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ブルカ

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第一章

                  ブルカ
 パレスチナは今も困難な状況の中にある、それはベールシェバ地方も同じだ。国境なき医師団のスタッフとしてこの地方に来ているウジューヌ=ピエールもこの地方の状況について寝泊りしている現地のアパートで現地のスタッフであるマスルール=フセインに苦い顔で言った。
「友人にもユダヤ系はいるから言いたくないが」
「イスラエルのやり方は、ですね」
「あんまりだね」
「ピエールさんはそう思いますか」
「フランスにいる時は聞いているだけだったよ」
 濃い茶色の髭を顔の下半分にたくわえた顔で言う、髪の毛は髭よりも薄い茶色だ。目は灰色で小さめだ。鼻は高く長身でしっかりとした体格だ。
「聞いている時も酷かったけれど」
「その目で見ますと」
「よりよくわかったよ」
 パレスチナの現状がというのだ。
「彼等はやり過ぎだよ」
「仕方ないと言う人もいますがね」
「現地に来て言っているのなら贔屓が過ぎるよ」
 ピエールは即座にこうフセインに返した、あの独裁者の名前ではあるが痩せた中背で髪の毛はやや赤く口髭jもそうである彼の顔を見て。肌の色はこの地域の者にしては白く目鼻立ちはかなりはっきりしている。年齢は三十五でピエールよりも五歳下だ。二人共外科医である。
「イスラエルの方にね」
「先生もそう思われますね」
「だから僕達が来ていてね」
 パレスチナにだ。
「そして活動をしているけれど」
「今は比較的平穏ですが」
「酷い時があるからね」
「だからですね」
「そう思う次第だよ」
 イスラエルはやり過ぎている、とだ。
「彼等の言い分は聞いているけれどね」
「しかしですよね」
「せめて一般市民にはね」
「ええ、攻撃はしないで欲しいですね」
「最低限ね」
「巻き添えでも」 
 こうした話を二人でしていた、今はこの地方は比較的落ち着いているがまたどうなるかわからないというのだ。
 紛争がなくとも彼等は働いていた、現地のパレスチナの国民達の為に働いていたがその中でパレスチナでの生活も送っていた。
 この時ピエールはベールシェバのある街に行ってフセインと共に事故で怪我をした人達への手術を行っていた。
 骨折や内蔵に怪我をしている重傷者達もいた、だが彼等への手当や手術を行い。
 仕事が終わってからだ、ピエールはフセインにほっとした顔で言った。
「今回は死人がいなくて何よりだったよ」
「はい、そうですね」
「結構な大事故だったけれどね」
「自動車同士の衝突で」
「交通事故もあるからね」
 二人は外にいた、手術を行った現地の病院からすぐ近くの場所で休憩を取っている。そうしつつピエールは言ったのだ。
「どうしても」
「はい、気をつけていても」
「うん、けれどね」
「死人がいなかったことはですね」
「よかったよ、肋骨が肺に刺さっている人もいたけれど」
「その人も助かりましたね」
「何とかね」
「いや、よかったです」
 フセインもこう言った。
「死んだ人がいなくて」
「全くだよ、そうした事故ならまだいい」
「これが紛争だと」
 戦争でも同じだ。
「もっと酷いことになりますからね」
「普通に死人が出てね」
「怪我もですね」
「今回より酷いから」
 そうなるからだというのだ。 
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