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トラベル・トラベル・ポケモン世界

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11話目 成長(前)





 エレナと激しいバトルを繰り広げた翌日。
 グレイはヒトツシティにあるポケモンジムの前にいた。これからグレイはジムリーダーに挑戦するのである。
 昨日、エレナと別れたグレイは、すぐにヒトツシティ行きのバスに乗ってヒトツシティに到着した。しかし、その日の内にジムリーダーに挑戦することはできなかった。
 ポケモンジムには多くのトレーナーが挑戦しに訪れる。当然、挑戦者の中にはジムリーダーに全く勝てる実力なく挑戦する者もおり、それらを全部ジムリーダー1人が相手にするのは時間的な都合もあって不可能である。
 そこで、挑戦者はジムリーダーの門下であるジムトレーナーと戦い、勝った者だけがジムリーダーに挑戦できる仕組みになっている。
 昨日グレイはジムトレーナーと戦い、ジムリーダーへの挑戦を認められた。そして今日、バトルの日時として指定された時間に間に合うようにジムの前に着いたのである。



 グレイはバトルの手続きをするために、ジムの受付の者に話しかけた。
 手続きの途中、受付の者に訊ねられる。
「バトルに使用するポケモンは何体に致しますか?」
「え?」
 何のことだか分かっていない様子のグレイに、受付の者が説明を加える。
「1対1、2対2、3対3、お好きなルールを選ぶことができます」
 グレイは少し考える。グレイには圧倒的な強さを誇るギャラドスがいる。1対1のルールでギャラドスを出せば、負けることは考えにくい。
(だが……ポケモン関連の商品10%割引が目的とは言え、人生初のジム戦でビビヨンを使わないで突破するってのも微妙だよな……)
 グレイは、自分と一番付き合いが長いビビヨンを無視して何かを達成する事に抵抗感を覚えた。
(ビビヨンよりも強いKKを戦闘に出さない選択肢はない。でも……2対2のルールでチョロネコだけ仲間外れっていうのも微妙だな……)
 お忘れかもしれないが、『KK』はグレイがギャラドスにつけたニックネームである。
 グレイは考えた末に、
「3対3で」
 自分の手持ちポケモンを全員参加させることにした。



 ジムの受付の者に案内され、グレイはバトルフィールドに案内された。
 フィールドの横に、トレーナーの立ち位置らしき高台があった。グレイは高台に立ち、フィールドを見渡した。
 バトルフィールドは建物の中とは思えない程に天井が高く、面積も広大であった。フィールドの地面は全域にわたって、硬く乾燥した土とゴツゴツした岩で固められていた。水平な場所ばかりではなく傾斜のある足場も多く存在し、岩場によって高低差のある地形が広がっていた。
(デコボコした地形……工夫次第で色んな戦い方ができそうなフィールドだな)
 グレイはそう思うと同時に、トレーナーとして未熟な自分が地形を最大限に利用することは無理だ、とも思った。
(エレナだったら、この地形を生かして上手く戦ったりできるのかもな……)
 そんなことをグレイが考えていると、グレイとは反対側の高台に1人のお爺さんが現れた。
「お待たせして悪かったのう。君が挑戦者のグレイくんで間違いないのじゃな?」
 現れたお爺さんはグレイにそう問いかけた。
「オレがグレイです」
「そうかそうか。ワシはこのヒトツジムのジムリーダー『ゴン』なのじゃ。知っておるかもしれんが、ワシが使うポケモンはドラゴンに関係するポケモンじゃ」
 ジムリーダーのゴンと名乗ったお爺さんは、ちらっとフィールドを見渡して言葉を続ける。
「審判の準備も整ったようじゃ。早速じゃが、始めるとしようかの」
 ジムリーダーのゴンはそう言って、モンスターボールからポケモンを出した。ゴツゴツしたフィールドに、ミニリュウが現れた。
 ミニリュウ、ドラゴンポケモン。ドラゴンタイプのポケモンで、ヘビのような細長い姿をしており、体は青色で腹は白色。愛くるしい瞳のせいで、全体的にかわいい印象をもつポケモンである。
 ちなみに、一般的なミニリュウは高さが1.8mであると言われており、かわいい見た目の割には大きい体をもっている。
「さてグレイくん。君はどんなポケモンを使うのかのう?」
「オレが最初に使うポケモンはこいつです」
 そう言い、グレイもポケモンを出した。
 フィールドに、(ちょう)のようなポケモンのビビヨンが現れた。
(ビビヨン、まずは最初の1体は頼むぜ)
 グレイはそういう意思をこめてビビヨンと視線を合わせた。ビビヨンからも気合の入った意思を受け取る。
 グレイは、直前に考えた大まかな計画を思い出す。
(相手の最初のポケモンは1番弱い奴だろうから、ビビヨンで確実に倒せるだろう。相手の2体目もビビヨンでなるべくダメージを与えて、あわよくば倒す。もしビビヨンが2体目に負けてもチョロネコで倒す。チョロネコは未熟だから2体目に負ける可能性もあるが、KKなら弱った2体目と無傷の3体目をまとめて倒せるだろう)
 グレイは考えを続ける。
(例えチョロネコが何もできないまま倒されても、KKの強さで何とかなる。エレナはこの爺さんに勝ってる訳だし、流石にエレナより強いって事はないだろ……)
 グレイは思考を終えて、視線を目の前のバトルフィールドに戻した。
「考え事は、もういいのかのう?」
 まるでグレイの考えを見透かしているかのようにタイミング良くゴンが声をかけてきた。
 グレイの無言を肯定と受け取り、ゴンが審判に合図した。

 審判の合図によって、戦いの幕が開けた。
「ビビヨン“むしのていこう”」
 ビビヨンは、虫タイプの特殊攻撃技“むしのていこう”を、遠くにいるミニリュウに次々に放った。“むしのていこう”がミニリュウに迫る。
「ミニリュウ隠れよ」
 ゴンが指示すると、ミニリュウは高低差のある岩場の谷に入りこんだ。“むしのていこう”は岩場に阻まれる。
「ビビヨン、もっと上空!」
 グレイに指示され、ビビヨンは高い位置から角度をつけて“むしのていこう”を放つ。
「近づいてはこないのじゃな。ならば“りゅうのはどう”じゃ!」
 ミニリュウは、ドラゴンタイプの特殊攻撃技“りゅうのはどう”を放った。
 ドラゴンタイプの攻撃技の中でも高い威力を誇る“りゅうのはどう”が、ビビヨンの“むしのていこう”とぶつかり合い相殺される。
 ビビヨンは自慢の機動力で“りゅうのはどう”を避けながら“むしのていこう”を放ち続ける。しかし相手のミニリュウは岩場に上手く隠れながら避けるので、なかなか当てることができない。
 互角の戦いを繰り広げる状況に対して、ゴンが口を開く。
「すまんのうグレイくん。君のビビヨンは確かに強い。じゃが……ジムリーダーとは、自分のポケモンよりも強い相手のポケモンと戦う事に関してはプロなのじゃ」
 グレイのビビヨンと、ゴンのミニリュウ。地力で言えば、強いのはビビヨンの方である。ビビヨンの方が特殊攻撃力も、動きの速さも勝っていた。
 しかしミニリュウは、弱い特殊攻撃力を強力な技を使うことで補い、遅い動きは地形を利用して補っているのである。
 再びビビヨンが“むしのていこう”を放つ。しかし、ミニリュウは飛び出た岩を盾にしてそれを防ぎ、ビビヨンに向かって“りゅうのはどう”を放った。“りゅうのはどう”がビビヨンの翅(はね)をかすめた。
(もっと破壊力のある技があれば、少しでっぱった岩を破壊できるんだけどな……)
 グレイがそう思っていると、
「もっと高レベルな戦いになれば、強力な技でデコボコの地形を更地にしてしまう者もいるのじゃが……バッジを持っていない君には、そんな芸当はできないじゃろうて」
 まるでグレイの考えていることを見透かしているような言葉を投げかけてきた。
(落ち着けオレ。いつもみたいに相手を麻痺させたり混乱させたりして有利に戦えばいいだろ)
 グレイは次の作戦に移る。
「ビビヨン、地面スレスレを飛んで、横から相手に近づけ」
 グレイは、相手を麻痺させる技“しびれごな”を当てるために、ビビヨンを相手のミニリュウに近づかせることにした。
 グレイの指示により、ビビヨンは低空を飛んで移動し始めた。ビビヨンの“むしのていこう”はますます岩場に阻まれるが、相手のミニリュウの“りゅうのはどう”も阻まれる。
 ビビヨンとミニリュウ。両者の距離が近づいた。
「“アイアンテール”じゃ!」
 相手のミニリュウが、硬い尻尾で相手を叩きつける鋼タイプの攻撃技“アイアンテール”を発動する。
「避けろビビヨン!」
 鋼鉄のように硬くなったミニリュウの尻尾がビビヨンに襲い掛かるが、ビビヨンは自慢の機動力で避けた。
「まだじゃ! “アイアンテール”」
 ゴンが再びミニリュウに攻撃を命じた。ミニリュウが“アイアンテール”でビビヨンを攻撃しようとする。
 グレイが新たな指示を出さないので、ビビヨンは『避けろ』の指示の継続と判断し、攻撃をせずに回避に徹した。
 ミニリュウの“アイアンテール”は空振りに終わった。
 その後ミニリュウの“アイアンテール”が3回目に空振ったその瞬間、
「今だ! 麻痺!」
 グレイが叫んだ。
 ビビヨンは“しびれごな”を使うため、技の準備に入った。“しびれごな”には物理的な破壊力は無いので、相手の“アイアンテール”とぶつかり合えば一方的に負けてしまう。グレイは相手の“アイアンテール”が派手に空振ぶるのを待っていたのである。
「“でんじは”じゃ!」
 ゴンも、相手を麻痺させる技“でんじは”を指示した。
 グレイはビビヨンに“しびれごな”を中断させて回避を命じることもできたが、それをしなかった。あわよくば自分だけ技を当てて逃げられればと考えていた。
 また、両者とも麻痺して動きが鈍くなった場合にも、有利になるのはビビヨン側だとグレイは考えていた。
 ビビヨンの“しびれごな”がミニリュウに命中し、ミニリュウは麻痺した。
 少し遅れて、ミニリュウの“でんじは”が逃げるビビヨンに命中し、ビビヨンも麻痺した。
(当て逃げは無理だったか……だが、ビビヨンは元々動きが速いから、少し動きが鈍くなっても上空に逃げれば相手の攻撃は避けられる。あの遅いミニリュウが麻痺したら、岩場に隠れるのが遅くなってビビヨンの攻撃が当たるようになるだろ)
 グレイはそう考えており、作戦成功に内心喜んでいた。
「ビビヨン、上空!」
「ミニリュウ、岩場の影に隠れるのじゃ!」
「ビビヨン“むしのていこう”」
 再び上空に移動したビビヨンは“むしのていこう”をミニリュウに放つ。しかし“むしのていこう”が当たる前に、ミニリュウは岩場の影に隠れてしまった。
 ビビヨンは少しずつ移動しながら“むしのていこう”を放つが、ミニリュウは岩場に隠れたまま姿を現さない。
 ビビヨンは途方に暮れ、グレイに『どうすればいいの?』と言いたげに視線を送る。
 視線に気がついたグレイはビビヨンに言う。
「別に無理に攻撃しなくても大丈夫だ。相手が攻撃のために姿を現すのを待とうぜ」
 グレイの言葉に対して、ビビヨンは安心したような表情をグレイに返した。

 ミニリュウが岩陰に隠れ、ビビヨンもそれを無理に追わないため、しばらく試合の流れが止まっていたが、
「ミニリュウ、アレを決めてみようかの」
 ゴンがそう言ったことによって、試合が再び動く。
 ミニリュウが隠れている岩陰から光が漏れ、大きいエネルギーが発生しているような気配があった。
 不安そうな視線をグレイに送るビビヨンに対し、グレイが励ます。
「大丈夫だ! 相手は麻痺しているハズ。奇襲攻撃はできな――」
 次の瞬間! ミニリュウが岩陰から素早く顔を出し、口から凄まじい威力の光線をビビヨンに向けて解き放った!
 ビビヨンは麻痺しているせいで一瞬動きが遅れ、ミニリュウが放った光線の餌食となった。まるで全てを破壊するかのような凄まじい光線はビビヨンをたちまちボロボロにし、ビビヨンを天井に向けて強く吹っ飛ばした。
 吹っ飛ばされたビビヨンは天井の照明器具に衝突し、照明器具をバラバラに砕き壊し、それでも勢いは止まらず天井にめりこんだ。
 一瞬の間があってから、天井からビビヨンが落下し始める。
 ゴンはミニリュウに指示することなく静かにその様子を見守っていた。
 グレイには何が起きたのか一瞬理解できなかった。しかし、落ちてきたビビヨンを見て分かった事が1つだけあった。
 ビビヨンは戦闘不能になっていた。
「一体、何が起きたんだ?」
 半分は独り言、半分はゴンへ解説を求めるような言い方で、グレイはそうつぶやいた。
「今のは、ミニリュウの“はかいこうせん”じゃよ」
 “はかいこうせん”とは、ノーマルタイプの特殊攻撃技である。全てを破壊する凄まじい光線を相手に放って攻撃する技である。“はかいこうせん”を撃った後は、反動でしばらく動けなくなる。
 ミニリュウが“はかいこうせん”を撃ち、ビビヨンがそれを避けられなかった。それは理解したグレイだが、疑問はまだ残る。
「なんで……そんなに素早く岩陰から出て“はかいこうせん”を撃てる? 麻痺してたハズだろ?」
「それはミニリュウの特性だっぴ、の効果によるものじゃ。特性だっぴの効果は、時間が経つと麻痺などの状態異常が自然に治るというものなのじゃ」
 ゴンの解説を聞いたグレイは、ミニリュウに視線を移した。麻痺させたはずのミニリュウは、確かに麻痺が治っているようにグレイには見えた。
 再びゴンが口を開く。
「すまんのうグレイくん。君に解説している間に、ミニリュウの“はかいこうせん”の反動が無くなってしまったようじゃ。しかし、解説を求められて無視する訳にもいかなくてのう、許してくれぬかのう?」
 ミニリュウが“はかいこうせん”の反動で動けない間に、新しいポケモンをさっさと出して攻撃をすれば良かったのである。
 しかし今のグレイにとっては、ミニリュウに攻撃するよりも、ゴンの解説を聞くことの方が価値あることであった。
 グレイは、自分の無知のせいで無駄に痛い思いをさせたビビヨンに対して罪悪感が湧き、反省すべき点が多いと感じた。そして同時に、
(麻痺させて動きが鈍った所を“はかいこうせん”で決める……見事にやられたな)
 グレイは相手の戦略に驚嘆した。

「頼むぜチョロネコ!」
 岩場のフィールドに紫色の猫のようなポケモンが現れた。グレイは2体目のポケモンとしてチョロネコで戦うとこにした。
「チョロネコ! 気楽にやれよ」
 グレイは今までのチョロネコの戦績を考え、チョロネコにあまり期待はしていなかった。そういう理由もあり、シビアに戦うのではなく気楽に戦うようにチョロネコに指示したのである。
(さて、どう戦う? チョロネコは特性じゅうなん、のおかげで麻痺しないから相手のミニリュウの“でんじは”は効かない。一番気をつけるべきは相手の“はかいこうせん”だな。まあ何にせよ……)
 グレイは思考を中断した。
「じゃあいくかチョロネコ! まずは相手に近づけ!」
 チョロネコは遠距離攻撃できる技を覚えていないため、近づかなければ何も始まらない。相手に近づくようにグレイは指示した。
 ゴンもミニリュウに新たな指示をだす。
「ミニリュウ! “りゅうのはどう”じゃ」
 相手のミニリュウは、近くの岩場で最も高い場所に陣取り、“りゅうのはどう”を放ってきた。
「チョロネコ隠れろ!」
 相手のミニリュウが一方的に攻撃できる状況である。ひとまず隠れるようグレイは指示した。指示通りにチョロネコは岩陰に隠れた。岩が盾となり、“りゅうのはどう”は届かない。
 相手のミニリュウは高台に陣取り、チョロネコが姿を見せ次第いつでも射撃できるように狙っている。
(相手のミニリュウは動きが遅い。チョロネコに近づかれたら二度と距離を離すことはできないだろ……1回近づけば、後はずっと接近戦でやれるはず)
 グレイは、相手のミニリュウに近づく方法を考え始めた。
(あの“りゅうのはどう”の威力じゃ、チョロネコの“みだれひっかき”で防げないだろうし……相手の“はかいこうせん”も怖いし……)
 画期的なアイデアを特に思いつかないグレイは、
「チョロネコ! なんか良い感じにうまく近づけ! 相手が攻撃しようとしたら教えるから」
 近づき方はチョロネコの判断に丸投げした。
 チョロネコは岩場に隠れながら相手に近づいていく。しかし途中に岩の壁が途切れていて、相手に姿を見せなければ通れない場所がある。
 ちょうどチョロネコが岩の壁が途切れている場所にさしかかった時。
「チョロネコ! くるぞ!」
 グレイが叫んだ一瞬後、相手の“りゅうのはどう”が放たれた。グレイの言葉で一時停止したチョロネコの目の前の地面に“りゅうのはどう”が直撃する。
「今だ! 行け!」
 グレイの指示で、チョロネコは急いで移動し、2発目の“りゅうのはどう”が放たれる前に、再び岩陰に入った。
 このような駆け引きを何回か繰り返した後、チョロネコはミニリュウのすぐ近くまで辿り着くことができた。
 岩場の高台の上にいるミニリュウと、高台の下の影に入ったチョロネコ。いつ接近戦が始まってもおかしくない状況であった。
「よし行け! チョロネコ“みだれひっかき”」
「ミニリュウ“アイアンテール”じゃ」
 グレイの指示を合図に、チョロネコが一気に跳んで高台に降り立ち、接近戦が開始された。
 相手のミニリュウの“アイアンテール”を、チョロネコは“みだれひっかき”で威力を抑える。威力を減らした相手の“アイアンテール”がチョロネコに当たるが、チョロネコも“みだれひっかき”の連撃を続ける。
 接近戦を展開する中、相手の“アイアンテール”がチョロネコに直撃して押し出され、両者に距離が開いた。
「“りゅうのはどう”じゃ!」
「やべえ! 逃げろチョロネコ!」
 距離が開いた一瞬に、ミニリュウの“りゅうのはどう”が放たれる。チョロネコは高台から落下することで相手の攻撃を避けた。
 チョロネコが高台の下の岩影に隠れたことで、再び高台の上と下での睨み合いとなった。そんな状況の中、ゴンがグレイに声をかけてくる。
「グレイくん。君はもっとチョロネコに期待しても良いのではないじゃろうか?」
「え? チョロネコに期待する……ですか?」
「そうじゃ。君のチョロネコは、君がもっと厳しい指示を出したとしても、きっと指示を実行できるはずじゃ。しかし君がチョロネコにあまり期待せずに甘い指示しか出さぬせいで、チョロネコの力を引き出せずにいるのじゃ」
 グレイはゴンの言葉に思い当たる節があった。
 グレイがチョロネコを仲間にした最初の頃、グレイはチョロネコを、ギャラドスに対抗できる戦闘員として育てようと思っていた。
 しかし、厳しく育てようという思いは早い段階で消えた。戦闘狂のギャラドスに比べるとチョロネコがそこまで戦いを欲しているようには見えなかったし、1日ごとに……というよりも1回の戦いごとに成長していくギャラドスに比べてチョロネコの成長速度は並であり、戦いの才能が高い訳ではないとグレイが思ったからだ。
 才能が高い訳ではない者を厳しく育てるのは気の毒だ。グレイはそう考え、それは戦闘においてチョロネコに出す指示の内容にも現れていた。グレイはチョロネコに無茶な指示をあまりしない。
(せっかくのジムリーダーからのアドバイスだ。チョロネコの底力を試してみるか……)
 そう考えたグレイは、チョロネコに対して無茶な要求を始めた。
「チョロネコ! 相手の“アイアンテール”は全部避けろ! かするのもダメ。お前の技で相殺するのもダメだ!」
 そしてグレイは鬼のような言葉を放つ。
「もし相手の“アイアンテール”に1回当たったら、お前の今日の夕飯は無し……もし2回当たったら……明日の朝食も無しだ!」
 グレイの悪魔のような言葉を聞いたチョロネコは、『冗談よね……?』という視線をグレイに送る。
「冗談じゃねえから」
 グレイは真顔でチョロネコに言葉を投げつけたのであった。
「ほっほ……今のを聞いておったかミニリュウ? 相手のチョロネコに、何としても“アイアンテール”を2回当てるのじゃ! これは……面白いことになったのう」
 高台の上にいるミニリュウは気合の入った鳴き声で、ゴンの言葉に応えた。もう既に尻尾をブンブンと振り回している。
 四面楚歌となったチョロネコはしばらく絶望の表情を浮かべていたが、覚悟を決めたのか勢いよく高台に飛び出し、ミニリュウに“みだれひっかき”をくらわす。
 ミニリュウも“アイアンテール”を放つが、チョロネコはそれを避けて連撃を加える。
 自分の命がかかっているチョロネコは、圧倒的な動きでミニリュウの“アイアンテール”を避けていく。
(すげえなチョロネコ! あいつあんな動けたのか!?)
 チョロネコの動きを見て、悪魔のグレイの方が逆に驚いた。
 なおチョロネコは素早い動きで“アイアンテール”を避けていく。ここで相手のミニリュウは、正面に回ったチョロネコに頭突きをくらわした。
「あ、チョロネコ。相手の技でなくても攻撃を受けたら罰な。今度攻撃をくらったら夕飯は半分」
 突然に追加された死の宣告。チョロネコはもうヤケになったように限界を超えた動きをし始めた。

 チョロネコにとって地獄の時間は終わりを告げた。
 チョロネコはあれ以降、1回も相手の攻撃を受けることなくミニリュウを倒しきった。チョロネコは見事、自分の生命の危機を脱したのだ。
「チョロネコすごいぞ! まさか本当にできるとは! じゃあ次の相手も無傷で倒せるよな?」
 グレイの言葉に、再び絶望の表情になるチョロネコ。
「冗談だチョロネコ! 冗談! そうだチョロネコ、ちょっとこっちに来てくれ」
 チョロネコは素早くグレイの方へ近づき、勢いよく跳んでグレイの立つ高台に降り立った。
「チョロネコ、よくやった! お前にそんな底力があるなんて、今まで気がつかなくて悪かったな」
 そう言いながら、グレイはチョロネコを優しく撫でた。
 グレイの言葉に笑顔を見せたチョロネコだが、突然動きを止め、強く光り出した。グレイはこの光景を他のポケモンで3度見たことがあった。
「進化か」
 強い光が収まった時、チョロネコの姿は変わっていた。チョロネコは進化して他のポケモンになったのだ。
 グレイの目の前には、紫色で(ひょう)のような引き締まった体に、猫のような少し可愛い顔をもったポケモンがいた。れいこくポケモンのレパルダスである。
「おめでとうチョロネコ! レパルダスに進化したんだな!」
 ふとグレイは、呼び方をどうするか悩む。
(試合中にいきなり慣れない呼び方するとお互い混乱するし、この試合中は『チョロネコ』って呼べばいいか。いっそ、チョロネコもビビヨンも、KKみたいにニックネームつけるか?)
 グレイがそう考えていると、
「グレイくん。なかなか感動的な場面じゃったよ。しかし、そろそろ試合を再開してはくれんかのう」
 ゴンがそう声をかけてきた。
「ああ、ごめんなさい」
 グレイはそう言って、レパルダスにバトルフィールドに戻るように指示した。
(そうだ、試合はまだ終わっていない……相手の2体目のポケモンは何だろうな?)
 グレイはゴンの繰り出そうとしているポケモンに注意を向けた。

グレイとゴンのバトルは続く……。

********
 グレイ側
 ビビヨン(戦闘不能)
 レパルダス[ニックネーム:チョロネコ](小ダメージ)
 ギャラドス[ニックネーム:KK](無傷)

 ジムリーダーのゴン側
 ミニリュウ(戦闘不能)
 未登場(無傷)
 未登場(無傷)
********

 
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