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立ち上がる猛牛

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プロローグその四

 だが、だ。西本はだ。肝心の彼はどうかというとだった。
 やはりだ。現場を望んでいた。しかし阪急はもうだ。
 次の監督が決まっていた。上田だ。上田に決まっていて西本はフロント入りが決まっている。そのことはどうしようもなくなっていた。
 阪急側も対応に苦慮した。その中でだ。
 小林はだ。遂に決断を下したのだった。
「西本さんの意思を尊重しよか」
「そうしますか」
「西本さんの希望をですか」
「ここはそうしますか」
「阪急をここまで強くして五回も優勝させてくれた人や」
 しかもだ。多くの選手を育ててきた。その功績を考えればだ。小林にしても彼の意思を尊重せざるを得なかった。それにだった。
 小林はだ。こんなことも話すのだった。
「それに西本さんには現場の方が似合うかも知れんな」
「フロントよりもですか」
「やっぱり監督の方が似合ってますか」
「そうですか」
「そう思うわ。まあ西本さんが近鉄の監督になれば近鉄は強くなる」
 そのことは阪急側から見れば確実と言えるものだった。何故なら西本が今の強い阪急を作り上げたからだ。かつての弱小球団だった阪急を十一年の間に五度も優勝できるチームにした。その手腕を知っているからだ。
 だがそれでもだった。小林は決断したのだ。そのうえで側近達に話した。
「近鉄さんに話しよか」
「わかりました。それでは」
「話を進めましょうか」
 彼等も納得してだ。そのうえで西本が近鉄の監督になる話を進めるのだった。
 こうしてだ。十一月十六日にだった。大阪梅田の新阪急ホテルにおいてだった。
 近鉄と阪急が共同でだ。記者会見を開くと発表したのだ。 
 そのことを聞いてだ。記者達はだ。狐に摘ままれた様な顔になってだ。それぞれ話をするのだった。
「近鉄と阪急が共同でか」
「また何やろな」
「何をするか検討がつかんな」
「ほんまやな」
 彼等にしてもだ。検討がつかない話だった。しかし記者会見を開くとなればだった。
 彼等にしても仕事だ。会見の話を受けるのだった。こうしてだった。
 その会見の場に出席し話を聞く。その場でだ。
 双方はだ。驚くべきことを発表したのだった。これには記者達もだ。 
 唖然となってだ。双方の代表にだ。問うのだった。
「それ、ほんまですか!?」
「西本さんが近鉄さんの監督にですか」
「阪急さんの監督からですか」
「近鉄さんの監督に」
「はい、そうです」
「そうなります」
 双方の代表がだ。驚く記者達に答えるのだった。
「西本さんはまだまだ現場で働きたいと仰ってるので」
「そうなりました」
「それで近鉄さんにですか」
「阪急さんから」
「ライバルチーム同士でそうなるんですか」
「それはまた」
 記者達は驚きを隠せずそして消せなかった。しかし話は事実だった。記事にせざるを得ないものだった。こうしてだった。
 次の日の新聞の一面はだ。そのニュースのことで埋め尽くされていた。西本が近鉄の監督になる、このことには誰もが目を丸くさせた。
「西本さん、今度は近鉄の監督かいな」
「またえらい話になっとるで」
「近鉄は優勝できそうで急に負けるチームやけれどな」
「どうなるかな」
 多くの者は近鉄がどうなるか想像がつかなかった。だが、だ。西本、そして近鉄をよく知る者はだ。こう確信して言うのであった。
「近鉄、絶対に強くなるで」
「そやな。西本さんがあの連中育てるんや」
「近鉄、凄くなるで」
「優勝するで」
 確信している言葉に他ならなかった。しかしそうなっている者は僅かだった。西本が近鉄の監督になろうともだ近鉄は変わらないとさえ思っている者も多かった。しかしそれでも西本が近鉄の監督に就任することは事実だった。何かがだ。確実に動こうとしていた。それは大きなうねりであった。


プロローグ   完


                        2011・5・30 
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