| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

困った王子様

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

第一章

                 困った王子様
 クラウス=リッテンハイムはその国の第一王子、即ちこの国の第一王位継承者である。従って宮廷の中でも国民の間からも期待を一身に集めている。筈だが。
 彼についてだ、誰もがこう言うのだった。
「全く、殿下ときたら」
「いつもいつも」
「おかしなことばかりされて」
「困った方だ」
「あの方が王になられたらどうなるか」
「本当に不安だ」
 多くの者がこう言う、だが。
 当の王子はだ、いつも自信満々で学問にも武術の稽古にも励みだ、こう周囲に言っていた。
「私が王になればだ」
「はいはい、その時はですね」
「国は立派なものになる」
「そうなるというのですね」
「殿下がいつも仰っている通り」
「そうなるのですね」
「輝かしい時代になるのですね」
「そうだ」
 胸を張って言い切る、常に。
「まさにな」
「そのお言葉昨日も聞きましたよ」
「一昨日も」
「私今朝に聞きましたよ」
「いつも仰っていますが」
「その通りになるからだ」
 茶色のショートにした髪に手をやってだ、王子は言った。見れば。
 茶色のその髪は清潔でだ、鳶色の目の光は強い。日によく焼けた肌とそこそこの背に引き締まった顔立ちと身体つきである。服は白いズボンとシャツにブラウンのベストと靴にと質素で動きやすいものである。
 その彼がだ、こう周囲に言うのだ。
「私の言った通りにな」
「そうですか」
「だからなんですね」
「大丈夫だと」
「そう言われますか」
「そうだ、そなた達はだ」
 無意味なまでに輝かしい声での言葉だった。
「私に仕えている」
「そのことをですね」
「光栄に思え」
「生涯の自慢にせよ、ですか」
「そうだ、私は今も素晴らしいが」
 妙なポーズを付けつつ言う。
「永遠に進化していくからな」
「それで将来は、ですね」
「稀代の名君になられる」
「王の中の王になられ」
「帝国自体もですね」
「そうだ、皇帝陛下と帝室をお護りしてだ」
 彼の国を中に持つその帝国のというのだ。
「そしてだ」
「やがてはですね」
「王国の宰相ともなる」
「そうもなられる」
「進化し続けて」
「そうなるのだ、しかも私の進化は速い」
 その成長はというのだ。
「光速だ、努力が違うからな」
「他の者の十倍二十倍の努力」
「それを行われているからこそ」
「それで、ですか」
「名君、名宰相になられるのですね」
「その私に仕えているのだ」
 だからこそというのだ。
「生涯に渡って自慢せよ」
「はあ、それでは」
「そうさせて頂きます」
「それならです」
「一応は」
「謙遜はいい」
 一応という言葉への突っ込みである。
「素直に喜ぶのだ」
「わかりました」
 家臣達は呆れながら応える、そして。
 彼等だけになった時にだ、深い溜息と共に話した。 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧