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恋姫†袁紹♂伝

作者:masa3214
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第45話

 
前書き
~前回までのあらすじ~

公孫越「もうさ、婚姻同盟結んで、終わりでいいんじゃない?」

家臣「ええぞ!ええぞ!」

公孫賛「えぇ……(困惑)」







ハム「同盟結んで下さい、婚約でいいですから!」

袁しょ「ん? 今、将になるって言ったよね(言ってない)」


大体あってる 

 
 魏国を蝗害が襲い、解決してから約半年の時が流れた。
 
 陽と魏の建国により浮き足立っていた諸侯は、未曾有の乱世へと身を投じた。
 ある者達は領地拡大の為、ある者達は自国を守る為、各自が掲げる義の為に戦いに明け暮れた。

 そして、今も――

「進め進めぇッッ! 踏みしだけぇッッッ!!」

『オオオオオォォォォォ――――ッッッッッ』

 次の戦地へと向かう大軍が吼える。奇襲に近い形で幾つもの砦を落として来た為に士気も高い。
 しかし、彼らの今までの戦いはあくまで前哨戦であり、本番は次にあった。

「陽国など恐るるに足らず、我等の武勇を刻み付けるぞ!」

 彼等の次戦の相手は、あろう事か大陸最大勢力を誇る袁陽である。
 兵力は約一万。大国を相手獲るには心もとない数字だ。

 だが問題は無かった。彼等はまともに戦う気など無かったのだから――……。





 陽の建国。これに反感を持った者は少なくない。
 いくら王朝の権威が失墜しているとはいえ、諸侯はその臣下である。
 袁紹が漢王朝に見切りをつけ建国した時、彼の勢力を疎ましく思っていた者達はそれを批判した。
 民を虐げ続け、漢王朝の寿命を下げた一員でありながら厚顔無恥にも、袁紹を“不義理”と非難したのである。

 そんな中、反袁陽筆頭とされる男の一人が戦を仕掛けた。
 彼の狙いは袁陽を倒す“力”を手に入れること、その為の進軍だ。

 いくら陽国を非難し、陰口を叩こうとも、かの国が大国である事は変わりない。
 戦いを仕掛けることは余りにも無謀であり、徒党を組むことすら出来ず尻込みしていた。
 皆が恐れているのは袁陽の“多数精鋭”とまで呼ばれる兵士である。だからこそ男は戦を仕掛けた。

 少数精鋭こそ兵の常、多数で精鋭など幻想である。それを証明できれば他の者達も重い尻を上げるはずだ。
 そうなった時は自分が反袁陽連合を率いる。かの大国を滅ぼし、史に名を刻むのだ!







「物見より報告、この先に袁陽軍の姿を確認!」

「待ちわびたぞ、くくく……! して、兵力は如何程だ?」

 三万? 五万? 男の口角がつり上がる。
 何も考えなしに戦を仕掛けたわけではない。単純だか必勝の策が彼にはあった。

 それは―――緒戦で全力を出し尽くす事。
 相手は大軍だ、ならば余力を残しながら戦うはず。それに対して自分達は緒戦だけ考えればいい。
 大局での勝利など考えていない、緒戦の一勝だけ獲ればいいのだ。
 後は兵力差を言い訳に撤退。自軍が緒戦を制した事を流布すれば、多数精鋭など幻想であったとして、各地で燻っていた諸侯が立ち上がるだろう。

 しかし―――耳を疑うような報告が男を待っていた。








 男の怒号が響いた頃、その怒りの対象である袁陽軍の軍中で、一人の童女が項垂れていた。

「はぁ~、とっても憂鬱なのです……」

 音々音だ。未熟ではあるが常に懸命な彼女が、此処までやる気が出ないのは珍しい。

「……ねね」

「! 『恐れず、且つ油断するな』です!!」

「わかっているなら実践なさい!」

「は、はいです!」

 そんな音々音を叱ったのは、お目付け役として付いて来た桂花だ。

「……」

 とは言え、音々音の気持ちもわからんでもない。
 今回の戦に用意された兵力は騎兵千騎。そう、重装騎兵隊“大炎”である。
 数だけ見れば少数だが、正規軍十万に相当するとまで言われいる、袁陽が誇る武の結晶だ。
 
 今回の相手は正規軍とはいえ、たかが一万。役不足もいい所である。
 ……恋が追従していない事も、やる気が削がれている一因だろう。
 
「ほら、敵軍が見えたわよ。精々派手に歓迎して、私達に刃を向けたことを後悔させなさい」

「はいです、出陣!」

『応!』

 音々音の言葉に呼応して千の黒炎が動き出す。その馬脚が踏み鳴らす音は、とてもではないが千騎が出すような音ではなかった。






 音々音達の背を見送った後、桂花は後方に設置した物見の高台から全体を見渡していた。
 今回、恋を欠いた大炎と音々音が迎撃に抜擢されたのには勿論理由がある。
 敵軍の撃退は二の次、真の狙いは音々音が考案した新戦術の実験だ。
 
「いよいよですな」

「キャッ!?」

 戦地を見渡していた桂花の背後から、聞きなれた声が届く。
 星だ。桂花と同じく今回の戦場へ追従してきた彼女が、いつの間にか背後に立っている。

 少し話が逸れるが、桂花は袁陽の中でも重要な人材である。
 その才は政務だけに留まらず、財政、軍事と、袁陽のあらゆる分野を担っているため。
 国としてだけでなく、袁紹個人からの依存度も高い。
 彼女がいなければ今頃、袁紹は書簡の山に埋もれていただろう。

 それほどの重要人物であるだけに、桂花の護衛には一般兵士とは比べ物にならない精鋭が付いている。
 現在も。彼女が居る高台を中心に厳重な見張りが張り巡らされていた。
 そんな文字通り蟻の入る隙間も無い中、星は音も無く桂花に忍び寄ったのだ。

「ちょっと星。味方なんだから正面から堂々と来なさいよ!」

「はっはっは、それでは面白み――あ、いや。護衛共の訓練になるまい」

「……」

 ちらりと護衛に目を向けると、彼らはバツが悪そうに目を逸らした。
 その様子に桂花は溜息を洩らす。別に失望したわけではない、彼らには何度も刺客から命を救ってもらっている。その働きぶりからしても護衛達の能力は確かだ。
 問題なのは星の隠密能力である。

 かつて黄巾と対峙し、三姉妹を救うため単身潜入行動をとっていた星。
 彼女はその時、本業の隠密を見たと公言しており、それで気配を消すコツを掴んだらしい。
 桂花からしてみれば傍迷惑な話である。

 将である星は基本的に戦地で単独行動をしない。それでなくとも彼女は正面から堂々と戦うことを好む。
 斥候は兎も角、要人暗殺といった裏仕事は夢のまた夢だろう。
 故に、その高い隠密能力は悪戯か、華蝶仮面として警邏から逃げ回る時にしか使われていなかった。宝の持ち腐れもいいところである。

「持ち場を離れるなんて、感心できないわね趙雲将軍?」

「おっと手厳しい。しかし問題はありませぬ、我が隊は優秀な者が多いのでな」

 あっけらかんと言ってのける星に、桂花は再度溜息を洩らす。

 彼女の言葉通り、趙雲隊は袁陽でも一二を争う精鋭部隊だ。
 攻に傾倒している部隊が多いだけに、攻守共に臨機応変に動ける趙雲隊は稀有な存在である。
 兵達は将である星の性質を色濃く継いでおり、普段だらけているぶん本番で必ず仕事をこなす。
 仮に星が離れたとしても、副将が上手くまとめているだろう。その優秀さを疑ったことは無い。
 だからこそ、軍の模範として規律を重んじてもらいたいのだが……。

「む、私の顔に何か?」

 どこからか取り出したメンマを食している星を見て、桂花は再三溜息を洩らす。
 結果を出しているだけに強く出れない。非常にもどかしい話だ。

「それにしても楽しみですなぁ、大炎専用戦術“大炎開花”」

 メンマで頬を綻ばせた星が、話題を変えるように口にする。
 此処に足を運んだのは見物するのが目的だ。桂花への悪戯はついでである。

 今回の新戦術“大炎開花”は殆どの武官達には伝わっていない。
 概要を知るのは袁紹と軍師達だけである。賈駆は新参であるため席を外そうとしたが、袁紹の好意により知ることを許された。

「秘匿としたのは流出を防ぐためですかな?」

「そうよ。この戦術は強力だけど、その分対策しやすいわ。でも、一度嵌れば――」

「嵌れば?」

「……殆どの軍は成す術も無いわね」

「それほどに……!」

 星は反射的に戦場へと目を向けた。これから繰り広げられるのは、音々音が心血を注いで編み出した大戦術である。



 反董卓連合軍。あの戦で音々音は苦い敗北を経験した。

 南皮に帰還し、改めて報告をした彼女を待っていたのは労いの言葉だった。
 それもそのはず。結果的には賈駆との心理戦に敗北した音々音だが、その行動は最善だったのだ。

 人馬を吹き飛ばし、矢も刃も弾き返す重騎隊。そんな規格外の騎馬に突進してくる一台の馬車。
 何も無いと高をくくれる方がおかしい。数に限るある駒を守ろうとした音々音の行動は理に適っており、師である桂花もその判断を褒めた。
 そんな温い評価を良しとしなかったのが、音々音当人である。
 大炎の専属軍師となって日は浅いが彼女には、大陸をまたにかける大将軍とその部隊の軍師であるという大きな自負があった。

 その軍師が心理戦で遅れを取る。被害は出ていないものの、目標を逃していれば意味が無い。
 そして、自分に課した汚名を返上すべく今回の戦術を編み出したのだ。





 桂花と星が見守る中、ついに戦が始まった。

「大炎の初手は魚鱗の陣による騎突か、単純だが強力な戦法だ」

「今の大陸で、大炎以上の突破力は存在しないわ。対応を誤れば相手はお仕舞いよ」

 敵軍は兵をV字のような形で配置、迎撃する構えだ。

「鶴翼か、しかしあれでは……」

「良く見て、広げた兵は少数にして中央を固めているわ」

「ふむ、大炎の足を止め包囲殲滅が狙いか」

 重装兵で固められている中央に大炎が構わず切り込んでいく、その突破力に星は引き攣った笑みを浮かべた。
 正面から迎えうった敵兵は殆どが大盾を装備していた。大炎の装甲とは比べるまでも無いが。
 突撃する騎馬にとって厄介な障害物であることに変わりは無い。
 それを呂奉先の矛無しに、速度を緩める事無く吹き飛ばす部隊が眼下にいる。
 相対している敵軍からすれば、悪夢もいい所だろう。

「!? 大炎の勢いが中央で止まった!」

「違うわ、あれは止めたのよ」

 突然のことに面食らう敵軍だったが、図らずも大炎を包囲する事に成功。
 その馬脚に歩兵が群がらせ、騎突による突破を封じた。

 その事態を受けて、大炎は群がる歩兵に対処しながら円陣を組む。

「方円の陣。あれでは防戦一方に……」

「それは違うわ」

 星の分析に異を唱えた桂花は、頭上に疑問符を浮かべている昇り竜に――

「大炎の方円は攻めの前段階よ」

 常識を覆す言葉を落とした。








 ――なんだ、何が起きている!?

 敵軍の指揮官である男は目の前の事態が理解出来ない。

 相手は自軍の十分の一である千騎。それでも油断はしなかった。
 反董卓連合軍には参加していなかったが、目の前に居る漆黒の重装騎兵が大炎であることは知っている。
 かの部隊一つで、反董卓連合軍を制することが可能だったという過大評価には鼻で笑ったが。
 その突破力の高さは見て取れた。だかこそ、包囲殲滅するため工夫を凝らしたが――

 待っていたのは規格外の突破力、男は目を疑った。
 一騎等百の評価など誇張したものだと思っていた。そうでなくとも今の時代。
 自軍の兵力、討ち取った敵軍の数は、脚色して多く大きく見せるのが常だ。
 眼前の騎馬隊はどうだ? まるで一騎等百を証明せんとばかりに突撃してくるではないか!

 その勢いは何故か中央で止まった。近くに居た味方が歓声を上げる中、嫌な予感が男をよぎったが、この好機をみすみす逃すわけにはいかない。
 指揮官である男は、大炎を包囲する事を選択した。

 それが、煉獄の入り口であるとは気がつかずに―― 





 変化は、大炎が方円の陣を築いてからすぐに訪れた。

「しょ、将軍。あれは一体!?」

 砂埃だ。それが、大炎が居た場所を中心に大きく舞っている。
 部下の一人が驚いたのは、その砂塵が自軍に及ぼした異変に関してだ。

「兵が、吹き飛ばされていく……!」

 砂埃の正体は、方円のまま回転する大炎であった。
 車掛の陣。日ノ本の軍神、上杉謙信が用いた陣形である。
 本来の車掛は外からぶつけるのに対し、大炎は敵軍中央でこれを用いた。
 そして明確に違うのは―――()が徐々に広がっていく事である。





「凄まじい……!」

 さしもの星も驚きが隠せない。敵に包囲されると言う事は危機的状況である事が当たり前だ。
 にも関わらず、眼下では包囲された側が一方的に攻め立てている。
 大炎の周りは阿鼻叫喚の地獄絵図だ。矢は弾かれ、刃を通さない。
 そうでなくとも大炎は長槍を得物にしている為、間合いに入った者は即座に風穴を開けられる。
 苛烈な攻撃を潜り抜け、やっとの思いで槍を突き出しても小楯で弾かれる。
 そして大炎の槍を免れた者達は、彼らが作り出す濁流に飲まれ果てていくのだ。

 最早、蹂躙であった。

「成るほど。敵中で大炎が広がっていく様から“大炎開花”か」

「はずれ、開花するのはこの先よ」

「!?」






「被害は約二千! 将軍、こままでは……!!」

「馬鹿な、何故逃れられぬのだ」

 大炎の戦術の恐ろしさ、破壊力を早々に理解した敵軍の将は包囲を解こうとした。
 しかし、下がっても進んでも、右に左に動いても、回転し続ける大炎がぴったりと付いてくる。

 それを可能にしたのは回転の中央、空地と化した場所で全軍を見渡していた音々音だ。

「敵がまた東に動いたです、旗隊!」

「応!」

 彼女は専属の護衛の中で最も体躯が良い男の肩に乗り、仮の高台から敵軍を見渡していた。
 取り折矢が降って来ることもあるが、それは他の護衛達により防がれる。
 そして敵軍が移動したのを確認した後、目印となる旗兵と共にその方向へとゆっくり進む。
 円は音々音を中心に形成されているため、彼女が動けば円もまた連動する仕掛けだ。
 こうして大炎はまるで敵を焼く煉獄の炎かの如く、敵軍を追いつめる。








「大炎の炎から逃れる術は一つ、そろそろよ」

「――これは!?」

「そう、陣を崩してバラバラに散る事。これ以外には無いわ」

「その散っていく敵兵の様が、まるで花開いていくことから……」

「大炎開花。美しく残酷な、大炎が咲かせる戦場の華よ」

「……」

 華、などいう生易しいものではない。確かに周囲に散ることで被害は止まったが。
 半狂乱になりながら敵兵が逃げ出していく光景は、さながら、大火事に巻き込まれた女子供だ。
 陣は解け、隊は乱れ、もはや士気がどうこうの話ではない。
 正規軍にも関わらず、一人、また一人と武器を投げ逃げ出したのだ。
 隊を纏める者がそれを止めようと奮起するが、それが同士討ちにまで発展した。

「!?」

 そんな中、星は大炎を見て目を見開く。
 
 狙い通り敵兵が散ったのを確認した彼等は、音々音を中心に再び魚鱗の陣を築いていた。
 狙いは勿論。陣を崩し、直属の部隊しか連れていない敵総大将である。

 それを察知した敵将が白旗を掲げたことにより、今回の戦は大勝利に終わった。








 戦は終わり、自分の手勢が戦後処理に動いているのを見下ろしながら、星は感慨深そうに呟く。 
 
「何とも、凄いものを目撃したな……」

 嘘偽りの無い感想だ。初めは物見遊山だった彼女も、今はすっかり将の顔をしている。
 星は頭の中で、仮に自分とその隊にあの“大炎開花”が使われた場合、対処できるか模索していた。

「……」

 無理だ。一度内に入られたら最後。先程の敵軍のような結末を迎える。
 対策としては大炎の騎突をどうにか封じて、内に入られないようにするくらいしか……。
 最悪、散った後に体勢を即座に立て直せるようにすれば――

 星がいつになく難しい顔で思案に暮れていると。
 桂花が悪戯な笑みを浮かべながら、とてつもない爆弾を落とした。

「“大炎開花”には、今回見せていない先があるわよ」

「―――ッ」

 何度目かわからない驚愕。その表情を見て桂花が満足そうに笑う。
 普段してやられているのだ、このくらいの報いは可愛いものだろう。
 先があるというのも嘘ではないし。

 




 少しして、二人の立場が逆転しかけていたその高台に本国から報せが届いた。
 内容は魏国が袁陽に宣戦布告したというもの。それは新たな戦いの幕開けであった。










 
 

 
後書き
覚醒軍師 陳宮

好感度 80%

猫度 ニャニャニャーンです!!

状態 主君<呂布

備考 苦い敗戦から覚醒何かに目覚める
   呂布と袁紹なら半刻迷ったあと呂布に抱きつく
 
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