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百人一首

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12部分:第十二首


第十二首

                  第十二首  僧正遍昭
 今日は五節。高貴な生まれの五人の美女達がその舞を披露する日。彼は今その舞を見ている。舞は今まさにそのさなかであり彼はうっとりとしてそれを見ていた。
「如何でしょうか」
「言葉もありません」
 こう連れの者にも答える。
「これ程とは。今年の五節の舞は」
「はい。確かに例年なく素晴らしいものです」
「最早人ではありません」
 恍惚とさえした声で述べるのであった。
「これはまさに天女です」
「天女ですか」
「見えませんか?あの方々はこの地上に下りた天女なのです」
「言われてみれば」
 連れの者も彼のその言葉に頷いた。言われてみれば確かに。それ程までの美しさである。彼が言うのももっともであった。
「この舞も終わってしまう時が来ますが」
「ええ」
「できればこのまま見ていたいものです」
 彼は舞を眺めつつ述べた。
「この舞を。ですから」
 歌が出た。しかも自然に。彼は己の歌心のままに今詠うのであった。

天つ風 雲のかよひ路 吹きとぢよ 乙女の姿 暫しとどめぬ

 こう詠った。詠い終えてからもその目は。ただ天女達に向けられている。
「何時までも見たいものです」
「確かに」
 連れの者は彼の言葉に頷くばかりであった。ここは地上だがそれでも雲さえ見えていた。それ程までに美しい美女達の舞が今行われているのであった。


第十二首   完


                  2008・12・10
 
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