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おぢばにおかえり

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第三十四話 あちこちでその四

「美味しいわね」
「それをお腹一杯食べてます」
「何か本当に」
「本当にっていいますと」
「おぢばに住んでるみたいね」
「そうですか?」
「だって毎日ここにいるみたいだし」
 このおぢばにです。
「それで御飯まで食べてだから」
「だからですか」
「もうね」
 心から思ったことでした。
「中学まで地元だったのよね」
「今もお家はですよ」
「それで随分親しんでるわね」
「いい場所ですから」
 にこにことしたまま言う阿波野君でした。
「奈良とか八木とか橿原にも行けますしね」
「ああ、電車で」
「はい、すぐに」
 それこそというのです。
「近鉄で」
「近鉄線で八木とかすぐだしね」
 おぢばからです、とはっても寮生は基本おぢばから出られないです。
「それでなの」
「はい、ひのきしんさせてもらってからお昼も食べたりして」
「帰りはそうした場所で遊んでるのね」
「そうしてます」
「そうなのね」
「いいですよ、ただ八木駅の商店街はもう寂れてますし」
 ここで寂しい顔になった阿波野君でした。
「ニチイって百貨店もなくなりましたし」
「色々変わったのね」
「そうなんです、僕近鉄百貨店も行かないですし」
「どうしてなの?」
「好みで」
 それで、というのです。
「最近は奈良とか行く方がいいですね、帰り道逆でも」
「阿波野君お家桜井の方よね」
「はい、あと桜井駅の周りは八木以上に寂れてまして」
「行ってもなのね」
「悲しい気持ちになるだけなのであまり行かないです」
 桜井の方は八木以上にというのです。
「橿原とか奈良が多いですね、最近は」
「奈良市ね」
「やっぱりあそこはいいですよ」
「何度か行ったことはあるわ」
 奈良市はです、私もです。
「お父さん達とね」
「お寺や神社も多いですしね」
「商店街もいいわよね」
「駅前の」
「街も奇麗でね」
「いい感じの街ですよね」
 奈良市についてはにこにことして言う阿波野君でした。
「だから最近よく日曜は遊びに行ってます」
「ひのきしんの後は」
「はい、楽しんでます」
「そうなのね、ただね」
 私はその阿波野君に微妙な顔で返しました。
「寮生は基本おぢばから出られないから」
「奈良市にはですか」
「あまり行けないの」
「それは残念ですね」
「卒業したら別だけれどね」
「大学に行くか就職したら」
「ええ、そうなったらね」
 私も高校三年です、ですから将来も考えています。とはいっても天理大学を受けるつもりで勉強をしていますけれど。 
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