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未来劇団エレイザ~Future~

作者:Ellen
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腐った世界1

 
前書き
2045年。
文明は壊滅し、インフラは破壊され、多く都市が廃墟と化し、自然に浸食された未来。
わずかに残された記録によれば2040年に開始された戦争によって世界は崩壊したとされている。
生き残った人々は、戦禍を逃れた企業複合体の奴隷となるか、廃墟で滅ぶのを待つような状態。

企業複合体への抵抗組織がいくつか存在し、
太陽電池や水素電池を利用した電力をもちいて抵抗運動を続けている。
ガソリンなどの化石燃料は希少であり、金よりも高い価値がある。

不規則に訪れる電磁嵐によって、電子機器はすべて使用不可能となっており、
紙に残された記録を探す旅を続けている者たちもいる。
企業複合体の管理下にない地域では、生きるための略奪や争いが日常茶飯事となっており、
自警団的組織も拡大している。 

 
 今日も酷い砂嵐だ。
 アスファルトはひび割れ、建物も崩れ
 住む場所の無い人気の無い荒れ果てた新宿で
 こっそりと、人目を忍ぶように二つの影が動いていた。

 「なぁ、カムイ。本当に行くのか?アユミにばれたら怒られるぞ」

 肩にかからない黒髪の、深緑色の服を着た刀を差した少年は
 先を進む、前髪で左目の隠れた綺麗な水色の髪をした少年に声をかけた。
 注意深く周りを見ながら、カムイと呼ばれた少年は顔を向けることなく答える。

 「大丈夫だ。眠ったばかりだからしばらくは起きないだろう。
  それに、今日は元から狩りに出かける日だ。
  俺とカケルがいないとなれば、二人で狩りに行ったんだと思ってくれるだろ」

 さっと先へ行ってしまうカムイに、慌ててカケルもついて行く。

 「で、でも! 今回はアユミも一緒に行くって言ってなかったか?」

 「俺が出る時間に起きてなかったから、起こすのも悪いと思って連れてこなかった。
  これで大丈夫だろ」

 「本当に大丈夫かよ」

 カケルは、日が昇ったら出発と約束していなかったか?と思いながらも
 今更引き返すのも面倒で、ため息をこぼしながらカムイの後を追おうと振り向き
 目を見張った。
 行き先の安全を確認しているカムイに、襲い掛かろうとしているアクタがいたのだ。
 バルタザールの作り出した意志の無い奴隷人形であるアクタに捕まれば最後、
 バルタザールの施設に連れて行かれ、脳をいじられ奴隷にされてしまう。
 助けなければとカケルは刀を抜いたが、距離がある。

 「カムイ!!」

 焦るカケルの声に振り向いたカムイは、アクタと目があった。

 「っ! アクタ……!」

 武器を持たないカムイは、アクタに捕まってしまうかと思いきや
 体術でいとも簡単に倒してしまった。
 おいついたカケルは、一応止めと刀をアクタに突き刺した。

 「悪い、助かった」

 「頼むからひやっとさせないでくれ……」

 申し訳なさそうに頭をさげるカムイを横目に、カケルは再びため息を吐く。
 物陰に隠れ周囲を見渡すと、ちらほらとアクタの姿が確認できた。

 「奴隷狩り、こんな夜中にもやってるのか……。一旦建物の中に隠れるぞ」

 そういって近くの廃屋に入るカムイに、カケルも頷き続いた。 

 「渋谷、か……」

 廃屋に隠れて腰を落ち着けたカムイは、地図や本を広げていた。
 かなり風化しており、文字や絵等読み辛いが
 「不死身」「アクトレス」「トーラスブレード」といった文字が多く見られ
 それらについて書かれたものであることがわかる本だった。

 「カムイ、前にも話したが、トーラスブレードで自分を貫いても
  絶対にアクトレスになれるという保証はないってことを忘れるなよ」

 「わかってる。ただ、見つけたいんだ。
  アクトレスは本当にいるんだっていう証拠を。
  別に自分がアクトレスになりたいわけじゃない」

 「本当かよ。
  トーラスブレードを見つけてアクトレスになるんだーって
  あんなに騒いでたやつが……」

 「騒いでって……
  ……カケルが、いつも必死に止めるから。
  きっと何かあるんだろうなって思ったんだよ。
  アクトレスやトーラスブレードについては、お前の方がよく知ってるだろうしな」

 困ったように渋い顔をしているカケルに、カムイはふわっと微笑むと
 広げた地図や本を片付けはじめた。

 「でも、トーラスブレードは渋谷にある可能性が高いっていったの、お前だからな」

 すべて片付けて身支度を整えると、そろそろ行こうと立ち上がり
 カケルの方へ振り返って、いたずらっ子のような笑みを見せた。

 「俺に情報を漏らしたんだ。探し物、最後まで付き合ってもらうからな」

 そう言って廃屋を後にするカムイに、カケルは呆れたようにため息を吐く。
 しかし、そんなカムイの子供っぽい一面に、自然と笑みが零れた。

 「かなわないな」

 自分の口角が上がっていることに驚きつつ
 カケルは、見ていないと危なっかしくて心配になる弟分のようなリーダーを追いかけた。 
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