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Three Roses

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第十一話 葬儀と即位その十二

「私はここから去るしかなくなる」
「はい、我等もです」
「この国にいられなくなります」
「まさにです」
「そうなってしまいます」
「この国を得られなくなる」 
 具体的な言葉だった、実に。
「それは避けたい」
「先王も崩御されましたし」
「姫様もです」
「帰るしかなくなりました」
「妹は気の毒だった」
 王妃であった彼女のことにもだ、太子は言及した。
「折角嫁いだのにな、しかしだ」
「はい、この度のご結婚は残念でしたが」
「次のお相手がおられます」
「次のお話のことはもう、ですね」
「本国でお話されていますね」
「その様だ、父上が本国の重臣と進めておられる」
 太子、そして妹姫の父である皇帝がというのだ。
「次の相手のことはな」
「もうですね」
「既に進めておられますね」
「ならばですね」
「我等は」
「そうだ、妹は先王の崩御は忘れてだ」
 そしてというのだ。
「次の幸せに向かえばいい」
「そうですね」
「ロートリンゲン家ではこれまでもよくあったことです」
「伴侶の方が先立たれることは」
「ですから」
「その時は決まっている」
 それで終わりではないのだ、寡婦になるということはロートリンゲン家の考えにはないことなのだ。これまでも今もこれからも。
「今言った通りだ」
「次ですね」
「次のご結婚ですね」
「そうなりますね」
「そうだ、だからだ」 
 それでというのだ。
「妹もそうなる、我が家は婚姻の家だからな」
「婚姻により栄えてきた」
「それ故にですね」
「姫様もですね」
「そうなりますね」
「そうだ、ではだ」
 それ故にというのだ。
「妹は間もなくこの国を去らねばならなくなるが」
「我々は慰めそしてですね」
「新しい門出を祝う」
「そうしますか」
「是非だ」
 それはとういうのだ。
「そうしよう、では」
「はい、宴はですね」
「姫様の新しい門出を祝う」
「そうした風にされますね」
「人が死ぬことは悲しい」 
 太子もこの感情は否定しない、如何に国の為とはいえ妹が王に情を感じていたことは察している。それでこうも言ったのだ。
「それだけでな」
「ですが、ですね」
「人はその悲しみを乗り越える」
「そうしていかねばならないこと」
「それで、ですね」
「姫様については」
「その悲しみを癒し」
 そしてとだ、側近達も言うのだった。
「新しい門出を祝う」
「そうしたものにされますね」
「では、ですね」
「楽しい宴にしますか」
「そうしたものに」
「是非な、では妹を見送る宴の用意もする」
 見事な杯を手にして言う。
「やることは多いがな」
「この度の宴もですね」
「その中に入りましたね」
「では姫様の新しい門出を祝い」
「笑顔で送りましょう」
 側近達は太子に口々に続いた、そして今は彼等だけで乾杯をした。だがそれは祝いではなくこれからのことについての誓いのものだった。


第十一話   完


                          2016・5・30 
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