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SAO~円卓の騎士達~

作者:エニグマ
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第六十話 死闘開始

~シノン side~

暗視モードに変更したへカートⅡのスコープを右眼で覗き込んだ。
広大な砂漠には、今の所動く物は見当たらない。
だが、闇風と死銃は確実に接近している。
私が狙撃位置に選んだ場所は、隠れていた洞窟の近くにある廃墟の屋上。
地上からは見つかり難いが、移動出来るルートが一つしかない。
もし接近されれば、退避出来ずに撃たれる可能性がある。
でも今は、ネガティブな想像は捨て去る時。
心をフラットに保ちながら、そっとライフルを右に旋回させると、約百メートル離れた砂丘の天辺に、ひっそりと立つ一つの人影があった。
時折吹き抜ける風が、私のマフラーと対照的な赤い色のマフラーをはためかせる。

シノン(三人は、妖精の世界から銃の世界に来たんだっけ? 私も、妖精の世界に行ってみようかな?)

私は大きく息を吐き、集中力を高めてから、ライフルの向きを戻した。
私の役割は、三人に最大限の集中力を与え、背後に接近する闇風を排除することだ。
前優勝者、ゼクシードが居ないこの大会では、誰もが優勝候補筆頭と認める相手を、一撃で沈めなければならない。
今の私に、出来るだろうか?
私は、忍び寄ろうとする迷いや怖れを、懸命に振り払った。
今まで、GGOのシノンと、現実世界の朝田詩乃を、心の何処かで別の存在と区別していたのかもしれない。
強いシノンと、弱い詩乃。
そんな風に考えてしまったからGGOでは強くなれても現実では変わらなかった。
シノンの中にも詩乃は居る。 詩乃の中にもシノンは居るのだ。――どちらも同じ《自分》。
――私はこの一弾を、詩乃として撃つ。
五年前の事件の時、そうしたように。
過去と向き合い、罪を見詰め直す。
そこから始め、歩き出さないといけないんだ。

右眼がスコープの彼方に、高速で移動する影を捉えた。 《闇風》だ。
トリガーに指を添える。
狙撃のチャンスは一度しかない。
もし外せば、闇風が二人に強襲するだろう。
死銃はその混乱に乗じて、私に接近し、もう一度黒星を向け発砲する。
シノンが黒星に撃たれれば、共犯者が詩乃の心臓に薬液を注射し、心臓を止める。
この一弾には、私の命が掛っているのだ。
しかし、心の中は不思議と静かだった。
へカートⅡ。 数多の戦場を共に駆け抜けてきた、無二の分身。――《冥府の女神》。

シノン(お願い。 弱い私に、力を貸して。 ここからもう一度立って、歩き出す為の力を、)

遂にスコープに闇風を捉えた。
――速い!!
闇色の風と言うべき強烈な移動速度で、シンタローの背後に接近していた。
恐らく、シンタローも闇風の接近に気付いているはず。
だけど当の本人は前だけを見据え、闇風が迫ってくる方向には眼を向けていない。
これは、私を信頼してくれている証。
私はその信頼に、精一杯答えたい。
闇風はシンタローを狙う瞬間に、一度制止するはず。
思考を完全に止め、全存在がへカートと一体化し、集中力を極限まで高める。
視界に映し出されたのは、疾駆するターゲットと、その心臓を追い続ける十字のレティクルのみ。
その状態で、どれだけの時間が経過したのかさえ解らなかった。
そして、その瞬間が訪れた。
視界の端を、白い光が右下から左上へと横切った。
銃弾。
へカートのものではない。
死銃が放った銃弾だ。
それをシンタローが回避し、西側から接近する闇風の元に届いたのだ。
闇風も、突如銃弾が飛来するとは予想出来ていなかった為、その場で身を屈めて制動をかけ、次いで岩陰へと方向転換しようとした。
これが、最初で最後のチャンスだ。

シノン(今だ!!)

指がトリガーを引き始める。
視界に薄緑色の《着弾予測円》が表示され、それが一瞬で極小のドットまで縮小し、胸の中央をポイントさせる。

トリガーを完全に絞り、巨大な50BMG弾の装薬がチャンバー内で炸裂、弾頭を瞬時に超音速まで加速させ、――撃ち出した。

へカートのマズルフラッシュに気付いた闇風の両眼と、右の瞳が、スコープ越しに衝突する。
驚きと悔しさ、それに確かな賞賛の色を見た気がした。
直後。 闇風の胸に、眩いライトエフェクトが弾けた。
アバターは数メートル以上吹き飛ばされ、砂の上を数度転がり、腹部に【DEAD】の文字が回転を始めようとした時には、私はへカートごと身体の向きを百八十度変えた。

其処には、さっきの銃弾を躱したシンタローが一直線に疾駆する姿が映った。
次いで、行く先でオレンジ色の光が瞬いた。
シンタローは飛来した銃弾を光剣で弾き飛ばし、回避を繰り返して、視線の先に映っていると思われる死銃に接近している。
接近するのは、距離が縮まるほど困難を極める。

私はスコープの暗視モードを切ると、同時に倍率を限界まで上げ、銃弾の発射位置を捉えた。
――大きなサボテンの下。 布地の下から突き出す特徴的な減音器の付いた銃、《サイレント・アサシン》。
そして其処には、死銃の姿。
その姿を見た途端、湧き上がろうとする恐怖に、右眼を見開いたまま抗った。

シノン(お前は亡霊じゃない。 《ソードアート・オンライン》の中で沢山の人を殺し、現実世界に戻って来ても、こんな恐ろしい計画を企む精神の持ち主であっても、生きて呼吸し、心臓を脈打たせてる人間だ。)

――戦える。
死銃に十字レティクルを合わせ、トリガーを絞る。
瞬間、死銃の頭がピクリと動いた。
恐らく、闇風を銃撃した場所から、予測線を見たのだ。
だが、これで条件は対等だ。さぁ。

シノン(勝負!!)

死銃がサイレント・アサシンを動かし、シノンに銃口を向けたと同時に、シノンは予測円の収束を待たず、トリガーを引いた。
轟音と同時に、死銃のライフルも小さな火炎を迸らせた。
私はスコープから顔を離し、肉眼で飛来する銃弾を確かめる。 瞬間。
くわぁん! と甲高い衝撃音を響かせ、へカートに装着した大型スコープが、跡形もなく吹き飛んだ。
右眼を付けたままだったら即死していただろう。
銃弾は右肩を掠り、背後へと消えた。
へカートから放たれた50BMG弾は、狙いを僅かに逸らし、銃のレシーバーへと命中した。
直後、銃の中心部がポリゴンの欠片となって吹き飛び、銃のパーツがばらばらと砂に落下する。
この瞬間、死銃が携えてたサイレント・アサシンは、破壊された。
この世界では稀少かつ高性能な銃の最期に、シノンは弔いの言葉を呟いた。

シノン(ごめんね)

スコープが破壊されてしまった今、もう遠距離狙撃は出来ない。

シノン「後は任せたわよ。 三人とも。」

私は、三人の光剣使いに囁きかけた。

~side out~

~シンタロー side~

シンタロー(ナイスショットだ。 シノン!)

シノンの狙撃により、サイレント・アサシンの破壊を確認した俺は片手剣単発重攻撃ソードスキル、《ヴォーパル・ストライク》を放つ。
あの世界で、そして新たに実装された妖精の世界で、俺達が得意としている技だ。
この銃の世界ではシステムアシストは無いが、ステータスによって高められたスピードと共に放たれた一撃だ。

だが死銃は、タイミングを合わせたかのように、後方に跳び退き回避した。
瞬時に後方にジャンプしようとしたが、死銃が携えているエストックが襲う。

シンタロー「ぐっ!?」

身体全体から、血飛沫のようなダメージエフェクトが撒き散らされる。
俺とは、後方に着地した。
五メートル程離れた場所に立つボロマント、《死銃》は、右手にぶら下げた黒光りする刺剣の尖端を、まるで何かの拍子を取るかのように、ゆらゆらと動かしている。
奴はこの体勢から、ノーモーションで突き攻撃を繰り出してくる。
あの世界で、《ラフィン・コフィン》を討伐する為に乗り込んだ洞窟で、俺は同じ光景を眼にしていた。
奴は、今のように赤い眼を光らせていた。

シンタロー「そのエストック、《ナイフ作成》スキルで作ったのか。」
ステルベン「流石に、ゲームに、関する、情報は、十二分に、有るようだな。 だが、お前達は、現実世界の、腐った空気を、吸い過ぎた。 さっきの、なまくらな、《ヴォーパル・ストライク》を、昔の、お前達が、見たら、失望するぞ。」
シンタロー「よく喋るな。 でもお前も同じだろう。 それともお前はまだ、《ラフィン・コフィン》のメンバーで居るつもりなのか?」
ステルベン「その、通り、だ。 俺達は、本物の、レッド。 死の、恐怖に、負けて、殺した、お前達とは、根本的に、違う。」
シンタロー「あぁ。 そうだろうな。 だが、お前とのこの戦い、負けるわけにはいかないんだよ。」
ステルベン「くっくっく、そうか。 だが、軍師。 お前は、ここで、俺に、倒され、無様に転がり、あの女が、殺される姿を、ただ見ている以外には、何も、出来ない。 一番、初めの、狙撃で、素直に、当たっていれば、そんな、事には、ならなかった、がな。」

バネ仕掛けの人形のように唐突な動きで、死銃は右手のエストックを突き出した。
正確に心臓を狙って伸びてくるその針を、俺は無意識の内に光剣で迎撃したが、ライフルの銃弾すら切り裂いた刃を、エストックが擦り抜け、俺に襲いかかる。

シンタロー「そのエストックの素材、最高級品か。」
ステルベン「その、通り。 これは、宇宙、戦艦の、装甲、だそうだ。」

死銃はマントを大きく靡なびかせながら、一直線に突っ込んで来た。
これまで見せなかった連続の突き、スラント系上位ソードスキル、《スター・スプラッシュ》計八連撃。
剣によるパリィが封じられた。
そして足元が砂地ゆえにステップもままならない俺の全身を、鋭利な針が次々貫いた。

~side out~

~キリト side~

キリト「クラディール! いるんだろ!? 早く出てこい!」

俺がそう叫ぶと、誰もいないはずの空間から銃弾が飛んできた。
俺はそれを光剣でパリィする。

グレイ「流石だなぁ黒騎士。 それとグレイって呼べって言っただろうが。」

クラディールが現れる。

グレイ「まぁ、良いか。 そんなことは。 それよりも、昔の借り、返させて貰うぜぇ!」

そう言ってクラディールが取り出したのは、大剣のようなエネルギーブレードだ。
俺はそれを弾き、クラディールに向かってスラントを放つ。
が、

ジジジジジッ!

クラディールの体に当たる前に見えない壁に当たったように光剣の刃が弾かれる。

キリト「なっ!?」
グレイ「そう言やぁ、言ってなかったなぁ。 今のは光学武器防護バリアーの中でも最上級の物だ。 光学銃はもちろん、お前の使っている光剣まで防げる優れものだ。 つまりは、お前の攻撃は通らず、俺の攻撃だけが通るってことだよぉ!」

そう言いながらクラディールが《アバランシュ》で突っ込んできた。

キリト「クソッ!」

~side out~

~サクマ side~

俺が砂漠の砂で出来た小高い丘の上で周りを見渡していると、ソイツは来た。

SAOとは少し違うフード付きのマントを着て、ゆっくりとこちらに歩いてくる。

その姿には覇気とはまた違った威圧感を感じる。
まるで、『死』そのものを纏っているような感じだ。

poh「お前とは墓場以来だなぁ。 brotherや軍師とはあの後も会う事は有ったんだけどなぁ。」
サクマ「お前は、お前は何でこの殺人に手を貸した? やっぱり部下のやることには関わっておきたいのか?」
poh「あ? そんなの決まってるじゃねぇか。 楽しそうだったからだよぉ。 それに、上手く行けばbrotherが関わってくるかもしれないと思ったしな。 ま、結果として殺り合うのはお前になったけどな。 そう言えば何でお前らが出てるのにアイツは出てないんだ?」
サクマ「・・・風邪でパスした。」
poh「プッ、クッハハハハハハ! 風邪でか!? そいつは傑作だ!」

そして一通り笑った後。

poh「ふう。 brotherと殺れないのは残念だが、ま、楽しむとしようや。」

そう言ってpohが取り出したのは包丁。
俺は光剣のスイッチを入れ刃を展開させる。

poh「行くぜぇ!」

pohが飛び出し、包丁を降り下ろす。
俺はそれを光剣で防ごうとするが、包丁は刃をすり抜け俺の体を襲ってきた。

サクマ「なにっ!?」

俺は間一髪で避けるが僅かに掠り、切られたところに赤いダメージエフェクトが発生する。

poh「クックック、どうした龍騎士。 顔色悪いぞ。」
サクマ(コイツ、やはり強い。 勝てるどころか今の俺では相討ちにすら出来るかどうか。)
poh「どんどん行くぜ。 龍騎士。」

そう言ってpohは短剣ソードスキル《ラビット・バイト》を繰り出してきた。
パリィさえ出来れば簡単に防げるこの技。
だが、光剣をすり抜ける包丁のせいでパリィが出来ない。

pohの包丁が俺の体を切り裂き、ダメージエフェクトがまるで血のように宙を舞った。

~side out~ 
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