| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

百人一首

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

66部分:第六十六首


第六十六首

                第六十六首  前大僧正行尊
 ここに来たのはあくまで他の理由からだった。
 言い訳ではなくて本当のことだからあえて言うけれど。
 ここに来たのはあくまで修行の為だった。この生涯を仏門に捧げることに決めているのだから。だからこそこの山に来た。
 桜を探しに来たわけではない。確かに桜は好きだけれど。
 この山深い霊山で一人こもって修行する為にここに来た。桜のことは考えもしなかった。そのつもりでここに来た。
 けれど。それでもだった。
 もうすぐ春が変わり桜は散ろうという時になろうとしているのに。
 桜は残っていた。その華やかな姿を見せてくれている。
 ふとこう思いもした。図々しい考えではあるけれど。
 桜は待っていてくれた。散らずに待っていてくれた。自分がここに来るまで待っていてくれた。
 そう考えると気持ちが楽しくなる。図々しい考えだけれどそれでも桜を見ることができたのが嬉しいから。
 だから今この歌を謡った。桜のことを思い謡ってみた。

もろともに あはれと思へ 山桜 花よりほかに 知る人もなし

 山桜は今も咲いている。咲き誇っていて山に入った自分を楽しませてくれる。修行の為に来たのだけれどそれでも。桜を見てその美しさに触れて。心が和やかで楽しいものになってしまった。今その気持ちを謡った。謡わずにはいられなかった。この桜を見ているとどうしてもそうせざるを得なかった。


第六十六首   完


                 2009・3・4
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧