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死にゆく街

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第一章

                 死にゆく街
 この時ロンドンは文字通り腐っていた、それは文字通りであった。
 街には汚物が溢れ返り鼠達がその中を走り回っていた、そして黒死病が流行り多くの者が息絶えるか息絶えようとしていた。
 そのロンドン、国教会の牧師であるジェライント=ボストリッジは道の端の汚物と鼠達、そして肌を黒く変色させ死相を浮かべて歩く人々を見てだ、教会に来ている医師アンドリュー=キャロルに問うた。
「どうにかなりますか」
「残念ですが」
 その茶色の髪を伸ばした彫のある黒い瞳の顔を横に振ってだ、キャロスはボストリッジの引き締まった牧師というよりは騎士に見える青い瞳が目立つ顔を見て答えた。背はキャロルの方が幾分か高いがボストリッジの見事な金髪と引き締まった体格はかなり目立っている。
「どうにもなりませ
ん」
「そうですか」
「はい、我々も黒死病について調べ」
「治療方法を探していてもですか」
「それでもです」
「どうにもなりませんか」
「はい、噂ではです」
 ここでだ、キャロルはボストリッジに話した。
「黒死病は火、酒に弱いといいますが」
「酒と、ですか」
「火です」
「その二つですか」
「はい、ですが」
 キャロルは顔を曇らせてだ、ボストリッジにこうも言った。
「そのどれもがです」
「酒を手に入れるにしましても」
「それで道や食器を洗うそうですが」
「そうした使い方をしますと」
「酒が幾らあっても足りません」
「そうですね」
「それに火はです」
 キャロルはこれの話もした。
「何でも死体、そして汚物を焼くとか」
「そういったものをですか」
「焼くそうです」
「死体を焼くことは」
「とてもですね」
「出来ません」
 ポストリッジはこう返した。
「それはとても」
「神の僕の亡骸はです」
「土の中に埋めるべきですね」
「最後の審判の時まで」
「だからですね」
「そうしたことは出来ません」
 ポストリッジも難しい顔で言う。
「とても」
「しかしです」
「このままではですね」
「街が腐り果てます」
 黒死病、この病によってだ。
「そうなってしまいます」
「そうですね、ですが」
「それでもですね」
「酒はこの街全てを洗う酒はなく」
 そしてというのだ。
「火はです」
「使えないですね」
「はい、申し上げた理由で」
「では」
「何とか他の方法があれば」
「それで、ですね」
「ことを収めたいですが」
 ロンドンが滅ぶ、その状況をというのだ。
「そうしたいですが」
「ですが」
「他にはですか」
「はい、しかもこのやり方はです」
 酒と火、黒死病にそうしたものを使うやり方はというのだ。 
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