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恋姫無双~2人の御使い~

作者:デイラミ
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第5話

 
前書き
暑い……冷房壊れたよ。
 

 

 「さて……上手く行ってくれればいいんだけど」

 そう呟き、暢介は気持ちを落ちつけようと深呼吸をする。
 今までなら隣にいるはずの久遠はここにはいない。

 彼女は別働隊を率い、城近くの森に隠れている。
 賊の集団が暢介達のいる部隊と交戦し前のめりになった所を見計らって背後を突く。

 簡単な感じに聞こえるが入るタイミングを外してしまったり。
 もしくは賊の一人が別働隊に気付いてしまえばそれまで。

 また、賊の攻撃をこちらが受け止めきれずに壊滅してしまえば終わりだ。
 勿論……暢介が死んでしまってはいけない。

 兵士達や住民、彼らの被害も多く出す訳にはいかない。
 しかし、焦ってしまえば全てが台無しになる。

 そんな状況下に暢介はいた。



 「……」

 森の中で久遠と別働隊は一言も発しない状態が続いていた。
 気配を限界まで消し、賊に見つからない様に隠れている。

 そんな中……

 「……来た」

 耳を澄ますと遠くの方から徐々に近づいてくる足音と雄叫びの様な声。
 やがてその集団が久遠達のいる森の横を突っ切っていく。

 賊の最前列が暢介達と戦闘状態に入ったのか刃と刃のぶつかり合う音が聞こえる。

 「司馬懿様」

 「まだよ……もう少し賊を前のめりにしないと……」

 既に飛び出さんばかりの兵士達を止める久遠。
 しかし、彼女自身も飛び出したい気持ちで一杯な状態である。

 自分を止めながら、周りの兵士達も止める事の厳しさを久遠は感じていた。



 刃と刃のぶつかり合う音、そして斬られ悲鳴をあげる者。
 賊の側としては、こんな展開は予想していなかったのかもしれない。

 今までは無条件で自分達に金品や食料、女を与えていた住民が剣や鍬、鎌を持って自分達を攻撃しているのだ。
 それだけでなく、今回はどこぞの兵士達まで存在している。

 そうなっていても、彼らは突っ込み、そして兵士や住民に殺されていく。
 住民達の死んでも自分達の街を守るんだという思いに押され躊躇した所を討たれる。

 そんな光景が辺り一面で繰り広げられていた。

 しかし、賊の数は多く。
 後ろからどんどんと押し寄せてきていた。

 そんな中でも、兵士や住民は一歩も引かなかった。
 自分達が突破されれば、後ろには戦えない老人や子供がいる。

 その思いが彼らを引かせない強さになっていた。



 賊の部隊が完全に前だけしか見ていない。
 後ろに注意が全く向けられていないのを別働隊は感じ取る。

 「……司馬懿様」

 「ええ。全軍、一気に決着をつけるぞ!」

 その号令と共に森から別働隊が飛び出してくる。

 その勢いのまま賊の背後から襲いかかる。
 まさか、自分達の背後からそんな者達が来るとは夢にも思っていなかった様だ。

 抵抗する間もなく、討ち取られていく賊達。
 焦って逃げようとしても前にも兵士達がいる。

 既に統制が取れていないのか、完全にパニック状態になり生き残っている賊達は逃げる事に専念しはじめた。
 その中でも逃げきれずに背中を向けた所で斬られ死んだ者もいたが……



 暢介も久遠も追撃する気は無いので彼らを逃がした。
 しかし、ここまで死ぬ思いをした賊が再び同じ場所を攻めてくるとは思えない。

 賊行為を続けるにしても、ここ以外に移っての事だろう。
 そしてそれは、暢介達の知る所では無い。

 「暢介……」

 「あぁ……」

 勝利したはず、しかし、2人の表情は冴えない。

 見渡すと賊の死体に混じって、兵士や住民の死体も転がっていた。
 勝利はしたが、犠牲はやはり出てしまった。

 勿論、犠牲者0なんていう戦場があるはずがない。
 そんなのがあるとすればゲームの世界ぐらいだろう。

 住民の死体を暢介は見る。
 若い男性で、暢介と歳は変わらない様に見える。

 もしかしたら、この男性の家族が町の中で待ってるかもしれない。
 男性の奥さんや子供、あるいは両親が無事に戻ってくる事を……

 しかし、彼は戻ってくる事は無い。

 「家族への説明は、俺がしておくよ……久遠は、遺体を弔ってくれ」

 「……うん」

 そう言って暢介は町の中へ歩を進める。
 
 久遠は兵士達に遺体を弔う様に告げ、自身もその準備に取り掛かった。



 予想していた事とはいえ、この光景は辛いものがある。
 そう、暢介は思う。

 今回の戦闘で死んでしまった住民の家族に、その旨を告げる。

 その場で泣き崩れる者、呆然とする者。
 
 予想はしていたのだろう。
 戦闘になれば死人が出る、それが自分の子供だったり旦那だったり……

 しかし、現実でそういう事になると思考が止まってしまうのだろう。
 中には暢介に殴りかかろうとし兵士に止められる者もいた。
 
 もっといえば、あの時にソフト帽の女性が賊を殺さなければ。
 その後、暢介達がここに来なければ死なずに済んだのではないかと思う者。

 そういう者達がいる中で、生きて戻ってきた者達の表情は明るい。
 そして、戻ってきてくれた者達の家族も喜んでいた。

 今日の町は2つにはっきりと分かれるだろう。

 賊を倒し、自分達の町を守れ、生きて戻って来れた事を祝う者。
 町は守れたが、自分の命を落とし戻って来れず、その現実に沈む者に。



 「そういえば、あの帽子の子。どうでした? 剣術の方は」

 ここは宿屋の一室。
 同部屋に押し込まれた暢介と久遠が向かい合って座っていた。

 「そんなにじっくり見れる状況じゃなかったけど……かなりのものだったよ」

 「そうでしたか」

 「うん。一人でかなりの賊を倒してたし、何度か助けられたよ」

 「ふむ……」

 そう呟き、久遠が考え込む。
 ちなみに、ソフト帽の女性は2人の部屋の隣に泊まっている。

 「ねぇ暢介。あの子を誘わない?」

 「誘う?」

 「うん。これから先、仲間は1人でも多く欲しいしあの子は優秀だったら手に入れるべきだよ」

 「でもさ……あの子を勧誘したとして、あの子に払うお金とか無いよ」

 「……元々、部下である僕にも全然払ってないけどね」

 そう言ってジト目で暢介を見る久遠。
 そんな久遠からそ~っと視線を外す暢介。

 「兎に角、あの子に会おうよ。大体、名前だって聞いてないしさ!」

 席から立ち、暢介の手を引き摺りながら久遠は部屋を出る。



 「すいません。ちょっといいですか」

 ソフト帽の女性の部屋の前で声をかける久遠。
 その後ろで暢介は引っ張られた右手を撫でていた。

 「久遠のやつ、力いっぱい引っ張りやがった……」

 そう聞こえない様に呟く暢介。

 「……はい」

 室内から女性の声が聞こえた。

 「あのぉ……ちょっとお話をしたいんですが、いいですか?」

 そう尋ねる久遠に室内から。

 「へ!? ちょ、ちょっと待ってて下さい」

 少し慌てた感じで言う女性。
 
 その後、室内から慌ただしい音が聞こえ時々。
 『うわぁ!』とか『痛っ!』という声が聞こえてきた。

 「何してんだろ? 暢介、ちょっと覗いてみてよ」

 「やだよ。女性の部屋を覗くとかそんな趣味は……」

 「無くてもいいから、もしかしたら怪我してるかもしれないし」

 「……」

 ため息をつき、暢介はドアをノックする。

 「ちょっと入るよ」

 「へ!? ちょ、ちょっとま……」

 中の女性の声を聞かずにドアを開け、室内に入る暢介。
 その後ろに久遠が続く。



 「……」

 「……あっ……」

 「ん? どうしたの暢介?」

 室内に入った暢介の目に入ってきたのは、ただいま絶賛着替え中の女性の姿。
 ソフト帽は脱いでおり寝台の上に置かれていた。

 気まずい沈黙が続く中、女性の顔が一気に赤くなった瞬間。
 女性は近くにあった置物を手に取り、暢介に向けて投げつけてきた。

 「うわ! ご、ごめん。久遠、下がってくれ。一旦外に出よう」

 「何で? 僕からは何も見えないんだけど」

 「着替え中なんだよ! 早く、痛っ! さっきから置物とか投げつけられてるんだよ」

 「着替え中なの! し、失礼しました」

 そう言って2人は女性の部屋から逃げる様に出て行った。



 「いてぇ……結構大きな置物をぶつけられたぞ……」

 そう言って置物が当たった部分を擦る暢介。
 そしてジト目で久遠の方を見る。

 「思ったけど、久遠が入ろうと言わずに彼女からどうぞって言われるまで待ってればよかったんじゃないか」

 「……」

 そう言った暢介に対して、久遠は視線を逸らし口笛を吹きながらかわす。
 しかし、暢介の視線が気になるのか。

 「……ごめん」

 と頭を下げる。

 「まぁ投げつけられたのが顔とかに当たらなくて良かったよ……しかし、俺達の印象悪くなったんじゃないか」

 「そうだね。着替え中に勝手に入っちゃったからね」

 しまったなぁという表情を浮かべる2人。

 そうしていると、室内から「どうぞ」という声が聞こえたので、2人は再び女性の部屋に入った。



 「「さっきはごめんなさい」」

 部屋に入るなり暢介と久遠の2人は頭を下げ、女性に謝罪した。
 着替えが終わっていた女性はソフト帽を被っていた。

 「さっきの事は気にしてませんよ……まぁ、私も置物を投げつけてしまったので、お怪我はありませんでしたか?」

 「あぁ、大丈夫だよ。身体は丈夫な方なんでね」

 そう暢介は返す。
 先ほどの投げられた中に剣などが無かったのが幸いだった事だろう。
 置物ぐらいぶつけられても急所に入らなければどうという事は無い。

 「そうでしたか。所で、私に何か様だったんでしょうか?」

 「あぁ、そうだった……久遠」

 暢介が久遠の方を見ると久遠は頷き、女性に話しかけた。

 「先ほどの戦闘では暢介を守ってくださり、ありがとうございます」

 「いえ、当然の事をしたまでで」

 「それに、暢介からあなたの剣術が大変素晴らしかったと聞きました」

 「そんな素晴らしいとは……」

 褒められた事が恥ずかしいのか女性はソフト帽のツバの部分を掴み弄りだした。

 「それで一つ聞きたいんですけど、あなたはどこかに仕えているんでしょうか?」

 「いいえ。私はどこにも」

 「そうでしたか。良かったら、僕達と一緒に行きませんか?」

 その言葉に女性は弄っていた手を止め、目をパチクリさせる。
 どこかの勢力から仕官要請が来るのではなく、義勇軍からの要請。

 「一緒にというと、義勇軍にですか?」

 「ええ」

 久遠の言葉に女性は考え込む。

 (どうなんだ? 義勇軍からの要請とか受ける人いるのか?)

 (分からないよ。ただ、彼女を手に入れたいって気持ちはあるから……)

 女性の邪魔にならない様に小声で話す2人。



 女性の考える時間が長くなっており、2人とも『これは駄目かもわからんね』と思い始めていた時。

 「すいません」

 という声が聞こえ『駄目だったか……』と2人が同時に思う。

 「そうか……」

 と暢介が呟くと。

 「いえ、私じゃないですよ」

 と女性が首を横に振りながら言う。

 「声、外の方からだね」

 そう言って久遠は席を立つと扉を開け、廊下に顔を出す。
 すると……

 「あっ、あなたは」

 という久遠の驚く声。
 そして。

 「おっ、そちらにおられたのですか。お連れの方もそちらに?」

 「は、はぃ」

 聞き覚えのある声、長老格の老人の声である。

 二三言葉を交わし、老人が女性の部屋に入ってくる。
 久遠は老人を部屋に通した後、暢介の隣に戻り席に着いた。

 老人も女性にすすめられ席に座る。

 「僕達の方の部屋の前に立っていましたけど、僕達に用だったんですか?」

 「ええ。一つ頼みたい事がありましてな」

 「頼みたい事?」

 暢介と久遠は頭に ? を浮かべながら顔を見合わせる。

 (頼みたい事って何だろ?)

 (さぁ? でも、頼まれて断るのも何だし、話を聞いてから……)

 目と目の会話で結論を出し頷く2人。

 「えっと、内容次第ですが一体何を頼むおつもりで?」

 「頼み事と言うのはですな……逃げ出した領主に代わり、ここを治めてもらいたいという事で」

 「あぁ治めるね……へ?」

 老人からの申し出に暢介と久遠の目が点になる。
 まるで予想していなかったといった所だ。

 「なんで僕達にそれを?」

 「あなた方は義勇軍ですが、今は本拠となる場所がなく彷徨っている状況でございましょう。ならばここを本拠にし活動を行う方が良いかと思いましてな」

 老人の言葉に久遠は俯く。
 そして、そのままの状態で口を開く。

 「……本音は何ですか?」

 「賊を倒したとはいえ、まだまだ賊はおります。守って頂きたいのが本音でしょうか」

 「なるほど、それでこの地を本拠として申し出てるんですね」

 「ええ。いかがでしょうか?」

 「ちょっと待って下さい……相談させていただけませんか」

 暢介の言葉に老人は頷く。



 「どうする久遠」

 「悪い話じゃないんだよ……ここを治めるって事はね……」

 「……でもさ、ここって本来の領主がいるんだよね……その人が戻ってきたら揉めるんじゃ」

 「賊を恐れて逃げたのが戻ってくるとは思わないけどね。普通に戻ってきたら領民が黙ってないよ……それに」

 「それに?」

 「いざとなったら奥の手もあるよ」

 「奥の手?」

 「うん。僕はあんまり使いたくないんだけど……まぁ、そういう事だから受ける事で問題は無いと思う」

 「……分かった受けよう」

 相談を終え、暢介と久遠は老人の方を向いた。



 「あなたからの申し出を受けさせて頂きます」

 そう言って暢介は頭を下げる。

 「そうですか有難う御座います。それでは明日にでも城の方へ案内をいたしましょう……それでは」

 老人は感謝を告げ、頭を下げると部屋から出て行った。

 「ふぅ……夢じゃないよな」

 「夢じゃないでしょ……ねぇ暢介。何か忘れて無い僕達」

 「忘れてるって……あっ?」

 落ち着いた暢介と久遠が視線に気づきそちらの方を見る。
 そこには忘れられた事に少し涙目になっている女性の姿だった。

 しかも、ここはその女性が泊まっていた部屋だ。

 「……」

 「……良かったですね」

 妙な空気が流れる。
 さっきまで要請してて答えを聞く前に老人が来て、さっきの流れだ。

 完全に視界から消えていた。

 「あの、先ほどの要請に関してですが」

 「は、はぃ……」

 「お受けいたします」

 「ほ、本当ですか」

 「はい。あっ、一つ言っておく事が、別にここの領主になったから受けると言う事じゃないですので」

 「それって義勇軍のままでも受けてたって事?」

 久遠の言葉に頷く女性。
 さて、暢介と久遠は未だに女性の名前を聞いていない。

 その事に気付いたのか、女性が被っていたソフト帽を左手取り胸の所まで下げる。
 そして頭を下げると。

 「申し遅れました、私、姓は徐、名は庶、字を元直、真名を燈と申します」

 「……しまった。また僕、名前とか聞くの忘れてた……」

 そう呟き、落ち込む久遠。
 
 「あの……司馬懿さんは何に落ち込んで?」

 「あぁ……気にする事じゃないよ」

 そういって苦笑する暢介。
 首を傾げる燈であった。

 その後、暢介と久遠も燈と真名を交換したのだった。 
 

 
後書き
アイスノンがあってよかった。 
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