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【WEB版】マッサージ師、魔界へ - 滅びゆく魔族へほんわかモミモミ -

作者:どっぐす
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第一部
第四章 魔族の秘密
  第43話 悪魔の遊び

「魔族が人間の進化形……たとえそうであろうが、それが我々よりも上位であり敬うべき存在であることを意味するわけではあるまい。
 奴らが滅ぶということがその証明だ。劣っている生物だから滅ぶのだろう? 違うか?」
「……」

「もしお前がそれを根拠にこの戦をやめさせようとしたいのであれば、それは不可能だ。
 そんなものは奴らに遠慮する理由などにはならぬ。余としては粛々と『領土回復運動』を進めるだけだ」

「あー、その『領土回復運動』なんですが。魔族の宰相は『我々がいつ人間の領土を侵したというのか』と言ってましたよ」

 あの宰相は極めてウザかったが、嘘をついているようには思えなかった。
 魔族側の主張のほうが正しい可能性が高いような気がしている。

 国王の反応を待っていたら、また笑い出した。

「フハハ。そんなことまで聞いておったのか。奴隷だと聞いておったので少し甘く見ておったわ。奴らの上層とそんな話までしていたとはな」

 それは戦でクソ忙しい時に宰相が一方的に話してきたことだったが、まあそこは置いといて。
 やはり魔族側が正しかったようだ。

「しかしマコトよ。そなたはなぜそんなことを気にするのだ? どのみち――」
「どのみち、ぼくは処刑されるので関係ないのに、ですよね?」
「フハハハ」

「むしろ処刑されるから、なんですよ。
 魔族のみんなはぼくの大事な患者さんです。もう一年以上見てきまして、一方的に悪者にされるべき種族だとはとても思えません。
 そのあたりをはっきりさせておいたほうが安心して死ねるというものです」

 ぼくはこの世界の歴史にそこまで興味があるというわけではない。
 だが、魔族側は侵略される側であり、あくまでも被害者だったという事実は確定させておきたかった。

 魔族に性悪な人はいなかった。
 少しおバカキャラが入っていたり、のほほんとしている人が多かったが、ある意味純粋で、悪人だと思う人はいなかった。

 宰相だって決して好きな人物ではないが、邪悪さを感じたことはない。
 治療院でも数えきれないくらい沢山の患者を診たが、今まで「嫌な患者だなあ」と思う人が来たことは一度たりともなかった。
 たしかに人間の捕虜は殺されていたようだが、それは人間が同じことをしていたからだろう。

 魔族が過去に人間側へ不当に侵攻し、その報いを受けているという設定――それは自分のイメージとは全く合わないものだったのだ。

「三十年前に国王だったのもあなたですよね? なぜ魔国への侵略を始めたんですか」

 国王は足を組み、玉座の肘掛けに肘をついた。

「フフフ。余はな、楽しいことが好きなのだ」

 耳を疑うような言葉。
 いつのまにかうつむいていた隣の勇者が、ハッと頭を上げたことがわかった。

「は? それが理由なんですか?」

「うむ、そうだ。魔国は滅ぼせる状態と判断した。ならば滅ぼしたほうが楽しいだろう? まあ我々の先祖たちも魔族根絶を望んでいたというし、ちょうどよかったのではないか。
 もっとも、余はもう魔族に対する戦争については興味が薄れつつあるがな……。もはや魔族が滅ぶのは時間の問題。頭の中はもう次に進んでおる。次は大陸全土統一に向けて動き出すことになるだろう」

 完全に開き直った。
 正当な理由もなく、楽しみのために征服戦争をしている。
 そして適当なスローガンで大義を確保し、民衆を納得させた。そういうことなのだ。

 勇者は呆然とした感じでデビルスマイルの国王を見つめている。
 このあと彼女は厳しく口止めされるに違いない。気の毒に。

「なるほど。そこまで言われると、もう何も言い返しようがないというか」
「フハハハ。お前はものわかりも悪くないな。さて、もうよいかな。なかなか楽しい時間だった……それは感謝しよう。処刑は……そうだな、いつ行おうか」

「陛下!」

 いきなりの大きな声でびっくりした。声の主は勇者である。

「何だ?」
「お慈悲を……頂くわけには参りませんか」

 いや、この状況でそれはないでしょうに――思わずそう突っ込むところだった。
 いくらなんでもそれは無理だろう。
 国王を見るとやはり半分呆れたような表情をしていた。

「勇者よ、そなたはこの前もこやつを牢から出すよう陳情に来ていたが……」
「はい」
「個人的な感情が入っておるのではないか?」
「い、いえ、そんなことは」

 個人的な感情とは何だろう?
 頭の中でそう考えながら国王を見ると、隣でしどろもどろな勇者のほうを見下ろしながら、「フム……そうか……なるほど」とつぶやいていた。

 そして国王はまたニヤリと気味悪く笑った。

「よし、では勇者よ」
「はい」
「国王として命令する。今この場でそなたがマコトの首を斬って処刑せよ」

 勇者が「えっ」という声を上げ、ぼくのほうに視線を向けた。
 そしてそのまま固まる。

 あ、これはまずい――そう思った。

「あの、彼女は勘弁してやってくれませんか。たぶん、本人はそういうことをやりたくないだろうと思うんで」
「フハハ、お前に決める権利などあると思ったか?」

「……。これも『楽しいこと』なんですか」
「そうだ。今思いついたにしては上等だとは思わないか?」
「あなたは……」
「さあ勇者よ、やるがよい」

 国王は勇者に再度声をかけ、斬首を促した。

 勇者は立ち上がる。
 だが、剣は抜かなかった。

「陛下、やはりお慈悲は――」
「フハハハ。その者は異端だ。人間でありながら魔族に魂を売った裏切者だ。そうだろう? 慈悲をかけるべき正当な理由があるのであれば教えてほしいものだ」
「……」
「どうした? その伝説の剣で首を斬り落とすがよい」

 これはどうにもならなそうだ。この国王がここまでイカレているとは。
 完全に予想外だった。

「ごめんよ、嫌な役をやらせちゃってさ」

 処刑は別に構わないが、まさか彼女にやらせる流れになるとは思わなかった。
 とばっちりを受けた形になった彼女が気の毒に思ったので、ぼくは彼女に謝った。

「マコト……キミは……」
「きみには悪いことをしたと思ってるよ。処刑なんて勇者のやることじゃ無――」

 あっ、と思ったときには左耳に大きな衝撃を感じた。
 直後に頭が床にぶつかったであろう強い衝撃。
 それにほんの少し遅れて、ヒリヒリとした痛みと、左耳が遠くなったような感覚。

 ……ああ、殴り倒されたのか。

 頬を押さえながら起き上がり、あぐらの体勢になる。
 そして手から離れて床に落ちた兜を再び抱えた。

「なんかきみにはしょっちゅう叩かれている気がするなあ」
「キミがバカだからだよ!」
「今謝ったじゃないか。嫌な役をやらせちゃって悪いとは思ってるよ」
「そこじゃない……」
「よくわからないけど。さあどうぞ」

 ぼくのほうからも急かしてみた。
 ここで勇者が躊躇している時間が長いと、彼女自身の身も危なくなってくると思った。
 あぐらのまま姿勢をただし、それっぽく目を瞑ってみる。

「キミは……バカだ……」

 勇者が剣を抜く音が、ズドーンと。

 そう、ズドーンと。

 ……って、あれ? 音がおかしくない? 
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