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左胸

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第四章

 そしてだ、そのチョコを受け取ってからやはり優しい声で言ったのだった。
「有り難う」
「はい・・・・・・」
 沙織は顔を真っ赤にして池田に応えた、そして。
 次のレッスンの時にだ、夏子にその話をした。すると。
 夏子はその沙織にだ、優しい笑みで言った。
「よかったわね」
「最高の気持ちです」
「そうよね、先生もその気持ちわかるわ」
「先生だからですか?」
「いえ、人生の先輩だからよ」
「先生じゃなくてですか」
「そう、人生の先輩だからね」
 それ故にというのだ。
「わかるのよ」
「人生の、ですか」
「そうよ」
「それはどういうことですか?」
「優木さんがもう少し大人になったらわかるわ」
 夏子はやはり答えなかった。
「その時にね」
「そうなんですか」
「ええ、じゃあレッスンをするわよ」
「はい」
 沙織は夏子の言葉に素直に頷いた、そしてだった。
 沙織はこの日も真面目にレッスンを受けてだ、その後で自分と入れ替わりに来た池田に頬を赤らめさせた。
 そうした小学生生活を送る中ではじめてのコンクールにも出てだった。
 ピアニストとしても成長していった、そして中学生になって。
 ある日だ、夏子に笑顔で言った。
「わかりました」
「ピアノのことじゃないわね」
「はい、小学生の時のことですが」
「あのことね」
「どうして胸が痛かったのか」
 微笑んでだ、ピアノに座ったうえでの言葉だ。もう弾く用意は出来ている。
「わかりました」
「そうなのね」
「あれがだったんですね」
「優木さんのはじめてだったのよ」
「そうでしたね」
「けれど今はどうかしら」
「あっ、今は」
 今の彼女はどうかとだ、沙織は夏子に恥ずかしい笑顔になって言った。 
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