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【WEB版】マッサージ師、魔界へ - 滅びゆく魔族へほんわかモミモミ -

作者:どっぐす
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第一部
第二章 魔族YOEEEEE
  第22話 ぼくは、人間

 空中の火炎の塊から、火炎の棒のようなものが無数に発射された。
 それはまるで、火魔人が怒り狂って火の槍を投げつけているようにも見えた。

 そして火炎の塊本体は、勇者めがけて高速で突入していく。

 勇者が盾を構えるところまでは、見えた。
 しかし直後、爆発のような大きな音がして、思わず目をつぶってしまった。



 ……。

 爆音が消えた。
 フルフェイスの兜なので安全なのだが、恐る恐る目を開ける。

 な、なんだこれは……。

 一面、燃えている。
 木、草。そして散乱したゴミだろうか?
 何が燃えているのかわからないほど、一面燃えている。
 景色が様変わりしすぎていていた。

 テレポートしたと言わたら、信じてしまうかもしれない。
 ……そこに立っている金髪長身の魔族と、盾を構えたまま立っている勇者がいなければ。

 他の人間四人はいない。
 ぼくの少し前方の地面に、剣が落ちている。人間の一人が持っていた剣だ。
 勇者以外は全員吹き飛んだということだろうか。

 あ、いた……。
 全員、勇者が立っている位置からかなり離れて、放射状に倒れていた。
 体からは黒煙が上がっている。
 ピクピクとはしているが、今すぐ起き上がるのは不可能に見える。

「やはり勇者だけは耐えたか。さすがだな」

 ルーカスは自ら作り出した光景を眺め、そう講評した。
 勇者は盾を顔の前から外した。
 よく見ると、少し鎧や盾から黒煙が出ている。

「……この化け物がっ!」

 勇者は眼前の景色を見るや否や、叫んでルーカスに斬りかかった。
 ルーカスは右手を動かし、魔法で――。

 ……あれ?

 彼は魔法を撃たず、その右手で剣を抜いて勇者の一撃を受けた。
 一転して剣技のみでの戦いが始まる。

 なぜ? 魔法はどうしたんだろう。まさか……。
 ぼくは不安になり、近くの地面に落ちていた人間の剣を拾った。

 やはり単純な剣技のみの勝負では分が悪いようだ。素人目にもルーカスは押されている。
 あぶない。

 彼は正々堂々云々言っていたような気がするが、彼は盾を持っていないので次の一撃を防げない。
 ぼくも加勢しないと。
 剣なんて、初めて握るけど……。

 勇者の振り上げでルーカスの剣が弾かれた。
 ぼくはその一瞬前から飛び出していた。
 勇者が振りかぶった。

 ――間に合う。

 大きな金属音がした。
 ルーカスと勇者の間に割り込んだ剣。そこで勇者の剣が止まった。

 ぼくの肘まで激しい衝撃が伝わる。
 魔化されたこのヨロイじゃなかったら、防げなかったと思う。

「邪魔をするな!」

 勇者が、とめられた剣を横に払ってきた。
 剣の動きが速すぎて反応できない。
 絶対にしてはいけないことなのだろうが、目をつぶってしまった。

「うあっ!」

 ガキンという金属音。そして首への強い衝撃。
 ぼくは吹き飛ばされた。地面に尻餅をつく。

 ――しまった。兜が。

 まともに喰らったためだろう。兜が飛ばされ、横に転がった。
 頭を守るものがなくなったが、追撃を防ぐべく立ち上がり、素顔のまま勇者と対峙する。
 ……が、追撃は来なかった。

「お、お前は……人間……?」

 目の色でわかったのだろうか? 勇者の動きが止まった。

「うん。ぼくは人間だよ」
「な、なぜ……」

 口元も兜で隠れているため、表情はわからない。
 だが勇者は一歩、二歩とジリジリ下がっていく。

 明らかに動揺している。チャンスだ。
 ぼくは兜を拾い上げた。

「ルーカス! 逃げよう」

 ぼくは彼の返事を聞かないまま、彼の腕を取った。
 そして背後の、森が深そうな方向へ走り出した。



 ***



 しばらく、森の中を必死に走った。
 最初は明るかった景色だったが、徐々に鬱蒼としてきた。

「マコトよ。おそらくもう大丈夫だ。勇者はヤケドの四人への看病もあるので追撃できないだろう」
「うん」

 ぼくらは全力疾走をやめ、歩くことにした。

「ルーカス……さっき、魔力切れたんでしょ」
「ふふふ、バレては仕方ない。お前のおかげで助かった。感謝する」

 なんでニヤニヤしているんだこの人は……。
 彼はずっと治癒魔法班の手伝いをしていた。勇者とやり合ったときは、最初から魔力が枯渇気味だったのだろう。

「魔力がないのにあんな派手な召喚魔法を使うとか。どういう神経してるの」

 もっと他に魔法のチョイスがあったのではないだろうか。
 さっきのは派手なだけで、エネルギー効率は悪そうな魔法だった。

「む? 召喚魔法?」
「違うんだ? 火魔神みたいな形してたから。イフリートってやつに見えたけど」
「ああ、あれは違うぞ。ただの火魔法だ」
「え?」

「ふふふ、私は魔法の扱いが自由自在すぎてな。私の手にかかれば、炎もあのような美しい姿に整形できるのだ。そして凝縮させたり爆発させることも意のままだ」
「あ、アホや……」

 なぜ親の仇を目の前にして芸術性を重視しているのか。

「ふむ。よいところを見せようとして張り切りすぎてしまったかな」
「じゅーぶんに反省してちょうだい……」

 やっぱり戦場でも普段の様子と同じだ。少し抜けている。

「しかし、私からするとお前も十分に不可解だったが」
「なんで?」
「人間と戦うことに……躊躇はなかったのか?」
「あー。そういえば、なかったね。なんでだろう。それどころじゃなかったからかも?」

 それは本当だった。そんなことを考えている場合ではなかった。
 まあなんとなく、じっくり考えたとしても結果は変わらなかった気もするが。

「ふむ、そうか。ところで」
「ところで?」
「このような深い森の中はな、我々魔族も、人間も、あまり少人数では立ち入らぬのだ。モンスターが出て危ないからな」

 ……。

「だからああー! そういうのはああ! 早く言ってええ!」 
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