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舞台裏

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第三章

「いますから」
「幽霊ではないな」
「もっと厄介な存在です」
「では悪魔か」
「悪魔でもないです」
 それとはまた違うというのだ。
「もっと厄介なんですよ。本当に」
「幽霊や悪魔よりも厄介か」
「カモラ。御存知ですか?」
 テノール歌手もだ。彼等のことを言ってきた。
「カモラですけれど」
「ああ、少し聞いたよ」
 マネージャーとの話を思い出しながらだ。シャリアピンは答えた。
「何でもマフィアみたいだとか」
「名前は違うだけでマフィアと同じなんですよ」
「そうなのか」
「はい、それでなんですけれど」
 テノール歌手は具体的にだ。シャリアピンにカモラについて話してきた。
「もう何かとね」
「何かとか」
「劇場にたかってきて。色々としてくるんですよ」
「じゃあこの劇場は」
「経営とかは実質カモラがやってる様なものなんですよ」
「そうだったのか」
「劇場支配人は確かにいますよ」
 劇場に必ずいる、だ。その存在はだというのだ。
「それに指揮者もいますけれど」
「それは表か」
「はい、あくまで表のことでして」
 どんな場所にも表と裏がある。ここで問題になるのはその裏だった。
「券の手配やらお客さんの捌きやら。細かい仕事は勝手に引き受けてきて」
「勝手にか」
「ロイヤルボックスに来る偉い人に出すワインや料理、シェフの手配までね」
「全部カモラが仕切ってるんだな」
「勝手にそれやってるんですよ」
 劇場支配人の言うことを聞かずにだ。そうしているというのだ。
「それでなんですよ」
「ううむ、それは酷いな」
「で、その見返りとしてですね」
「劇場から金を巻き上げてるんだな」
「たかってるんですよ」
 そうしてきているというのだ。
「もうね。大変なんですよ」
「それはまたな」
「ええ。正直困ってます」
 歌手は実際に困っている顔でだ。シャリアピンに答えた。
「私達歌手の給料や契約金もピンハネされていますし」
「君達のもか」
「どうしたものでしょうか」
「そんな連中とは手を切ることが一番だな」
 実にあっさりとだ。シャリアピンはこう歌手に答えた。
「絶対にな」
「やっぱりそう思いますか」
「さもないとよくない」
 表情もきっぱりとしていてだ。そのうえでの言葉だった。
「やくざ者やゴロツキにたかられていてはまともな芸術にはならない」
「それはわかってるんですが」
「手を切れないか」
「だから皆困ってるんです」
「そういうことになるか。そうなのか」
 シャリアピンはテノール歌手の話を受けてだ。そうしてだ。
 腕を組んでそうしてだ。また言ったのだった。
「それではな」
「それでは?」
「私の前にも出て来るな」
 そのカモラがだ。そうしてくるというのだ。
「絶対にそうしてくるな」
「ええ、とにかく歌手全員に勝手に馬車を手配してきて」
「それを理由にしてか」
「本当に勝手に仕事してきてたかってきますから」
 その仕事の報酬だとだ。割高にだというのだ。
「困るんですよ。下手に逆らえばですよ」
「やられるか」
「何されるかわからないんですよ」
 犯罪組織に付き物の話だった。
「だから余計に」
「そうか。ならだ」
「なら?」
「考えがある」
 シャリアピンは静かに言った。 
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