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没ストーリー倉庫

作者:海戦型
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=戦闘訓練編= ヒヒョウセレクト

 
前書き
ヒロアカのファンブック読んでたら入試ロボそれぞれの名前普通に書いてありました。これはハズい。
あと設定に乗ってる旧Mt.レディがすごく好みです。 

 
 
 世の中には大なり小なり、孤独な戦いというものがある。

 ワンフォーオール取得後のデク君の試行錯誤はまさにそれだろう。あれはオールマイトの圧倒的指導力不足もあるだろうが、個性の詳細を誰にも話せないデクくんはグラントリノ登場までの間ずっと体を壊しながら試行錯誤を繰り返していた。

 誰にだって隠し事や秘める思いはある。爆豪は孤独を作り出すことで自分を追い詰め、更なる高みを目指していた。轟くんは、エンデヴァーの息子という逃れえぬ場所から父親を見返すために、他の誰にも干渉できない戦いを続けていた。
 兄の復讐に走った飯田。原因を作った狂気のヴィラン、ヒーロー殺しステイン。もっと言えば平和の象徴として常に最強のトップの姿勢を崩さなかったオールマイトも、ある意味では孤独だったのかもしれない。同志がいても、仲間がいても、最終的にその考えが過ちだったとしても、起きてしまうものは起きてしまうのだろう。

 そんなヒーローたちの孤独で格好いい戦いを振り返ると、俺にそれをするだけの覚悟があるのかいつも自分に問うてしまう。
 入試での戦いは俺にとっての初の実戦だった。戦いが始まったとき、俺はロボットに対してデク君が感じたような恐怖は覚えなかった。だがそれは、前世の記憶などという曖昧な記憶があるからこ、俺は目の前の脅威をどこか現実として捉えていなかったのかもしれない。本気で敵と相対した時も、そのゲーム感覚のような覚悟を続けられるとは俺には思えない。

 『未来視(ニアフューチャー)』、俺の頼もしくもトラブルメーカーな『個性』。
 俺はこの個性の詳細を誰にも話すつもりはない。俺がヒーローとして動けなくなってしまったときならば話は変わってくるが、基本的には友達だろうが親だろうが話さない。何故なら、絶対ではないとはいえ未来予知などという力を持っていることが知れたらロクな結果にならないという「未来が見える」からだ。

 孤独な戦いは、俺にだってある。デクくんを殺させないという気の長い戦いだ。
 デクくんがいつ、どこで、何の危機に見舞われて命を落とすのか俺には分からない。分かっているのは何もせずに備えていれば『結果』がノコノコやってくるという事だけだ。俺はその未来を知っていながら誰にも喋らずに、何事もなかったかのようにこのクラスで学び続ける。

 目標達成がいつになるのかもわからない。
 別段デクくんに感謝されるわけでもない。
 ただ。

(あえて言うならこりゃ、原作者の堀越さんに対する一方的な恩返しってことになるのかね?)

 俺は、俺をドキドキワクワクさせてくれたヒロアカという物語を、途中で崩壊させたくない。
 そんな自分勝手で一方的な欲動だけが、俺を戦いに駆り立てる。



 = =



 原作の内容を微妙に忘れた人の為に、ツーマンセル屋内戦闘訓練の説明を一応行っておこう。

 まず2人一組のグループに分けられたクラス内から二チームを選出し、片方にヒーロー役、もう片方にヴィラン役の設定が課される。ヴィラン役は建物内のどこかにランダムで設置された核ミサイルのハリボテをヒーローチームから防衛し、ヒーローチームはそれを奪還するために建物に突入する……という内容だ。
 さらに細かく言うと、ヴィランチームの勝利条件は制限時間内までミサイルを護り切る、もしくはヒーローチーム2名を拘束テープで拘束することだ。ミサイルはワンタッチでもされればアウトとみなし、拘束テープは拘束できてなくともとりあえず巻き付いていればよいこととなる。
 ここまで言えば察するだろうが、ヒーローチームの勝利条件はミサイルにワンタッチするかヴィラン2名の拘束である。

 はっきり言って、ルール的には迎え撃つヴィランの方が有利なものになっている。フェアじゃない言えばそうだが、そもそもヒーロー相手にヴィランはフェアな条件で戦いを挑まないのが普通だから実にヒーロー科らしい訓練だと言えるだろう。

 そして………俺たち生徒の目の前では爆豪、飯田、麗日の3名がオールマイトに講評を受けている。うん、勘のいい読者諸君は言わずとも分かっているだろう。デクくんがワンフォーオールの力で腕をバッキバキに折った代償にヒーローチームが大勝利したのである。

「まぁつっても……今戦のベストは飯田少年だけどな!!」
「ななっ!?」
「勝ったお茶子ちゃんか緑谷ちゃんじゃないの?」

 オールマイトの言葉に蛙吹が首をかしげる。彼女以外にも成績悪い組や熱血組は理由が分からず首を傾げているようだ。確かにヒーローにとっちゃ勝利は絶対条件といってもいいけれど、それは終わり良ければ総て良しとなる訳じゃない。
 さあ貴様ら、これから未来の委員長八百万のとってもわかりやすい解説を聞くがいいさ!(←何様だ)

「何故だろうな~~~~?わかるひ………」
「ねーねーたっくんなんでか分かるー?」

 ……葉隠よ、誰だたっくんとは。まさか俺の名前の拓矢でたっくんじゃあるまいし。俺の方を見ているが俺の後ろにでもいるのかと思って後ろを見たら障子がいた。ふむ、理由はないけどなんとなくたっくん感あるな。

「お前がたっくんか」
「恐らく違うと思うぞ」
「き、挙手制にしようと思ったのに……まぁいいか。葉隠少女のご指名だ!たっくんこと水落石少年、解説どうぞ!!」
「俺なんかいッ!!ってかたっくんて!いつの間にそんなフレンドリーなあだ名つけられてんの!?」

 たっくんなんて今までの人生で保育園の先生くらいにしか言われたことがない。葉隠よ、もしかしてさっき衣装褒めで手袋以外が出てこなかった俺を計画的に晒し者にするためにこのタイミングを待っていたのか!?腹黒い、腹黒いわこの子!!たぶん天然だけど!!

「ご指名だよたっくん!」
「言っちゃえたっくん!」
「頼んだぜたっくん!」
「伝染さすな!!」

 これと言って意味のない芦戸・削岩・上鳴のアホっぽ三人衆が迫る!……本当に意味ないし恥ずかしいからマジでやめろ。やめないとアレだぞ、無理に難しい言葉を畳みかけてお前らの脳回路を焼き切っちゃうぞ。今よりもっと馬鹿になるぞ。うぇいうぇーいとか言っちゃうぞ。

「そんなに頭悪くないやい!」
「では言うぞ。まず爆豪は訓練開始とほぼ同時に敵側の戦略的優位性を無視して飯田と何の打ち合わせもせずに脱兎のごとく吶喊。挙句に慢心が原因で何度か危うくなるし、大前提であるルールとコラテラルダメージを無視するように広域破壊兵器をぶっはなし。捕縛の隙があるにも拘らず捕縛を怠ったのが災いして緑谷にイニシアチブを取られて結果的に訓練貢献度が最悪だ。はっきり言って、やる気がないんじゃないかと疑いたくなる」
「………うんっ!そうだねっ」
「そうなんだすごいね!!」
「なるほど、そういうのもあるのか!」

 笑顔で返事をしている三人だが、耳からもうもうと酸の煙やら放電やら耳そのものが回転したりしているところを見るに最後の一言以外まったく理解できていないようだ。流石クラスのバカツートップ……もとい、削岩を加えてスリートップ。その馬鹿さ加減と馬鹿な子ほどかわいい的なオーラは他の追随を許さない。
 まさしく馬鹿者と罵倒されるにふさわしい学力のかわいい馬鹿たちはさておいて、オールマイトから指名があったのは事実だから色々言っておくか。

「そして麗日だが、きみ作戦立案に参加してなかったろ」
「えっ、急にウチ!?………ま、まぁデクくん頼みだったのはあるけど」
「はっきり言うけどあそこで緑谷の提案にアッサリ乗って先に行くのは愚策だと思う。緑谷はたぶん爆豪相手に二人がかりで仕留めきれる確信がなかったから二手に分かれたんだろうけど……」
「それが間違ってたの?」
「うんにゃ、別に間違っている訳じゃない。ただ、麗日はその意見を念頭に置きすぎて自分が爆豪と接触するって可能性を完全にすっぽかしてたでしょ」

 結果論的で厳しい言い方になるが、彼女はあの時結構な好機を逃している。その一瞬は訓練ならば笑って済ませられるが、実戦では後になって大きく響くことになるだろう。

「爆豪は緑谷しか見てなかったから最初は慢心のせいで投げ飛ばされてたろ?あんとき君は爆豪に不意打ちして浮かせられる場所に――真後ろっていう格好の場所にいた。そう、あそこものすごく致命的な隙だったんだよね。投げ飛ばされてから起きるまでの間に頑張って触りに行けば間に合ったし、そしたら確保テープも巻けた。結果、短期決着で二人とも悠々と核を探せたんだ」
「確かにな。リーチの長い『個性』や射出系の『個性』がパートナーだったらあそこで決着がついてるようなもんだ」

 轟が相変わらずの無表情で同意する。やっぱりエンデヴァーに無理やりとはいえ育てられただけのことはあってあの隙は目敏く見つけていたらしい。麗日の顔色が『個性』使いすぎの酔い以外の要素で悪くなっていくが、中途半端に話を切っても変だから言いきらせてもらう。

「それが出来なかったのは、麗日の予測能力や判断力不足が原因だ。無論気配に気づいた爆豪の機転で失敗する可能性もあったろうけど、それを抜きにしても後半で飯田の面白い姿に素で笑って気付かれたことや核奪取を阻止された時の盛大なすっころび、挙句確保対象に向かって瓦礫のシャワーと迂闊な行動が多すぎた」
「核兵器が爆発でもしたらもうヒーローもヴィランもあったもんじゃないしな」
「ま、本物の核兵器ならあの程度の瓦礫で壊れたりはしないし、核爆発は核分裂物質を臨界に持っていくための精密機械だからむしろちょっと壊れただけで爆発しなくなるんだけどな。言わずもがな放射性物質が漏れて被ばくする可能性があるからおすすめはしないけど」
「なんか恐ろしいこと言いだしたぞコイツ!」
「訓練だからそこまで細かく考えなくていいだろ!そこまで言われるとおっかなくてヴィランも核兵器に触りたくなくなるわ!!」

 切島と瀬呂が息の合ったツッコミを入れてきたが、何故かその後ろで八百万と砥爪が「そこまで想定しているとは……一手上を行かれましたわ」とか「次の試験ではもっと爆弾に細かな設定が入るかもしれんな……」とか生真面目な顔で呟いている。おまえら真面目か。真面目過ぎて適当とテキトーの違いを事細かに聞いてきたり言葉の誤用を逐一指摘している文系か。そこまで気を張り詰めてもいいことないから息を抜きなさい。

「で、緑谷。今回はなまじ相手のことを分析して予め知ってたからある程度上手くいったけど……計算尽くだったとは言えコントロール不能の個性ぶっぱなして建物に大穴空けたのが減点だね。あれ、最悪自分に瓦礫が降り注ぐよ。まぁ切れる手札が少ないなかであんだけ作戦を考えたのは一定量評価してもいいと思うけど…………やっぱ『個性』の使用一回につき腕をグチャグチャにしちまうのが、そもそもヒーローとして致命的だよなぁ」
「ああ、それは本人も気にしていたな。相澤先生にもきつく言われたと聞いている」
「ふーん、飯田は緑谷とよく喋るんだな……っと、それはいいとして。戦うたびに自分が要救助者になるんじゃ、助けてるのか助けられてるのか分かったものじゃない。ヒーローは体が資本……可能な限り少ないダメージで目的を達成できないのは未熟者の証に他ならない」
 
 ごめんこの場にいないデクくん。悪いけどボロクソ言わせてもらいました。君の事は個人的にはファンだけど、俺も根っこの部分では相澤先生と同意見なんだ。今の君には限りなく出来ない話なのも知ってるけど……俺、甘やかさないよ。事実は事実だからね。
 ただ、デク君への指摘の一部がオールマイト先生の胸をザクザク抉っているのかさっきから濃ゆいスマイルの端っこが微かに震えている。いや、責めてる訳じゃないんですよ?確かに貴方のデク君に対する指導力は心構え以外がボロカスですけど。

「で、最後に飯田だけど………判断、行動ともに状況に合ったものだった。最後の彗星ホームランで怯んだ隙を突かれたのはいいとは言えないけど、あれはそもそもヒーローが犯人の近くにある爆発物に対して行う行為としては不適切すぎるしなぁ」
「全くです。あれは完全に核が本物ではないと分かっているから出来る反則技のようなものですわ。核兵器であるという大前提を忘れていなかった飯田さんが責められる謂れはないです」
「ん。まぁ訓練だからという部分を是にするんであればちょっと柔軟性に欠けるのかもしれんけど、どっちにしろ今回の戦いで一番しっかりしてたのは飯田だったと思う。俺が言えるのはこんな所までかな。どうでしょうか、オールマイト先生」
「…………………私の言うことが無くなってしまう位には、正解だよ……くぅぅ……!!」
「な、なんかすいません」

 あんまりにも残念そうにしているので反射的に謝ってしまった俺は悪くない。先生だって悪くない。悪いのは俺をたっくん呼ばわりして空気を読まずに台詞ぶっこんできた透明なアイツのせいだ。許すまじインビジリブルガール。文句の一つでも行ってやろうと歩みを進めようとすると、肩を叩かれた。
 振り返るとそこにはミス発育の暴力にして原作台詞をほぼ丸ごと取られた八百万の真剣な表情があった。

「……水落石さん。私は貴方に謝らなければいけないことがあります」
「えっっと、心当たりがないんだけど……何を謝るの?」
「私は水落石さんのことを試験終了後には寝て、授業の合間には寝て、時々食事をとりながら寝ている非常にやる気のない不真面目な生徒だと思い込んでいました。……申し訳ありませんでした」
(ひでぇ。なにがひでぇって俺の行動が間違ってないのがひでぇ……)

 頭を下げて謝る八百万だが、むしろ俺が謝りたい件について。
 はい、個性の関係でどこでも寝る技術が身についたのでしょっちゅう寝てます。葉隠と常闇にも何度か言われ、寝ているうちにいつの間にかB組の物間にスゲェ敵視されたりしてます。何故ならそう、寝ているという時点で周囲をナメくさってるようにしか見えないからです。

「………実際の貴方はあんなにも深い洞察力で私の言いたかったことを悉く言い当てたどころか、むしろ私以上に真面目にあの4人の考察を語って見せました。正直、悔しかったですわ。でも同時に自分が知らぬうちに思い上がっていたことにも気づきました」
「そ、そうか。まぁ慢心はよくないな。大体悪い結果を運んでくるし」
「はい。なので謝罪と同時に感謝もしなくてはなりません……雄英の栄えある生徒としてあるまじき慢心に気付かせてもらい、誠にありがとうございました!!」
「えぇ………いや、俺別に何もしてな……」
「こうでもしないと私の気が済まないのです!!」

 ビシィィィッ!!とジャスト45度に曲がった美しいお辞儀。むしろ俺が悪いのに何なんだこの人は、なぜ俺に頭を下げる。まるで意味が分からんぞ!そして周りの人たちがめっちゃ見てるから頭を上げてください。

「たっくんが(もも)ちゃんを舎弟化してる!?」
「水落石、お前そういう趣味が……」
「あるかっ!あとお願いだからもうたっくんはヤメロォ!現時刻を以って封印してくれぇ!そして八百万も気持ちは十分伝わったから頭上げてくれないかな!?」
「み、水落石さん………こんなにも失礼な私をもう許してくれるなんて、なんと器が広い………!!」
「収集がつかない……い、飯田!なんとかしてこの状況を静め……」
「実はぼ……俺も八百万さんと同じことを考えていた。俺は最低だ。俺にも謝らせてくれ!!」
「ヒィィィィ!!カオスが止まらないぃぃぃぃ!!」

 このカオスな空気はオールマイトが大きな大きな咳払いをするまでしばらく続いたのであった。



 八百万百の好感度が上がった!!
 飯田天哉の好感度が上がった!!

 麗日お茶子に苦手意識を持たれた!!
 オールマイトに苦手意識を持たれた!!
  
 

 
後書き
ついでに喋りすぎて周囲から「実は絡みづらいヤツ?」って思われてます。自業自得だよね。


おまけ

八百万「あの……」
水落石「ん?」
八百万「私も、その……たっくんって呼んでもよろしいでしょうか……?」
水落石(ものすごく呼んでみたそうにモジモジしてるーーーっ!?)

 ピュアセレブのお願いを断り切れなかった水落石はせめて、と「皆が聞いていないときだけにしてくれ」と頼むのだが、これが「二人きりの時はいいよ」と言っているのと同義だったことに気付くのはまだまだ先の話……。 
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