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飛び出る

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第一章

                 飛び出る
 ギリシアのアテネに住むヘラクレス=アクトヘレスはこの日もシェスタを楽しもうとしていた。だがその彼に。
 妻のヘレナは笑ってだ、こうしたことを言った。
「シェスタをしてるとね」
「ああ、ドイツとかからだね」
「言われるわよ」
 こう笑って言うのだった。
「寝てる暇かって」
「寝てる暇があったら」
 ヘラクレスはその先が割れた顎をさすりながら妻に言った、自分とは違い先が細く尖っている顎で金髪は長く波打ち黒い瞳を持つ長い睫毛の目の彼女に。ヘラクレスはパーマの様な黒髪に彫のある顔で黒い瞳、そして太い眉だ。身体は筋肉質でほっそりとした妻とはそこも違う。
「働け」
「そう言われるわよ」
「全く、それはね」
「そこまで言うなっていうのね」
「あれだよ、シェスタはね」
 これからすることはというのだ。
「ギリシア人の習慣だよ」
「生活習慣ね」
「イタリアやスペインでもそうじゃないか」
 もっと言えばポルトガルでもだ。
「だからね」
「そんなことまで口出しするな、ね」
「ギリシアはギリシアだよ」
 この国の習慣があるというのだ。
「幾ら借金だらけでもだよ」
「ちゃんと働いているから」
「シェスタ位はしていいだろ」
「しかも今日は休日だしね」
「休日でも働け、シェスタをするなとか」
「もう言い過ぎよね」
「そうだよ、これでも働いているんだ」
 ギリシア人はギリシア人なりにというのだ。
「それでいいじゃないか」
「そうよね」
「ドイツ人と比べたら」
 それこそという返事だった。
「きりがないさ、それじゃあね」
「今からシェスタね」
「今日も気持ちよく寝ようか」
 ヘラクレスはこうも言った。
「これからね」
「ええ、それじゃあね」
 こうした話をしてだった、そのうえで。
 ヘラクレスは自分のベッドに入ってゆっくりと寝た、それは妻も同じだった。夫婦二人で休日のシェスタを楽しんだのだ。
 昼はたっぷり寝てだ、ヘラクレスは起きた。だが。
 目が覚めるとだ、彼は何と家のキッチンにいた。そしてだった。
 周りを見回してだ、妻を呼んだ。
「ヘレナ、いるかい?」
「どうしたの?」
 妻の返事は二人が寝ていた寝室から来た。
「一体」
「俺はどうしてキッチンにいるんだ?」
「あれっ、ベッドで寝てたでしょ」
「それが今なんだよ」
「キッチンにいるっていうの?」
「そうなんだよ」
 これがというのだ。
「どうもな」
「あれっ、あなたベッドにいるわよ」
 妻の返事はこうだった。
「それもぐっすり寝てるわよ」
「そうなのか?」
「ええ、そうよ」
「あれっ、どういうことだ」
「お口こっちで動いてるし」
「訳がわからないな」
「もっと言えばね」
 今度はヘレナから夫に言って来た、白い壁のギリシアによくある家の中で。 
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