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人の為に

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第四章

「何の儲けにもならないさ」
「まあそうだね」
「神学は真面目にやればね」
 ライスと話をする者達も言う。
「神学はお金にはならないよ」
「聖職者か先生になるしかないからね」
「だったらもうね」
「お金にはならないね」
「昔は違ったがね」
 ライスは口の端を歪めてこうも言った。
「司教、枢機卿になり」
「教皇になれば」
「そして権勢を極めれば」
「そう、その時はね」
 まさにというのだ。
「何もかもが思うがままだったさ」
「かつての教皇達がそうだったみたいに」
「ボルジア家みたいにだね」
「そうなっていたさ、けれど今はかなり違うよ」
 確かに権勢もあるだろうがというのだ。
「教会で偉くなっても得られるものは少ないさ」
「だから神学を学ぶよりも」
「さらにだね」
「いいものがある」
「そう言うんだね」
「そうさ」
 その通りという返事だった。
「今はね、だからね」
「君は他の分野に進んだね」
「彼とは別の分野に」
「そうさ、誰が神学なんて学ぶものか」
 それにとだ、ライスはさらに言った。
「人の為じゃない、自分の為にだけ動くさ」
「じゃあ何を学ぶんだい、君は」
「君もかなり成績がいいけれどね」
「僕の行く大学はね」
 ここで彼は自分の志望大学を話した、そこもアイルランドで相当に有名な歴史のある名門大学であった。
「ここの法学部さ」
「あそこの法学部か」
「そこに行くのかい」
「そう、そしてね」
 そのうえでというのだ。
「弁護士になるさ」
「そして弁護士としてだね」
「お金を稼ぐんだね」
「そうだよ」
 そのつもりだとだ、こう言うのだった。
「お金を稼いで弁護士としての地位も高めて」
「そしてだね」
「いい暮らしをするんだね」
「そのつもりさ、あんな人の為に尽くす人生なんて」
 コーネルのそれはというのだ。
「何にもならないさ」
「だからだね」
「君はそうして生きていく」
「彼とは正反対に」
「そうした人生を歩むんだね」
「そうさ、あんな人生は」
 コーネルに様なそれはというのだ、ここでも。
「何が面白いのか」
「自分の為だけに生きる」
「それがいいっていうんだね」
「全くだ、自分の利益にならないことをしても」
 それこそというのだ。
「世の中何も楽しくないさ」
「そうか、じゃあな」
「君はそっちに行くってことで」
「やっていってるよ」 
 こう言って実際にだった、ライスはその大学の法学部に進んだ。ここで二人の道は完全に、以前からそうであったが別れた。ハイスクールまでは一緒であったが。 
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