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PANDORA・WORLD

作者:伊10
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プロローグ

 
前書き
一次創作です!異能モノが書きたかったんです!暫くこっちメインになるかもしれないです。 

 
世界の全てが、紅で染め上げられていた。

沈む陽はより一層燃え上がり、空にその色を映す。雲の峰も深紅に染まり、空の一角を埋め尽くしている。

地にそびえる山も建物も、夕陽を受けて、紅い光を反射した。

そして、目の前には、夕陽より遥かに鮮烈で、残酷なほどに美しい紅が広がっていた。

悪くないな。

少年は思った。“死ぬ間際”に見るには勿体無い程に美しい。血溜まりの中で少年は嗤う。親を失い、居場所を失い、全てを捨ててまで生きてきた少年が、たった一つ持っていた物、『命』を失うのだ。神様かなんかがせめてもの情けをかけてくれたのだ。

そんな、柄にも無いことを考えていた。




人の近寄る気配に、少年は僅かに瞼を開いた。辛うじて動く首をそちらに向けると、まだ十歳の少年でも思わず見惚れるような美人がそこに居た。

「まだ息があったか、少年。」

少年は応えようと口を開いたが、出てくるのは血反吐だけで、声は出せなかった。喉を潰されている事を、少年は今更ながら思い出す。

「しゃべらなくていい………悪い事をしたな。もう少し早ければ間に合ったのに。」

バツが悪そうに謝罪する女性。だが、少年に彼女を恨む気持ちは微塵もなかった。あんな生き方をしていた以上、遅かれ早かれこうなっていただろう。脇腹を貫く銃創を見て少年は思った。ただ、ちょっと予想外の事件に巻き込まれただけだ。

そう考えれば寧ろ、こうして誰かに看取って貰えること自体、少年にとっては望外の幸運だった。

そんな少年に、女性は思い付いたように話し出した。

「なあ少年、まだ生きたいか?」

その問いに少年はやや迷ったあと頷いた。諦めはあるが、未練もある。生きられるのなら棚ぼただろう。

「それが、死ぬより辛い、呪いの生だったとしてもか?」

少年からすれば、それは愚問だった。死ぬより辛い?そんなこと日常茶飯事だった。

今度は一切の躊躇なく頷く。今更なんだ。そんな思いが少年にはあった。

「そうか………よし、遅くなった詫びだ。受け取れ、この《災厄》を。」

そう言うが早いが、女性は全くの予告もなしに、いきなり少年に口付けした。

「………!?」

驚愕を浮かべる少年。口に広がる血の味と、身体中の熱を感じながら、そっと意識を手放した。





―――――――――――――――――――――――――――――――――








「………りしまさん、霧島さん、……霧島さん!」

「………………んん。」

自身を呼ぶ声に、少女―――霧島(きりしま)(しずく)は、そっと瞼を持ち上げた。体を起こし、辺りを見回す。夕陽が射し込んだ、いつもの教室。どうやら寝てしまっていたらしい。

夕陽を見ると、何か記憶の奥底に引っ掛かるような気がしたが、ぼんやりとしたイメージが浮かぶだけで、具体的な物は何一つ分からない。

「………紅?」

何故か浮かんだ色の名前を口にすると、隣から呆れたような声が投げられた。

「大丈夫か?寝起きの第一声がそれで。」

「……気にしないで、峰雲君。こっちの話よ。」

そう不機嫌そうに答えてから、雫は呆れ声の主にして、自分を起こした張本人の少年―――峰雲(みねくも)(しょう)の方を向いた。いつも通りの何処か達観したような、食えない表情(かお)をしている。雫はこの少年があまり好きではなかった。何を考えているのかさっぱり読めない癖に、こっちの考えは全て見透かされている気がするのだ。

雫の考えすぎかもしれないが、それでも何か嫌だという奇妙な感覚は消えなかった。

「何の用?」

「いや、もう下校時刻だせ?」

霄の言葉にチラッと時計を見ると、既に六時に迫っていた。ここ、県立幽月南高校では、部活動を除き、生徒は六時までに下校する決まりだ。そんなにも寝ていたのか、と、若干の驚きを抱く。

「しかし授業中でも無いのに机で寝てるなんてな。何か有ったのか?」

「別に、何も。」

雫はそうは言ったが、眠ってしまう直前の記憶がひどく曖昧な事に気が付いた。しかし、疲れが出たのだろうと自分を納得させる事にした。

「じゃあ、私はこれで。」

帰ろうとする雫を、しかし霄が引き留めた。

「送ってく。最近物騒だしな。」

霄が言っているのは、最近幽月市で起こっている連続通り魔事件だろう。夕方から夜にかけて、人気のない道を歩いていた人が次々と襲われ、今日までに3人が亡くなっている。学校でも対策を練ったようで、明日から暫く休校になるようだ。

被害者は皆、四肢を引き千切られた上に、メッタ刺しにされるという常軌を逸した方法で殺害されているという。しかし、

「………要らない。」

雫は断った。この男の事だから恋愛感情は一切無いだろうが、嫌っている相手にわざわざ送ってもらうこともなかった。

「そっか。」

しかし、霄は慌てない。彼には秘策があった。

「じゃあいいや。黙って後ろを付いてくから。」

「…………………。」

雫にとってみれば、そっちの方が百倍不気味だった。同時にやっぱり嫌だと思った。峰雲霄という男は、雫がこう言えば断らないと分かっていたのだ。やはり、見透かされている気がしてならなかった。

「……分かったわ。勝手にして。」

その言葉を聞いても、霄は特に喜びも何もせず、ただバックを持って、「行こう。」と短く言っただけだった。 
 

 
後書き
主人公、峰雲霄君とヒロイン、霧島雫嬢の仲はひたすら険悪です。別に霄が何をした訳ではなく、ただただ雫嬢が嫌っています。次回、いきなり物語が動きます! 
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