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渦巻く滄海 紅き空 【上】

作者:日月
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百七 鬼が出るか蛇が出るか

 
前書き
大変お待たせ致しました‼

時間軸がバラバラで申し訳ありません…!また、急いで書き上げたので雑です、すみません…!

前回の最後、ナルトとクスナとの再会より少し前の話です。
この話を読む前に、十七話と百三話に眼を通していただくことを推奨します。
捏造多数・可笑しな点が多くあると思いますが、ご了承願います!

 

 
頭上に浮かぶ巨大な水の珠。
それがゆらりと波打ったかと思うと、たちまち龍の姿へと変貌する。

「そんな攻撃力の欠片もない虫けらなんざ、コイツの餌にしちゃえば終わりだよっ」
ナルトの周りを飛び交う黒白の蝶の群れを一瞥して、シズクはハッと鼻で笑った。
「【水襲(すいしゅう)剛流豪雨(ごるごん)】!!」

術の名の通り、怪物ゴルゴーンの髪である蛇の如き龍が鎌首をもたげる。
『恐ろしいもの』という意に相応しい龍は鋭い歯がびっしり生えた口をカッと開き、ナルト目掛けて襲い掛かった。

巨大な水龍に蝶の一群は為すすべなく呑み込まれてゆく。水で出来ている故、透き通る龍の胴体に、黒白の蝶がひらひらと舞うのが見えた。

「――まぁ確かに攻撃用ではないが」
周囲の蝶がほとんど水龍の口に呑み込まれてゆくのを平然とした顔で眺めながら、ナルトはおもむろにパチンと指を鳴らす。


途端、水龍の胴体がカッと眩い光を発し、そして弾けた。


裂けた龍が雨となってシズクの頭上に降り注ぐ。巨大な水龍が瞬く間に水へ戻ってゆく様を、シズクは呆然と仰いだ。
「な、なにが起こった…!?」
(デイダラを真似てみたが、意外と上手くいったな…)

狼狽するシズクをよそに、ナルトは内心呑気に呟く。彼の脳裏で、死因をやたら爆死にしたがる人物の姿が過った。
蝶を水龍の中で爆発させたナルトを、警戒心を露わにシズクが睨みつける。

「先ほどの話の続きだが、」
無意識に後ずさるシズクに気づかないふりをして、ナルトは穏やかな物腰で、しかしながら鋭く問い質した。

「いつまで死者に従うつもりだ?」



ビクリ、とシズクの肩が大きく跳ねる。今まで眼を逸らしてきた事実を突き付けられ、顔を伏せる。
思い浮かぶのは、自分の主である黄泉から死臭が漂う光景。

明らかに動揺した風情のシズクを、ナルトは静かな眼差しで見据える。その瞳からは何の感情も窺えない。
不意に、不穏な空気とチャクラを感じ取って、ナルトは秘かに眉根を寄せた。君麻呂が【呪印】を使ったのか、と推測した彼はこの場を早急に片付ける事に決める。


己の心中に葛藤を生じさせた張本人が涼しい顔をしているのを見て、シズクの頭に血がのぼる。
「ボクちゃんに何がわかるってのさッ!?」

そう叫ぶや否や、手を前に突き出す。シズクに降り注がれた龍の名残の水が槍の如く飛び出し、ナルトを串刺しにせんと迫り来る。

「危ないよ」
水の槍を難なく避けたナルトがシズクの背後に眼をやって、何の前触れもなく一言注意する。



「は?……ガァッッ!!」
ナルトの言葉を聞くよりも一寸早く、シズクの身体が半分近く消し飛んだ。



我が身を愕然と見下ろすと、円形の穴が穿たれている。抉られた円の向こう側に黒白の蝶の姿が垣間見えた。背後にいた蝶に迂闊にも触れてしまい、爆発を食らったのだ。
身体を穿った正体である黒白の蝶を苦々しげに睨むシズクの顔が、己の死への恐怖に歪んだ。


「―――なぁんてね」


瞬間、恐怖に彩られていた顔に悪戯っぽい笑みを浮かべる。顔の端からどろりと溶けていったかと思うと、シズクの身体はバシャッと音を立てて地面に落ちた。
「【忍法・水変わり身】」

人の形をかたどっていたシズクの身体がどろりと溶け、地に残ったのは水たまり。
攻撃を受けた瞬間、自身を液体に変えたシズクは水たまりの姿のまま、地面を這った。

「詰めが甘いんだよ、ボクちゃん。ウチは身体の一部を自在に液化出来るのさ」
(……甘いのはどちらだろうな)


実際、ナルトが注意を促さなければ、シズクは蝶の接近に気づかずに死んでいただろう。蝶には、シズクが【水襲・剛流豪雨】の印を結んだ時点で、対象に着弾すると自動的に爆発するよう仕組んでおいた。
相手を殺す事が目的ではないナルトは一声かける事でシズクの死を防いだのだ。


「どんなにボクちゃんが強くとも、どうせこの世は終わりなんだよ~」
もうすぐ【魍魎】が世界を破滅させる。【魍魎】の力を盲信しているシズクに、ナルトは静かに「…それはどうだろうな」と呟いた。

刹那、水たまりと化したシズクにさざ波が立つ。
水たまりの状態で身震いしたシズクは、己を見下ろす青の双眸に、畏怖を覚えた。
【魍魎】を前にした時以上のナニカを感じて、シズクは恐怖心を必死に押し殺し、小馬鹿にした物言いで嗤う。


「そ、それよりいいの~?ボクちゃんが守ってる巫女の心配しなくて…」
「君の役目は俺を巫女から引き離す事だろう?」
図星を指され、シズクはぐっと口を噤む。

シズクの役割は、標的である紫苑を背負う白の許へ、クスナ本人を行かせる事。つまり、セツナ同様、自身は足止め兼おとりだ。
「それが解ってるのに、こんな悠長にしていいわけ?」と当然の疑問を口にするシズクに、ナルトは「俺も、君と同じなのでね」と不敵に微笑んだ。


直後、白煙が立ち上る。ナルトがいた場所に残る煙を、シズクは水たまりのまま呆然と仰いだ。
今まで自分と対峙していたのが【影分身】だった事実にようやく思い当って、歯噛みする。ナルト自身も結局はシズクと同じく、おとり兼足止めであったと知って、シズクは、悔しいと思うと同時に感服した。


そうして黄泉、否、【魍魎】に従う自分自身への疑問を心中に生じさせたシズクは、己を葛藤させる事自体がナルトの思惑だとは露も気づけなかった。































ガサガサと草むらを掻き分けながら、足穂は何処か彼方で戦闘の音がするのを聞いていた。次第に大きくなるその音に焦燥感が募る。
己の主である紫苑は無事であろうか。

主人の命令で鬼の国に帰るよう仕向けられたものの、足穂は別ルートでナルト達を追っていた。
紫苑の母である弥勒に足穂の一族は大いにお世話になっている。その恩に報いる為にも鬼の国の巫女たる紫苑は絶対守らねばならぬ。
それこそが己に課せられた使命であり、自分の存在理由だと足穂は信じて疑わなかった。


儀式にちょうど良い大きさの空き地を見つけ、準備をしていた足穂は此方に近づく人の気配にハッと顔を上げた。急ぎ、傍らの茂みに身を潜ませる。
敵の一人かと緊張していた彼は、視界に飛び込んできた姿にほっと胸を撫で下ろした。

視線の先では、紫苑を背負った白が額の汗を拭っている。紫苑の安否を確認しようと、足穂が茂みから立ち上がると同時に、白が反射的に飛び退いた。

「驚かせて申し訳ない…足穂です」
「足穂さん…?」

追って来た敵をナルトに任せて、沼の国の祠を目指して森の中を突き進んでいた白は、思わぬ人物との再会に困惑した。警戒態勢を解きながらも、驚愕の表情を浮かべる。

真っ先に紫苑の様子を窺う足穂の気遣わしげな視線に気づいて、白は「大丈夫。眠っているだけですよ」と答えた。
「それより何故此処に…?貴方は鬼の国に帰ったはずでは…」

白の問いに応えず、足穂は先ほど自分が用意を施していた場所へと戻ろうと踵を返した。促され、紫苑を背負ったまま白も足穂の後をついて行く。
足穂が招く場所へ向かった白は、目の前に広がる奇妙な円陣に眉を顰めた。

怪訝な顔をする白をよそに、足穂は手頃な石をびっしりと並べて作った円陣の中心へスタスタと足を進めてゆく。
陣の外で佇む白の眼前で、印を結び始めた足穂の身体からチャクラが迸った。それと相俟って、白い帯のようなモノが足穂の全身を覆い尽くすように絡みつく。かつん、と石が鳴る音がした。


瞬間、円陣から放たれていた光が急激に明るさを失ってゆく。白い帯がすう…と消えてゆく中で、足穂が愕然とした顔で立ち尽くしていた。
「そんな…どうして…!?」

術が発動しない事実に呆然とする足穂の瞳に、整然と並べていた石の一つが陣から外れている光景が映った。


「高等な術は陣の一つでも崩されれば発動しない」
円陣を象っていた石の一つ。それを軽く弾いて陣を崩した張本人が何時の間にか木の上で腰掛けながら、手中の石を弄ぶように転がしている。
その声に気づき、ぱっと顔を輝かせた白と、足穂の表情は対照的だった。

「何故邪魔をするんです!?私は…」
「紫苑様を守る為に彼女の身代わりになると?」
自分の本意をあっさりと暴かれ、顔を強張らせる足穂に、ナルトは困ったような笑みを返した。

「でもそれは、紫苑様の望みにはそぐわないよ。彼女はそんなものを求めていない」
木の上から音も無く降り立ったナルトは、石で施された円陣をちらりと横目で見遣った。解っていて術を発動しようとしたのだろうけど、と前置きをあげてから、改めて口にする。


「紫苑様…紫苑は、足穂殿が生きてくれること、それを望んでいる」
「ちょっと待ってください」
話についていけず、白が思わず口を挟む。
自分と紫苑を先に行かせる為に追っ手を引き受けたナルトが今現在この場にいる事はもはや問わない。彼が此処にいるという事は、既に敵を迎撃したか、もしくは影分身かどちらかということだと、白は長年の経験から既に把握していた。

「一体、足穂さんは何の術を発動させようとしたんですか?」
白のナルトへの問いかけは、足穂自らが暴露する事で解き明かされた。


「…【影鏡身転の法】……鬼の国に伝わる秘術です」

【影鏡身転の法】――円形の陣の中で発動し、他人に変化する云わば変化の術。ただし、ただの変化とは異なり、声までも本人そのものとなり、その人物に成り切る術である。
初歩の部類に属する変化の術とは異なり、その者の身体を完全に他者の肉体に作り変えてしまう。つまり、一度、この術を使えば、もはや元の姿には戻れないのだ。

「そんな危険な術を…」
「紫苑様をお守りする事が出来るなら、この命、喜んで投げ打つ所存。だからこそ私は…」
「身代わりとして、死ぬつもりだった?」
ナルトの淡々とした声に、足穂は顔を伏せる。大きく嘆息したナルトは、白が背負う紫苑の姿を見てから、改めて足穂を見据えた。


「一度お伝えしたはずです。我々は敵に易々殺させたりしない。紫苑様も、そして貴方も」
「ですが…ッ」
「巫女を守り抜く事だけが貴方の存在する理由だとでも言うのならば、もう一つ存在理由を与えましょう――――白」
反論しようと口を開く足穂を遮って、ナルトは白に目配せした。

「以前、凍らせて丁重に保管するよう頼んでおいたモノがあるだろう?」
「え…あ!は、はい。直ちに」
一瞬戸惑った白はナルトの言葉にすぐさま思い出し、懐から巻物を取り出した。


ドスとキンとの邂逅で忘れかけていたが、木ノ葉滞在中の宿にて、ナルトに頼まれて氷遁で凍らせていた紙。


白に手渡され、巻物に保管していたその紙をナルトが見せれば、足穂の眼の色が一瞬で変わった。
「こ、これは…!?」
「知り合いのツテで手に入れた代物です」

紙を真剣に見つめる足穂を前に、ナルトは口許に微苦笑を湛える。寸前まで紫苑の代わりに死のうとしていた人間と同一人物とは思えないほど、足穂の眼は生命力に満ちていた。

「何故、貴方がこれを…!?それにどうして…ッ」
「詳しい話はこの護衛任務が無事完了してからにしましょう。それまでは足穂殿、鬼の国に戻ってこの紙の内容を検討しなければならないのでは?」
「そ、それはそう、なんですが…」
紫苑をナルト達に託してしまって良いのか、と悩む足穂の背中をナルトはそっと押した。

「我々としても、鬼の国の遺跡で幽霊軍団を相手にしている仲間の安否が気がかりでして…」
「幽霊軍団!?【魍魎】の手下の!?もしや足止めしてくださってたのですか!?」
ナルトの一言で、足穂はようやく、自分達に襲い掛かる敵がクスナ達四人衆だけだった理由を知った。

「ええ。遺跡周辺に張っている結界内部で幽霊軍団と対峙しています。護衛任務が完遂した暁にはその結界は解かれますので、結界が解かれ次第、内部で闘っていた仲間に治療を施してやってください。その際、彼らが何者かいうのは秘密裏にお願いします」
「わ、わかりました」
ナルトが手渡した紙を今すぐにでも検討したい足穂は、一も二も無く了承する。

逸る気持ちを抑え、鬼の国への道を今度は間違えようもなくまっしぐらに向かう彼の背中を、白はやや呆然とした面立ちで見送った。



「あの紙…そんな重要書類でしょうか」
「彼にとっては、いや…鬼の国にとってはそうだろうな」

足穂が残した円陣を象る石を足で軽く弾きながら、ナルトは眼を細めた。
本当は護衛任務完了後に伝えたかった件だが、足穂を思い止まらせる為には致し方ない。実直な人柄故に頑固でもある足穂を帰郷させるには、こうでもしないと鬼の国に戻ってくれないだろう。


さりげなく鬼の国の遺跡で幽霊軍団と闘っている再不斬達の労いを頼んだ彼は、鬼の国の屋敷に続く道程を急ぐ足穂の後ろ姿に、ふっと微笑する。
その微笑に気づいた白は「ナルトくん、貴方は足穂さんの命を救ったんですね」と確認に近い言葉を投げた。

「あの術が発動し、巫女の姿に成り代われば身代わりとして死んでしまう。それを防いだんですね」
「そんな大層なことじゃないさ」
敬意に満ちた白の視線に、ナルトは切なげな笑みを返した。

「既に死んだ者に成り代わるのならともかく、足穂殿には彼自身の姿で生きてほしいから………人はそれぞれ自分の生き様がある。その人間の生き様は何者にも邪魔されてはいけない。たとえそれが、」

そこで言葉を切って、ナルトは夢から目が覚めたようにパッと表情を変えた。
己の影分身が消えたのを感じ取り、そこから伝えられた情報に顔を顰める。一瞬黙考した彼は導き出した策案から、白に声を掛けた。

「頼みがあるんだが」と急に告げられた言葉に、白は一瞬困惑したが、従順に頷きを返す。
つい寸前まで物思いに耽っていたナルトの心意をはぐらかされたと知っていながらも、彼はナルトの意味深な言葉をあえて追及しなかった。そうされてほしくないだろう、と知っていたから。

頼み事の内容に若干不満げな顔をしつつも了承した白の傍ら、ナルトは思考を巡らせる。


足止め兼おとりであるセツナと闘っていた影分身が消えたのならば、そろそろ四人衆のリーダーであるクスナが此方に来る頃だろう。
既に姿が見えなくなった足穂が向かう先――鬼の国がある方角へナルトは視線をやった。



木ノ葉隠れの里に無断で潜入し、秘蔵の巻物を盗もうとした罪で木ノ葉厳重警戒施設に収容された、足穂の同胞のススキ。

彼の遺書を足穂に引き渡したナルトは、その双眸の青を思案げに曇らせた。


(さて、吉と出るか凶と出るか…)


 
 

 
後書き
映画編、飽きてきましたね…(←お前が言うな)
ですが、本編に関連ある章なので、もうしばらくお付き合いお願い致します!
次回もよろしくお願いします!! 
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