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ソードアートオンライン~戦場で舞う道化師~

作者:NNG
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アインクラッド編
  第九話免許皆伝かもしれない

 
前書き
今回で体術終わりです。


それでは どうぞ 

 
なぜか武器を取り上げられていないサイガはその理由として一つの考えが浮かんだ。
もしかしてあの三人が受けているクエストとは別物なのではないか、と。
何故なら既にクリアしているからだ。


「……んー……」
「どうしたの?さっきから唸ってばっかだけど」
「もう、集中できないわ!」
「……ぬー……」
「そう言うわけじゃなくて…」


アスナは注意をするのだが、目の前の子ともう一人の子は注意しても意味がない事を思い出し放っておく事にした。
放って置かれたサイガは、ふと石の上で寝ている仙人を見た。一見寝ているようだがサイガの動きを察知してあらゆる攻撃を
ぬるりぬるりとかわす、クエスト自体に影響は全く無いのだがサイガは一発その顔にお見舞いしなくては気が済まないのだ。
ふと、手元の石と仙人の背後にある木を見た。


「当たるかな〜」


石の飛んでいく軌道を計算し始めた、簡単に言えば木に反射させて当てようというのだ。引っ張りハンティングのように。
今までの全ての攻撃をかわしているバケモンにこんな安易な策が通用するはずもーー


ガンッ!!


当てってしまった。


「あたっちった!」


まさかまさかの展開に。直接の攻撃には異様な回避能力を持つが、跳弾のような関節的な攻撃には反応が遅れるらしい。
小躍りして喜ぶサイガを見て、アスナ、ナギ、ネズハは呆れながら見ていた。


「ほんとに当てちゃった…」
「私のレイピアもあたらなかったのに…」
「努力は報われるんですね!」


若干一名の解釈がおかしいが、三人はサイガの執念に驚きを隠せなかった。そんな中サイガも別の事で驚いていた。


(カーソルの色が変わらない…なんでだ?)


通常グリーンカーソルのプレイヤー、NPCを攻撃すると攻撃したプレイヤーカーソルはオレンジ色に変わる。
カーソルの色を戻すには、《カルマ回復クエスト》と呼ばれるめんどくさいクエストを受けなくてはならない。
または、二、三日ほど待つかのどちらかである。
通称《オレンジ》と呼ばれるプレイヤーは、市街区に入ろうとするなら鬼の如く強いNPCが現れ追い出されてしまう。
もちろんサイガはこれらの事を知っていた、けどやらずには…以下略
が、自分のカーソルは鮮やかな緑色のままだったのだ。サイガが軽く混乱している中、目の前にクエストウインドが現れた。



《さらなる高みへ》



(在り来たりな言葉だ、厨二全開かよ…)
などと考えながらも指はクエストを受注していた。クエスト内容はいたってシンプル。
仙人に触れる、これだけ。
だが、その難しさはいうまでもなく再び唸ってしまうサイガなのだった。









太陽が真上に登った頃、ピロン、と電子音がなった。アルゴからアスナへのメッセージのようだ。
内容を読むと、みるみるアスナの顔が怒りに満ちていく。


「なんで直接言わないのよ!」


先日のゴタゴタで、コミュ障のキリト君にとって、アスナに直接メッセージを送る事は難易度が高っかったらしい。
キリトからアルゴに、アルゴからアスナに送り難易度を下げたようだが、
アスナは直接送ってこなかった事がお気に召さなかったらしい。


「で、キリトはなんだって?」
「そういうとこだけ鋭いんだから…ボス戦の時間が決まったらしいわ」
「ナギのデビュー戦に間に合わせないとな
「え…」
「明日の昼12時からだそうよ」


12時、サイガも含め全員が一様にそれぞれの岩を見た。進行具合は、三分の一といったところか。


「…間に合うかな…」
「余裕だ、ガンガン殴れ」
「あのね、私もナギもか弱い女の子なのよ」
「どこがか弱いんだよ」
「何か」


気がつくと喉元には白く輝くレイピアが…


「…嘘です…」


サイガを睨みつつアスナはレイピアを納めた。


「サイガさんは何日くらいで割ったんですか?」
「俺は一日だ」
「「「…………」」」


サイガは皮肉や、弄りなど隙あらばしてくるが少し天然なところがあったりする。今回は素で答えたようだ。


「?お前ら固まるの好きだよな」
「好きで固まってるんじゃないのよ…」
「恐ろしいというか何というか…」
「一日中叩き続ければすぐ割れるはずだけど」


これは比喩などではなくサイガは食事、睡眠、休憩、などを全て除き本当に一日中叩き続け割った。


「サイガ君の事だから寝る時間を削ったりしたんでしょ?」
「うん、寝なかった」
「……食事は?……」
「何にも」
「何にも!?」
「一日くらい食べなくても「ダメッ!!」!?、!?」


いきなりの大声と、ナギの怒った表情にサイガは驚き思考が止まった。


「お腹減ったら集中できないでしょ!!!」
「あ…ええと…」
「わかった?」
「は…はい…」


ナギの気迫に押され、サイガはコクコクと頷く事しかできなかった。


「後、ちゃんと寝る事!!疲れが取れないくなっちゃうじゃない!!!」
「…はい」
「ご飯は一日3回!寝れる時は寝る!わかった!!?」
「…一日…3回ですか……」
「3回ですかって、サイガ君はどんな生活してたの!?」
「いや…一日一回食べるかどうかぐらいで…」


確かにVR空間での食事有無は現実世界の肉体的に関係はない。だが、精神的には大有りでこれらを使ったダイエット法も考えられている。第一層でコルを稼げずに、極限の飢餓状態に陥った為命を絶ったものは少なくない。
それ故にSAOでの食事は現実世界のそれより大切なのだ。


「…何て言えばいいんだろ…」
「まともに相手しちゃダメだね〜」
「なるほど!空腹時の集中力を利用したんですね!」


三者三様の反応、ネズハが実践するといったのでナギが全力で止めた。


「で、今サイガ君は食糧持ってるの?」
「もちろんですよ」


馬鹿にするなと言わんばかりにサイガは返答した。
どれくらい入っているのかと確認する為にナギはサイガのウインドを可視状態にして、ストレージを漁り始めた。
かなりの量があったのだが…


「…黒パン…黒パン…黒パン……」
「な?あっただろ?」
「…という事は…サイガ君一層からずっとこれ食べてたの…?」
「キリト君でもそんな事しないよ…」


黒パンとはSAOの世界で最も安い食料である。手軽に手に入るが味の保証はされておらず、
味がなく、何かを塗るなりかけるなりしないと食べられたものではない。
この世界で食事は数少ない娯楽の一つである。それをなしに攻略し続けるのは、常人ならまず無理だ。


「なんかひどい言われようだな…」
「別に悪いって訳じゃないけど、もっと他に食べる物あったでしょ?」
「それを言われると…私も最初そうだったから…」
「べ、別にアスナの事じゃないのよ、やっぱりサイガ君は変わってるなーって思ったから」
「じゃあ、ナギはいつも何食べてんの?」


サイガの質問の答えとして、ナギはストレージから小瓶を取り出した。


「なんだ?これ?」
「指で触ってみて」


言うとうりに小瓶をつつくと指先が淡く光り始める。


「このまま指でパンをなぞると…」


なぞった所に薄い黄色のクリームが現れた。


「さ、召し上がれ」
「……………!」


サイズはあまりの味の変貌と、美味しさに言葉を失い、一つ目をあっという間に食べ終えた。


「美味しい?」
「………………」
「美味しくない?」
「………………」
「もう、何か言ってよ」
「まあまあ、しょうがないじゃない。私だって言葉が出なかったし」
「そ、そうだけどさ…」


実はこの二人アスナはキリトに、ナギはアスナにこのパンを教えてもらい双方とも終始無言だったのである。
そんな最中、3つめのクリームパンを食べ終えたサイガはやっとくちをひらいた。


「いや〜美味かった、ナギありがとな〜教えてくれて」
「え、あっ、うん、どういたしまして」
「じゃあ、さっさとこのクエストを終らせよう!」


休憩は終わり、再び修行が始まった。






























岩に甲高く響く音が鳴り続き、全員の岩が半分ほどまでヒビが入った頃には、時計は12時を回っていた。


「もう、12時ですね…攻略組は突入する頃ですか…」


ナギとアスナは揃って岩を見るが、亀裂は半分を超えるか超えないか。三日かかってやっと半分なのだ。


「何か裏ワザでもないと終わらないよ…」
「サイガ君の剣で割ろうよ!」
「俺も考えたけど岩と剣の相性悪そうだからな、あと俺の剣壊れるからヤダ」


正攻法以外にシフトし始めた一行が意見を出しあっていると、
森へと続く一本道から牛のモンスターに追いかけられたプレイヤーが全力でこちらに向かってくる。
そのプレイヤーとは、《鼠のアルゴ》。


「アルゴさん後ろ!!」
「牛トレインしちゃってる!!」


アスナとナギの声をよそにアルゴは何かをしきりに伝えようとしているが、焦っているせいで未知の言語になっている。


「おたすけええええ!」
「アルゴさん落ち着いて!って、私達武器取られちゃってるんですけど!」
「どうするの!?どうするの!?」


パニック状態の三人が固まっているところに《トレンブリング・オックス》が突進を仕掛けた。
なんとか三人はかわした。
《トレンブリング・オックス》は少し離れこちらの様子をうかがっている。


「んで、アルゴどうしたんだ?」
「そうダ!この大岩のどれカ…《仙人の座する迷子岩》だかラ…」


キョロキョロあたりを見回し、仙人の座る岩を指差した。


「多分アレ!あの大岩を割れば、第二層ボス戦の新情報が出てくるはずなんダ!」
「「「ええっ!」」」


再び《トレンブリング・オックス》が突進をしてきた。


「ひぃッ!!」
「早く攻略隊に伝えないト、今回の層もベータからの変更点があるんダ!はやく、あの岩を割ってくレ!」
「そんなこといきなり言われても…」
「三日かかってようやく半分ーー」


今度はアスナとナギに向かって《トレンブリング・オックス》の三たび目の突進。
しかし、ここで全員違和感に気付いた。なぜか、アスナだけ異様に狙われているのだ。


「うわあっ、こっちこないで!!」
「アスナ凄い懐かれてるな…」
「…ほんとだね」
「……」
「なんだろ、美少女フェロモンかナ」
「じょ、冗談言ってる場合ですかー!!」


またもや突進、アスナはマントを棚引かせながら回避する。
この時、サイガは現実世界に今似た光景そっくりのものを思い出した。


「アスナ!その赤い色のマントに反応して追われてる!」
「!?……ははぁん?なるほどね」


アスナは赤いマントを脱ぎ、自分の前に広げた。
突進してくる牛を闘牛士さながらに避けていく、すると牛は止まり切れずに後ろの大岩へ。
あっという間に仙人の座る大岩は真っ二つになった。


「地下へ続く階段ってことは……」
「はやくこの情報を攻略組ニ伝えないとナ」
「アスナ、私もこのマント借りていい?」
「うん、全然いいよー」


同じように、ナギ、ネズハもクエストをクリアしていった。
残るはサイガただ一人。
全員が岩の下に続く階段を降りていくのを見ると、サイガはおもむろにアスナのマントを掴み、羽織った。


「クリアの方法分かったちゃった」


牛は当然サイガに向かって走って来る、サイガはそれを避け仙人に当てようというのだ。
体を回転させながら避ける、狙いどうり仙人に向かってまっしぐらに進んだ。が、仙人はぬるりとかわしてしまった。
牛と入れ違いになるようにかわしたので、サイガの目の前に飛び出してくる。
地に足がついてない状態の仙人にサイガは渾身の右ボディーを繰り出した。


(あたる!!)


しかし、杖を器用に使ってわずかにボディーブローが当たらない位置へ移動してしまった。


「まあ、そうなるよな」


その刹那、サイガの右手は青白く光り両手剣《絶ノ大剣》が現れた。
急に生まれたリーチに対応できず、そのまま仙人は横へなぎ飛ばされた。
岩にあたりズルズルと落ちる。起き上がるそぶりを見せる前にサイガとは今までの怒りを全て込めて一発お見舞いした。


「さすがに異常な回避能力があるとはいえ、クイックチェンジは反応できないよな」


やっと終わった、と胸をなでおろすサイガだがこの時あることに気づいてなかった。
地面に座り込んでいると、地下から地上へ上る足音が聞こえる。


「おう、やっと登ってきたか。どんな情報があった?」


振り返らずに何気なく尋ねてみるが反応がない。不思議に思って振り返ると、四人とも困惑した顔をしていた。


「え?どうしたの?」
「サイ坊ソレってマズイんじゃねーカ…」
「?何が?」
「サイガ君、君今なに着てるの?」


サイガは不思議そうな顔をして答える。


「装備に武器とか?」
「じゃあ、その赤いマントをはなぁに?」


にっこりと笑うアスナの顔を見て、サイガは全てを悟った。
間髪おかずに見事な土下座を見せる。


「勝手に借りてすいませんでした!」
「そこじゃなくて!」
「え?じゃあ、ついていきませんでした」
「うん違う」
「?なにがダメなの?」
「君ね、女の子の服を着ているのよ!」
「ああ〜、そこか」
「サイガ君は常識が欠けているとは思ったけどここまでとはなあ〜」


アスナ怒り、ナギ苦笑い状態。


「そうか!じゃあ俺のも着ていいぞ」


全員が心で思った。


(そこでもない!!)





 
 

 
後書き
次はやっとボス戦です。あ、その前にプロフィールですな。 
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