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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
  圏内事件~聞き込み編~

十時ぴったりに宿屋から出てきたヨルコという、緩くウェーブする濃紺色の髪で、見た目十七、八の女性は、何度も瞬きを繰り返しながらキリトとアスナにぺこっと一礼した。

その後、その二人の間でプカプカ煙管をふかしているレンを見て、小首を傾げた。

見た目小学生の男の子が煙管をふかしていると、シュール以外の何物でもない。

「ああ、こいつは六王の《冥王》レンホウだ」

キリトが紹介するのをレンが引き継ぐ。

「初めまして、ヨルコねーちゃん。僕はレンホウ、レンって呼んでね」

初対面からかなりグイグイ来ることと、キリトの紹介文にヨルコが驚いたような声を出す。

「えっ!《冥王》ってあの《冥界の覇王》!?……す、すごい」

「あはは~、それほどでもあるかなぁー」

「否定しないのかよ」

ちなみに《冥界の覇王》とは、レンの俗称の本当の名前で、《冥王》はその略称である。レンはこの名前が中二病臭くて嫌いらしい。

「悪いな、友達が亡くなったばっかりなのに………」

「いえ………」

ブルーブラックの髪を揺らし、恐らく自分の二倍ほどの年齢の女性は軽くかぶりを振った。

「いいんです。私も、早く犯人を見つけて欲しいですし………」

言いながら視線をアスナに移した途端、両眼を丸くする。

「うわぁ、すごいですね。その服ぜんぶ、アシュレイさんのお店のワンメイク品でしょう。全身揃ってるとこ、初めて見ましたー」

怪訝そうな顔をしながら、キリトが聞く。

「それ、誰?」

「知らないんですかぁ!?」

まるっきりダメな人を見る目でキリトを眺めてから、ヨルコは解説してくれた。

「アシュレイさんは、アインクラッドで一番早く裁縫スキル1000を達成したカリスマお針子ですよ!最高級なレア生地素材じゃないと、なかなか作ってもらえないんですよー」

へーっ!と感心するキリト。

「ああ、それなら僕も持ってるよー」

「はぁっ!?」

レンの何気ない一言に一同が注目する。

レンは血色のフードコートの襟を引っ張り、その下に着ている濃いグレーのシャツを見せていた。

「これが、その服?」

「そっ!余ってた素材アイテムを見せたら、目の色変えてオーケーされたよー」

「そりゃまた……、一体どんなアイテムだったんだ?」

不思議そうにキリトが聞く。

それに、実になんでもないような口調でレンは答える。

「んー、S級アイテムとフロアボスドロップ品がほとんどかな?全部合わせたら三十品はいくかな……」

ぴしりと空気が凍る音がした。

S級アイテム

それはイベントやクエストなどで手に入る類のアイテムではない。

フィールドの何処かに超低確率で現れるレアモンスターのみが落とす超がつくレアアイテムだ。

その入手には、努力とか根性とかの理論は無理だ。

ただ単にリアルラック値、それだけを求められてやっと手に入る、まさにレアアイテム中のレアアイテムなのだ。

「……そ、そんだけ凄いアイテムを使ったんだ。そのシャツも、凄い防御力を持ってるんだろ?」

「いやいや~」

レンはシャツの襟をつまみながら言う。

「防御力はもちろん凄いんだけど、これの凄いとこは別にあるんだよねー」

「何だよ」

んー、とレンは一瞬悪戯っぽく微笑み

「敏捷値の十パーセント上昇」

言った。

「…………………………はぁ?」

一同の言葉が重なったのは、仕方のないことだと思う。









若干引き気味のキリトとヨルコと、相変わらずののんびりとした笑顔で煙管をプカプカ吸っているレンを引き連れて、アスナは転移門から五分ほど歩いたところにある、やや大きめのレストランのスイングドアを潜った。

時間が時間だけあって、店内に他のプレイヤーの姿はない。

一番奥まったテーブルにつき、ちらりとドアまでの距離を確かめる。これだけ離れていれば、大声で叫びでもしない限りは、店の外まで会話が漏れることはない。

ナイショ話をしたいなら宿屋の部屋をロックするのが一番なのだが、それだと逆に聞き耳スキルの高い奴に盗み聞きされてしまう危険性が高まる。

ヨルコも朝食はもう済ませたというので、三人同じお茶だけをオーダーし、速攻届いたところで改めて本題に入る。

ちなみにレンのオーダーは言うまでもない。まだ食うのか。

「まず、報告なんだけど………昨夜、黒鉄宮の《生命の碑》を確認してきたんだ。カインズさんは、あの時間に確かに亡くなってた」

キリトの言葉に、ヨルコは短く息を吸い込み、瞑目してからこくりと頷いた。

「そう……ですか。ありがとうございました、わざわざ遠いとこまで行って頂いて……」

「ううん、いいの。それに、確かめたかった名前が、もう一つあったし」

さっと首を振ってから、アスナが最初の重要な質問を放った。

「ね、ヨルコさん。あなた、この名前に聞き覚えはある?一人は、たぶん鍛冶職人で、《グリムロック》。そしてもう一人は、槍使いで……《シュミット》」

俯けられたヨルコの頭が、ぴくりと震えた。

レンが吸ったパスタがじゅるりと音を立てた。うるさい。

やがて、ゆっくりとした、しかし明確な肯定のジェスチャーがあった。

「………はい、知ってます。二人とも、昔、私とカインズが所属していたギルドのメンバーです」

か細い声に、キリトとアスナはちらっと視線を見交わした。

レンは食べ物を運んでくるNPCウェイターと視線を交わす。

やはりそうか。となれば、もう一つの推測──かつて、そのギルドで今回の事件の要因となる《何か》があったのかどうかも確認せねばならない。

今度はキリトが二つ目の質問を発した。

「ヨルコさん。答えにくいことだと思うんだけど……事件解決のために、本当のところを聞かせてほしいんだ。俺たちは、今回の事件を《復讐》あるいは《制裁》だと思っている。カインズさんは、そのギルドで起こった何らかの出来事のせいで、犯人の恨みを買い、報復されたんじゃないかと………。昨日も同じこと訊いたけど、もう一度よく考えてほしいんだ。何か、心当たりとか、思い当たることはないかい…?」

今度は、すぐには答えが返ってこなかった。

ヨルコは俯いたまま、長い沈黙を続けたあと、かすかに震える手でお茶のカップを持ち上げ、唇を湿らせてからようやく頷いた。

「……はい………、あります。昨日、お話しできなくて、すいませんでした……。忘れたい………あまり思い出したくない話だったし、無関係だって思いたかったこともあって、すぐには言葉にできなくて………。──でも、お話しします。《出来事》………そのせいで、私たちのギルドは消滅したんです」










────ギルドの名前は、《黄金林檎》っていいました。べつに攻略目的でもなんでもない、総勢たった八人の弱小ギルドで、宿屋代と食事代のためだけの安全な狩りだけしてたんです。

でも、半年前……去年の秋口のことでした。

中間層の、なんてことないダンジョンに潜ってた私たちは、それまで一度も見たことのないモンスターとエンカウントしたんです。

全身真っ黒の小さなトカゲで、もの凄くすばしっこくて見分けにくくて………一目でレアモンスターだって解りました。

大騒ぎになって、夢中で追いかけまわして………誰かの投げたダガーが、偶然、ほんとにものすごいラッキーで命中して、倒せたんです。

ドロップしたアイテムは、地味な指輪が一つだけでした。でも、鑑定してみて皆びっくりしました。敏捷力が二十も上がるんですよ。そんなマジックアクセサリ、たぶんいまの最前線でもドロップしてないと思います。

力説している本人には悪いが、この時キリトとアスナの視線は隣で暴飲暴食しているレン──正確には、その血色のコートの下に着ている地味な色のシャツに注がれていた。

そこから先は………想像、できますよね。

ギルドで使おうって意見と、売って儲けを分配しようって意見で割れて、かなりケンカに近い言い合いになったあと、多数決で決めたんです。

結果は、五対三で売却でした。

そこまでのレアアイテムは、とても中層の商人さんには扱えないので、ギルドリーダーが前線の大きい街まで持っていって競売屋さん(オークショニア)に委託することになりました。

相場とか、信用できる競売屋さんを調べるのに時間がかかるから、リーダーは前線に一泊する予定で出かけました。

私は、オークションが終わってリーダーが帰ってくるのをわくわくしながら待ちました。

八人で分配してもきっとすごいお金になるから、あのお店の武器を買おうとか、個人ブランドのお洋服買おうとか、カタログ見ながらあれこれ考えて………

その時は、まさか………あんなことになるなんて…………

…………リーダー、帰ってこなかったんです。

翌日夜の待ち合わせを一時間過ぎても、メッセージ一つ届かなくて。

位置追跡しても反応ないし、こっちからのメッセージにも返事がないし。

まさかリーダーがアイテムの持ち逃げなんてするはずないので、嫌な予感がして、何人かで黒鉄宮の《生命の碑》を確認にいきました。

そしたら……………

「死んでた、と?」

レンがそこで、口一杯に食べ物を詰め込んだリスのような顔で言った。

ヨルコはぎゅっと唇を噛み、力無く首を縦に振った。

キリトとアスナは、かけるべき言葉が見つからないのか、黙っていた。

幸い──と言うべきか、ヨルコはやがて目尻を拭うと顔を上げ、震えてはいるがはっきりした口調で告げた。

「死亡時刻は、リーダーが指輪を預かって上層に行った日の夜中、一時過ぎでした。死亡理由は………貫通ダメージ、です」

「…………そんなレアアイテムを抱えて圏外に出るはずがないよな。てことは………」

「……《睡眠PK》…………」

ポツリと言ったレンの呟きに、アスナもかすかに首肯した。

《睡眠PK》とは、まぁ、要するに《圏内で殺人をする唯一の手段》だ。

確かに圏内ではアンチクリミナルコードの名の下に、プレイヤーは他のプレイヤーに対しての一切の直接的犯罪行為は犯せない。

しかし、残念ながら、こちらには抜け道が残されている。

その一つが、プレイヤーが熟睡しているケースだ。

長時間の戦闘で消耗したりして、ほとんど失神に近いレベルで深く眠っているプレイヤーは、少しの刺激では目覚めない場合もある。

そこを狙って、《完全決着モード》のデュエルを申し込み、寝ている相手の指を勝手に動かしてOKボタンをクリックさせる。あとは文字通り寝首を掻くだけだ。あるいは更に大胆に、相手の体を圏外まで運び出してしまうという手もある。

直立し、足を踏ん張っているプレイヤーは《コード》で保護され強引に動かすことできないが、《担架(ストレッチャー)》アイテムに乗せれば移動は自由自在だ。

このどちらのケースも、過去に実際に行われ、今ではあらゆるプレイヤーは必ず施錠(ロック)できるプレイヤーホームか、宿屋で寝るようになっている。

「半年前なら、まだ手口が広まる直前だわ。宿代を節約するために、ドアロックできない公共スペースで寝る人も少なくなかった頃よ」

「前線近は宿代も高いしな。ただ……偶然とは考えにくいな。リーダーさんを狙ったのは、指輪のことを知っていたプレイヤー………つまり…………」

「ギルメンの誰か……」

瞑目したヨルコが、こくりと頭を動かした。

「ギルド【黄金林檎】の残り七人………の誰か。私たちも、当然そう考えました。ただ……その時間に、誰がどこにいたのかを遡って調べる方法はありませんから…皆が皆を疑う状況の中、ギルドが崩壊するまでそう長い時間はかかりませんでした」

再び、長い沈黙がテーブル上を這った。

───嫌な話だ、とても。

───同時に、あり得ることだ。充分に。

沈鬱な表情で俯く年上の女性に、レンはどうしても聞きたかったことを聞いた。

「ねぇ、ヨルコねーちゃん。そのレア指輪の売却に反対した三人の名前は?」

更に数秒間黙り続けてから、ヨルコは意を決したように顔を上げ、はっきりと答えた。

「カインズ、シュミット…………そして、私です」

やや意外な回答で、目を丸くしたレンに向かって、ヨルコはかすかに自嘲の滲む言葉を続けた。

「私は当時、カインズと付き合い始めてたんです。ギルド解散と同時に自然消滅しちゃいましたけど、あの時はギルド全体のことより、彼氏への気兼ねを優先しちゃったんです。バカですよね」

「…………………………えと、なんかゴメン」

さすがに決まり悪くなって謝ったレンに対し、ヨルコは再び短くかぶりを振る。

「いえ、いいんです。それで……グリムロックですけど………彼は【黄金林檎】のサブリーダーだったんです。そして同時に、ギルドリーダーの《旦那さん》でもありました。もちろんSAOでの、ですけど」

「え………、リーダーさんは、女の人だったのか?」

「ええ。とっても強い……と言ってもあくまで中層レベルでの話ですけど……強い片手剣士で、美人で、頭もよくて……私はすごく憧れてました。だから……今でも信じられないんです。あのリーダーが、《睡眠PK》なんて粗雑な手段で殺されちゃうなんて……」

「…………じゃあ、グリムロックさんもショックだったでしょうね。結婚までするほど好きだった相手が…………」

アスナの呟きに、ヨルコはぶるっと身体を震わせた。

「はい。それまでは、いつもニコニコしてる優しい鍛治屋さんだったんですけど………事件直後からは、とっても荒んだ感じになっちゃって……ギルド解散後は誰とも連絡取らなくなって、今はもうどこにいるかも判らないです…………」

レン達は、ヨルコをもとの宿屋に送り届けたあと、数日分の食料アイテムを渡して絶対に部屋から出ないよう言い含め、宿屋を後にした。 
 

 
後書き
なべさん「さぁ、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!!」
レン「はーい、始まりやした~」
なべさん「いやー、今日さ、ニュース見てたらびっくりしたんだよねー」
レン「おや、なんで?」
なべさん「今年、生まれたベイビーの名前ランキングがやっててさぁ、そこで一位がなんと………」
レン「ま、まさか……」
なべさん「その通りどぅえす!!なんと一位が"蓮"だったのです!!!」
レン「なんと……!」
なべさん「いや~、こんなことってあるんですねー……っと、それではお便りコーナー行きますよん ♪」
レン「ハイハイ~、霊獣さんからのお便りです。えー、スリーピングナイツはSAO内で作られたんですか~、ということですね」
なべさん「ハイハイ、その通りでやんすよ。ユウキが六王になるまでの期間にジュンやシウネー達と出会って、結成したのですね」
レン「その結成秘話とかって書けるかね」
なべさん「んー、できれば書きたいのですけど、フラグ立てになるから保留ということにしときます」
レン「それがいい。えー、常連の霊獣さん、お便りありがとうございました!これからも本作品のご愛読をよろしくお願いします!」
なべさん「はい。それでは自作キャラ、感想を送ってきてくださーい!」
──To be continued── 
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