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【WEB版】マッサージ師、魔界へ - 滅びゆく魔族へほんわかモミモミ -

作者:どっぐす
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第一部
第四章 魔族の秘密
  第52話 ルーカスの話

 ぼくが切り込むと、ルーカスは完全に体をこちらに向けた。

「ふふふ。その分だと、何か掴んだのだな。どこまで知ったのだ?」

 ぼくは今までまとめてきた考えを彼に伝えた。

 身体的な所見から、魔族は人間の進化形であろうということ。
 勇者の兜に『オスカー・リンドビオル』という製作者とおぼしき刻銘があり、その姓の希少さから、ルーカスのご先祖様の可能性が濃厚だと思ったこと。

 そうなると、魔族は二千年前よりも前、人間と混住していたという可能性が高いのではないかと考えたこと。
 そしてその考えをイステール国王にぶつけてみたら、やはり正しかったということ。

「……ふむ。少ない材料でよくそこまで考えたな。見事だ」

 ルーカスは感心したようにそう言う。

「でも、そのことはイステールの国王とその側近くらいしか知らないようだったんだ。勇者やその仲間は知らないようだったし、一般人も歴史書に記載がないので誰も知らないみたいで。
 魔族のほうにも歴史書に記載がないよね? 魔王以下、全員知らない――ルーカスただ一人を除いて。その認識で正しい?」

「まあ、おそらく正しいな」
「それって不自然だよね」
「ふふふ、その通りだな」
「事情を詳しく教えてもらうことはできるの」

「……興味があるのか?」
「まあ、ルーカスがすべて知っていて隠していた理由も含めて、ちょっとは興味あるね」

 ルーカスはまた少し笑うと、「いいだろう。知っている限りを教えよう」と言って話し始めた。



 ---



 二千年前、魔国が建国されたのは、決して積極的な理由ではなかったのだ。

 お前の推測したとおり、それ以前は魔族と人間は混住していたらしい。
 どちらも同じ「人」として生活していたわけだな。

 魔族はある瞬間に突然多数生まれた生物などではない。
 長い年月をかけて人間から徐々に発生したものだ。
 気づいたときには、この世界には「目が赤く魔法が使える人」と「目が青や黒で魔法が使えない人」の二種類がいたということになる。

 最初はお互いうまくやっていたのだろうと思う。
 だが、あるとき「目が青や黒で魔法が使えない人」は思ってしまったのだろう。
「自分たちは、進化できなかった『劣った生物』なのではないか」
 と……。

 身体的には完全に下位互換なわけであるから、そのような考えが出てくることは必然だったのかもしれないな。
 その思いは強烈な劣等感に成長し、「目が赤く魔法が使える人」、つまり魔族に対する激しい迫害が起こるようになった。

 そのとき問題解決のために奔走したのがオスカー・リンドビオル――私のご先祖様だったそうだ。
 当時世界一の武器職人として抜群の知名度を誇っていた彼は、各地の同胞の意見をかき集め、各国の代表者――人間と交渉を重ねた。

 そして、この大陸でまだ開発が及んでいない不毛な地帯に、魔族だけの単一種族国家を樹立する――
 それが折り合った結論だった。

 しかしそのとき、人間側から条件が付いたそうだ。

 魔族を過去の大陸の歴史から抹消し、それまで存在しなかったことにすること。
 人間の国を侵さないと約束すること。
 魔法の効果を打ち消す魔化装備一式を納品すること。
 この三つだ。

 なぜそんな条件を付けたのか?
 これは私の考察ではあるが……結論から先に言うと、この条件は将来的に魔族を滅ぼすことを考えていた人間側の周到な準備だった、ということになると考えている。

 魔族だけの国を作る――それは確かに、迫害されていた魔族の悲願だったのかもしれない。
 だが人間にとっては、魔族をまとめて消すために好都合な『隔離』の意味でしかなかったのだ。

 当時の魔族は人間に混ざっていたわけだから、人間と同じレベルの技術も持っていただろう。
 そこからさらに魔法を上乗せしたような生活ができた。

 百階建ての魔王城を見たとき、その建築技術に驚かなかったか?
 今の魔族はあのような建物を造ることはできない。
 あの城は当時の人間の技術力と魔族の魔力、その融合によって生まれた奇跡の建築。
 当時の魔族の力が人間よりも上だったことを示すよい証拠だ。

 隔離した魔族をすぐ滅ぼすということは骨が折れる――
 そう判断した人間は、ひたすら待つという方針にしたらしい。

『人間の国を侵さないと約束すること』

 魔族はそれを律儀に守った。
 だがこの約束自体が、「魔族が単一種族で生活を続けていけば、いずれ没落していく」と確信していた人間の罠だったわけだ。
 待っていれば魔国は勝手に弱体化し、そのうち野心のある人間の国王が即位すれば魔国を滅ぼすだろう――ということだな。

 事実、魔族は魔法の力に頼ってしまうため、世代を重ねるごとにレベルが下がっていき、種族としての地力はどんどん落ちていった。
 一方、人間側はそれまでと変わらない努力をし、発展を続けた。
 また、過去の歴史から魔族の存在を抹消したことにより、完全に魔族を『外の生物』とすることにも成功した。

 そして三十年前。
 機は熟したと判断したイステール国王の呼びかけにより、人間は満を持して魔国に攻め込んできた、というわけだ。



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