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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第26話『魔術VS.蹴球』

 
前書き
視点がコロコロ変わります。
誰が誰だかはわかると思います。 

 

「シュート!!」

「うわっ!?」


大地が晴登に向かって、サッカーボールを蹴り放った。風を切り、音をたてながら進むそのボールを、晴登はギリギリながらも体を横にずらして避ける。


「惜しいな」


笑みを浮かべながら悔しがる大地。晴登はただ唖然とするしかなかった。

そもそも、1年生である彼がこの場に居るのは「すごい」と言えよう。
サッカー部は人数もそれなりに多い。それなのに上級生を差しおいて、その中から選手に選ばれたのだ。
コイツの実力は元々知ってるが、入学してからさらに力を伸ばしたに違いない。今のシュートだってその表れだろう。


「ま、ボールはまだ有るけどな」


大地はそう言って、袋の中からストックしていたボールを取り出す。
晴登はすぐさま避ける準備をした。


「遅ぇよ!!」

「!!」


しかし大地は晴登のその行動を読んでか、ボールを地面に置くことをせず、ボレーシュートで攻撃してきた。
一方、晴登はその行動を読むことができず、目の前に迫ってくるボールを見続けるしかなかった。

どうしよう…どうやって防げば…。

これを受ければ一発でノックアウトだろう。
ならば確実に防がねばならない。

そう思った晴登の右手は、ボールの軌道と同じように真っ直ぐ伸びた。


ブワァァァォ!!


大地の蹴ったボールが晴登の右手に触れた。
すると、そのボールは威力を無くし、宙を舞った。

風が止んだ。

静寂に包まれる。


「お前…」


大地が驚きを隠せなかった。
何せ、自分のシュートを素人の片手で止められたのだから。
サッカーをやる者にとって、この敗北感ほど辛いものは無いだろう。


「やべっ、使っちまった…」


晴登が誰にも聞こえない程の小声で呟く。
咄嗟だったとはいえ、人前で堂々と魔術を使ってしまった。
「これは気づかれてしまうのでは?」と、晴登の心は焦りと不安に支配された。


「(俺のシュートがあんな容易く…? 一体どんなトリックが…?)」


そんな晴登の様子に気づくことが無い大地は、さっきのは自身の失敗ではなく、晴登が何かトリックを使ったのだと思い始めた。
しかし思い当たる節が無い。晴登に何か特別な能力が有る訳でもないし、そもそもの運動能力は自分の方が上である。
一体どうやって・・・?

二人共考え込んでしまい、闘いが一旦中断されてしまった。







「な、何か不気味な奴ね…」


そう呟くのは、魔術部副部長の緋翼。
彼女の前には、世にも奇妙な人物が立っていた。

全身を覆う程の真っ黒なマント。フードを深く被って顔を隠していると思いきや、白色の中に黒でつり目とニヤけ口だけを塗られた、シンプルで不気味な仮面を被っていた。


「な、何か喋ったらどうなのよ?!」


緋翼の言うことを無視しているのか、仮面の人物は喋ろうとしなかった。
この行動も不気味さを際立たせている。緋翼は完全に焦っていた。
無理もない。この外見は誰が見ても怖いと思えるものなのだ。


「逃げるが勝ち!」


緋翼は振り返って逃げ始めた。正体がわからない相手と闘うなんて愚策中の愚策。当然の決断だ。

だが追いかけてくる仮面の速さは並ではなかった。
なんと運動神経のいい緋翼のスピードとほぼ同等、気を抜けばすぐに追いつかれてしまうだろう。
後ろをちらりと見やれば、にんまりとした仮面が追いかけてきている。もはやホラー映画のワンシーンだ。


「コイツ何部?!」


緋翼は疑問を叫びにして出した。
何せ足の速さには自信があり、陸上部にも引けを取らないほどだと自負はしている。だからこそ、こんな訳のわからない格好をしている奴にスピードで負けるはずがないと思っていた。
それなのに、ピッチリと追いかけてくる仮面の正体とは一体誰なのだ。怖すぎる。


「こっち来んなー!!」


緋翼の叫びは虚しく廊下に木霊し、そのまま2人の恐怖の追いかけっこはしばらく続いたのだった。







「お前は同じクラスの・・・」

「莉奈で~す! よろしく~」


一方伸太郎は、晴登VS.大地と同じような状況になっていた。
相手は同じクラスにいて、確か水泳部ということは覚えている。右腕に抱えているビート板、頭に被っている水泳帽とゴーグルが、何よりもそれを示す。


「水着にジャージだけかよ、無用心な…」

「えー何? 何か言った?」


伸太郎は莉奈の格好に向かって小さく呟いた。
何せ今の彼女の格好は、競技用と思われるどこぞの有名な会社の印が書かれているシンプルな水着に、部活のジャージを羽織っているだけなのだから。
薄着で怪我をしやすいというのも有るが、とりあえず色んな意味で危ない格好だ。


「(こいつは確か三浦とよく絡んでたな…? あんま怪我させると悪いよな…)」

「フッフッフ、どうしたどうした? 来ないのならこっちから行くよ!」

「はぁ、メンド…」


こちらが手加減しようとしているのに、相手はやる気満々だ。ため息をつきながら、伸太郎は向かってくる莉奈を待ち構えた。








「はっくしょい!」

「…!? だ、大丈夫か?」


晴登が急にくしゃみを放つ。
ずっと考え事をしていた大地はそれに驚かされ、無意識の内に晴登を心配した。


「あ、あぁ大丈夫だ。噂でもされてんのかな?」

「随分普通な発想だな」

「普通って言うな!」


二人とも先程まで考えていた事を忘れ、軽口を叩く。


「ったく、何考えていたか忘れちまったよ」

「考えるより行動しろってことだな」


二人はそれぞれ自分の考えに答えを出し、戦闘を再開することにした。


「お前がどういう理屈で俺のシュートを止めたか知らないけどよ、今度は絶対に当ててやる」

「臨むところだ」


大地は己の力を信じ、そう宣言した。
晴登はそれをしっかりと受け止め、やる気に満ちた表情で言葉を返す。
二人は「仕切り直しだ」と呟き、再び戦闘を始めた。







「何で誰も居ねぇんだよ~?」


そう気怠そうに呟くのは、魔術部部長の終夜。
彼は他のメンバーとは違い、今は誰とも出会わず校舎を徘徊してるとこであった。
ビシバシと部費を稼ぎたいのに、相手がいないのではどうしようもない。


「そういえば、この戦争には“アイツ”も参加してるんだろうな…。絶対会いたくないわ…」


敵を探しているというのに、会いたくない敵が居ると言う終夜。彼の頭の中には、自分が苦手に思う人物の姿が映っていた。


「絶対“理科室”には近付かねぇようにしねぇと」


終夜は「怖い怖い」と言わんばかりの様子で、廊下を歩いていった。







「おらよっ!!」


大地に思い切り蹴られたボールは、寄り道などせずに真っ直ぐ晴登へと向かっていった。
だが晴登は腰を低くして右手を構えると、またも魔術でそれを止める。


「…おいおい、どうなってんだお前の右手?」


大地は困った様子でそう言う。先程とは違い、「やれやれ」といった感じだった。
しかし晴登は答える訳にもいかないので、「いや~」などと目を泳がせて誤魔化す。


「しょうがねぇ。晴登、“下手な鉄砲も数打ちゃ当たる”って知ってるか?」


何を考えたのか、「数が勝る」といった意味の(ことわざ)を言った大地は、自身の目の前にボールをいくつも並べ始める。
それを連続で蹴ってくるというのは、晴登にも予想ができた。


「(風を広範囲に放っても良いが、それは絶対に不審がられる。今俺にできるのは、目の前に迫ったボールを受け流すくらい…)」


晴登は変わらない戦況を変えようと、必死に打開策を考える。尤も、大地がそれを待つことはなかった。


「いくぞ! 1!2!3!」


助走をほとんどせずに、両足を使って器用にボールを3本連続で蹴ってくる大地。しかしそれでも、威力は先程までとほとんど変わってはいなかった。


「ちょっと厳しいかな!」


晴登は両手を広げ、何とか自然を装って魔術を使い、ボールを流そうと試みた。だが異変はその直後・・・


ピカーッ!!


「眩しっ!!?」


突然ボールが破裂し、光を放ったのだ。いわゆる“閃光弾”である。
光を直視した晴登は慌てて目を塞いだ。


「これで何度目だよ!!」

「それはご愁傷さまだな!」


晴登はある出来事を思い出しながらそう叫ぶ中、大地は新たな一発を彼に放っていた。







「絶体絶命…」


壁へともたれ掛かり、絶望を感じながら緋翼は呟く。
目の前には仮面さんが近づいてきていた。


「(魔術使っちゃう? いやそれでも、コイツには勝てないかも…)」


まだ一切闘ってもいないのに、緋翼は弱気になって考えていた。あまりの恐怖に思考回路がショートしたという感じである。


「……」

「ひっ!?」


仮面さんが徐に細い鉄パイプをマントから取り出してきたため、緋翼の驚きがピークに達する。
しかし「ここで気絶しては負け」だと、彼女は自分に言い聞かせて姿勢を崩さなかった。


「だったら…」

「……!?」


そこで緋翼は自身の魔術の一部である“刀”を生成する。
まさか武器が出てくるとは思わなかったのか、仮面さんは少し驚いた素振りを見せた。


「(焔を出さなきゃ大丈夫。ただこれ真剣なのよね…)」


緋翼は自分の造り出した刀を見てそう言った。真剣、ということは下手すればスパッと斬れてしまうのである。
彼女は「安全第一」と心で呟いた。







「えいっ!やぁっ!とぅ!」


ビート板をブンブンと振り回す莉奈と対照的に、伸太郎はそれを全て見切って避けている。
かれこれ5分程この状況が続いているのだが、一向に終わる気配が無かった。


「ほらほら? 避けてばっかじゃ終わらないよ?」

「元気な奴だな」

「元気なのが私の取り柄だもん」


なんて生き生きしてるんだと心の中で思いながら、魔術を放つタイミングを計る伸太郎。なるべく目立たないようにしたい。

だが数秒後、思わぬ出来事が起きた。


「はぁ…タイム。ちょっと疲れた」

「…馬鹿め」


戦闘中にも関わらず、莉奈はタイムをかけて休もうとしたのだ。
無論それを逃がすはずもなく、伸太郎は莉奈を追い詰めるように攻撃を仕掛けた。


「喰らえっ!!」

「うわっ眩し!!」


まずはお馴染みの目くらまし。莉奈は両目を抑え、うずくまった。


「今だ!」


それをチャンスと考え、伸太郎はポケットから拘束テープを取り出す。そしてそれで、莉奈の腕を結ぼうとした。

すると・・・


「な~んて、隙あり!」

「がっ…!?」


強烈な一撃が腹にめり込み、思わず膝をつく。
これが女子の攻撃なのか?と思わせる程、その一撃は重いものであった。
「目の眩みは?」と疑問を持った伸太郎だったが、莉奈の顔を見上げてそれは解決された。


「ゴーグルか…」

「ピンポーン♪」


目くらましを使ったあの一瞬。あの一瞬に彼女はゴーグルをかけていたのだ。
その反射神経と行動力には驚く他ない。

お腹を抑えて立ち上がることもままならない伸太郎は、苦痛で歪んだ表情で、不敵な笑みを浮かべる莉奈を見上げることしかできなかった。







「そらっ!!」

「はぁっ!!」


大地が蹴ったボールを晴登が止める・・・それはさっきまでの様子。
先程の閃光弾…、実はそれはサッカー部が部活戦争用に製作した特別なアイテムだった。
それによって目を眩まされた晴登だったが、風を無闇に放ち、大地の攻撃を何とか凌いでいた。

そして現在彼らは、まるでキャッチボールをするかのように互いに1つのボールを放っていた。
大地が必死になってシュートを放ち、晴登がそれをコッソリ魔術で打ち返す。
その行動は、もはや卓球やテニスといった違う部活の様子であった。


「そろそろ手を動かすのを止めてくんねぇかな?」

「そっちこそ足を」


二人は睨み合いを続ける。まるで火花が出るかのように。しかも彼らはジリジリと自分らの距離を詰めていった。


そして遂にボールが大地の足に止まった時、晴登と大地は互いに残り1mまで近づいていた。


「これだけ近けりゃ逃げれねぇぞ?」

「お互い様にな」


二人は覚悟を決め、自分らの最高の技を放った。

 
 

 
後書き
さて、視点がバラバラで読みにくかった事でしょう。申し訳有りません。次回はもう少し読みやすくなるよう努めます。

でもって、今回は題名の通り晴登VS.大地をやったのですが・・・完結しませんでした(笑)
つか色々混ぜ込み過ぎて、何か文章がメチャクチャな気がします。これも次回気を付けます。

晴登VS.大地
伸太郎VS.莉奈
緋翼VS.仮面さん(仮)
終夜 フリー

お盆休みももう終わり。
大変な学校生活(現実)がそろそろやって来る頃です。
・・・次回も頑張って書いていこう! 
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