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魔法少女リリカルなのは ~最強のお人好しと黒き羽~

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第十八話 二つの意識

 ――――身体測定が終わって放課後となると、部活動や委員会、教室の掃除や日直を担当している人以外の生徒は全員揃って教室を出て行く。

 俺も例外なく教室を出る。

 いつもの流れで雪鳴を誘ってみたけど、今日は掃除当番で一緒には帰れないとのことなので先に帰らせてもらうことにした。

 終わるまで待っててもよかったけど、よくよく思い出せば自宅の冷蔵庫に食材がなくなってるのを思い出して仕方なく帰らせてもらうことにした。

 病院に行って姉さんの調子も見ていきたいと思うと、どうしても時間がかかってしまうからな。

 そうして下駄箱で靴を履き替えていると、背後からよく知ってる気配がした。

「柚那か。 お疲れ」

「一応、気配は隠してたつもりなんですけどね」

 靴を履き終えて振り向くと、少し悔しそうに頬を膨らませてる柚那がいた。

 どうやら本気で気配を消しにいってたらしい。

 しかも音をたてないように上履きを既に脱いでおり、外履きを手に持って立っていた。

 俺はその本気さに少し呆れながらも、俺が気配に気づいた理由を指摘する。

「だったら気配を消そうと思わないことだな」

「気配を消そうと思わなかったら気配が消えないじゃないですか」

 正論で即答され、俺は自分の説明不足を後悔しつつ補足する。

「そうじゃなくて……そうだな、例えばかくれんぼって遊びがあるけど、あれって要するにどうやって鬼に見つからないようにするかってゲームだろ?」

「見つかったら負けなので鬼の現在地が分かれば簡単なゲームですけどね」

 柚那曰く、かくれんぼの必勝法は鬼の現在地を理解することだ。

 鬼の居場所さえ常に分かれば、そこから死角になる場所に隠れればいいし逃げればいい。

 ただそれだけのゲームだけど、誰も彼もがそういうことができるわけじゃない。

 一般的には絶対に見つからない所に隠れて、鬼がそのすぐそばを通ることでバレルバレないのスリルを味わうゲームだ。

「絶対にバレない場所に隠れても見つかる時って多いだろ?」

「そうですね……気配は消せても見つかりますよね」

 どうやら柚那も同じ経験があるらしく……というか俺が一緒にいた五年前、雪鳴や道場の門下生と一緒にかくれんぼやったな。

 他にも缶蹴りとか鬼ごっことか……懐かしいな、っていうのはさておいて。

「あれって結局、『アイツにバレないように隠れよう』って思いながらその人を意識しちゃうからバレちゃうんだよ」

「……?」

 分からないと首をかしげる柚那に、俺は再び自分の説明不足を反省する。

 いつまで玄関でこんな話しをしててもおかしいなと思ったので柚那が外履きになって一緒に校舎を出たところで話を再開した。

「気配を隠す相手に強い意識を集中させてしまう。 これがバレる原因なんだ」

「……つまりアタシはさっき、黒鐘先輩にバレないようにって強く意識し過ぎてたってことですか?」

 数秒考えて出した柚那の答えは、まさに俺が伝えたかったこととドンピシャだった。

 気配も意識も、肉眼で捉えられるものじゃない。

 ならば気配を捉えるとはどういうことか?

 それは生き物が持つ本能的・野性的な直感が大きいんじゃないかって思う。

 もちろん、空気の流れが……とか、音の反射が……とか、何かしらの感覚に優れてる人はいるけど、俺の場合は実戦の中で鍛えて身につけた『直感』が気配を捉える。

 生物のほぼ全てが持ってる直感。

 『なんとなく』『もしかして』って言う曖昧な程度であれば誰もが持ってる直感を俺は、命を奪うか奪われるかの戦場で鋭くしていき、確かな感覚として身につけるに至った。

 先ほど、背後から気配を消して近づいてきた柚那に気づけたのは、柚那が『俺にバレないように』と言う意識を感じ取ったから気づけた。

 その意識がどの向き、角度、距離から来ているものなのか……俺はそれを感じ取って柚那に声をかけた。

 ちなみに意識の正体が柚那と気づいたのは、その意識の高さ(身長)が雪鳴より低くて高町と同じくらいで、それが柚那以外思いつかなかったからだ。

 更に言うと、先ほどから俺たちのことを遠くから誰かが……大体二人くらいが隠れながらついてきているような気がするけど、殺気みたいなものもないから放置している。

 なんかあったら対応すればいいしな。

「……悔しいです」

「あはは……柚那はまだ実戦経験が少ないから、これから経験を積めばもっと良くなるさ」

「……」

 笑顔でフォローしてみるけど、悔しそうな表情に変化はなく、この話題はここで終わってしまう。

 まぁ言葉で説明したって実感や納得がいかないのが戦闘技術ってものだから、これはまた戦ったり訓練したりしながら覚えてくしかない。

 ただ、あと何年かすれば柚那も雪鳴も、大部隊を率いて活躍できるほどの実力者になるはずだ。

 それだけの才能があって、努力もしているのだから。

「それじゃ俺はここで」

 気づけば俺たちは海鳴病院の前に到着していた。

 自宅に帰るはずだった柚那には少し寄り道をさせてしまったな。

「はい。 それじゃまた――――」

 俺は病院に向かい、柚那は自宅に向かい、歩き出そうとしたその時。

 誰かの殺気が、俺たちの横を通り抜けた。

 それも、物凄い速度で。

 それを同時に感じ取った俺と柚那は気配の方向を向く。

「あれは……」

「まさかッ!?」

 視界の先は住宅外の一般道。

 人通りは少なく、車や標識の数も少ない普通の道路。

 そこを通る黒のワンボックスカーに、俺と柚那の視線は集中した。

「柚那!」

「はい!」

 俺たちは鞄を道路の脇に置いて走り出した。

 車の速度に追いつくために、俺と柚那は魔力を使って民家の屋根に跳んだ。

 地上を走っては俺たちの姿が目撃されてしまうからだ。

 気配を消しつつ魔力を足裏に込め、着地の瞬間に爆発させる。

 その反動で身体は凄まじい跳躍力を身に付け、三軒ほどは軽く飛び越えていく。

 そうして俺と柚那は殺気と――――知ってる人の気配を放つ車を追いかけた。

「柚那、いきなりの実戦だけどいけるか?」

 ここからは命懸けの戦いになるかもしれない。

 魔導師の俺たちが魔力を持たない人間に遅れを取ることは滅多にない。

 とはいえ、人間と命をかけて戦うとなればそれ相応の覚悟がいる。

 突然のことで動揺しているだろうけど、今のうちに聞いておくことにした。

「当たり前です。 黒鐘先輩一人に任せるわけにはいきませんから!」

 返事はすぐに、強い意志とともに返ってきた。

 柚那の意思はそれだけで十分に伝わったから、これ以上は何も聞かずに俺も頷き返した。

「よし。 なら……アマネ」

《お話しは聞いておりました。 車種の特定と乗車している人の素性の特定……あとはアジトに到着した後に内部図の確保と警察への通報を致しましょう》

「頼む」

 一声かけるだけでアマネは全てを察したように行動を始める。

 これも今までの実戦で培って身につけた連携だ。

「黒鐘先輩」

「なんだ?」

「このこと、高町さんには……」

「それは助けたあと、アイツらに任せよう。 俺たちが言っても不安を煽るだけだろうしな」

「分かりました」

「他に聞いておきたいことはあるか?」

「それじゃ――――」

 追跡車両を一定の距離で追いかけながら、俺と柚那は互いに意見交換をして情報の共有をする。

 このあと、万が一に備えて分からないこと、必要なことは全部共有したほうがいいからだ。

 これも全部、俺が五年間で培ってきたことだ。

 そして追いかけること二時間ほど……辺りが暗くなった頃、海鳴から少し離れた海岸にいくつも並べられたコンテナ倉庫の一つの前に車は停まった。

 俺たちは夜に紛れるように気配を消し、コンテナの上から犯人たちの動きを眺める。

 車の中から二人の黒服の男性が現れた。

 二人の手にはオートマチック拳銃が一丁ずつ持たれ、周囲を警戒するように睨みつけている。

「だいぶピリピリしてますね」

「ああ。 それだけ自分たちのしてることがやましいことなんだって自覚してるんだろ」

「自覚あるんだったらやらないで欲しいです」

「ははっ、確かにな」

 小さく会話し、小さく笑い、二人は次に降りてきた二人の『少女』に意識を向けた。

 両手を後ろで縛られた金髪の少女と紫髪の少女。

 ――――アリサ・バニングスと月村 すずか。

 放課後になって病院に向かって歩いていた俺と柚那を、背後からつけていた二人が、どうやら隠れているうちに捕まってしまったらしい。

「さて、柚那。 人助けといきますか」

「はい、頑張ります」

 俺と柚那は立ち上がり、気配と音を殺しながら行動を開始した――――。


*****


 時は少し遡り、放課後になって校舎を出た時のこと。

 アタシ、アリサ・バニングスは友達のなのはとすずかと共に校舎前で他愛もない話しをしていた。

 アタシとすずかはこの後、塾に行く用事があってそこまで連れてってくれる車を待ってる間を三人で過ごしていたのだけど視界に、アイツが写った。

 小伊坂 黒鐘。

 いつからか、なのはが話題に出すようになった四年生の男子生徒。

 なのはとは知り合うような接点を持たない彼は、不気味なほど普通のステータスの男だった。

 見た目がちょっと大人っぽいからって他は特に目立つものはなくて、頭が特別いいわけでも運動神経が特別いいわけじゃない、本当に普通の人。

 そんなやつがある日、唐突になのはの話題に現れるようになった。

 しかも日を増す事に比例して増えていってる。

 その上、アタシたちのクラスメイトの逢沢 柚那とも親しい関係だって言うんだから尚の事怪しさが増した。

 柚那とは挨拶を交わしたり、隣の席だから勉強を教え合ったりのちょっとした関係だけど、少なくとも男子と接点を持つような人じゃない。

 小伊坂 黒鐘って人と同じクラスに姉を持っていて、姉のことを最優先にするような人だから、誰かと仲良くしようだなんて、ましてや男子と仲良くしようだなんて人じゃない、と思っていた。

 そんな柚那、柚那の姉もアイツと親しいだなんて、怪しすぎてしょうがない。

 すずかは気にしないと言ってるけど、アタシは納得できない。

 もし裏があって、なのは達を傷つける気がったら許せないし、裏がないんだったらそれはそれでいい。

 とにかくアタシは、小伊坂 黒鐘が白か黒かなのか、納得をしたいだけ。

 だからアタシは、なのはと別れて彼の後をつけた。

 アタシ一人でもよかったんだけど、すずかもついてきた。

「アリサが熱くなりすぎないようにしないとね」

 そう言ってるけど、すずかだって気になってるんだ。

 アイツがどっちの人間なのか。

 なのはや柚那にとって悪い存在なのか、どうか。

 そうしてバレないように電柱や車を影に隠れながら二人の後を追いかけると、この町で一番大きな病院、海鳴病院についた。

 そこで二人は別れて、アイツは病院の方へ向かった。

「アイツ、病院になんかようなのかしら?」

「怪我……って感じじゃないよね?」

 アタシもすずかも答えがわからず、その場で唸ることしかできなかった。

「病院の中へ行きましょう」

「ダメ」

 アタシの提案に、すずかは即答で否定した。

「なんでよ!?」

「小伊坂さんがケガ以外で病院に行ったってことは、さん自身に持病があるとか、身近の人が入院してるとか……とにかく他人には見て欲しくないようなことがあるってことだよ?」

「そんなの、行ってみたいとわからないじゃない!」

「アリサちゃん!」

「っ!?」

 その時、すずかは珍しく強く声を張ってアタシのことを睨みつけた。

 いつも穏やかな雰囲気のすずかには珍しいことだったから、アタシは怯んで声を出せなかった。

「アリサちゃんがなのはちゃんや柚那ちゃんのことを考えて行動してるってことは分かるよ? そのためにこうして探偵みたいなことまでしてるわけだから……だけど、病院にまで踏み込んじゃダメだよ」

「ぁ……」

 そう言われて、アタシはハッとあることを思い出した。

 それはすずかの家族のこと。

 何年か前……それこそ、アタシやなのはがすずかに出会う前にすずかの両親は交通事故で亡くなったって聞いたことがある。

 当時のすずかはまだ死ぬって言うのが、怖いことってくらいだったから実感がなかったって言ってたけど、今は違う。

 病院で両親を看取ったことは、今でも鮮明に覚えているらしい。

 だからすずかにとって病院は色んな意味で特別なんだ。

 そんな自分と病院に、アイツを重ね合わせてるのかもしれない。

 だからこんなに怒って……。

「……ごめん、アタシ、ちょっと熱くなってた」

「うん、分かってるよ。 アリサ、悪い子じゃないから」

 謝ると、すずかはいつものように穏やかな笑みを返してくれた。

 そのことに安堵し、今日のところは諦めて塾に行こうとした。

 ――――アタシとすずかが二人の男性に捕まったのは、その瞬間だった。

 全ては一瞬だった。

 アタシとすずかが隠れるために使っていた車から見慣れない黒服の大人が現れて、車の奥からこちらに銃口を向けてくる大人のせいで動けなくて、悲鳴をあげれなくて、気づけば手を縛られて口を塞がれて車に押し込まれた。

 自分たちが誘拐されるような立場であることを、今の今まで忘れていた。

 このまま殺されてしまうのだろうか。
 
 そんな恐怖心を抱きながら、アタシとすずかはどこかも知らない海岸付近まで運ばれていった――――。 
 

 
後書き
どうも、IKAです。

更新ペースが遅い中、なんとか最新話投稿に至れて安心しています。

今回のお話しである程度ハッキリしてきたことなのでお話しますと、月村 すずかの設定にトライアングルハートの設定が多く組み込まれてます。

両親の交通事故や、身体能力の高さなどが今のところそれかなって思います(両親の死のタイミングをこちらのストーリーに合わせてしまったことには罪悪感がありますが)。

次回は黒鐘と柚那のコンビが活躍できる回にしたいな~っと思ってます。

……黒鐘をもっと不幸にしたいなって心の悪魔が囁いている。

黒鐘「すげー迷惑な悪魔なんだけど」 
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