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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第五十五話 転生者たちが対面します。

帝国歴486年6月10日――。


■ ラインハルト・フォン・ミューゼル大将
イルーナ姉上に叱責された。こんなことは久しぶりだ。俺は慢心していたのかもしれない。タガが外れかけていたのかもしれない。大将になって皇帝と一対一で拝謁を行う権利を得ても、なお姉上を救うことはできなかった。そんな事実を目の当たりにし、一万数千光年を隔てたこんなところにやってきて「俺は何をしているのだ。」と、ふと思ってしまったのだ。
駄目だ、こんなことでは駄目なのだ。イルーナ姉上がおっしゃったとおり姉上を救ってもまだ先がある。姉上を救うためだけなら、単に権力の頂点に立てばいい。だが、それでは許されないのだ。その先のために俺は戦わなくてはならない。自己研さんに励まなくてはならない。一人でも自分の道を歩めるように、そして皆を導いていけるだけの力量を持たなくてはならない。
イルーナ姉上の悲しそうなお顔はもう見たくはない。あの表情を見た瞬間、俺は言いつけを守ることすらできないただのわがままの子供のような気分になってしまった。俺はそのことを正直にキルヒアイスに話した。他の面々には恥ずかしくて言えないが、あいつになら何だって話せてしまう。アレーナ姉上がいらっしゃったらきっとキルヒアイスと一緒に聞いてもらっただろう。
明日は同盟の交渉の場、イオン・ファゼガスに到着する。自由惑星同盟に降り立つのは帝国の軍人や官僚、貴族においては久方ぶりの事となる。前回はコルネリアス1世の親征前の交渉の段階でのことだったからな。ここで見聞きできることはまさに「百聞は一見に如かず。」という遠い昔の地球のことわざを具現化したものになるだろう。貴重な経験を無駄にするわけにはいかないな。

今回の和平交渉が上手くいくように俺は全力で取り組むが、もし失敗した場合には――。



 都市惑星イオン・ファゼガス――。
自由惑星同盟と帝国の艦艇の最大の相違点は、大気圏内への降下ができるか否か、ということである。自由惑星同盟の艦艇は宇宙空間での戦闘に特化しているため、降下できない。他方それができる帝国からの500隻ほどの船団はそれぞれ指定された宇宙港に着陸することとなった。

なお、惑星イオン・ファゼガスの周りには軍事衛星であるアルテミスの首飾りが浮遊している。これは登録されていない艦船若しくは中央管制室の無許可を得ないで接近する艦船を問答無用で攻撃する軍事衛星である。帝国軍の艦艇はデータベースとして登録されるわけにはいかず(同盟にとってはやすやすと侵入されてしまうこと、帝国にとっては艦船のデータを同盟に渡すことは技術の情報漏洩を意味することがある。)したがって、中央管制室の許可を得たうえでの着陸方法をとることとした。

ブリュンヒルトとヴァルキュリアは共にセントラルターミナル・エア・ポートに着陸した。ブラウンシュヴァイク公のベルリンとリッテンハイム侯のオストマルク、ミュッケンベルガー元帥のウィルヘルミナらはイオン・ファゼガス最大の空港、イオン・ファゼガス・シティ・エア・ポートに着陸することとなった。
表向きは万が一に備えての要人クラスの分散であるが、ブラウンシュヴァイク公リッテンハイム侯そのほかの主要な取り巻きは悉くイオン・ファゼガス・シティ・エア・ポートに着陸した事実を見るに、ラインハルト・フォン・ミューゼル大将とイルーナ・フォン・ヴァンクラフト大将は「ホサれた。」形になってしまったようである。挙句の果てが「迎えの車をよこすから、迎賓館に現地集合ね!!」という(もちろんそんなフランクな指示は出てこないが。)指令があったのである。
 だが、二人は一向に気にする風もなくランド・カーに乗り込み、指定された迎賓館へと、護衛車たちと自由惑星同盟から差し向けられた警備車両に囲まれて、目指していた。警護役としてアリシア・フォン・ファーレンハイト少佐、そしてフィオーナ・フォン・エリーセル中将、レイン・フェリル大佐、そしてキルヒアイス大佐が同乗している。

 この少し前、フィオーナはティアナを呼び「後のことをお願いね。」と頼んでいた。
「大丈夫よ、フィオ。私がいる限りブリュンヒルトには指一本だって触れさせやしないわ。」
だからあなたは教官とラインハルトのこと、お願いね、とティアナは気持ちを込めてフィオーナの両手を握った。
「ありがとう、あなたこそ気を付けてね。」
「大丈夫、こっちにはロイエンタールたちがいるんだもの。超一流の提督たちと一緒なのよ。」
そうよね、考えてみればこれほど心強いことはないわね、とフィオーナは笑った。

フィオーナはイルーナと向かい合って座りながらちらっと斜め前に座っているラインハルトの横顔を見た。ラインハルトは右手を頬に当て、窓の外をじっと眺めていたが、その顔は少しも退屈そうには見えなかった。キルヒアイスはそんなラインハルトを穏やかな目で見つめている。アリシア・フォン・ファーレンハイトは助手席に警護役として乗り込んでおり、仕切に邪魔されて見えていない。レイン・フェリルはしきりに自分の端末を使ってブリュンヒルトの電子システムと連動させながらこの惑星の動向を探っている。
「何を眺めておいでですか、ラインハルト様。」
ラインハルトは我に返ったようにキルヒアイスを見た。
「あぁ。すまないな。少し考えていた。自由惑星同盟の都市の様相を見ると、曲がりなりにも市民たちが自分たちで国家を建設し自分たちの手で運営している様が垣間見えるようだ。帝都オーディンにおいて、こんな高層ビル街がそもそもあるか?」
「ないでしょうね、皇帝陛下の宮殿よりもずっと高い建物を作ることは例外を除いて禁止されているから。」
と、イルーナ。
「そうだろう。この建物一つとっても帝国は自由惑星同盟に後れを取っている。Aという行為を禁止するということは、そのAにかかる技術を停滞させ、技術の発展等を妨げてしまう副作用を持つ。まったく、専制政治というものは行き過ぎた場合にはロクな結果をもたらさないという良い例だな。」
ランド・カーに乗り込んだ際に、イルーナとフィオーナ、キルヒアイスは徹底的に盗聴器の存在を探ったが、出てこなかった。だからこそこうして気の置けない会話ができるのだ。4人が乗っているスペースは完全な防音処理が施されていて運転手や護衛役には一切話が聞こえない。
「自由惑星同盟が政治的にも経済的にも停滞しているという話はわたくしも聞いております。ですが、こうしてみると一人の人間の血筋とその取り巻きによって支配される国家と比べ、開放感があるようではありませんか。」
キルヒアイスが窓の外を通り過ぎていく超高層ビル群やしきりに飛来していく大小の飛空艇、車などを見ながら言った。帝都オーディンと比べても物流や人の流れなどに活気があるのが伝わってくるのだ。
「残念ながら、それはうわべだけの話だと思うわ。」
イルーナが言った。
「確かに民主政治は専制政治よりも『自分たちで政治を動かす。』という意味において優れているでしょう。私は『原作』を読んで知っているから言えるのだけれど、今の自由惑星同盟では『他人任せ。政治的な無関心。』が国民を支配しつつあるわ。帝国の専制政治においてはそれで足りるでしょう。何故なら貴族や主要官僚たちが勝手に政務を動かし続けているから。でも、この自由惑星同盟においては、国民は『乗客』ではないのよ。あくまで『船員・乗員』としてこの星々の大海に浮かぶ『惑星』という船を動かし続けていかなくてはならないのだわ。船員が一人欠けても船はうまく航行できない、そんな気構えをもって、ね。」
「なかなかうまいたとえですね、どんなに肥えた新鮮な土壌も手入れを欠かさぬように心がけていなければ、いつかは荒地同然になり、植物が育たなくなる、といったところでしょうか。」
ラインハルトの言葉に、そのとおり、とイルーナはうなずいて見せた。
「ですが、イルーナ様、わたくしには自由惑星同盟の建国理念とその政治的な運営体制は学ぶべきところがあるように思うのです。」
キルヒアイスの眼はまっすぐだとイルーナは思った。他人の、他国の欠点を思うよりも、むしろ長所を見出し、それを最大限学び、活かす方法を模索しようとしている。私も見習わなくてはならない姿勢だわ、とイルーナは感心してみていた。
「キルヒアイスのいう通りね。自由惑星同盟には確かに学ぶべき点はあるわ。私たちが将来ラインハルトを補佐する際に、今の帝国の制度を解体し、ゆくゆくは・・・・いえ、ごめんなさい。」
イルーナは突然言葉を切った。
「なぜ話をとめるのですか、イルーナ姉上。」
「私たちはあなたを助けたいと思っているのであって、あなたにどうこうしなさいと言える立場ではないということをつい忘れそうになるのよ。それを自戒しただけのことよ。」
「そのことでしたら、お気になさらないで下さい姉上。確かにイルーナ姉上たちの補佐は私も望んでいるところですが、私は私の道を進むまでです。誰かに左右されたり、意見をうのみにすることなどあってはならないと思っています。自分自身の足で立ち、自分自身の考えと責任で歩み続けることこそ、一人の人間としてあるべき姿だと思っておりますから。」
ラインハルトを見返すイルーナの眼は、一瞬アンネローゼ様に似ているな、とフィオーナもキルヒアイスも思った。それほど彼女の眼は弟を見る様な慈愛と思いやりに満ちていたのである。
「ラインハルト、今の言葉を忘れないでいてね。」
イルーナがそう言ったところで、車のスピードが落ちた。
「どうやらあれが、迎賓館のようですね。」
フィオーナが視線を向けた先には、アメリカのホワイトハウスのような純白な左右対称の建物が広大な庭に囲まれて立っていた。


迎賓館前に到着し、一歩車を出たラインハルトたちは聞きなれた演奏を耳にして驚いた。なんと帝国の「ワルキューレは汝の勇気を愛せり」の演奏が自由惑星同盟の軍楽隊によって奏でられていたからだ。ほぼ同時に到着したブラウンシュヴァイク公やリッテンハイム侯もこの演奏を聞いて流石に驚きを隠せないでいる。自由惑星同盟政府首脳陣と帝国和平交渉使節との本格的なファーストコンタクトはこのようにして始まったのだった。
「ようこそ!自由惑星同盟の迎賓館に!」
高らかに舞台俳優のような物腰であいさつしたのは、自由惑星同盟の評議会議長、ピエール・サン・トゥルーデだった。これまでの長期政権をずっとになってきた人物で、之と言って突出した経歴はないが、抜群の安定感を誇ると皆に言わしめている。見る者を和ませる群青色の瞳、柔らかな透き通るようなオールバックの金髪、柔和な微笑、43歳という働き盛りと落ち着きを兼ね備えた年齢、整いすぎてはいないが、美男子の部類に入る甘いマスク、そして聞く人を引き付ける声優のような個性的な深みのある声、これらの小道具は、持つ人が持てば持て余してしまうだけの余計なものだったが、ピエール・サン・トゥルーデにかかれば「人間性」という武器に早変わりし、近づく者を魅了してやまない。
「まるでヨブ・トリューニヒトをもっと素直にしたような感じですね。」
と、フィオーナがイルーナにささやいた。
「あら、ヨブ・トリューニヒトだって、OVAの外見上は素晴らしく誠実で有能な人だったわ。フィオーナ、気を付けるのよ。人は見かけによらないという言葉は、数々の悲劇の上に成り立っているのだから。」
「はい、教官。」
フィオーナがうなずいたとき、ブラウンシュヴァイク公とリッテンハイム侯がこもごも進み出て自由惑星同盟の評議会議長と握手するところが見えた。一斉にシャッターが切られ、フラッシュが晴天の空に光を放つ。正装した子供たちが進み出て、ブラウンシュヴァイク公とリッテンハイム侯に花束をささげた。これには二人とも驚いたらしい。何しろ平民から物を直接手渡しでもらうなどという経験をしたことはあまりないのだから。
 一瞬二人は「どうするか?」というように顔を見合わせたが、覚悟を決めたのか、ぐっと詰まった表情ながらぎこちなくそれを受け取った。会場に居合わせた人々はそれだけで「おおっ!?」というどよめきを発した。

 無理もないことだわ、とフィオーナは見ながら思っていた。先ほどの握手もそうだったが、何しろ「大貴族の長」が「奴隷」の子孫から手と手で物を受け渡されたのだ。本来帝国にあっては絶対にありえない事だった。そんなことをすれば「奴隷」側は捕えられて間違いなく拷問にかけられるか、運が良ければ、殴りつけられて終わるか、どちらかだろう。
「どうもブラウンシュヴァイク公やリッテンハイム侯はこの世界では尊大さは変わらないけれど、全くの無能ではないようね。それとも原作OVAではそのような描写はされなかっただけかしら。」
イルーナがそっとフィオーナにささやいた。
「ええ。そう思います。これは敵に回したときにどうなるか・・・・。原作OVAではラインハルト側は勝利を収めましたが、教官のおっしゃる通り案外その文章の外での攻防戦はすごかったのかもしれないですね。」
「まったくだわね。」
二人が見ているさ中、ピエール・サン・トゥルーデに促されたブラウンシュヴァイク公とリッテンハイム侯は共に肩を並べて迎賓館に案内されていく。ミュッケンベルガー元帥以下の随行者たちも同様だ。ラインハルトとイルーナを案内してきた自由惑星同盟の軍人、官僚、政治家たちも二人を促した。
「どうぞこちらに。随行の方々もご一緒に入られてください。」
ラインハルト、イルーナ、フィオーナ、キルヒアイスはそろって中に入っていった。今日は会議は行われず、歓迎の式典、そしてパーティーが催されることとなっていた。交渉というのはそう焦ってやることではない。この交渉で最も奇妙な点は、両者が妥協できる可能性は限りなく低いということを双方、そして仲介代理役であるルビンスキーまでもが認識していることであった。そのルビンスキーは一足先に到着して迎賓館の中に入っているようだと案内役のピエール・サン・トゥルーデ議長が説明していた。
「ルビンスキー?」
そうか、まだ二人は知らなかったのだわね、とイルーナは不思議そうな顔をしているラインハルトとキルヒアイスを見た。
「アドリアン・ルビンスキー、別名フェザーンの黒狐。・・・・要注意よ。まるでゲームのように帝国自由惑星同盟双方を手玉に取り、テロさえ辞さない危険な男。」
イルーナがそっとラインハルトとキルヒアイスの間で耳打ちした。
「なるほど・・・・。」
「そうですか・・・・。」
自分たちとは真逆な方法をとると聞かされた二人は、当然あまり面白そうな顔をしなかった。
「やはり銀河は広いな。ああいう男が台頭してくるのも、これも戦乱の影響というわけか、キルヒアイス。」
「ええ。」
4人は分厚いワインレッドの絨毯の上を歩んでいく。まるで中世の城のような廊下には贅をつくした絵画や骨董が並んでいる。もちろんそれは陳列ケースなどに入れられて保管されているが、前衛的な芸術作品あり、写実的な風景画があり、かと思うと何を表現しているかわからないような幾何学模様を描いたポスターが張られていたりしている。
「迎賓館は自由惑星同盟の各地の芸術作品を集めた美術館にもなっております。様々な美術品を共存させることは、一見すると筋が通らないのかもしれませんが、自由惑星同盟が他民族、多国籍国家――どんな人々も自由を享受できる国――であるという事をしめしているのです。」
案内役の官僚らしいスーツを着た男性が得意そうにそう言ったが、次の瞬間はッとした顔で足を止め、ラインハルトとイルーナたちを振り返った。
「別にそこまでご心配なさる事には及びません。我々とてそう排他的な人間ではないつもりですよ。価値観が違うことは人間であっては当たり前の事。私には美術品の技巧はよくわかりませんが、だからと言ってそれをけなしたり壊したりする権利がないことも承知しています。」
ラインハルトが最後を美術品の話として穏やかにまとめたので、案内役の男性はほっとした顔になって再び歩を進めた。迎賓館は大きな口の字型の建物である。廊下の左手側には間隔を置いて明るい巨大な窓が据え付けられており、右手側にはこれも巨大な扉が間隔を置いて据え付けられている。各種催しやパーティーなどに使用するのだろう。
「どうぞ、こちらに。」
案内役の男がひときわ壮麗な扉へと一行を導く。既に華やかなざわめきが起こっているのは、歓迎式典前に軽いアルコールを供されているからだろう。

 ふと、イルーナ・フォン・ヴァンクラフトの脚が止まった。まるでレーダーサイトを搭載しているかのように、振り返った視線はぴたりと一人の人物に注がれていた。
 鋭く息を吸い込んだ音がする。フィオーナが胸に手を当てていた。その顔色は悪い。アリシアは腰のブラスターに手をかけ、レイン・フェリルはラインハルトとキルヒアイスを庇うように一歩前に進んでいた。

シャロンが微笑を浮かべながらこちらを見つめていたのだ。

「イルーナ姉上?」
「ラインハルト、あなたは先に行っていてくれる?すぐ後に行くわ。」
「いや、ここにいます。」
「でも――。」
「あの目の前の女性に用があるのでしょう?そしてあの女性はイルーナ姉上たちと深いかかわりがある。私の勘が正しければ、だが。」
イルーナはと息を吐いた。こうなってはもう隠し立ても何もできない。覚悟を決めて歩を進めた。前世における騎士団主席聖将と騎士団主席指導教官が迎賓館という壮麗な建物の中で向かい合った。
「シャロン。」
「お久しぶりね、イルーナ、そしてフィオーナ。アリシアもレインも壮健そうで何より。前世以来かしら?ヴァルハラでは私たちはついぞ会わなかったから。」
「私たちがここに転生してきた以上、あなたも来ると思っていたわ。・・・そうあってほしくはなかった。」
くっと拳が握られるのが後ろに立っているラインハルトとキルヒアイスの眼に映った。
「私はとてもうれしいわ。あなた方にまた出会えたことは。」
その裏に潜ませた意味を感じたフィオーナは慄然としていた。思わずラインハルトとキルヒアイスを庇うように身構えたフィオーナとそれに加勢するべく身構えたアリシア、レインにシャロンは両腕を巻くようにした姿勢を崩さず、顔だけ向けて、
「勘違いをしないでもらおうかしら、私がここに来たのはあくまで接待役の一人としてよ。あなたたちを殺すためでも、ましてラインハルトとキルヒアイスを殺すためでもないわ。・・・・・今のところは。」
「面白いことを言う方だ。私を殺そうなどと本人たちの前で話すとはな。」
ラインハルトが不敵な笑みで言い放つ。
「稀代の英雄にお目にかかれて、まずは光栄だと申し上げておきますわ、ミューゼル大将閣下。そしてキルヒアイス大佐。」
シャロンが優雅に微笑んだ。
「イルーナ姉上を、フロイレイン・フィオーナをあなたは狙っているのか?前世とやらの因縁のために。」
(なるほど、イルーナがすべてを話したわけか。それはそれでどうかと思うけれど、それなら話が早い。)
シャロンはそう胸の中でつぶやくと、
「少なくともこの場では手出しはしませんわ。場所が場所ですし、今は両国にとって重要な時期ですもの。ですが、あなたの問いかけにははっきりと『そうです。』とお答えします。」
「イルーナ姉上たちに手出しをしようというのであれば、私たちとて黙ってはいない。」
ラインハルトとキルヒアイスの拳が握られた。それを面白そうに微笑みながらシャロンは見つめている。
「どうやって?言っておきますけれど、前世から蓄積されている私たちの戦闘力はあなた方とは桁違いなのですわ。」
「確かに、まともに渡り合っていてはあなた方には到底勝てないのは承知している。だが、それだけで優位に立てると思うな・・・!」
「人間一人だけの力では、限度があります。想像力、創作力、そして思考力の範疇は、一人よりも二人、二人よりも三人の方が大きいのですから。」
ラインハルトとキルヒアイスの言葉に、シャロンは微笑を浮かべて、
「お二人のおっしゃる通りですわね、さすがはラインハルトとキルヒアイス。稀代の英雄ですわ。」
シャロンは突如微笑みを消した。一瞬だったが殺気を含んだすさまじいオーラが彼女の身体から噴出し、あたりを覆った。
「ならば私もそれ相応の力をもって、あなた方に挑むこととします。今日のところは、そしてこの交渉が終わりあなた方が帰るまでは絶対に手出しはしませんわ。このことについてははっきりとこの場で誓約しておきます。ですが、それ以後のことについては責任は持てません。この争乱の時代においては自己の生命を全うすることさえも、自己責任というわけですから。」
再びシャロンが微笑をともした。
「では、ごきげんよう。」
優雅に一礼し、シャロンは6人に背を向けて会場内へと姿を消していった。
「あれが・・・アレーナ姉上、イルーナ姉上の話していらっしゃった、転生者なのですか。」
ラインハルトが珍しく気圧された様に言葉を詰まらせる。先ほどシャロンが放った殺気のせいだろうと転生者たちは見当をつけていた。
「ええ。」
言葉少なにイルーナはそう答えていた。





迎賓館外周辺地区――。
同盟帝国の重要人物が悉く迎賓館に集まってきているため、その警備も厳重であった。数十の装甲車が会場周辺を固め、周囲には幾重にもわたって検問が設けられている。迎賓館正面に留まっている装甲車列の中の同盟軍兵士は退屈そうにあくびをかみ殺しながら赤外線センサーで周辺をチェックしていた。何か動きがあればすぐに報告せよ、と言われている。だが、こんなど真ん中で何かがおこるも何もないじゃないか、と兵士は思っていた。同盟軍軍用車両は前線配備の物と同様ここでも脳波コントロール装置が使用されている。正常の場合には青、異常さを示す場合には赤い信号が点滅する。

その信号が青から赤にひっそりと変わり、また青に戻ったことを、誰も気づいていなかった――。

 
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