には近寄らなかった。
 彼女の近くに控えているハイメタシリーズの大男が、レザーシリーズやチェーンシリーズしか持たない自分達よりも遥かに強い存在であることは容易に想像できる上、彼女自身もハイメタシリーズに身を固めていたからだ。
 さらに大男の方は巨大な剣「ディフェンダー」を背にしており、少女の方も腰周りに二振りの双剣「オーダーレイピア」を装備している。武器でも防具でも、自分達が勝る要素がない。
 男達は好色の目で少女を一瞥すると、彼女達の動向を伺いながら酒を口にする。そして、気にしていない様子で談笑を再開した。

「……?」
「いかがされましたか? 姫様」
「……いえ。なんでもないわ、デンホルム」

 自分を下卑た眼で見る男達の視線を感じていた少女は、冷酷な眼差しで彼らを射抜こうと振り返ったが――すでに自分から視線を外して談笑を再開してしまった彼らを見遣り、毒気を抜かれたように肩を落とす。
 そんな自分に声を掛ける大男に短い返事を返した彼女は、気を取り直すようにギルドの受付に向き直った。ハンターが活動する上で必要なものとして、このギルドでの手続きがあるからだ。

 ――だが。

「なぁ、おい……見逃す手があると思うか? あんな上玉……」
「ねぇよ。ねぇに決まってんだろ……」
「けどなぁ。あいつらの装備見てみろよ、俺達じゃまず歯が立たねぇぞ」
「へへ……なぁに。やりようならいくらでもあるさ。いくらでも……な」

 男達は、諦めてなどいなかった。狡猾な狼が如く――彼らの邪な眼差しが、気高い女ハンターの臀部(ヒップ)を見つめている。
 それに気づかぬまま、女ハンターは受付嬢と向き合い、手続きを始めていた。

「いらっしゃいませ。ロノム村ハンターズギルドへようこそ! ギルドから連絡のあった方ですね! ええっと――」
「――クサンテ・ユベルブよ」
「同じく、デンホルム・ファルガムだ」
「もっもも、申し訳ありませんっ! クサンテ様にデンホルム様ですね! 少々お待ちくださいませぇっ!」

 新米なのか、この集会所の受付嬢は涙目になりながら名簿のページをめくっている。すでに眼前の二人の威圧感に飲まれているようだった。

「あっああ、ありましたありました! ええと、ドスファンゴ一頭の討伐――で、お間違えないでしょうか?」
「……ええ。間違いないわよ、それで」

 鋭い眼光をさらに細めて、そう返すクサンテにギルド嬢はさらに萎縮してしまう。だが、彼女は受付嬢の役目として、恐れながらも眼前の女ハンターに問い掛ける。

「で、でも、これは上位種のドスファンゴですよ? クサンテ様もデンホルム様も、先日上位ハンターに昇格したばかりですのに……」
「心配は無用。このハイメタシリーズは確かに下位相当のものだが、限界まで防御力を強化した一級品だ。昇格前に使用していたアロイシリーズとは比べ物にならん」
「分かったら、さっさと手続きを進めなさい。私達はドスファンゴを根絶やしにするまで、立ち止まるわけには行かないのよ」
「ね、根絶やしって……」

 可憐な顔立ちとは裏腹な、物騒な言葉を口にするクサンテに、ギルド嬢は得体の知れない恐怖を覚えていた。一体どんな経緯があれば、こんな美少女が「根絶やし」などと宣言する女ハンターになるのか、と。

「……それにしても、この村に常駐しているハンターって今ひとつ頼りにならない連中ばかりね。あんな男達しかいないの?」
「あ、あはは……。あそこの常駐さん達、いつもああやって飲み食いするばっかりなんですよ。実際、ああいう方しかおられないので、このロノム村は、余りハンターの方には期待されておられないらしく……」
「そうでしょうね。私達もここに来るまで、変な目で見られていたわ」

 下品に笑い合う格下のハンター達を一瞥し、クサンテは深くため息をつく。そして、彼らと同じ空気を吸いたくない――と言わんばかりに、早口で手続きを終わらせようとしていた。

(でも……変な話ね。こんな田舎じゃ収入も少ないはずだし、まともに働いててもあんな豪遊は出来ないはず。なのに、いつもあの調子……?)

 心の片隅に、ほんの僅かな違和感を残して。

「……まぁ、それはいいわ。とにかく、上位ハンターである以上、受注するには問題ないはずよね?」
「は、はい……」
「では、出発は明朝。それまでにこちらで討伐の用意はしておくから、よろしく頼むわね」
「か、畏まりました……」
「行くわよ、デンホルム」
「ハッ、姫様」

 狼狽するギルド嬢を尻目に、簡単な手続きだけを済ませたクサンテは踵を返すと、足早にデンホルムを連れてその場を立ち去って行く。
 その後ろ姿を、ギルド嬢は呆然と見送っていた。

「ほっほほほ。なかなか威勢のいいルーキーじゃのう」
「あっ、ギルドマスター! もう、どこに行ってたんですか!」
「おぅ、すまんすまん。ちょーっと酒場でイイ尻しとるねーちゃんがおっての? ちょびーっとスキンシップを試みていたところじゃて」
「……で、その顔ですか」
「いやー、いい左ビンタじゃったわい。ありゃあ世界を狙えるの」

 そんな彼女の後ろから、一人の小柄な老人が現れた。ギルドマスターとギルド嬢に呼ばれた彼は逞しい白髭を撫でると、赤くなっている右頬をさすりながら、立ち去って行くクサンテの背を見送る。

「……それにしても、クサンテ・ユベルブか……。こりゃあ、神のお導きかも知れんのぉ」

 とぼけた振る舞いとは裏腹に――その瞳は、神妙な色を湛えているようだった。
 
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