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魔法少女リリカルなのは 絆を奪いし神とその神に選ばれた少年

作者:レゾナ
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第三十三話 限界を知る為の戦い

気絶したヴィータを医療班が医務室へと運んでいく。その様子をただじっと見つめ続けるミサキ。

ミサキは徐に両手を合わせて深く礼をする。それはミサキが倒した相手に対して必ず行う動作。

戦ってくれた事に感謝、そして自身の限界を知らせてくれてありがとうという二つの意味の感謝なのだ。

礼をしてからたっぷり十秒ほど過ぎた後、ミサキは礼を止め観戦室へと戻っていく。

そして戻る際にこれから模擬戦を行う全とシグナムと鉢合わせた。

「ミサキ執務官。先ほどの試合、見事だった」

「ありがとうございます、シグナムさん。気を付けてくださいね、全は私より強いですから」

「ほぉ?それを聞いてさらに戦意が高まってきた」

シグナムの顔を見てミサキは思った。ああ、この人は戦闘狂なんだと。

そして全にアイコンタクトを送る。頑張れっと。

全もそれに応える。ああ、頑張ってくるよと。

ミサキと全の間に会話は必要ない。会話しなくとも先ほどのアイコンタクトのように相手がどんな事を自分に伝えたいかはすぐにわかるからだ。

そしてミサキは全とすれ違いざま、全の拳に拳を合わせる。これもまた二人がいつもしてきた仕草。

頑張れというエールを相手に送っているのだ。

そしてそれを全は受けた。この時、全は思った。負ける気がしない、と。

そして、全とシグナムは訓練室へと足を踏み入れた。

ミサキSIDE

観戦室にやってきた私を出迎えたのは質問責めだった。

「あのあの!バインドをあんな風に使うのってどうやって考えたんですか!?」

「というか、身のこなしが綺麗だったんですけど……」

「ねぇねぇ!どうやったらあんな綺麗に戦えるの!?」

「ちゅうか、鎖みたいに使っとったけど……あれって痛ないんですか?」

「ああ、ああ、もう!一遍に話しかけないでくれ!まず、なのはさん!その質問に関しては禁則事項!教えれない!身のこなしに関しては普段からあんなイメージトレーニングをずっとやってればああなる!鎖にみたいに使ってたのは否めないけどあれはしょせんバインドだから、そこまで殺傷能力はない!!これでいい!!?」

「「「「は、はい……」」」」

イライラしながら私は律儀にきちんと返事をする。

私はまあ、簡単に言えば騒がしいのが嫌いなのだ。前世でお嬢様学校に通っていたのもあるかもしれない。

少し怒りながら返事をして、私は窓際でずっと訓練室の中を覗き込んでいるるいの元へと向かう。

「どうした?」

「あ、ミサキさん。驚きましたよ、あんな戦い方してたんですね」

「ああ、前世でもあんな戦い方をしていたからね。まったく前世での私の努力を馬鹿にされた気分だったよ。チェーンバインドという魔法を知った時にはな」

「そうなんですか?」

「ああ、まったく」

本当に、この世界に来てチェーンバインドという魔法を知った時は思わず膝から崩れ落ちてしまったからな。

こんな便利な物があったなら、前世ではどれだけ楽だったかと思ってしまった。

いや、決して楽をしたいから言っているわけではないぞ?ただ、鎖を縦横無尽に扱うのに相当な時間を使ってしまっていたからあまり鍛錬に身が入らなかったんだ。

そのせいなのか、前世では東馬や双覇さん、メリルさんの手を煩わせた事も多々あったからな……。

「あ、あの、なんでそんな哀愁漂わせるような顔をしてるんですか?」

「ん?ああ、いや、別に。何でもない……」

どうやら思い出していたせいで若干悲しげな顔をしていたらしい。

「それよりも、見ていた方がいいぞ。全の戦い方は……恐らくこの魔法世界において原始のような戦い方だからな」

「「「「「「???」」」」」」

私の言葉を聞いた六人(いつの間にか戻ってきたなのはさん達を含めて)は揃って首を傾げる。

「ま、あいつがシグナムに勝てる訳ないけどな」

そんな中、あのバカは変な事を言っているが、私の耳には聞こえてこない。

なぜなら、私は目の前の戦いに集中しなければならないからだ。恐らく、全はこの戦いで()()を使うだろう。

あれを使われたら、肉眼で捉える事は不可能だからだ。

さあ、見せてやれ、全。前世において、史上最速最強の殺し屋と云わしめた全の実力を。

SIDE OUT

訓練室に入り向かい合う全とシグナム。

二人とも、すでにバリアジャケットを展開しており、シグナムはデバイス「レヴァンティン」を既に抜刀しており、全も腰を低くして、戦闘態勢に入っている。

「シグナムさん。本気でお願いします。でないと、修練になりませんから」

「なるほど。わかった、では最初っから全力でやらせてもらおう。お前も全力を出せよ?」

「わかってます。第一、俺は今まで一度たりとも、手を抜いた事はありません」

前世も含めて、と全は心の中で呟く。

「そうか、それは失礼したな。では、……行くぞっ!」

「っしっ!!」

シグナムは剣を振りかぶり、最初からトップスピードで全へと肉薄し剣を振り下ろす。

それに対し、全は予測していたのか腰からシンを取り出し、その勢いのままにシグナムの剣を防御する。

ガキィンッ!!と金属同士がぶつかり合う音が鳴り響く。

「ほぉ?予測していたのか?」

「まあ、なんとなくですが……開幕直後は誰しもが自身のペースに持ち込みたいと思いますからね。だったらこうなるかなぁとは」

「さすがの観察眼……あの時よりもさらに磨きがかかっているな」

あの時?と全は心の中で疑問に思うが、すぐに答えは出た。

そうか、神楽院の事か。と。神楽院の戦い方を見た覚えはないが、恐らく徹底的に相手を観察してから戦っていたのだろうと思う。

「それでは、これからが本番だな!」

シグナムはそう言うと、全から一度離れると降り立ったその場所から消える。

(いや、消えたんじゃない。高速で動き続けてるのか……)

全はその場から一歩も動かずにただ体勢を低くしたままだ。それを見た聖は思った。これで神楽院の負けだな、と。

あいつが動けないのはシグナムの動きが見えてないから。だったらこの勝負、決まったも同然だ。

聖は勝手にそう解釈した。

しかし、全と相対しているシグナムは違う考えだった。いや、むしろ先ほどよりも顔には緊張が走っていた。

(橘の奴、完全に私の動きを見切っているっ!?)

そう、全は目を閉じてただ体勢を低くしているだけ。しかし、常に意識はシグナムの動きを追っていた。

そして全は()()()()()()()()()()()()()していた。

それにシグナムは驚く。速さには自身があったからだ。フェイトに負けるにしても、それでも完全に見切られるという事はなかった。なぜならば、シグナムは歴戦の戦士。動きを見破ることはそれこそ、相手も歴戦の戦士でなければ殆どありえない。

しかし、全の事を知る者ならシグナムの動きを完全に見切っている全を見てこう言うだろう。

「あんなのは(東馬)からすれば、丸見えも同然」と。

全は自身の歩法術『縮地』によって人間の出せる限界に近い速度の世界を知っている。

しかし、シグナムはまだその世界に入り込めていない。

ただ、シグナムが遅いわけではない。全が速すぎるだけなのだ。

そして、全は動く。自身の今の限界を知る為に。

(まずは……縮地の二歩手前っ!)

(っ、来るっ!!)

全が今までいた場所から消える。そして、鳴り響く金属音。

そして双方の姿が見えないにも関わらず、それからもずっと金属音が鳴り響き続ける。

「え、えっ?ど、どうなってるの?」

「シグナムと互角なんか!?フェイトちゃん並のスピードやん!?」

なのはとはやては驚く。全にそこまでの強さはないと思っていたからだ。

しかし、フェイト達は違う。全は努力していた。それこそ子供の頃からだ。だからこそ、あれくらいは出来ると思っていた。

だが、ミサキはそれ以上に心配していた。

(全君、試すためとは言え、全力の縮地は使わないでね……!)

今の全の足なら普通の縮地だけでもなんとか耐えられるだろう。だが、それも持って数分程だ。

ミサキが一番心配しているのは縮地を全力で使う事だ。

あの限界を知る為なら何でもする全だが流石に体を壊すような事はしないだろう、ミサキはそう思っていた。

だが、全の思考はそんなもの考えていなかった。

(まさか、縮地の二歩手前に追いつける人がいるなんてっ!!!)

(私の全力の一歩手前の速さに追いつくのがこんな子供とはなっ!!)

前世で、全の縮地に対応出来ていたのは仲間内を除けば、自身の事をライバルだと豪語していたあいつだけだったので素直に全は嬉しかった。

(これなら、普通に縮地をしてもまだ対応されるだろう、だったら……全力でやるだけだ!!)

「シグナムさんっ!!」

「なんだ、橘っ!!」

姿が見えないながらも、喋り合う全とシグナム。そしてその会話は観戦室にも聞こえていた。

「た、戦ってるのかっ!?あのシグナムと、あのスピードで!?(馬鹿なっ!?ありえない!あいつは僕の踏み台なんだぞ!?あそこまで力をつける必要はないじゃないか!?)」

「す、凄い……」

「うん、全ってば凄いや……」

「し、シグナムと互角なんか?」

「いや、橘が強い事は知っていたが、まさかここまでとは……」

「ここまでなんて……私も知らなかった」

「前世での今の年齢の全の実力よりも上……?じゃあ、まさか……」

それぞれ驚きながら戦いを見守っていると、全は決定的な言葉を口にした。

「貴方相手なら……形振り構わず戦うことが出来るっ!」

「っ!?それは止めろ、全!!!!」

形振り構わず戦う。その単語が聞こえた瞬間、ミサキは訓練室の中が見えるようになっている鏡に張り付き、声を荒げる。

「全!!!止めろ!!!それを使用すればどうなるか、お前が一番わかっている筈だ!!!」

「み、ミサキさん……?」

「ミサキ執務官……?一体……」

「ならば、見せてみろ!その形振り構わない戦いという物を!!!」

「わかりましたよ、これが俺の……本気の全力だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

そして金属音が鳴り響かなくなり—————————————————気が付けば、シグナムが倒れ、全が立っていた。

「ぐ、……あ”……」

シグナムは腹部と腰部に走る痛みに歯を食いしばりながら耐える。そうでもしなければ痛みで気絶しかねないからだ。

「あ”あ”……(な、なにが起こった……?何も、見えなかった……!)」

「はぁ、はぁ、はぁ……」

全がした事は単純明快。全が使える二つの歩法術を同時に使った。ただそれだけだ。

全は二つの歩法術が使える。一つが縮地。もう一つが『抜き足』と呼ばれる技法だ。

抜き足とは原理は簡単。相手の無意識下に高速で動くだけ、というもの。

人間は認識した物を機械的に事細かに処理は出来ない。この抜き足はそれを利用した物。

だが、普通の足の速さでやってもシグナムが受けた程のダメージにはならない。なぜならシグナムは()()()()()()()()()()()を入れられたのだから。

そう、全は抜き足を()()()使()()したのだ。

それも形振り構わない全速力での縮地だ。それは誰しもが認識出来ないまさしく神速の中の神速の領域。

その速さを持って同時に違う場所を攻撃する、という離れ業をやってのけたのだ。

しかし、それは全にとっても諸刃の剣でしかなかった。

「ぐっ……がっ、あっ……」

全はシンを納刀した瞬間、倒れこむ。両足を抑え、苦しみ始める。

「ぜ、全……?」

「がっ……あ……?」

るいは観戦室から全の様子のおかしさに気づく。シグナムも同様だった。

そして、それは起こった。

「ぐぅ……ガァ……あああ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!!!!!!!」

まるで、死ぬ……いや、長い長い苦痛を与えられ続けた人間があげる叫びのように全は叫ぶ。

その悲しい悲鳴のような叫び声をなのは達は恐れながら聞き続ける。

「くそっ、あのバカは!!」

そんな中、ミサキは一目散に観戦室を出て行った。

扉が閉まる音が聞こえ、それにより観戦室にいた全員の意識が戻り、彼らも一目散に観戦室を出て行った。

訓練室に彼らがつくと、全はまだ叫び続けていた。

「ああああ、あああああああああああ!!!!」

「このバカッ!!!こうなったのは自業自得だ、馬鹿者め!!」

ミサキはそんな文句をいいながらも全の足に回復魔法をかけていく。

「い、一体、何が……?」

「シグナム、大丈夫か?」

「主……大丈夫、です……何とか……」

痛みに耐えながら立ち上がったシグナムをはやてが支える。

「簡単よ。言葉通り形振り構わず全力で使って足が負担できる許容限界を超えた。ただそれだけ」

「許容限界を、超えた……?」

「無限に水を入れれる桶はないでしょ?それと同じ。成長途上中のこの体でこんなの使ったら足に後遺症が残る可能性だってあるのに……このバカは……」

足に回復魔法を当て続けながら、文句をいいつつも心配するミサキ。

「あ、あぐ……」

「……ふぅ、少し収まったみたいね。彼を医務室に、私は応急処置位しか出来ないから」

「あ、ああ。わかった、シグナムの分は」

「わ、私は大丈夫だ……恐らく、最後の一撃は力が乗らなかったのだろう。あまり痛みはない」

「しかし、それでは「あれ?どうかしたんですか?」?」

クロノとシグナムが話していると、小さな声が聞こえてきた。

入り口を見てみると、そこには目元を擦る小さな少女が浮いていた。

体長は三十㎝といった所だろう。長い銀髪をしている。

「あれ?リインやん。どうしたん?」

「いえ。何か大きな音が聞こえたので起きちゃったんです……それで……あれ?」

リインと言われた女の子……リインフォース(ツヴァイ)ははやて達の元に近づき、処置を受けていた全の顔を見て、うん?と首を傾げる。

「?どうしたん、リイn「あぁぁ、全さ~~~~んっ!!」……え?」

リインフォース(ツヴァイ)は徐に全の名前を大声で呼ぶと、全に抱き着いた。 
 

 
後書き
本文中にあった自称全のライバルを名乗る彼ですが。彼自身も物凄く強いです。まあ、それでも全には敵いませんでしたが。ただ、それでも全の縮地に唯一速度でタメを張れたのは彼だけという事実はあります。
仲間であった双覇は勘だけで全の縮地に対応していましたから、そこだけ見ても彼の化け物具合がわかるかと。出る予定はありませんが。
ただあくまで予定なので出るかもしれません。 
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