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殺せない

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第四章

「そんなことはしたくない」
「では我等も」
「少佐と共にです」
「最後まで戦います」
「誇りある死を遂げます」
「そうしよう」
 必ずと言うのだった、そしてだった。
 新山は部下達と共に戦い続けた、その中で部下は次々に死んでいき誰もが誇らしく死んでいった。
そのうえで。
 新山にだ、部下が言った。
「それは本当か」
「はい、間違いなくです」
 報告をする若い伍長は敬礼のうえで彼に言うのだった。
「我が国はです」
「降伏したのか」
「連合国に、そして」
「我々もか」
「投降せよとのことです」
「それは山下閣下のご命令か」
「はい」
 伍長は新山に沈痛な面持ちで答えた。
「司令部からのご命令です」
「そうか、負けたか」
「それでなのですが」
 伍長は新山にさらに話した、深い密林の中で。虫が左右に飛び回っていてその音だけでもかなり騒がしい。
「柊大佐ですが」
「連隊長もご存知だな」
「報告を聞かれて」
「まさか」
「立派なご最期だったとのことです」
「そうなのか」
 新山はその報を聞いてまずは顔を俯けさせた、そして。
 生き残っている部下達にだ、こう言ったのだった。
「皆投降するのだ」
「敵に白旗を掲げ」
「そのうえで」
「そうだ」
 こう言うのだった。
「いいな、師団司令部の命令通りにな」
「では少佐も」
「これより」
「いや、連隊長は自決された」
 ここで新山は顔を上げた、そして。 
 遠い目になりだ、こう言ったのだった。
「私もだ」
「少佐もですか」
「自決されるのですか」
「ご自身で」
「その時が来た」
 そう思ったが故にというのだ。94
「だからだ」
「ですか、ではここで」
「今からですか」
「そうする」
「では」
 ここでだ、生き残っている将校の一人がこう申し出た。
「介錯は」
「いい」
 新山はその部下の申し出に首を横に振って返した。
「それはな」
「ですがそれでは」
「私は私の手でカタをつける」
 こう言うのだった。
「だからいい」
「左様ですか」
「見ていてくれ」
 彼等に言うのはこうしたことだった。 
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