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英雄伝説~菫の軌跡~(閃篇)

作者:sorano
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第29話

その後、フィオナが用意してくれた心尽くしの夕食に舌鼓を打ったリィン達は食後にエリオットの部屋を訪れていた。



~夜・アルト通り・クレイグ家・エリオットの部屋~



エリオットの部屋を訪ねたリィン達は部屋中にある様々な楽器を見て驚いていた。

「これは……凄いな。」

「……お店が開けそう。」

一つの部屋にある楽器の多さにリィンとフィーは驚き

「ピアノにバイオリン、管楽器から打楽器まで……キャビネットにあるのはどうやら楽譜らしいな?」

「さ、さすがにこれは趣味の範囲を越えてるだろう。」

「うふふ、一般家庭の家にこんなに楽器があるなんてレンも驚いたわ。」

ラウラが感心している様子で部屋を見回している中マキアスは信じられない表情でエリオットを見つめ、レンは興味ありげな表情で部屋を見回していた。



「あはは……ちょっと引いたよね?亡くなった母さんが結構有名なピアニストでさ。姉さんと僕はその影響を受けてるってわけ。」

「そうだったのか……」

「こんな環境で育ったのなら吹奏楽部を選ぶのも無理ないな。」

「でも……どうして夕方会った人達と同じ学校に行かなかったの?」

エリオットの説明を聞いたリィンやマキアスが納得している中フィーは不思議そうな表情で尋ねた。

「フィー……」

「それは……」

「まあ、大体は予想できるけどね。」

フィーの疑問を聞いたラウラとリィンが複雑そうな表情をしている中レンは静かな表情で呟いてエリオットを見つめた。

「あはは、いいんだ。……何となくみんなには気付かれちゃったと思うけど。僕、士官学院を受ける前までは音楽院を志望していたんだよね。」

「…………あ…………」

「………………」

そしてエリオットは士官学院に入るまでの経緯を話し始めた。



「小さい頃から、姉さんと一緒に母さんのピアノを聴きながら育ってきた。父さんは豪快な人で、音楽には疎かったけど母さんにはベタ惚れだったみたいで…………いつもいつも、この家には暖かい音色と笑顔が満ち溢れていたんだ。



でも、その母さんが7年前に病気で亡くなって…………姉さんと僕は、当然のように母さんと同じ道を歩いて行った。そして姉さんは、音楽院に入ってピアニストとしての道を歩きはじめて……僕も当然のように、それに続こうとした。―――でも、父さんはそれを許してくれなかった。



『趣味程度ならともかく、帝国男子が音楽で生計を立てるなど認められん。』―――どんなに食い下がってもそう言って首を縦に振ってくれなかった。それどころか、帝国にある軍学校や士官学校を一通り勧めてきたりして……結局……僕は音楽院への進学を諦めるしかなかった。」



経緯を話し終えたエリオットは疲れた表情で溜息を吐いた後話を再開した。

「……正直、父さんを恨んだよ。争いごとは苦手だし、戦争なんてもっと嫌いだ。でも調べたら―――”トールズ士官学院”って所だけは音楽の授業が充実してるとわかって……卒業生の半分は、軍人以外の道を選択しているってことも知って……それで結局、妥協しちゃったわけ。」

「……………………」

複雑そうな表情で語るエリオットをリィン達は黙って見つめた。

「えへへ……みんなと比べたらちょっと情けない理由でしょ?結局、僕は父さんの言う事に最後まで逆らえなかった……僕の音楽への情熱なんてその程度だったのかと思って…………かと思えば、夏至祭の音楽祭や音楽院にも未練タラタラで……ああもう、何ていうか穴があったら入りたい気分だよ。」

「エリオット……」

「そうだったのか……」

「レンのパパとは正反対のお堅い考えね。」

「……エリオットは……後悔してるの?士官学院に入ったことを。」

自分を蔑んでいるエリオットをリィン達がそれぞれ重々しい様子を纏って見つめている中、レンは呆れた表情で溜息を吐いてエリオットに同情し、フィーは静かな表情で尋ねた。



「え、どうして?それに関しては後悔するわけないじゃない。」

「え。」

「へっ……」

しかしエリオットの答えを聞いたフィーはマキアスと共に呆け

「毎日、忙しいけど充実してるし放課後には部活で演奏もできるし、”特別実習”なんていう変わったカリキュラムもあるから色々、視野も広げられそうだしね。漠然と音楽院に進学するよりも今は良かったと思ってるくらいさ。卒業後、音楽の道を目指すにしても別の道を目指すにしても……今度こそ、僕は僕自身の意志で進むべき道を決められると思うから。」

「………………」

「エリオット……」

「ふう……そこまで考えていたとは。」

「……強いな、そなたは。」

「うふふ、レンも今のエリオットお兄さんはカッコイイと思ったわよ♪」

「あはは……買いかぶりすぎだよ。音楽院で頑張ってる友達を見てうらやましくは感じちゃってるし。でも、それでも士官学院に入ったことを後悔することだけは絶対にあり得ないと思うんだ。何よりも君達と―――Ⅶ組のみんなと会えたからね。」

リィン達に感心されたエリオットは苦笑した後、笑顔でリィン達を見回した。



「い、いくらなんでもそれは恥ずかしすぎだろう!?」

「エリオット……ひょっとして大物?」

エリオットの言葉を聞いたマキアスは驚き、フィーは首を傾げてエリオットを見つめた。

「え、え?そんなに恥ずかしいかな?」

「ふふ……さすがに赤面ものだろう。」

「はは……でもエリオットならぎりぎりセーフかもしれないな。」

「うーん、リィンにだけは言われたくない気もするけど。あ……でも一つだけ後悔してることはあるかな?」

「え……」

「それは一体……?」

リィンに指摘して呟いたエリオットの言葉が気になったフィーは呆け、ラウラは尋ね

「その、友達が参加する夏至祭のコンサートだけど……ずっと前に、母さんが演奏して姉さんが5年前に参加してるんだ。えへへ、だからそればっかりは出たくて仕方なかったんだよねぇ。」

ラウラの疑問にエリオットは恥ずかしそうに笑いながら答えた。



―――その後、エリオットは久々の実家に泊まる事になり……リィン達6人は、宿泊所となっている旧ギルド支部に戻ることとなった。



~アルト通り~



「ふう……もう9時過ぎか。すっかりお邪魔してしまったな。」

「ああ、食後のコーヒーまでご馳走になっちゃったし。明日の朝食も誘ってくれたし、フィオナさんには感謝しないと。」

「ああ、いずれ後からでもお礼をした方がいいだろう。それにしても……住んでいた時は実感しなかったが。実習課題をこなしていくと帝都の巨大さが思い知らされるな。」

一日中の出来事を思い出したマキアスは疲れた表情で呟いた。

「はは、そんなものかもしれないな。明日の課題は、宿泊所の郵便受けに届けてくれるんだよな?」

「ああ、朝一番に届けてくれるらしい。父さんの事だから抜かりはないだろうが中身については心配だな。僕達の処理能力を絶妙に上回る無茶振りをしてきそうというか……」

「はは、確かに。そうなると、今夜はレポートを書いたら早めに休んだ方がいいかもしれないな。」

「賛成。この調子だと明日はもっといろんな依頼が来ると思うし。」

「そうだな……って、ラウラ、フィー?」

マキアスとレンの意見に頷いたリィンは先程からずっと黙り込んでいるラウラとフィーに気付いた。



「なんだ君達。ひょっとして疲れたのか?」

「ああ、いや……」

「……そうじゃないけど。」

マキアスに尋ねられた二人はそれぞれ否定したが、やがてラウラが口を開いた。

「……エリオットの話を聞いてようやく己の心の見極めがついた。―――フィー、レン。私と勝負してもらおう。」

「へ。」

「……!」

ラウラの申し出を聞いたリィンとマキアスはそれぞれ驚き

「レンはいつでもオッケーよ♪」

「―――いいよ。今日中がいいよね?」

レンとフィーは一切動揺していない様子で頷いた。



「うむ、そうしない限り今夜は眠れないだろうからな。」

「うふふ、ちなみにラウラお姉さんはどっちを先に相手するのかしら?」

「まずはフィーからだ。」

「ちょ、ちょっと待ちたまえ……!いきなり何を……勝負ってどういうことだ!?」

「そのままの意味。」

「私とフィー、そしてレンで、得物を使って一騎打ちをするだけの話だが。」

「そんな事も察する事ができないなんてマキアスお兄さんったら鈍感ねぇ。」

戸惑っているマキアスにフィーとラウラは冷静な様子で答え、レンは呆れた表情で呟いた。

「ああそういう意味か……―――って、ダメだろそれは!?」

三人の答えに納得しかけたマキアスだったがすぐに気付いて真剣な表情で指摘した。

「さすがに夜だとしても街中での勝負は迷惑だろう。夕方行ったあの場所……”マーテル公園”はどうだ?」

一方考え込んでいたリィンは提案した。

「うん、良さそうだな。」

「地下道から出たあたりとか人気がなくていいかも。」

「レンもそこでいいと思うわ。」

「まあ、そこなら何とか……―――じゃなくて!君まで何を言い出すんだ!?」

リィンの提案に三人がそれぞれ頷いている中、マキアスは声を上げて突込み

「マキアス、うるさい。」

「帝都の夜が賑やかとはいえ、騒ぐのはあまり感心しないぞ?」

「こういうのを”近所迷惑”って言うのじゃないかしら♪」

「ぐっ……」

フィーとラウラ、レンに正論で指摘されると唸り声を上げた。



「はは、まあとにかく移動しよう。たしか導力トラムはまだ運行していたよな?」

「夜11時くらいまでだが……って、本当に行くのかよっ!?」

その後リィン達は導力トラムで”マーテル公園”へと向かい、マーテル公園に到着したリィン達は地下道へ続く場所へと向かった。



~マーテル公園~



「ふむ……周囲に人気はなしか。」

「いい条件だね。」

「……………………」

「………むむ…………」

「うふふ♪」

ラウラとフィーが周囲を見回している様子をリィンとマキアスが見守っていると、二人は互いに対峙した。



「―――フィー。単刀直入に言おう。この勝負、私が勝ったらそなたの”過去”を教えて欲しい。」

「!……………………」

「最初は、そなたの強さに納得できぬものを感じていた。そなたが力を抑えているのは最初からわかっていたからな。そしてその体格でその練度……私の”武”の常識からは余りにもかけ離れすぎていた。」

「だろうね。」

ラウラの話を目を閉じて聞いていたフィーは目を見開いて静かに答え

(そ、そうなのか?)

(ああ……正直なところ、あり得ないレベルだと思う。)

二人の会話を聞いて戸惑っているマキアスにリィンは答えた。

「そして”猟兵”という存在……その在り方にも正直、良い感情は持っていなかった。騎士を”正道”とするならば、猟兵はいわば”邪道”……己の価値観に反しているゆえ心を合わせられないのだと思った。」

「…………………」

ラウラの話を聞いたフィーはラウラから視線を逸らして黙り込んだが

「だが―――それは勘違いだった。」

「え。」

ラウラの答えを聞いて呆けた表情でラウラを見つめた。



「エリオットの話を聞いて私は自分の心に問いかけてみた。気負うことなく、ありのままの自分を見極めようとしてみたのだ。そうすると……ひとつ気付いたことがあった。―――数ヵ月共に過ごして私がそなたを信頼できる人物だととっくの昔に知っていたことを。価値観とは関係なく……”心”がそう判断していたことを。」

「…………ぁ…………」

「だが、私の頭の固さと頑なさがそれを見えなくし続けていた……”心”ではそなたを認めているのに”頭”で合わないと思いこんでいたのだ。おそらくその矛盾こそ、ARCUSで心を合わせられなかった原因だろう。そしてそれはレン。そなたも同じだ。」

「「……………………」」

(……なるほど……君、もしかして気付いてたか?)

ラウラの説明を聞いたフィーとレンは黙り込み、納得した様子で頷いたマキアスはリィンに視線を向けた。

(……今日の手配魔獣との戦いでね。)

「”壁”があると思いこんでいたのは、わたしも同じ……ラウラはいつも真っ直ぐだから。わたしを受け入れられないって心のどこかでちょっと諦めていた。」

「……そうか……」

フィーの答えを聞いたラウラは重々しい様子を纏って呟いた。



「でも、どうして?わたしの過去を知りたいのはなぜ?それを知ることがラウラにとって何の意味があるの?」

「フフ……決まっているだろう。私がそなたを”好き”だからだ。」

真剣な表情のフィーの問いかけに対し、ラウラは静かな笑みを浮かべて答え

「な、なにを……」

ラウラの答えを聞いたフィーは戸惑った。

「以前、リィンに絡んでしまった時もそうだったが……どうも私は、見込んだ相手や気に入ってしまった相手のことは理解できないと気がすまないらしい。そなたの過去―――そなたが”そう在る”経緯の一端を知りたい。だからこれは、ただのわがままだ。それ以上でも、それ以下でもない。」

「……………………」

ラウラの説明を聞いたフィーは何も答えず黙り込み

(な、なんというか……)

(………さすがラウラと言わざるを得ないな……)

(クスクス、ある意味エステルと似ているわね♪)

マキアスとリィンは苦笑しながら、レンはからかいの表情で二人の様子を見守っていた。



「やっぱりラウラは凄いな。―――いいよ、教えても。でも、報酬は自分の手で掴み取るのが猟兵の流儀……それでいい?」

疲れた表情で答えたフィーは真剣な表情で双銃剣を構えてラウラを見つめ

「フフ、よかろう……だが、”報酬”のつもりはない。勝利の(いさおし)とさせてもらおう。」

対するラウラも大剣を構えて不敵な笑みを浮かべた。

「……上等。」

ラウラの答えに満足したフィーは不敵な笑みを浮かべて闘志を高め

「き、君達、もう十分気が合ってるだろうが!?」

「うふふ、とんだ茶番ね♪」

「はは……」

マキアスは呆れた様子で指摘し、レンは小悪魔な笑みを浮かべ、リィンは苦笑した後ちょうど二人の真ん中になる位置から距離を取った場所に向かった。



「―――立ち合いは引き受けた。危険だと判断したら止めるから全力でやり合うといい。」

「ああ……!」

「感謝。」

リィンの言葉に二人は頷き、そして!

「はああああっ……!」

「……ふぅぅぅっ…………」

互いに闘気を練って闘気を全身に纏い

「―――始め!」

リィンの合図を元に戦闘を開始した!



二人の戦いは一進一退の戦いで、互いの奥義がぶつかり合ったその時、リィンの戦闘終了の合図が入り、戦闘を終えた二人は互いに地面に倒れて息を切らせていた。



「はあっ……はあっ……」

「……はぁっ、はあっ……」

「こ、これは……なあ、リィン。どっちの勝ちなんだ?」

息を切らせて地面に倒れている二人の様子を見たマキアスは結果をリィンに尋ね

「立ち合いを引き受けたのに申し訳ないんだが……引き分け、としか言えないな。」

「そ、そうか……」

(んー……実技テストの時から感じていたけどフィーは以前より腕が落ちているわね……ま、ランディお兄さんみたいに”猟兵”生活から離れてブランクがあるから仕方ないかもしれないわね。)

苦笑しながら答えたリィンの答えを聞き、静かな表情で二人を見つめ、レンは首を傾げてフィーを見つめていた。

「ふふ……まあ、仕方あるまい…………いずれ精進の暁にでも取っておくとしよう……そなたともいずれ決着をつけたい所だしな……」

「って、何で俺まで!?」

「はは……まったく。」

「クスクス、ご愁傷様、リィンお兄さん♪」

「……わたしの負け。」

ラウラの言葉に驚いているリィンをマキアスとレンが微笑ましく見守っている中、フィーが静かな口調で意外な言葉を口にした。



「え……?」

フィーの口から出た予想外の答えを聞いたラウラは起き上がってフィーを見つめた。

「夜間戦闘は猟兵の十八番……フラッシュまで使ったのに決着をつけられなかった……昼間だったらよくて引き分け、最悪は負けてた……」

「それは……」

「ああ………多分そうだろうな。」

「そうなのか……」

(ま、”影の国”での決戦の頃のフィーだったら余裕で勝てたでしょうね。)

フィーの答えを聞いて頷いたリィンの意見を聞いたマキアスは驚きの表情で二人を見つめた。

「……わかった。勝利を受け入れよう。」

「ん……」

「えっと、その……」

「俺達は席を外すか。」

「そうね。」

二人の様子を見たマキアスとリィン、レンはその場から去ろうとしたが

「わたしは別に……ラウラ、いい?」

「ふふ……そうだな。一緒に聞かせてもらおう。」

「……わかった…………」

ラウラとフィーの答えを聞いてその場で、とどまり、フィーは過去を話し始めた。



「―――わたしが前にいたのは”西風の旅団”という所だった……―――気付いた時には”戦場”にいた。どこかの国の、どこかの辺境にある名前も知らない紛争地帯……幾つもの猟兵団がミラ目当てで誰かの欲望を叶える為に戦うその地でわたしは、たったひとりさ迷っていた。



わたしを拾ったのは”猟兵王”……”西風の旅団”という、わりと有名な猟兵団のリーダーだった。飄々としてるけど抜け目なくて、しぶとさとズル賢さと悪運だけは飛びぬけていたオジサン……でも……わたしにとっては育ててくれた親と同じだった。



団員は変わった人ばかりだったけどみんな、わたしを可愛がってくれた。そのうち掃除とか、食事当番とか荷物運びとかを手伝うようになって……空いた時間に、戦場で生き延びる色々な技術を教わるようになっていた。



……幾つかの偶然の結果、わたしは10歳で実戦を経験して……渋る団長をみんなが説得するかたちで、わたしは”西風の旅団”の一員となった。それから数年が過ぎて……わたしは”西風の妖精(シルフィード)”なんて呼ばれるようになっていた。



団のみんなと一緒に大陸のあちこちを回って……辛いことや、危ないこともあったけど生き延びてみんなと一緒にいた。去年―――団長がいなくなるまでは。



”赤い星座”……大陸西部で”西風の旅団”と双璧と言われる猟兵団……団長の”闘神”という人とウチの団長は宿敵同士だった。そして”猟兵王”と”闘神”はとうとう一騎打ちをする事になって。三日三晩死闘を繰り広げたのだけど……三日目の夜、突然二人が一騎打ちしている所に強者との戦いを求めて大陸全土に出没しているという”狂戦士(バーサーカー)”――――バルバトス・ゲーティアが現れて二人に戦いを仕掛けた………一騎打ちを邪魔された二人はまずバルバトスを排除しようと、一時的に協力して戦ったのだけど………三日三晩死闘を繰り広げていた事によって疲労していた二人ではバルバトスには敵わず、二人はバルバトスに討ち取られた。



そして……団長がいなくなった後。残されたみんなはどこかに居なくなってしまった。ただ―――わたしだけを残して。」



「「……………………」」

「…………そんなことが……」

フィーの説明を聞き終えたラウラとレンは黙り込み、マキアスは重々しい様子を纏い

「それじゃあ、みんなが消えた後、フィーは士官学院に……?」

リィンはフィーにある事を訊ねた。

「……ん。途方にくれてたわたしの前にサラが現れた。二大猟兵団の動向を追っていてちょうど行きあわせたみたいで。事情を話したら強引にあの学院に連れて行かれた。それで学院長に紹介されて…………ここから先はみんなも知ってる通り、かな。」

「―――正直、予想以上だった。私が知っていた世界とはかくも狭きものだったのだな。」

フィーの過去を聞き終えたラウラは静かな表情で答え、そして立ち上がってフィーを見つめた。



「ようやく私は”そなた”を知った。全てではないが、これからもっと深く知る切っ掛けは掴めたと思う。どうだろう―――今から試してみないか?」

「あ………………いいよ。」

そしてフィーはラウラの手を借りて立ち上がった後、それぞれの武器を構えてリィン達を見つめた。

「ま、まさか……」

武器を構えている二人を見たマキアスは表情を引き攣らせ

「……なるほどな。この前の実技テストのリベンジってとこか。」

「うふふ、頑張ってね、二人とも♪」

リィンは静かに太刀を鞘から抜いて苦笑しながら二人を見つめ、その様子をレンはリィン達から離れて小悪魔な笑みを浮かべて見守っていた。



「ああ、胸を貸してもらおう。かなり消耗しているので物足りないかもしれないが……」

「付け焼刃かもしれないけど何とか届かせてもらう。」

「いやいやいや!その戦力分析はおかしい!というか実技テストのリベンジなんだから、相手は僕達じゃなくてレンだろう!?」

ラウラとフィーの分析を聞いたマキアスは二人の強さを思い出し、慌てた様子で指摘した。

「まあ、せっかくの機会だ。これも実習の一環と思って相手を務めさせてもらおう。」

「くっ……ああもう!」

そして戦闘が避けられないと判断したマキアスはやけになってショットガンを構えた。

「―――言っておくが本気で相手をさせてもらうぞ!遠慮なくかかってきたまえ!」

「ふふ………そなたたちに感謝を。」

「それじゃあ―――行くよ!」

その後リィン達は模擬戦を開始した。”戦術リンク”が再びできるようになったラウラとフィーの強さは余りにも圧倒的で、リィンとマキアスも奮戦したが、二人のコンビネーションには敵わず、敗北した。



「……できたな……」

「…………ん…………」

リィンとマキアスに勝利したラウラとフィーは互いの拳を合わせた。

「ははっ…………」

「……ふふっ……」

「ハアハア……君達な……自分達だけの世界に浸ってるんじゃない……!」

互いに微笑み合っている二人を見たマキアスは呆れた表情で指摘し

「はは……何て言うか……とんでもないコンビが生まれたかもしれないな……」

リィンは苦笑した。



「ふふ……フィー、どうせならもう一戦共にしないか?」

「ん。わたしもちょっと戦い足りないって思った所だもの。」

「ちょっ……もう、僕達はこれ以上は無理だぞ!?」

戦意が高まっている様子の最強コンビの様子を見たマキアスは慌て

「わかっている。―――待たせたな、レン。最後は私とフィーの二人とそなたとの模擬戦だ。実技テストの時同様私達がそなたを戦闘不能にするか、”得物を使わせれば”、私達の勝ちと言う事にさせてもらうぞ。」

「実技テストの時同様レンは体術のみで戦う事になるけど……アーツやアイテムなら使ってもいいよ。――――最も使う暇なんて与えないけど。」

「うふふ、舐められたものね。”戦術リンク”ができたくらいで体術でも体術を専門としている人達と同じように戦えるレンに勝てると思っているなんてね。―――ちなみに二人が勝利した時レンはどうすればいいのかしら?」

ラウラとフィーに見つめられたレンは意味ありげな笑みを浮かべて二人と対峙して体術の構えをして問いかけた。

「私達が勝利した時………レン、そなたに秘められている”謎”――――”猟兵”だったフィーと何故知り合いであるのか、そして士官学院に来る前のそなたは一体何の”仕事”をしていたのか……その二つを教えてもらおう。」

「あら、たったそれだけでいいの?レンには他にもたくさん秘密があるけど。」

ラウラの条件を聞いたレンは目を丸くして訊ねた。

「フフ、確かにそなたの他の謎も興味はあるがそれは”小剣聖”であるそなたに本来の得物であるその双剣を抜かせて”本気”のそなたに勝利できなければ、他の謎を聞く”資格”はない。」

「なるほどね。――――ま、約束通り始めましょうか……と言いたい所だけど”時間切れ”のようだから、また今度ね♪」

「え…………」

ラウラの話を聞いて納得した後に小悪魔な笑みを浮かべて呟いたレンの答えを聞いたフィーが呆けたその時

「お前達、何をしている!」

男性の声が聞こえて来た。



「へ……」

「あ。」

声を聞いたマキアスやフィーが呆けたその時、巡回の憲兵がリィン達に向かって駆け付け

「うふふ、レンは先に戻ってみんなの代わりに報告書を書いておくわね♪」

「お、おい、レン!?」

厄介な事に巻き込まれたくないレンは素早い動きで憲兵達がリィン達の元に駆けつけてくるまでに闇に溶け込んでその場から去った。

「何だお前達は……!?ん、その制服は……どこかの高等学校の生徒か!?」

「まったく、誰かが騒いでいると通報を受けて来てみれば……!」

「い、いえその……!これにはアノール河よりも深い事情があるといいますか……!」

「その……お騒がせしてすみません。周りの迷惑にならないように心がけていたんですが……」

憲兵たちに睨まれたマキアスは慌てた様子で言い訳を始め、リィンは頭を下げた。

「ふむ、公園で勝負というのは少しばかり無理があったか……」

「ん。地下道あたりに降りた方が良かったかも。」

「―――ええい、君達が始めたことだろう!?他人事みたいな顔をしてるんじゃないっ!というかレン!一人だけ逃げるなんて、ずるいぞ!?」

そして互いの顔を見合って考え込んでいるラウラとフィーの様子に気付いたマキアスは顔に青筋を立てて二人を睨んで怒鳴った後この場にはいないレンの顔を思い浮かべて声を上げた。



その後憲兵達に2時間説教を受けたリィン達は旧ギルド支部に戻り、先に戻って既に実習課題の報告書を書き終えて自分達を待っていたレンにそれぞれ恨めしそうな表情をして文句を言いつつも自分達の代わりに報告書を書いてくれた事に感謝し、明日に備えて疲れた身体を休めた―――――




 
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