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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第13話 反英雄

 
前書き
 オリ鯖にしようとしてオリ鯖に出来なかったのは前回オートマタを士郎達に嗾けた奴です。
 まあ、本来のクラスとは違うので、原作と全く一緒と言うワケではありませんが。
  

 
 ちょうど同じ頃、九鬼財閥極東本部でクラウディオが部下の李静初(リー・ジンチュー)から報告を受けていた。

 「川神市と冬木市のほぼ全域が眠っているように静かですと?」
 「はい。それに通行人も車も何故か両市を避けるような行動をとっています。鉄道関連は一見正常の様ですが、両市内にある各駅と連絡が取れないとの事です。電車が動いているにも拘らず」
 「・・・・・・・・・・・・」
 (認識阻害が両市の外側に掛けられているのか?一体何が起こっているのか気になる所ですが、此処は下手を討たずに現状維持を貫くしかなさそうですね・・・)

 今この極東本部に居る者の中で魔術を使えて、対処できる者が自分しかいないのだ。
 マープルは武士道プランのために今は小笠原諸島に出向いているし、ヒュームはあるパーティーに招待された九鬼の末っ子の護衛でアメリカに飛んでいる。対処は出来なくとも魔術を知っているあずみも英雄の護衛として中国での商談で出払っていた。
 正直歯がゆくはあるが、雇われの身としてはいざという時に防備を固めると言う判断しか出来ない。

 「今は様子見に徹しましょう。時期が時期ですし、下手を打つと藤村組を刺激しかねませんからね」

 故に、こう言うしかなかった。
 それに了解の意思を見せた李は他の者達への連絡のために退室した。
 それを確認したクラウディオは思わず外を見る。

 「何事も無ければいいのですが・・・」

 立場上動けない完璧執事は切に祈った。


 -Interlude-


 少し時間を遡る。
 百代は夜も不機嫌のままでいた。
 今いる場所は川神院では無い。
 一子は金曜集会を終えてから帰ったが、百代は帰らずにぶらついているのだ。

 「あの士郎(色狂い)めぇ~!今日もあの2人とイチャイチャしやがってぇ~!!」

 金曜集会ではそうでもなかったが、今は露骨に今朝の士郎の態度(主観)に怒り心頭気味だった。

 「確かにあの2人は色気むんむんのお姉さん達で、私でも(*´Д`)ハァハァ言いながらねっちりと愛でたくなる位だが・・・・・・・・・・・・・って、違う!!?」

 たまに本性も出る。
 士郎に思うところがあれど、百代の美少女・美女好きに変化があるワケでは無かった。

 「とにもかくにも面白くない・・・・・ん?何だ、随分と周りが静かだな・・・」

 そこで初めて周囲の異常さに気付く。百代に居る場所は川神駅付近で、何時ものこの時間帯なら賑やかなままであり、少なくとも無人のような静けさは大凡似合わない筈だった。

 「何なんだ、一体?――――あれは・・・・・?」

 周囲の異常さに首を傾げていると、前方からマネキンを模したロボットの様なモノが群れを成して現れる。

 「クッキーの後継機――――とは思えないし、何かの宣伝か?ああ!その手の都合でこの辺り一帯静かなのか!」

 勝手に1人納得している所で、百代の背後から前方から来る同型のマネキンロボット――――オートマタの1体が百代の頭をかち割ろうと左腕を振りかざす。
 しかしそれを百代は気付いたわけでは無く、横にずれるように何となく自然に躱した。

 「なっ、何だこいつ等!?」

 躱してから初めて気づいて疑問をぶつけても、オートマタは幾度も左腕右腕を振り続けて百代に迫る。
 それを困惑しつつも何度も躱す。
 そして面倒になってきた百代は、勝手に1人で考え自己完結させる。

 「何所の宣伝か知らないが、多分エラーで襲ってきてるんだから正当防衛になるよなっ!」

 川神流の何の奥義や技でもない回し蹴りでオートマタが蹴り砕かれる。
 このオートマタは魔力をエネルギーに稼働しているが、サーヴァントの様な霊体では無いので、魔力の籠っていない攻撃でも耐久値以上の衝撃を受ければ当然のように壊れるのだ。
 そのオートマタが破壊された瞬間、前方から近づいて来ていた同型の群れが一斉に百代目掛けて駆けて来る。

 「アイツ等もか?」

 困惑したままでも百代は嬉しくなった。
 昨日は士郎の諸事情もあったが、今日の夕方の分を加えて二日続けて組手稽古をする気になれなかったのもあって、百代は久々に戦闘欲求を満たせずにストレスが溜まっていた。
 なので原因不明のロボット襲撃は、寧ろ歓迎したくなる突発的なイベントだった。

 「何だか知らないが、お前らで私の戦闘衝動の晴らし役になってもらおうかッ!」

 百代は久々に獰猛な笑みを浮かべながら、自分を囲うように展開するオートマタの群れの一部に突っ込んで行った。


 -Interlude-


 士郎は現在オートマタを振り切って、夜の街を駆け抜けていた。
 目指すは一般人に睡魔を促した電波の発生源。
 オートマタを振り切る前に、幾つかのオートマタを調べて電波の大凡の発生地周辺を特定したので、今はその当たりに向かっている。
 そんな士郎が目指していた周辺に到着すると、オートマタの群れと又しても出くわした。

 「これほどの数が集まっていると言う事は、矢張り電波の発生源はこの周辺にあるのか・・・ん?」

 大量のオートマタから目指していた場所が此処だとほぼ確信する士郎だが、そのオートマタが一向に自分に襲い掛からず背を向けていることに疑問が生じた。

 「なん」

 だと、言い切る直前に、前方の群れからまるで蹴り砕かれたオートマタが自分に向かって飛んできたのだ。
 士郎はそれを躱しながらも疑問がさらに深まった。

 (誰か戦っている?この辺りであと残っているのは、九鬼財閥の吸血鬼殺しのヘルシングの末裔殿と完璧執事殿と星の図書館殿の3人だけだろうが・・・)

 星の図書館はまず削除する。昔は兎も角今は武闘派では無くなったからだ。
 オートマタの壊れ具合から完璧執事も削除する。完璧執事の攻撃ならば砕くのではなく、鋼糸により切断されると言う結果になる筈だ。
 そして消去法で言えばヘルシングの末裔の殺戮執事だが――――。
 と考えた瞬間に士郎は心底驚いた。
 オートマタの群れに囲まれている誰かが僅かなれど確かに見えたのだ。
 此処に居るはずのない此処に居てはならない人物、川上百代その人であった。

 (如何して百代が此処に居る――――いや、如何して起きていられる!?)

 現段階での推測でしかないが、電波の届く範囲の唯人では全員寝ている筈。
 なのに何故か百代は起きていて、剰えオートマタの群れに囲まれた中心で嬉しそうに戦っているのだ。

 (百代に魔術回路は無い筈だが・・・・・・・・・・・・まさか!?)


 -Interlude-


 士郎の考えに納得のいく推測を出していた者が他所でいた。
 川神市全域を殆ど見渡せる高層ビルの屋上にて、俯瞰していた(・・)オートマタをランダムに配置したとあるサーヴァントだった。

 「川神一族だけでは無く、この国の重要な霊脈地に置かれている寺を守る血族たちは、かつては魔術師の家系だった。それが今では魔術回路が死滅したところは代わりに膨大な気を得た。そして中でも強大な気を操れるようになったのが川神一族だと聞いていたが・・・・・・・・・もし、もし川神百代に数の量は関係なくとも眠ったままの魔術回路があるのだとすれば理解できる。報告にあったガイアの使徒からの攻撃とその後の“彼”によって魔力を流し込まれた事により、無理矢理叩き起こされたのだとすれば納得は行く。いや、だがしかし、その推測を立てるにしても――――」

 ブツブツブツブツブツブツと、呟いていた。
 このとあるサーヴァントは一度自分の世界に入ると、周囲が見えなくなり声を掛けられてもぞんざいな扱いをすると言う生前からの欠点がある。
 それは今も治っておらず、視界には入っているが川神百代もその周辺も見えはいなかった。
 その事が幸いして気づかれていない士郎は、奇しくも同様の推測に至ったが自分がこの状況で如何するべきか悩んでいた。

 (今この格好で助太刀してもその後が大変だ。ハサンの仮面とフードで貌を隠すか?いや、だがそれでは百代の説得が出来な――――)

 士郎は悩んでいたにも拘らず、体が勝手に咄嗟に動いてしまった。
 戦闘中の百代の背後から迫るサイレントオートマタの斬撃で、たたっ斬られそうな光景に我慢できずに。彼女に瞬間回復と言う技がある事も忘れて。

 「――――百代ッ!!」
 「士郎!?何でお前が此処に?いやその前に、何だその仮装は?」
 「あっ!?いや、これは――――」

 そこで説明をしようとした途端、百代が追及を止めた。
 今百代にとって一番会いたくない相手が士郎だったからだ。
 注:周囲のオートマタを鎧袖一触の如く蹴散らしながら2人は向かい合っています。

 「百代?如何したんだ?」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「今日の夕方の組手もルー先生から断りの連絡を受けたが、体調でも悪かったのか?」
 「――――してたろ?」
 「ん?」
 「新しい同居人とイチャイチャしてたろ!だからだっ!イライラしてたんだよッッ!」
 「――――あれかっ!」

 士郎が思いついた様に納得した事に、百代はやっと気づいたのかこの鈍感がと毒づいた。
 しかし士郎が納得しているのは百代の考えとは別だった。
 注:上記通りです。

 「リズさんとティーネさんとイチャイチャしてるように見えたのか?」
 「そうだよっ!」
 「なるほど。つまり百代がしたかったって事なんだな?」
 「何言ってる!そんな訳無いだろ!?」
 「何でだ?百代は男より同性の女性を生涯の伴侶としたいんだろ?京からそう聞いてるけど・・・」
 「なっ!!?」

 士郎がこの話を聞いたのは一年ほど前で、当時の京は大和にべったりいちゃつく百代を見た腹いせとちょっとした茶目っ気で虚実織り交ぜて言い聞かせたのだ。
 しかしまさか百代が士郎に異性としての好意を抱く事になるとは予想外だったので、現在2人にくっ付いて欲しいと画策している京からすれば過去の自分の言動を制止したくなるほどの痛恨のミスと言える。
 まあ、士郎が今日まで勘違いして来たのは京の話に加えて、当人である百代が登下校時自分で作った可愛い女子生徒のハーレムたちに囲まれる姿を目撃した事が幾度もあるためだとも言える。
 注:上記通り。

 「その驚き様・・・・・・・・・まさか同性好きじゃないのか?」
 「確かに好きだが百合ではないぞ!?只今まで周囲に魅力を感じさせる異性がいなかっただけだ!」
 「そうなのか?じゃあ、何で百代は苛ついていたんだ?」
 「何でって・・・・」

 士郎に指摘されてはじめて自分が何故ここもだ苛ついていたのかを自己分析する。
 注:上記。

 (そうだ。士郎(アイツ)が誰であろうといちゃつくこうがアイツの自由じゃないか・・・・)

 だがそれを思い浮かべるだけで苛ついて来る。
 そして士郎程鈍感ではない百代は思い至ってしまった。
 注。

 (ま、まさか私は、士郎の奴の事が・・・・・・・・・好き・・・なのか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いいや――――そんな訳あるかァアアアアアアっっ!!」
 「な、なんだ?」

 怒声を響かせると同時に一番近くに居たオートマタの核部分を思わず抜き取り、器を砕き飛ばした後核部分が爆発する前にかなり固まっている所に投げ入れて爆発させた。しかも全て無意識に。
 その百代の怒声と無意識での器用な真似に驚いていた士郎だが、偶然にも認識阻害と睡魔の電波を発している空間を高層ビルの屋上の一つを士郎が捉えた。

 (あれはっ!?)

 しかもそこには誰かいる事にも気づいた。
 つまり――――。

 (目標発見(ビンゴ)!)

 ――――サーヴァントである。
 これだけ広域の認識阻害と睡魔の電波らしきものを広めているとなれば、ただの魔術師とは考えにくく、大魔術師でも厳しいレベルの精度なのだ。
 だがここで問題がある。
 此処には百代が居て、ひょっとしたら自分についてくる可能性もある。
 しかし言うまでも無く百代にサーヴァントを遭遇させるわけにいかない。
 さて、如何したモノかと無言になる。
 そんな士郎に如何したのかと、ある葛藤の末自分の胸の高鳴りを抑えていた百代が恐る恐る聞く。

 「・・・・・・・・・如何した?」

 百代が訝しむ様に聞いて来るので、虚実を織り交ぜた話をしようと決める。
 ――――今この町の異常は、以前話した裏社会のの者達が引き起こしていると。
 ――――このままではこの町が危険なのだが漸く元凶を発見したと。
 ――――しかし周囲に今も集まってくる人形たちを放置する訳にもいかないと。
 そこまで言うと百代がなら簡単だろと言う。

 「私が残ってコイツらを殲滅すればいいじゃないか?」
 「いいのか?」
 「町の危機なんだろ?それにどうせ私は守られるような性質じゃないからな」
 「そんな事は無い!俺は何時だってお前の事を友人として大切だって思ってる(俺は何時だってお前の事を大切だって思ってる)!」
 「っ!!?」

 両肩を思い切り掴まれて真正面から百代を見ながら断言する。そのせいでお互いの顔が非常に近くなり、百代の胸の高鳴りがまた鼓動を早くさせる。
 しかも普段はあまり見せない凄みのある真剣な表情の為、否が応でも頬が朱に染まっていく。
 そして突如の口説き文句。不意打ちにも程があった。

 「分かった、分かったから!」
 「如何してそんなに慌てるんだ?」
 「五月蠅い!!」

 百代は誤魔化すように士郎を振り払う。

 (全くコイツめ!油断してる所にあんなこと言ってケロッとしてるんだから、性質が悪い!!)

 しかし言った本人は何故百代が頬を赤く染めているのかまるで分っていなかった。

 (百代の奴如何したんだ?あんなに慌てて・・・・・・まあ、いいか)
 「それじゃあ気を付けろよ?」
 「分かったから早く行けッ!」
 「頼む」

 追い立てるようにだが、百代から促された士郎は気で強化した足で瞬動を行って一瞬で目標地点まで到達と同時に百代を助けた時に隠していた干将莫邪をサーヴァント目掛けて振り落とす。
 しかし不可視の壁――――障壁に阻まれてしまう。
 そこで初めてサーヴァントは士郎に気付いた。

 「これはこれは、急なご来訪ではありますが歓迎しますよ。衛宮士郎殿」
 「俺を知ってるのか!?」
 「勿論ですよ。我がマスターは貴方に期待していますからね」

 これに士郎は怪訝に思う。
 聖杯戦争に参加している魔術師が、別の参加者の魔術師に同盟も無く期待するなどあり得ない事だからだ。

 「正直信用できないが、だったら俺が住んでいる街を如何して荒らす?」
 「(これ)はたまたまですよ。今の私はある勢力の客分でしてね、その勢力の中核の1人がこの町のある人間に興味を覚えまして、それを援護しているだけですから」
 「それを信用しろっと!」

 何時までも破れないので、障壁から少し離れた屋上の淵に丁度降り立つ。

 「ご随意に。私は私が知るべき事実を語っているだけに過ぎませんから」

 つまり信用など求めていない様だ。如何やら目の前のサーヴァントはマスターに忠誠は誓っておらず、利害一致に協力関係にある様だと推測できた。

 「それに私にばかりかまっていていいのですか?」
 「葵紋病院なら俺の相棒が向かっているさ」
 「おや?場所をご存じでしたか」
 「途中から居場所を特定した。だから後はお前を討つだけだ、魔術師(キャスター)!」

 士郎は干将莫邪を投擲して、障壁に弾かれる直前で“壊れる幻想(ブロークン・ファンタズム)”をう。
 その爆発は障壁に強い衝撃を与えるが、破るまでにはいかない。

 (目晦まし――――と言う事は後ろに回り込んで宝具解放と言う所か。しかしキャスターか、私は――――なのですがね)

 そして予想通り背後から殺気を感じた。

 「いくらなんでも駄々漏れですよ!」

 サーヴァントの周囲の障壁外から小さな鏡が出現して、レーザーが照射される。
 しかしそのレーザーは空を貫く。
 そして今度こそ後方からの士郎の殺気と共に、魔力を感じた。

 (しまった!?)

 迎撃しようとするが間に合わない。障壁を強化しようとするが間に合わない。

 「絶世の剣(デュランダル)!」

 矢として弓に番われた絶世の剣が障壁目掛けて放たれる。
 衝突した一瞬のみ拮抗するが、流石は決して折れる事のない不滅の剣。剣先が障壁を貫きサーヴァント事串刺しにする。

 「!?」

 そして――――。

 「壊れる幻想(ブロークン・ファンタズム)

 サーヴァントは内包された神秘の爆発により爆散する。

 「・・・・・・・・・・・・身代わりか」

 しかし爆散したのはサーヴァントを模しただけのオートマタだった。
 周辺に一見バラバラになった人体に見えるオートマタの各部分が散らばっている。
 あの一瞬に入れ替わったと言う事は考えにくい。
 神代の魔術師なら可能だが、攻撃と防御方法からそれは無いと確信する。
 であれば、最初から本体はこの町にすら居なかった事になる。

 「本人は安全な場所で高みの見物とは、実にキャスターらしい」

 しかし身代わりとは言え中継地点の核を撃破した事により、先程まで感じていた二つの電波が消失する。

 「取りあえずは退け――――魔力反応の増大!?」

 葵紋病院の方向からの魔力反応に、士郎は思わず目を剥くのだった。


 -Interlude-


 士郎がサーヴァントの中継地点となる身代わりを撃破するほんの少し前、天谷ヒカルの病室では反英雄が召喚される直前だった。

 「――――されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者」
 「・・・・・・・・・クク」

 ヒカルは男が持っていた魔導書にかかれている呪文を呼んでいた。
 ヒカルには魔術回路が無い代わりのリスクを払っているが、それに対して痛みを我慢している顔が見られない。
 失敗しないように男が痛覚を遮断しているのだ。
 その男は口角を少し釣り上げながらもは見守っている。

 「――――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――!」

 召喚陣から吹き荒れる風と稲光を、男がヒカルを守る様に遮る。
 そして煙が晴れていくとそこには大男が中腰姿勢で立っていた。
 白くはあるが、獅子の様な鬣の様な髪に、全身は傷だらけ。四肢には拘束具の様なモノが付いていて、一際目を引き付けるのは黒い仮面と雄牛のような立派な角である。

 「見事だヒカル」
 「この人が私の復讐を助けてくれるの?」
 「ああ、だがその前に自己紹介を――――」
 「――――する前に此処を離れますよ復讐者(アヴェンジャー)。サーヴァントが接近しています」

 2人の会話に突如乱入したのは、先ほど士郎に倒されたはずのサーヴァントだった。

 「フン、来たのか」
 「ずいぶん前からこの町には居ましたよ。気付いていたでしょうに・・・。と、そんな事はいいですから彼女とその狂戦士(バーサーカー)も一緒に中に入れますよ」
 「ヒカルの復讐の大切な記念日だと言うのに余計な事を・・・!」

 迎えに来たと言うのに、明らかに迷惑そうに言う復讐者。
 それに対して取り合う気が無い迎えに来たサーヴァントは、自分も含めた1人と3体の周囲を光で包み込んだ。

 「あ、あの・・・」
 「説明は後でしましょうか、お嬢さん」
 「いいから早くしろ」
 「言われずとも」

 その言葉と共に、その場から全員光に飲まれるように消えて行った。
 結局シーマは間に合わず、その病院に勤めている当直の看護婦たちもヒカルが病室から消えていることに気付いたのは朝になってからだった。 
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