Liber incendio Vulgate
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Praeteritum
lacum agri
前書き
本編は別ですφ(^Д^ )
ある日の夜───
『STUDENT』の基地で『池野操作』は地上を散策中にフラリと立ち寄った書店で購入した本に目を通していた。
意外に興味が湧く話だったので読み耽っていると誰かの気配がする。操作は本を閉じて振り向いた。
「鈴菜さん…どうしたの?」
其処にいた少女の名は『箱部鈴菜』。
二人はSTUDENTに入る以前からの付き合いだった。彼女は彼に寄り添いその胸に顔を埋める。
「申し訳ありません……。ふと昔のことを思い出して……怖くなってしまったのです………」
操作が彼女の僅かに震えている体を黙って抱き締める。優しく慈しむように。壊れてしまわないように繊細に。その心までも労るように。
「有り難う御座います操作様……。貴方は何時如何なる時も私にお優しいのですね……」
操作は彼女の震えが治まるまでそのままでいた。暫くすると小さな吐息が聞こえてくる。何時の間にか鈴菜は眠ってしまっていた。その寝顔を眺めながら操作はぽつりと呟く。
「優しい…か……。決してそんなことは無いんだけどね……」
彼は窓の外を見る。STUDENTの基地は第0学区という地下にあるので星の光も月の明かりも入って来ることは無い。夜空のように見えるのは人工的に造られたものだ。
操作は目を瞑って思い出す。自分と鈴菜の過去を。瞼の裏には今でも焼き付いている。彼女が恐怖を覚えた元凶を。
鮮明に記憶している。その心に消えることの無い深き爪痕を残したものが他ならぬ自分自身であることを。
「……僕は優しくなんてない。もし優しくなれているのなら……それは君や彼等のお陰だ」
何度も夢枕に浮かんでは淡く儚い泡沫のように消えていった人達。
「優しさという希望と強さを知ることが出来たのは恩人であるあの人達、そしてその想いが巡り逢わせてくれた君という存在が傍に居てくれたからなんだよ……」
現在より時を遡ること三年───
地上にある学園都市の地下に存在する第0学区には当時、『Anaconda』という暗殺組織が暗躍していた。
高い暗殺成功率を誇る名う手の暗殺者が幾人も構成員として揃い、其処には途切れること無く依頼が舞い込んでは人知れず暗殺が行われていく。
数百人に及ぶAnacondaの人間は皆、一様に体の何処かに『髑髏に巻き付いた蛇』のタトゥーを彫っており、それが忠誠の証だった。
また暗殺が必ずしも成功するとは限らない。毎日のように顔を知る知らないを問わず死んでいく構成員がいる。足りなくなった人員は定期的に補充されるようになっている。
組織は子供の頃から暗殺者として育て上げる為の『養成所』の運営もしており、取り分け地下の『腐敗区』と呼ばれる区画では生きるために手段を選ばない者が多いため、自分から組織に入ったり拾われてくる者も多かった。
そして池野操作は養成所時代で歴代最高の成績を残し、『Anaconda』の正規暗殺者となった。
彼は任務を失敗したことが一度も無かった。そしてあまりにも才能があった為に周囲から妬みや顰み、僻みを買って、足を引っ張られ陥れられそうになったことも幾度となくあった。
しかしそれらを全て乗り越え彼が周囲を見回し同期の仲間がほぼ死に絶えたことに気付いた頃に状況は一変する。筆舌に尽くし難い実力に誰もが手出し出来なくなっていたのだ。
何時しか彼はAnacondaという組織の歴史上に於いて最年少にして最強のNo.1暗殺者と言われるようになっており、裏社会でも組織内でも畏怖される孤高の存在となっていた。
学園都市や第0学区には環境的に超能力を使う人間はごまんといる。勿論だが『Anaconda』にも超能力を使える暗殺者はいる。およそ半数はそのような者だ。
その上でNo.1になることが一体どういうことなのかは想像も出来ない。しかも操作はほぼ能力を使わずに最も優秀で有能な暗殺者の称号を得てしまった。
他の誰より功績を積んで得たその地位が示すところ。それはつまり、組織の誰よりも暗殺に長けていたということ。
Anacondaという組織の筆頭となるために必要なものは『実績』。プライドだけでは強くなれないし上に行くことも出来ない。信頼は実績の後に着いてくる。
AnacondaのNo.1に求められるのは“最強“と言わしめるだけの実績。ただひたすらに結果を出し続けること。それが出来ない者は頂点に君臨することなど出来はしない。
そして池野操作には皮肉にもそれを成し得る非凡で稀な力と才能があった。誰もが認めざるを得ない他者と隔絶した天賦が。
当時の彼は『IS』という名で呼ばれていた。
『死』という言葉は英語で『DEATH』。操作がこの言葉を調べた時に『is』という言葉を見つけたのが切っ掛けでこの名前にした。
『I』は英語で『私は』。
『S』は『魂』という意味の『Soul』。
操作が込めた意味はこのようなものだった。
“ I who reap the soul “
これは一人の暗殺者が光を見出だす迄の色褪せたセピア色の記憶。そして今でも色濃く刻まれた誓いと継承の物語。
後書き
そこまで長い話にはなりません。この話の元となった二次の方は操作君の過去編が完結しているので、先の展開が気になる方はそちらを御覧下さい。
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