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Liber incendio Vulgate

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Praeteritum
  Cambio

 
前書き
二次の方を読まないと解らないかもしれません。 

 
IS(イズ)はその日も任務に就いていた。

暗殺目標は豪邸に住む富豪。気取られずに侵入する。あまりに何時も通りで張り合いが無い。

この家は名門で知られる『池野健二』という人物が主人だった。

屋敷の住人を一人残らず殺害し最後に目標が居る寝室へと辿り着く。



「こんな時間に来客とは珍しいね」



四十代程の人良さそうな紳士。彼が狙いだと確認し銃を構える。彼は返り血に塗れたIS(イズ)を見ても動じなかった。それどころか近付いて銃口の前に身を差し出してきた。



「貴方は『死』が怖くないのですか?」



どうせ殺すのだから最後に聴いてみよう。ISはそんな軽い気持ちで『池野健二』に問うてみた。今まで自分に殺されると理解したほぼ全ての者が最後の瞬間、死ぬ直前まで命乞いしてきた中で彼は初めての反応を見せたから。



「死の恐怖ならある。今だってそれを感じているよ」



誰しも死にたくないのは当たり前。だからこそ彼に尋ねたのだが返ってきた答えに失望する。

もう良い、早く仕事を終わらせよう。そう思ったISだったが池野健二は再び言葉を紡ぐ。



「人には寿命がある。君が手を下さずとも(いず)れ私は死ぬ。人間は生きていく上で他の生命を糧として生きている。それに気付かず日々を過ごす者は多い。

だが君は理解してくれているようだ。ならばこそ私は君が今日を生きるための糧となることを受け入れている」



ISは銃を構えたままきょとんとなる。その顔は他の同年代と同じような、年頃の少年らしい顔になっていた。そして健二に自分のことを語り出した。


気が付けば『Anaconda(アナコンダ)』に所属し、気が付けば人の殺し方を教わり、気が付けば朝から武器の手入れをすることが日常の一部となっていたことを。

そして何時しか人を殺す意味を見失い、人を殺す意義を見出だせなくなっていた。それでも殺しを止めなかったのは生きるため。そして自分の居場所を確保するため。

物心ついた頃から命を奪い、人一倍に頭が良く、他人の機微(きび)(さと)いISだからこそ悩んでいたのだ。



「成る程ね……。今はまだ解らないかもしれないが何れ解る時が来るだろう。君にも何時か自分の『生』というものに意味を与えてくれる相手と出逢う時が必ず来る。

もしその人物に巡り逢えたなら、その殺す力を守る力として使うことを、今日死んでしまう私と今まで君が命を奪った人達に誓いなさい」



了承の返事をすると健二は微笑んで瞼を閉じる。彼の額に銃口が押し当てられ銃爪が引かれた。彼の死を確認した後、(すみ)やかにその場を立ち去る。

暗殺者になって初めて襲った家を燃やさずに帰還した。それが何故なのかはIS自身にも解らなかった。



池野健二を殺してからのIS(イズ)は思考の迷路に迷い込んでいた。これまで気にしないようにしていた人の死と殺す意味に真剣に向き合うようになっていたのだ。


「IS……おーい、IS」


振り返るとそこには数少ない話相手である『OR(オア)』という青年が立っていた。彼はISより年上で、Anaconda(アナコンダ)のNo.2という実力を持つ。



「御呼び立てしてすいません」

「良いよ別に。ところで相談って何だい?」

「解らなくなってしまったんです。どうして今まで人を(あや)めてきたのか。何故そうしなければならないのか……」



OR(オア)は普段の柔和な表情ではなく真剣な顔付きで言った。



「IS。暗殺者や殺し屋は殺す相手や殺してきた者、人の死というものについて考えてはならないんだ。

でないと誰かを殺す時に迷いや躊躇(ためら)いが出てしまう。僕は君に死んでほしくはないんだ。だからせめて、任務中はそのことを考えてはいけない」



ISは自分がこれまでのように何も考えず命を奪えなくなったことを嫌というほどに解ってしまった。そしてORに礼をすると何処か頼りない足取りでその場を去っていった。



「……IS。君は才能があってもこの組織(アナコンダ)には向いてないよ」



ORは思った。人は望んだ才能を持てるわけではない。望まぬ才を持つことの方が遥かに多いのだと。



 
 

 
後書き
操作君の過去編終わったらどうしよう。暫く放置するとは思いますけど。 
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