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SAO─戦士達の物語

作者:鳩麦
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MR編
  百四十三話 収穫の丘にて

 
前書き
はい、どうもです!

というわけでMR編もいよいよ新章に突入してまいります。

題して『バーベキュー編』。ちなみに、鳩麦は正真正銘のバーベキューに行ったことがございません!

では、どうぞ!! 

 
「みなさん!BBQが、食べたいかー!!」
「「「「「おぉーーーー!!!」」」」」
「お肉が、食べたいかー!!」
「「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」」
高く可愛らしいハスキーボイスに続いて響き渡る野郎どもの蛮声に、アスナと隣にいるサチは苦笑した。

「みんな張り切ってるねぇ」
「お肉好きだもんね、特に男の子」
「ノリもいるんだよねぇ……」
男性たちに交じってマジ顔で右の拳を振り上げているスプリガンの女性を見ながら、アスナは苦笑する。さらに、男性たちの前で高めの切り株に上って頭に水色の仔竜を乗せたケットシーの少女を見た。

「ところで、なんでシリカちゃんが仕切り?」
「あはは……あの子結構食いしん坊なところあるから……」

────

京子との話し合いから二日の後、今日の森の家の前には、スリーピングナイツと、いつものキリトの仲間たちが集まっていた。理由は簡単、明日のバーベキュー大会に向けて食材を調達しようという話になったのである。
本来ならばその手の食材やで材料を買えば済む話何故にこんな話になっているかといえば、単純に今回、要求される食材の量が桁違いに多いからだ。何しろ、アスナの計らいもあって少しでもユウキたちの存在をこの世界の多くに知ってもらおうと呼びかけた結果、此処に集まっているメンバーに加えて、サクヤやユージーン、アリシャをはじめとする知り合いの領主連中とその側近や、レコンなども併せて、30人以上の大所帯での大パーティとなってしまったのだ。これは流石に普通に買うのでは間に合わないと判断した料理人達(主にアスナとサチ、時々エギル)の発案で、まずは前日に大採取パーティを組み、この際フィールドでしか取れない味の良い肉や果物、野菜を大量に入手しようという話になったのである。

編成は各自の適正やハングリー精神を考慮し、料理人たちが決めた。結果、肉調達チームは5人2パーティ10人という大人数でとあるフィールドダンジョンで大狩大会を、それ以外のメンバー8人は、とあるエリアを巡り、野菜やデザートとなる果物を入手しにいくことになったわけである。

「……うんっ」
出発前、各パーティのメンバーがそれぞれの目的地と戦術を確認する中、アスナ一人ふんすと息を整えると、野菜パーティ離れて肉パーティの一角へと向かった。

「あの、リョウ……」
「ん?アスナか、なんか用か」
声を駆けた相手は、数日たっても未だにぎくしゃくした関係が続いているリョウだ。今日も気のせいかどこかつっけどんに返す彼に、アスナはなんと続けたものかを少し悩む。いきなり本題を切りこむか?それとも少し様子見で自分と彼の間の空気をなごませるところからにするか……少しだけ悩んだ末……

「今日の狩りだけど、肉調達が一番の要だから。しっかりお願いね」
「あ……?あ、あぁ……」
もう、雰囲気とか無視してとりあえず今日の目的を話して様子見することにした。リョウの方は拍子抜けしたような虚を突かれたような顔をしているが、元々、これも言っておく必要があるとは思っていたのだ。今日の要が肉組、特に実力派の面子であることは、間違いないのだから。

「つーか、なんで俺に言うんだよ。奥様は旦那様に言うべきだろ」
「キリト君にはもうちゃんっといってあります。それとリョウに言う理由は簡単、リョウとキリト君がどうせ一番食べるでしょ」
「む……なるほど?自分の食い扶ちは自分で稼いで来いと」
「今回稼ぐのは食べ物その物だけどね」
「は……」
冗談めかして言うアスナに、リョウはようやくいぶかし気な顔を崩して少しだけ笑みを浮かべた。

「へいへい、せいぜい努力さしてもらいますよっと。ま、今回は本職もいるしなー、任されよ料理長」
「本職……?」
「リョウ!リョウコウ!何ダベってんのよ!時間ないんだからさっさとしなさい!」
集団の中から、ヤミが怒鳴った。今日の彼女はやけにテンションが高い、理由は簡単、食材調達が、アインクラッド時代の彼女の本職だからだ。久々の仕事とあって、彼女自身無意識にか意識的にか、かなり張り切っている。

「ったく、ついこないだキッツいお言葉くれやがったくせに……」
「?また喧嘩したの?」
「あ?あー、なんでもねぇよ、んじゃ期待しとけ」
「うん、よろしくね」
片手をヒラヒラと振って離れて行くリョウを見ながら、アスナは大きく息を吐いた。

「はあぁ……」
正直なところ、初めから最後まで緊張しっぱなしだった。最初の問いかけに答えてもらえなかったら、会話を続けられた自信が無い。人から無視されない事を、ここまで安堵したのは初めてだ。

「よっ、そろそろ行くわよ、アスナ」
「わぁっ!?」
「!?」
いきなり後ろから肩を叩かれて、緊張から弛緩していたアスナは飛び上がる。慌てて振り向いた先に居たリズが、目を剥いてこちらを見ていた。

「ちょっと、いきなり大きな声出さないでよ、こっちまでびっくりしたじゃない……」
「ご、ごめーん!ちょっと気が抜けてたからビックリしちゃって……」
「アンタねぇ……はぁ、全く、まぁいいですけどね?頼むわよ、こっちの仕事は目利きがいないと成り立たないんだから」
「りょーかい!」
所在をなくした右手を中空でプラプラと泳がせながらいぶかし気な顔をするリズに、両手を合わせてアスナは謝罪する。ピンクボブの親友は呆れたように肩をすくめた。

「…………」
「返事だけにならないでよー?」
「平気だよー、よく行く所なんだし」
そんな彼女との会話に夢中になっていたせいなのか、アスナは不安げに自分達の方を見るユウキの表情に、気が付くことはできなかった。


────

プーカ領、グリーン・スペンソニア
緑の楽園と呼ばれるこの一帯は、目立ったアクティブモンスターが出現することもほぼなく、その全域が、草原と背の高い林、背の低い果樹の森と、畑で構成されたエリアだ。その情景からもわかるように、多くの野菜や果物と言った食材アイテムを入手することが出来、フリーの野菜狩り、果物狩りツアー会場のようになっている。

しかし、とはいえそれらの食材は誰かが育てているというわけではなく、全て自動的にポップするものなので、当然品質が一定というわけではない。例えば……

「「すっぱぁいぃ!!」」
「あーあー、もう、何してるのよユウキ……」
「だからちゃんと鑑定してからにしなさいって言ったでしょうが……ッていうか、採りに来たのに食べてどうすんのよシリカも」
わきの背の低い木に巻き付いたトマトをかじったユウキとシリカが、目をバツマークにしながらそろって口をすぼめるのを見て、アスナがやわらかく笑い、リズが呆れたように肩をすくめる。
このフィールドに生えている植物たちは、見た目は熟したおいしそうな果実や野菜でも、その品質と味にかなりのばらつきがある。そして勿論、こういった採取アイテムの慣例に乗っ取るように、上質でおいしいものよりも、低品質であまりおいしくないものの方が多い。その少数あるおいしいものは、勿論、それ自体の見た目からでも多少なら見分けが効くが、正確に見極めるためには……

「ふふっ、はい、二人ともこれどうぞ」
「い、イチゴですか?」
「こ、これも酸っぱかったり……」
「ちゃんと見たから大丈夫。どうぞ?」
差し出したイチゴに、おずおずと手を伸ばした二人が、南無三!と言わんばかりの表情でそれにかぶりつく。と……

「あ、あまひぃ~~」
「さわやはぁ……」
途端に笑顔になって頬を抑え、くねくねし始めた。
上質な物を見極めるには、それなりの熟練の目利きの技……を、スキル化した《鑑定》のスキルか、料理人としての食材を選ぶ経験と勘……を、スキル化した《料理》のスキルが必要になる。今回、このフィールドに来たのは八人。アスナ、サチ、リズ、シリカ、リーファ、シノンに加えて、ナイツからユウキとシウネーだ。
内、リズとサチは鑑定スキルを。アスナ、シウネーは料理スキルを持っており、ご存じのとおり、サチは料理スキルも勿論持っている。
この八人で、二人一組をメインに全員で各エリアを回っていき、必要となる量の「上質な」素材を集めて行く予定だ。

「あ、あたしにも一つ……」
「勿論、はい、どうぞ」
「わ!大粒……」
渡された大粒の一語にかぶりついたリーファが、満足げにゆるんと顔をにやけさせている。
と、遺った一つを、サチはシウネーに差し出した。

「シウネーさんも」
「え?で、でもそれはサチさんのでは……」
「私は、お先に一つ。それに、間違ってたらごめんなさい、でも、シウネーさんの顔、食べたい顔ですし」
「あ、あら……」
ほほ笑んでイチゴを差し出すサチの言葉に、恥ずかしそうに紅潮した頬を抑えつつ、けれども拒むことはせずにシウネーはやはり大粒のそれに手を伸ばす。小さく口を開けて上品な動作でパクリとそれを食むと、たちまち頬をバラ色に染めて微笑んだ。

「んん~~♪」
周囲に花を振りまきそうな笑顔でやはりくねくねする当たり、ホントに食べたかったらしい。そんな感じでなごみつつ、一行は採集を始めた。

────

「うーん、これは?」
「あ、これは良い奴だよ!」
「成程ね……見た目の見分け方、何となく分かってきた」
「しーちゃんコツつかむの早いねぇ……」
「まぁね」
掴んだかぼちゃを見てドヤ顔で言うシノンに、サチが微笑む。

「現実でも結構最近は料理してるから、食材に目が利かないとね」
「え?そうなの?」
「ふふ、今度料理作ってあげる、お姉ちゃん程上手じゃないけど」
「ホント!?あ、じゃぁ私も作るよ!一緒にリョウに食べてもらおう?」
「それだと比べられそうで怖いなぁ……」
苦笑しながらそんなことを言うシノンは、肩をすくめてそんなことを言う。そんな様子に「大丈夫だよ~」と返しながら、サチは漏らすようにニコニコとしていう。

「しーちゃんは良いお嫁さんになるね」
「お姉ちゃんにはかなわないよ。っていうか、お嫁さんって……」
私そんなの考えたことも無いんだけど。と笑って、シノンは採集を再開する。

「(お嫁さん、旦那さん……か)」
ふと考えて、シノンはサチに見えない位置で自嘲気味に笑った。色々あったが、一度は人を殺している自分だ。自分を相手に選ぶような人間にはそれを話さねばならないだろうが……

「(それでも結婚してくれる人なんて、居るのかな……)」
正直なところ、これまでの人生経験からして、そんな人間がいるとはシノンには容易には思えなかった。勿論今自分達を受け入れてくれた人たちの事を忘れたわけではないが、それでも多くの人間は、見知った人間であれそうで無かれ、相手が「人を殺している」と聞けば、大概恐れるか引くものだ。しかも、詩乃自身まだ色々な理由から男性に対して苦手意識が無いわけでない。
そういった要素を考えた上で、自分を伴侶にするほど受け入れてくれる男性等……

「(……やめよ)」
考えても仕方がない。この先何度かぶつかる問題ではあるだろうが……考える機会はこの先何度でもあるだろう。今考えるような事ではない。

「(……そう言えば)」
男性と言えば、「彼」は今どうしているだろうか……今は少年鑑別所に居るはずだ。鑑別所にしても、その後彼が行くであろう収容施設にしても、血縁者ではない自分が彼に面会することはほとんど出来ない。彼は今、何を思っているだろうか……
……あるいは、彼なら自分を受け入れてくれるだろうか……?

「(……ないかな)」
彼と自分はあくまでも単なる友人だ。それも、これまでの関係をリセットして新しく友人として歩き始めたばかり。そんなことを考えるような関係ではないし、そんな未来を想像することも出来ない。
苦笑して、シノンは採集を続けた。

────

「シウネーさん、これどうでしょう?」
「えぇっと……品質は、普通、くらいでしょうか」
「そっかぁ……見た目はきれいなんだけどなぁ」
「なかなかに、コツがいる作業ですね」
頬に手を当てながら、ふぅ、とため息を漏らシウネーを見てリーファは一つ、思うところがあった。

「(大人だなぁ……)」
人数的な関係もあってコンビになったナイツのメンバーである女性。シウネーからは、初対面ながら大人びていて落ち着いた雰囲気が感じ取れる。しかし逆にその所為だろうか、先ほどからどうにも会話がぎこちないというか……早い話、リーファ的にどう話しかけたらいいか分からない。

「(いや、でもアスナさんの紹介だし!思い出づくりって話だし!これからもっと仲良くしてく予定なんだから、今から話かけられないとかじゃ文字通り話にならないよね!うん!)」
シウネーから見えないところで、両拳をぐっと握ってガッツポーズをする。そして意を決して振り返り……

「「あ、あの!!」」
と、綺麗に声が二重にかぶった。見ると鏡に映したように、シウネーが戸惑った様子でこちらを見ている考えが同じだったのか、それともたまたまだろうか、いずれにしてもここは……

「あ、お、お先にどうぞ!」
「は、はい!」
今度は言いたいことを先に言われてしまった。ついつい手拍子で答えてしまってから、慌てて自分が聞こうと思っていたことを引っ張り出す。

「あの、シウネーさんって、例の……スリーピングナイツ?っていうギルドのリーダーさんじゃないんですよね?」
いささか唐突な問いに、シウネーは

「えぇ、リーダーはユウキで……うちには、サブリーダーや、セクションリーダーを置くほどの人数もいませんから、私は特に役職持ちではありません。でも、どうして?」
「その、私が今まで見てきたギルドとかのリーダーさんって、どちらかと言うとシウネーさんみたいな大人っぽい人が多かったので、どうして、ユウキさんがリーダーになったのかな?と……その、私達、まだナイツの皆さんのことよく知らないから、まずはギルドの事から知りたいなーなんて……って、あ、その、すみません!立ち入った話を……」
「あぁ、いえ、嬉しいです、そんな風に思っていただけて……でも、それほど大した理由ではないのですけど……」
わたわたと両手を振って言うリーファに微笑みながら少し思い出すように遠くを見る仕草をした、その様子を見て、リーファは答える。

「大丈夫です!」
「……そうですね……私たちのリーダーは、私達自身が全員の意見を一致させて決めたんです。私もみんなも、ユウキ以外のみんなが全員、ユウキがリーダーになるべきだと言いました。勿論、私も。ユウキは、今リーファさんが言ったように、私がリーダーになるべきだって言ってくれましたけど」
照れるように笑って言うシウネーから何故だろう、とても大切なものを心の内から引き出して語ってくれているような、そんな気配をリーファは感じ取っていた。

「でも、どうしてユウキさんだったんですか?それも、みんながみんな……」
「彼女は、個人的にリアルで事情があってギルドから引退した前のギルドリーダーのリアルの妹なんです。前のリーダーはギルドの結成メンバーである最初の三人の一人でもあって、ユウキ自身もその一人でした。三人の内、もう一人もリアルの問題で、ゲームを続けるわけにはいかない事情が出来て、やめてしまっていたので……」
「そっか、それでユウキさんが……」
「はい。ただ……」
ふと、シウネーの笑顔がどこか、自嘲気味なものになったのを、リーファは感じた。しかしシウネー自身はそれに気が付いていないかのように、話を続ける。

「本当は、私達の中で、ユウキが一番強かったからなのかもしれません」
「あぁ……分かります。一戦だけでしたけど、ユウキさんの剣はほんと凄かったですよ。私の周り、結構強い人ばっかりなんですけど、その人たちと比べてもそん色ない……ううん、もっと、それ以上かも……」
「そう、そうですね……剣の、戦いの腕もそう、なんですけど……」
「?」
「……あの子の、心が……」
溜まっていた何かを吐き出すような、損な深い息と共に出された言葉。その気配から深い何かを感じて、手拍子にリーファは繰り返す。

「心が……ですか?」
「……あ、いえ。そうですね……あの子は、凄く精神的に強くて真っすぐなので、私達を引っ張っていってくれそうな気がして」
「あ、なるほど」
確かに、あの元気いっぱいな少女なら、ギルドの先頭に立ってメンバーを引っ張ってくれそうではある。ただ……

「(何か……言いかけた……?)」
直前の違和感にそう感じて、内心首を傾げた、と、今度はシウネーが尋ねる。

「あの、私からもいいでしょうか?」
「あ、はい、なんですか?」
「あの、あまりリアルの話を持ち出してはいけないと承知はしているのですけど……リーファさんは、リアルでもキリトさんの妹さんだと」
「あ、はい。……あ、お兄ちゃんが何か……?」
また自分が知らない間に何かしでかしたのだろうかあの兄は。と思い、少し妹モードに入って返すと、シウネーは慌てて首を振った。

「あ、いえいえそんなこと!むしろお兄さん、キリトさんにはこの間のボス戦前に大変お世話になりまして……リョウさんやクラインさん達も含めて、いくら感謝してもし足りません……」
「あ、そう、その話!私もついさっき聞いたばっかりだったんですよ!もうっ、なんでそんな大事なこと秘密にするのかなあの二人は……知ってたらあたしだってこうやって、こうやって……」
シュッシュッとシャドーボクシングをはじめるリーファにクスクスと笑って、シウネーは言った。

「きっと、リーファさんをトラブルに巻き込みたくなかったんだと思います。大ギルドと事を構えるのは色々問題があるって、私達も後でアスナさんに教わって……本当に、ご迷惑を……」
「あぁ、そんな……あたしがいうのも変ですけど、気にしないで下さい。きっと二人とも、ノリノリだったと思いますから、そういう兄たちなんです」
笑いながら言うリーファが、決して兄たちの行動を嫌に思っているのではないことはシウネーにもすぐに分かった。むしろ彼女自身、そうしてアスナやナイツを助けるために動いてくれた彼らの事を、誇らしく思っているのだろう。

「そう、それで聞きたかったことなんですけど……」
「あ、はい、なんですか?」
「その……」
途端に、シウネーの纏う空気が変化した。

「アスナさんとキリトさんは、やっぱり、お付き合いなさっているのでしょうかっ」
「えっ!?」
ズイっ、と前に出ながらなぜか頬を紅潮させてどこか興奮気味にシウネーが聞きだしたのは、そんなことだった。心なしか周囲に「ワクワク!」と擬音が見える気がする。

「え、えぇっと、まぁ、はい。お兄ちゃんとアスナさん……あと、リョウ兄ちゃん含めた今日来てるあたしと、シノンさん以外のお兄ちゃんの仲間はみんな、前に別の同じゲームをやってた人たちで、その繋がりでこっちにきてて……で、そのゲームの中で知り合って、お兄ちゃんとアスナさんは、リアルでもこっちでも恋人に……」
「まあ!まあまあ!!」
ぽんっ、と手を合わせて花が咲いたように笑顔になるシウネーに、リーファは思わず苦笑した。訂正、何時も穏やかで大人な女の人かと思っていたが、なんというか予想以上に……

「(可愛い人だなぁ、この人)」
「そう言えば、今日のメンバーの方には女性が多かったですね?」
「え?あぁ……まぁ、なんでかお兄ちゃん女の子の友達が多いんです……ほんと、なんででしょうね……」
乾いた笑いと共にそんなことを言うリーファに、シウネーは何かを察したようにリーファを見た。

「あの、もしかして、リーファさん……」
「え……あ、いや、違いますよ!?あたしはもうちゃんといろいろ整理をつけて……じゃなくて!!」
「ご、ごめんなさい私立ち入ったことを……」
「違うんです!ほんとに!そういうのじゃないんです!!」
シウネーのいろいろな誤解を解いて採取を再開するのに、リーファはたっぷり、十分の時間を要した。

────

「アスナ―!沢山取れたよ!」
「どれど……わぁ!?ちょ、多いよ!?重くないの!?」
元気な声を聞いて、微笑みながら、振り返る。と、そこにはユウキ……の、脚が生えたキャベツの山が屹立していた。目を剥いて問い返したアスナに、はじけるようなハスキーボイスでキャベツ……もとい、ユウキが答える。

「全然へっちゃら!!それより、鑑定お願い!ボクまた次のやつ取ってくるから!!」
「こ、こんなに一気に?」
「うん!大丈夫!取る方はボクにまっかせて!!」
言うと、ユウキは一気にぴゅーっと飛び出していく、なんというか、あわただしい。

「……?うーん……」
その様子に首を傾げながら、アスナは持ってきた野菜を見る。と……

「これ……」

────

数分後、またユウキが戻ってくる。

「アスナ!取ってきたよ!」
「あ、うん……ねぇ、ユウキ?」
「よぉっし……え?なぁに?」
「その……もしかして、何か考え事してない?」
「えっ、と……」
どうして?というような顔をするユウキに、アスナは苦笑してユウキが持ってきたキャベツを取り出す。葉がしおれ、虫食いが起きた、明らかにダメなキャベツだ。普通にちゃんと選んで取っていれば、こんなものを取ってくるわけがない。かといって、ユウキが真面目に採集を行う気が無いというわけではないのは、アスナだって分かっていた。ユウキは、このバーベキューを本当に楽しみにしているのだから。つまり……

「あ……」
「ユウキ、とにかく動いて、よく見ないで手当たり次第に取ってきてるよね?採取に集中できない理由が、あるんじゃないかなって」
「…………」
叱られた子供のようにシュンと頭を垂れて、途端にユウキは大人しくなった。先ほどまでの元気も、少し無理をしているようにアスナには見えた……彼女には何か、別に心配事があるのだ。そしてアスナはそれを放っておくべきではないと感じていた。

「アスナ、ボク……ボクのせいで、アスナがリョウさんと喧嘩したんじゃないかって……」
「……そっか、やっぱり、その事だったんだ……」
何となくは、察しがついていた。ここに来てからユウキの様子がおかしくなったのだ、その前に会ったことと言うと、やはり、先ほどのリョウとの会話の様子が、ユウキには気になったのだろう。確かに、アスナとリョウの関係がぎこちなくなった最初の原因は、ユウキがきっかけだったといえなくはない。だが……

「あのねユウキ、聞いて?」
「……うん」
声のトーンを真剣なものにして、ユウキの肩に手を当て、アスナはゆっくりと話し始める。

「確かに、私とリョウはこの前ちょっと色々あって、今は、話しづらい感じになっちゃってるけど……それは、私とリョウの考え方がちょっと合わなくて、意見が食い違ってるってだけなの。だから、ユウキはそんなに気にしないで?大丈夫、お母さんの時と同じ、自分で何とか出来るから」
強気に微笑んでそう言ったアスナだったが、ユウキの表情が未だ晴れないのをみて、すぐに表情を曇らせた。まだ、彼女には心配事があるのだ。

「……でも、ボク……アスナにもういっぱい迷惑かけてるよ……リョウさんの事もだし、この前のボス戦も手伝ってもらって、今のバーベキューだって……アスナ、僕たちのせいで友達にずっと隠し事しなきゃだし……」
「そんな事……私がそうしたいからしてるだけだよ。ユウキたちの事も、隠すのは、ちょっと悪いっては思うけど必要な事だと思うし……」
「……でも……」
「なら、隠さなきゃいいんじゃないの?」
「え。うひゃあ!!?」
いきなり真後ろからした声にアスナが振り向く、と、草むらの中から顔だけを出したリズが、ニヤリと笑みを浮かべてこちらを見ていた。

「り、リズ!!?」
「ほらねシリカ。やっぱりなんか隠してると思ったのよ」
「だからって、盗み聞きはやっぱりよくなかったと思いますけど……」
「し、シリカちゃんまで!?何してるのよもう!!」
リズに続いて草むらから出てきたのは、彼女とペアになっていたはずのシリカだ。彼女のほうはやや後ろめたい様子で、相棒のピナもやや非難するように「くくるぅ」とリズに対して鳴いている。

「だって、こうでもしないとアンタ絶対何にも言わないもの。必要に迫られた故の、仕方ない行動なのよこれは」
「だ、だからって……」
「ごめんなさいアスナさん……でも、その、ユウキさんもずっと、私達を見てる時ちょっとだけ辛そうな感じがしてて……」
「えっ……」
しおらしくユウキにも頭を下げるシリカに対して、ユウキは驚いたように声を上げた。自分ではそこまでは自覚がなかったのだろう。
と、リズも流石に少しばかりバツが悪くなったのか、頬を掻いて言う。

「その……アタシもシリカも実を言うと、アスナがアタシ達になんか大事なこと隠してるなーってのは感じてたのよ……しかも、結構前から」
「そ、そうなの!?」
「そりゃそうよ」
聞き返したアスナに、やや呆れたようにリズが苦笑する。

「例のプロープの事とか聞いた時も、実家の話とか聞いた時も、あんまり顔に出してないつもりだろうけど、アタシは店で……シリカは、まぁ若干ムカッときますけど?この子の顔目当てで寄ってくる男から身を守ったりするのに、それなりに人の顔色窺って生きてきてるのよ?まして付き合い長いアンタの顔色の変化とか、そんなのすぐわかるっての」
「……あ、え、えぇっと……」
「ムカッと来るってなんですかー」
それなりに大変な目にもあったんですよ、と憤慨するシリカに、リズはハイハイと手を振って適当に応じる。

「でも、アスナにも色々あるだろうな、ってのは分かってたから、しばらくはほっとくつもりだったのよ……だけど、今日はさ、ユウキも、ちょっとそんな感じだった」
「ぁ、えと……」
どこかショックを受けたような、申し訳なさそうな顔をするユウキに、しかしリズは、屈託なく笑顔で返す。

「そりゃ、初対面だし、多少ぎこちないのは仕方ないけど、でもアンタの顔、自覚無かったみたいだけどずっと辛そうだったのよ……で、今から友達になろうって子がそんな顔をしてるってのに、ほっとくわけにも行かないじゃない?だから、ちょっと強引な方法を取っちゃったってわけ……でもまぁ、とりあえず、盗み聞きしたのは謝るわ……ほんと、そこはごめん」
「……うぅん、私の方こそ、ごめんねリズ……ずっと心配かけてたんだね……」
申し訳なさそうに、それでいて心から嬉しそうに、アスナはその声をはきだしていた。その顔を見るとちょっとだけ照れくさそうに身をゆすって、リズは肩をすくめる。

「そんなの、前の頃からずっとよ。もう慣れっこ、でも、偶にはちゃんと頼んなさいよね?抱え込むばっかに出来るほど、アンタ脆くないわけじゃないんだから」
「うんっ……ありがと……」
「…………」
いつものように、暖かく照らす陽のような笑顔でそう応じるリズは、次に、黙り込んでしまったユウキを見る。

「……いい?ユウキ」
「は、はい……」
「あー、ったくもう……はいはい、緊張しないの、肩の力抜いて、別に叱りつけようってんじゃないんだから」
「そうですよ、ちょっとドスが聞いてますけど、リズさんも私も、ユウキさんに言いたいこと、ちゃんと決めてきたんですから」
「ドスが聞いてるは余計よ」
ぺしっとシリカに向かって突っ込んでいる様子に、ユウキの緊張も少しはほぐれた様子だった。幾らか険の取れた顔で、再び彼女は二人を見る。

「とりあえず、そんなに言いたいことがあるわけじゃないわ………アタシ達はアスナが、色々隠し事しててもちゃんと信じられる娘だって知ってるし、人を見る目があるって事も知ってる。だから別に、ユウキやアスナの隠し事を、無理矢理でも明かしてほしいって訳じゃないしね?」
「うん……」
「でもね?これだけは知っておいて。アタシ達は、たとえそれがどんな事実でも、ちゃんと受け入れるつもりで此処にいるってこと」
「…………」
ユウキの目を真っすぐに見て、真剣な様子でリズは語る。

「アンタやアスナが何を語っても、アタシ達はちゃんと受け入れて見せる。だからもし、ユウキが自分の隠し事をアタシ達にぶつけるか迷ってるなら、迷わず思いっきりぶつけてきなさい!それがどんな剛速球だろうが大玉だろうが、きっちりキャッチして、その上でアンタと友達になるわ」
「そうですよ!なんといっても私達今日は絶対、ユウキさん達とお友達になる!ってつもりでここにきてるんですから!!」
ぐっと両の掌を結んだシリカの宣言に続いて、ピナがクルルゥ!と大きく翼を広げて鳴く。それを聞いて微笑みながら、リズは一つウィンクをして、首を傾げた。

「ま、そういうわけだから、迷ってるなら、お姉さんたちを信じなさい。これでもそれなりに、波乱万丈な青春を送ってるんですからね?」
「……あ、あはは……」
漏れ出した声とともに、抑えきれない思いがユウキの胸の内から溢れているのを、アスナは感じていた。きっと二人とも、ユウキの持つ秘密が、そう軽くないものであるという事はすでに察しを付けている。その上で、こうして言ってくれているのだ。それが、自分の親友達なのだ……そう思うと、アスナの胸の内からも、溢れて止まらないものがある。

「……ありがと、リズ、シリカ……」
泣きだしそうになりながら、ユウキは自分達の真実を、彼らに語る決意をした。
 
 

 
後書き
はい!いかがだったでしょうか!


新章しょっぱなから、割と飛ばし気味の展開になりました。が、まぁそれでも分類としては十分平和な日常回といえる内容だったのではないかなと思います。

最後のシーンのリズとシリカのシーン、特に、リズにかっこいいお姉さん感を付与できるように頑張って書いてみましたw原作では展開の都合上影が薄くなりがちなリズやシリカですが、アスナの親友として、そして一キャラクターとして、鳩麦としてもこういう所で重宝できる信頼性のある人格とキャラクターを備えたキャラだと思っています。

さて、今回でご理解いただけたと思いますが、ここで戦士達のMR編の骨子を確認させていただきます。
戦士達のMR編の骨子は、ずばり、「原作で描かれなかった部分を描くこと」にあります。
原作SAO第七巻のP267~270には、アスナとユウキが過ごした、ほんの二カ月半程度の時間が、集約されています。この短い文章の間に、一体どれだけの景色、どれだけの会話、どれだけのエピソード、どれだけの想いが詰まっているのだろうと、想像した方は、これを読んでくださる方の中にも、少なくないのではないでしょうか?

この戦士達では、あえて、長くなる覚悟で、その二か月半に、全力でスポットを当てながら物語を紡いでいきたいと思っております。

どうか、今後ともお付き合いいただければ幸いです。

ではっ!



 
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