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【WEB版】マッサージ師、魔界へ - 滅びゆく魔族へほんわかモミモミ -

作者:どっぐす
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第一部
第三章 領土回復運動
  第27話 ルーカス、昇進

「ルーカス様、参謀長就任おめでとうございます」
「おめでとうルーカス」
「ふふふ、ありがとうシルビア、マコト。今後も魔国と魔王様のために『粉骨砕身』といこうではないか」

「人間の世界で『身を砕くほど懸命に働く』という意味でしたわね」
「そうだ。さすがは魔国一のメイド、よく覚えているな」
「ウフフ」
「ふふふ」

 豪華なディナーを囲み、いつものカップルが気持ち悪く盛り上がっている。
 明日リンブルクに向かうので、家でミニ前夜祭をおこなっているところだ。

「マコト様もおめでとうございます」
「え、なんでぼくまで?」
「主人の慶事は奴隷の慶事でもありますわ。つまりマコト様の慶事でもありますのよ」
「……? ではありがとうございます」
「ウフフフ」

 よーわからん……。



 ルーカスは特に先の戦で大功があったわけではないが、参謀長に昇進した。
 つい先日、元々参謀長だった人物が、思い出したように「前回の敗戦の責任を取りたい」と申し出て辞任。空席となっていたためだ。

 それはちょうど、「人間がふたたび魔国侵攻の計画を立てている」という情報が入ってきたタイミングと一致している。
 前任者は逃亡したという解釈でよいだろう。

 噂によれば軍司令長官メルツァーも駆け込み辞任を検討していたらしいが、参謀長に先を越されたため、ダブル辞任はまずいということで留任したそうだ。

 先の戦いの戦前の会議を見ていてもよくわかったが、軍上層部のやる気のなさと責任感の欠如は、少々まずいレベルにある。
 今回のルーカスの謎昇進も、誰もやりたがらず「あいつにやらせましょう」と押し付けられた結果――そう思わざるをえない。

 まあ、とりあえず。
 どんな経緯にせよ、ルーカスは司令長官であるメルツァーに最も強く意見できる立場となった。頑張ってほしいとは思う。

 彼の良いところは、このような無責任な振り方をされても、なんの不満も言わないことだ。
 彼は変人である。いわゆる「かぶき者」のポジションであり、ちょっとおかしい人のように思われている。
 そのせいで、今まで彼の意見が通ることはあまりなかったらしい。

 それなのに、ここにきていきなり参謀長になれと言われても、
「これまで私の言うことを聞かなかったくせに、今さら何だ」
 とはならないようなのだ。

 参謀長の内示を受けた瞬間から、張り切って立案に頭を働かせている。
 建設的でポジティブなその思考回路。素直に凄いと思う。

 いっそのこと、ルーカスが軍司令長官になって魔王軍の指揮を執ったほうがいいのでは? とすら考えてしまったりもする。
 まあ、彼は抜けている部分も多くあると思うので、優秀な副官を付けることが絶対条件ではあるけれども。



 ***



 魔王軍の増援部隊は予定通りに王都を出発し、予定通りに現地に到着した。

 城塞都市リンブルク。
 その名のとおり、町の中心部ごと堅牢な城壁で囲んだ都市である。

 今回は情報を早めに掴んでいたため、準備は万端だ。
 すでに住民はみな城壁の内側に避難している。
 食糧や武器などの必要物資も、すべて中に準備済み。

 軍もすでに城壁に配置し終えており、いつでも戦える状態だ。
 第二師団、第三師団、第六師団、第九師団の計四個師団。
 魔王親衛隊も合わせ約一万三千人での籠城戦となる。

 ぼくらの魔力回復チームは、城壁にある塔のところにいる。
 城壁の上から魔法攻撃をする部隊を支援する予定だ。

「マコト、がんばろー」
「ええ。がんばりましょう」

 相変わらずな、カルラのゆるいかけ声。
 今回は弟子たちを全員連れてきている。
 せっかく育てている弟子に、もしものことがあったら――そう思うので、ぼくはあまり乗り気ではなかった。

 だが、このリンブルクが陥落すると魔国はいよいよまずい。
 ルーカスからは「少しでも戦力になる以上は連れていくしかない」と言われた。
 仕方がない。

 弟子はいずれも優秀だが、まだ施術の魔力回復効果はぼくよりも低い。
 特に魔力回復を目的とした戦場での施術については、短時間で最大の効果を出さなければならないので、弟子たちはどうしても不得手となる。

 具体的には経穴を使った素早い施術が求められるわけだが、取穴――ツボを正確に見つけること――は経験がモノをいう。なかなか一朝一夕に身に付くものではない。
 もしかしたら、一番弟子のカルラでも、まだぼくの半分程度の効果しか出せないかもしれない。

 ギリギリまで取穴の指導をすべく弟子たちに練習させていると、見覚えのある初老の男性がやってきた。

「ククク、マスコットよ」
「マコトですって、宰相様」
「どちらでもよいが……魔国に必要なのはあくまでお前の技術であって、お前ではない。少しばかりチヤホヤされたからと言って勘違いするでないぞ?」

 そう、今度は宰相も来ている。なぜなのかは全くわからない。

「今回はお前の施術と、お前に強化してもらった兵士がある。そして魔国一である私の頭脳がフル活用できる環境だ。勝てると確信している」

 ルーカスはそう言っていた。今回の戦、かなり自信があるようだ。

 人間の大軍が、もうすぐやってくる。 
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