| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

百人一首

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

27部分:第二十七首


第二十七首

               第二十七首  中納言兼輔
 あの人に直接会ったことはないけれど。それでも恋しい。姿形、それに声だけで忽ちのうちに恋に落ちてしまった。まるで何かに誘われたかのように。この気持ちは何処から出て来るのかわからないけれどそれでもまるで泉から水が湧き出るかの様に出て来る。
 それが胸の奥から出て来ているとわかっても気持ちは変わらず。この抑えられない気持ちのままあの人の黒く長いあの美しい髪を追いかけてみたくなる。追いかけてそれで捕まえられればとさえ思う。思っても今は儚いことであるのだけれど。
 美しいのはわかっている。まだ会ったことはないけれど。十二単が振り返ってそうして出会って朝になる。そのことを思うだけでも心が締め付けられてそれでいて楽しくなる。この楽しみは心を燃やし己をさらに苦しめまた楽しくさせ燃え上がらせて延々と繰り返させてくれる。不思議な炎である。
 けれどまだその人には一度も会ったことがない。顔を見合わせたことはない。それなのにここまでいとおしい。それがどうしてかは自分でもわからない。
 けれどいとおしいのは確かで。この気持ちは偽りではないから。だから今こうして歌にも詠うのだった。


みかの原 湧きて流るる いづみ川 いつみきとてか 恋しかるらむ

 こう詠った。詠い終えてもやはりあの人のことを想う。想わずにはいられない。頭から離れることはない。この恋焦がれる気持ちは。どうしても湧き出て来て心を締め付けそれでいて楽しいものにさせてくれる。不思議な泉だと思うのだった。


第二十七首   完


                  2008・12・25
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧