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百人一首

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2部分:第二首


第二首

                  第二首  持統天皇
 帝はその時宮廷から香具山を御覧になられていた。それと共に過去の様々なことを思い出されていたのであった。
 天智帝の娘としてこの世に出て叔父である後の天武天皇の后となられ父と夫の対立、そして兄と夫の戦いも見てこられた。兄は死に夫が帝となりそれを助けてこられた。今は御自身が帝であられる。その数奇な運命を思い出されながら香久山を御覧になられているのだ。
 もう初夏になり暑くなろうとしている。緑の香具山には干してあるのか白い衣も見える。緑の中に見える白に香りを感じそれが宮中にまで入って来るように思えた。その香りは父と夫の、兄の、そしてもうこの世から去ってしまった我が子とその忘れ形見であり今御自身が育てておられる孫の。全ての想い人のことを思い出させるものがあった。とりわけ父と夫の。
 今その香りに誘われ歌を詠まれた。その歌は。

春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山
 
 香具山を御覧になられつつ詠まれた。帝は詠まれてからもまだ香具山を御覧になられていたがやがてそこから去られた。だが香具山にはまだ白い衣がたなびいていた。それが夏の香りを宮中に送り。季節の移ろい、それと時の移ろいも教えているのであった。
「帝、こちらにおられたのですね」
「藤原様が御会いされたいとのことです」
「わかりました」
 歌から政へ。心を向けなくてはならなくなった。帝というお立場がそうさせる。帝は心も香具山から今は離れざるを得なかったのであった。
 長い長い時も一瞬に思える。それと共に起こったことも。帝はそのことを想われながら今は香具山から離れられた。この歌を残されたうえで。


第二首   完


                 2008・11・30
 
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