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NARUTO~サイドストーリー~

作者:月下美人
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SIDE:A
  第七話

 
前書き
 ガマ親分の広島弁、無理があります。スルーでお願いします。

 矛盾が生じていたので五話の一部を修正しました。
 

 


 いつもの模擬戦場。太陽が照りつけ木の葉が舞う中、二つの影が交差した。


 ――ギィンッ!


 甲高い金属音とともに一瞬火花が散る。不適な笑みを浮かべる金髪の青年と、獰猛な笑顔をした赤髪の少年の顔を一瞬照らした。


 互いに離れると、青年が一手早く動く。クナイを抜き様に放った。


 ひし形のような通常のクナイとは違い、青年が扱うクナイは特別性。その刃は三股に別れており、柄には直接なんらかの術式が彫られている。


 着地した少年が首を傾けてクナイを回避する。一瞬視線がずれた僅かな隙をつき、青年が音もなく背後に回りこんでいた。まるでコマ送りされる映像に突然割り込んだかのように、忽然と姿を現したのだ。


 視界から消えた青年と背後の気配。考えるより先に体が動く。


 少年は上体を前方に倒し、倒れ込む形で体勢を崩すと体を捻った。背後では先ほど放ったクナイを手にした青年がその背に突き刺そうとしている。


 地面に片手をつきバランスを取りながら、少年は変則的な回し蹴りを放った。


「ぐっ……!」


 片手で防ぐ。しかし、その細い足のどこにそのような力が宿っているのか、青年は風に吹かれる木の葉のように吹き飛ばされた。


 一転二転と地面を転がりながらも体勢を整える青年。その明確な数秒の隙をつき、少年は次の一手を打って出た。


「影分身・同一分体の術!」


 ドロンと煙とともに現れるのはもう一人の少年。一見変哲のない影分身の術だが、青年の警戒度は増して厳しい顔つきになった。


 先手必勝と言わんばかりにクナイを三つ投擲する。一つは本体へ、一つは分身体へ、そしてもう一つは誰もいない方向へ放った。


 分身体が一歩前に出る。それに呼応して本体の少年は一歩下がり地面にしゃがみこんだ。


 そして――。


「八門遁甲、第六・景門――解ッ!」


 パンッと胸の前で両手を合わせた分身体が気合いの雄叫びとともに、体内門を次々と開放していった。


 堰き止めたダムの水が決壊したことで流れ出るかのように、その体を膨大な量のチャクラが流れる。そして、それは衝撃波となって体外へ放出された。


 本体と分身体の元へ飛来するクナイをチャクラの衝撃波が弾き飛ばした。


「行くぞ父さん!」


 体内門の生門も解放したことにより、全身が紅潮化した分身体が駆け出す。


 その髪の色と相まって炎の化身のような姿の分身体はわずか一歩で彼我の距離を潰した。


「なっ……早すぎるっ!」


 咄嗟に何もない方向へ放ったクナイの元へ跳ぶ。飛雷神の術による時空間移動だ。


 しかし、跳んだ先にはすでに腕を振り上げた分身体が先回りしていた。


「おおおぁぁぁぁッ!!」


 瞬身の術で間一髪魔の手から逃れることに成功する青年。紙一重で眼前を通過した拳は地面を穿ち、轟音を響かせながら大地を爆散させた。


「くっ、我が息子ながら恐ろしいね! 口寄せの術っ!」


 印を結び発動させた忍術は口寄せの術。血で契約した生き物を好きな時、好きな場所に呼び出すことができる時空間忍術の一種だ。


 そして、青年が口寄せしたのは巨大な蝦蟇蛙だった。巨体に見合うサイズの煙管を咥え、腹にサラシを巻いて法被を羽織った格好をしている。


 巨大蝦蟇はその大きな目を自分の頭を見ると、人の言葉を口にした。


「おう、久しいの四代目。今回はなんじゃい」


「やあブン太。今ハルトと手合わせの最中でね、ちょっと僕だけだと荷が重そうなんだ」


 青年の言葉に蝦蟇蛙が目の前にいる少年の存在に気が付いた。


 久しく見なかった契約者の息子の姿に頬が緩むが、その体から立ち昇っている尋常じゃない量のチャクラと紅潮化した体を見て目を見開いた。


「ほう、あの倅か。大きゅうなったのぉ。って、おい! 八門遁甲開いとるやないかぃ!」


「いやー、ガイからちょっと習っただけで自力で開門しちゃってね。うちの息子、まだ十五歳なのにもう僕より強いんじゃないかな」


「なかなか粋の良い倅じゃのぅ。おっしゃ、ちと軽く暴れるけんのぅ!」


 それまで律儀に待っていた分身体は空気が変わったことを肌で感じると、瞬時に戦闘体勢を取った。


 そして、それまで地面にしゃがみ込んで状景を見守っていた本体も本格的に加勢することになる。


「んじゃあ第二グランドと行きますか!」


 本体の少年が子の印を結び、チャクラを練り上げる。同時に分身体も大地を大きく陥没させて駆け出した。

 
「創造忍術、偽・幻影剣」


 少年の周りに八本の剣が出現した。チャクラで作られたそれらは半透明の剣の形をしており、蒼い光を発している。


 四十センチほどの長さを持つチャクラの剣は少年を中心に等間隔で配置され、グルグルと周囲を回っている。


 そして、印を丑に変えて、激闘を繰り広げている分身体と蝦蟇蛙を見据えた。


「偽・幻影剣が亜――急襲」


 それまでグルグルと回転していた半透明の剣が陣形を変える。少年の左右に分かれると、一斉にピタッと切っ先を青年へ向けたのだ。


 射出される剣軍。一定のリズムで放たれる剣は蒼いチャクラの軌跡を残しながら一直線に青年の下へ飛んだ。


 放たれるたびに生成される剣。チャクラで構成されているため弾切れは起こらない。


 襲い来る剣軍をクナイで弾く。蝦蟇蛙も腰に差したドスを抜き大きく振り上げると、一直線に振り下ろした。


「鬱陶しいんじゃいっ! 蝦蟇大上段落とし斬りじゃあ!」


 分厚い刃が分身体を分断しようと襲い掛かる。


 それを、分身体は正面から受け止めた。


「気合いガードォォォォ――――!!」


 両腕を頭上で交差させて頭部を守る。巨大なドスの刃は蝦蟇蛙の膂力と体重も上乗せされており、人を縦に分断するのも容易な凶刃だ。


 しかし、それをまともに両腕で受けたハルトは地面を陥没させながらも耐え切って見せた。腕も分断されていない上に、押し潰されないでいる。


 そのあまりに人外染みた行動と結果に、流石の蝦蟇蛙も目を瞠った。


「儂のドスを受けきりよった!」


「えぇー!? ちょ、それはないでしょハルト……!」


 開いた口が塞がらない青年。その隙を逃さず、分身体はドスを抱えて持つと、こめかみに血管を浮き出しながら力を込めた。


「気合いパワー全開ぃぃぃぃぃ――――ッ!!」 


 大地を大きく陥没させ、体中からチャクラと湯気を噴出しながら【気合いパワー】を注入する分身体。


 力の差は歴然。蝦蟇蛙は軽く振り解こうとドスに力を入れるが、意思に反してピクリとも動かなかった。


「むっ? こいつ、儂と力比べをしようってのか!」


「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお――――ッ!!」


 徐々に持ち上がっていくドス。それに比例して蝦蟇蛙の巨体が浮き上がっていく。


 圧力に耐えられず分身体の足場が崩れ、地面が隆起するがそれでもドスを手放さない。


 模擬戦場で使われるそこは平らな大地であったのに、地面は陥没し、所々隆起していて見る影もなかった。


「な、なんじゃとぉぉぉ!」


「ガマブン太!? くっ!」


 ついには投げ飛ばされる蝦蟇蛙。十五歳の子供、それも影分身が見上げるほどの巨体を持つ蝦蟇蛙を投げ飛ばした。


 天と地がひっくり返るようなありえない光景に青年も一瞬対応が遅れた。


 蝦蟇蛙の頭上から飛び降りるが――。


「偽・幻影剣が亜――五月雨」


「あ、やばっ!」


 着地するタイミングで上空からチャクラの剣が雨のように降ってきた。


 剣の雨は青年の体すれすれで地面に突き刺さり、彼を剣の檻に閉じ込めた。


「……これは、俺の勝ちだよね?」


「ああ、そうだね。ハルトの勝ちだ」


 両手を上げて降参のポーズを取る青年。


 呆然とそれを見ていた少年は歓喜の声を上げた。


「いやったぁぁあああ! ついに父さんに勝ったどー!」


 全身で歓びの感情を露にする少年の頭を苦笑した青年が撫でる。


 始めて息子に敗北したことになるが、父としては嬉しいやら寂しいやら。その胸中には複雑な感情が渦巻いていた。


 本体に飛びっきりの笑顔でサムズアップした分身体がドロンと音を立てて消える。それと同時に影分身の情報や経験が還元された。


 思わずその場に座り込んでしまう。八門遁甲の第六門までを解放したのだ。その疲労は半端ではないだろう。


「とうとう追い抜かれちゃったなぁ。これでまだ十五歳なんだから将来どこまで強くなるのか、楽しみでもありちょっと不安でもあるよ」


 隣に腰掛けた青年が苦笑する。


 少年はそのまま上体を倒して寝転び、青い空を見上げた。


「まあこれでも父さんを目標に頑張ってきたからな。まだまだ強くなるつもりさ」


「それはどうして?」


 何気ない質問。少年は特に考えることなく、思ったことをそのまま口にした。


「やっぱさ、知り合いが死ぬのは悲しいじゃん。なら自分の周りにいる人くらい守れるようになりたいってね」


 その答えをどう解釈したのか、くすっと笑った青年は青空のように朗らかな笑みを浮かべた。


「そっか。やっぱり、ハルトは僕たちの息子だね」


 ほのぼのとした空気が流れる。


 すると、煙管を吹かした蝦蟇蛙がやってきて、少年の隣に座った。


「おーいっちっち……。お前、ちびっこいのになかなかやるけんのぅ。まさかこの儂が投げ飛ばされるとは思わなんだ」


「この子は色々と規格外だからね。なんか最近は気合いで物事をどうにかしてしまう方向に目覚めているし。本当に、一体どこへ向かってるのやら……」


「ガッハッハッハッハ! 流石は四代目の倅かいのぅ。ところで儂が相手したあの影分身、ただの分身じゃねぇだろぅ? 八門遁甲まで開いていたんじゃし。ありゃなんじゃ?」


 蝦蟇蛙の疑問はもっともだ。影分身とはチャクラで術者の実体を作り出し、物理的接触を可能にする高等忍術だ。


 発動時にチャクラが本体から各分身体へ均等に分けられるため、見分けるのは非常に困難だが、一方衝撃に弱く浅い傷を受けただけで術が解ける場合もある。そのため八門遁甲など術者への反動が大きい術を分身は使えないというのが一般的に知られている影分身の術である。


 しかし、先ほどまで青年が使用していた術はただの影分身にあらず。


「あれは俺が独自に開発した特製の影分身だよ。チャクラの三分の二を使う必要があるけど、限りなく本体に近い分身を作ることが出来るんだ。気を失うか致命傷を受けない限り術は解けない優れものだよ。まあ、難点としては一体しか作れないんだけどな」


「お前、まだ八の小僧じゃろう? その歳でこれかい」


「いや、この歳でようやくこれさ。もっと研鑽を積まない、と! んじゃあガマ親分さんまたな! 父さんも先に行ってるよ」


 勢いよく立ち上がった少年は蝦蟇蛙と青年に挨拶を述べると、飛雷神の術で自宅へ戻った。


 残された二人は空を見上げながらしみじみと呟いたのだった。


「最近のガキは恐ろしゅうのぅ」





   †               †               †





 二度目の人生を謳歌すること八年が経過した。


 家族と時間を過ごし、友達と遊び、修行で汗を掻き、一日を終える。そのサイクルで日々を過ごしてきた。


 修行の方は順調だ。むしろ順調すぎて困るくらい。また、普段から汐音と一緒にいる俺は必然的に妹の友達とも仲良くなり、彼らの修行を見てあげたりしている。最近だと新しく出来た友達のロック・リーと一緒に修行をして研鑽を積んでいたりする。


 というのも、数年前から体術の伸びしろが悪くなってきたのを感じていたのだ。いわゆるスランプというやつだな。


 まだ子供の体だし、今後成長するから無理をしなくてもいいかもしれないが、それでもやれることはしておきたい。それに純粋に修行をするのが好きというのもある。まあ、転生特典の【努力するだけ成長できる才能】のお陰だけど、それでも成長していると実感出来て楽しいのだ。


 そのため、父さんに相談したところ紹介されたのが、あの体術のスペシャリストである上忍のマイト・ガイ。


 どこの修造だと言いたくなるほど情に厚く熱血で、青春をこよなく愛する漢。四代目火影である父さんや九尾の狐であるクーちゃんから修行をつけてもらっている俺はすでに上忍を超えるほどの実力を有していた。それなのにどうしてまだ強くなりたいのかと尋ねてきたガイ上忍に俺はこう答えた。


「誰よりも強くなって、大切な人を守りたい。そのために今出来ることをしたい。妥協したくないんです」


「ほう。しかしその心構えは立派だが、このまま大きくなるのを待つだけでも相当の力をつけるだろう。それでもかね?」


「当然! 忍術は父さんとクーちゃんがいますが、体術を教わるにはガイ上忍、あなたに師事するのが一番良いと父さんが言っていました。どうか修行をつけてください!」


 そして、俺の熱い決意を汲んでくれたガイ上忍はその日から俺の体術の師匠となったのだ。後に弟弟子となったロック・リーとともに熱い男の元で汗を流す濃厚な時間を過ごしている。


 ガイ師匠との修行はその印象に違わぬ熱血指導と熱い精神論で体を苛め抜くのが基本だ。自己流でそこそこ鍛えたと思う筋トレを生ぬるいと一蹴し、それまでのメニューが天国に思うような過酷な筋トレを課して体を一から鍛え直し。ガイ師匠とタイマンの組み手を行い何かしら理由をつけては各種筋トレを五千回。


 まさに血反吐を吐くような毎日で、家に帰っては汐音やクーちゃんには心配をかけられたり。両親にしても「ガイ、やりすぎじゃないか?」と苦笑いをされる始末だ。俺自身充実した時間を過ごせているからなにも言わないでいてくれているが。


 弟弟子のリーは忍術、幻術といった才能がない。身体能力が秀でているわけでもない。正直忍者に向いていないんじゃないかと思うが、彼にはガイ師匠に通じるものを持っていた。それが『根性』。諦めない心だ。


 始めはひーひー言いながらへとへとになって俺と同じ修行をこなしていたが、今では筋力もつき、そこそこ体術をものにしてきている。これまで泣き言の一つも言わないその強い心は誰もが持っているようで持っていない一つの才だ。


 そんな弟弟子を見ると俺も負けていられないと良い刺激を受け、一層努力する。そんな弟子たちの光景をガイ師匠はなぜか熱い涙を流しながら見守っていたりするのをよく見られる。


 ちなみにリーはすっかりガイ師匠に感化され、師匠の格好を真似たりしている。流石に俺は断ったけどな。


 父さんたちと別れた俺は一度自宅に戻り、軽くシャワーを浴びた。


「んー、結構筋肉付いてきたな。いい感じの細マッチョだ」


 姿見にはパンツ一丁の俺が映し出されている。体の所々には修行でついた傷跡がついているが、それが男の勲章に見えて誇らしい。


 ガイ師匠の監修のもと行う筋トレは俺を細マッチョに変えてくれた。盛り上がる筋肉は無駄がなく、それでいてすらっとスマート。まさに肉体美という言葉が似合うな。こういうとナルシストっぽいけど!


 イケメンと美女の間に生まれた俺は親の遺伝子を正しく受け継ぎ、俺もイケメンだ。整った顔立ちは小顔で目や鼻など各パーツのバランスは絶妙の一言。ニキビなんて無縁だし体毛も薄毛。


 髪は母の遺伝子が色濃く出て燃えるような赤い色。男だけど髪が生えるのが早いのか、喉仏の高さまで伸びており、後髪は肩甲骨の高さまであって一つに縛っている。髪を解けばただでさえ美顔だから一転して女っぽくなるんだよな。化粧すれば多分女でもわからないかもしれない。たまに酔った母さんに汐音共々着せ替え人形の餌食に会うことがあるし……。


 まあいいや。このあとガイ師匠と会うから動きやすい格好に着替えてと。


「ガイ師匠のところに行ってくるねー!」


「晩御飯までには帰るのよー」


「はーい! クーちゃんはどうするー?」


「妾は汐音と遊んでおるのじゃー!」


 元気な声が二階から聞こえてきた。どうやら汐音の遊び相手になっているらしい。


「あいよー! んじゃあ行ってきまーす!」


 Tシャツと短ズボンに着替えた俺は家を出て修行場である森へと向かった。


 道中、色んな人が気さくに声を掛けてくれる。


「やあハルト。元気そうだね」


「おお、ニオのおっちゃん。元気も元気さ!」


「ハルト兄ー、遊んでよー」


「また今度なエマキ。ちょっと兄ちゃん用事があるからよ」


「おや、ハルトくん。狐ちゃんは今日は一緒じゃないんだねぇ?」


「いつも一緒にいるわけじゃないよ。クーちゃんなら妹の相手をしてるよ。この間はお饅頭ありがとうね、シオ婆!」


「ハルちゃん! これ、狐ちゃんにあげといて!」


「おっ、稲荷寿司か。タマキのおばちゃんが作る稲荷はあいつの大好物だからな、喜ぶよ。ありがとう!」


 親しげに声を掛けてくれる人たちに笑顔で応じる。


 始めは九尾のクーちゃんに対する風当たりも強かった皆だが、俺の使い魔になって過ごし、一緒に里中を歩き、人と接するうちにこの五年ですっかり受け入れられるようになった。今では皆から『狐ちゃん』や『狐さん』と呼ばれ親しまれている。クーちゃんもすっかり丸くなり笑顔で子供たちの相手をしているから俺も安心だ。


 建物の間をぴょんぴょん跳び移りながら走り続け、ガイ師匠と行ういつもの修行場所に到着した。ちなみにこの修行場所は父さんたちの模擬戦や術の開発に使う模擬戦場とは反対側に位置している。


 到着するとすでにガイ師匠はリーに修行をつけていた。一つ年下の弟弟子は丸太蹴りを行っているところだ。


「おお、ハルトか!」


「ハルトですか!」


 ガイ師匠とリーが暑苦しい笑みを浮かべる。こう見ると、この二人って親子なんじゃないかと思うほど似ているんだよな。


「よぅしリー、一旦休憩だ!」


「オッス!」


 その場に座り込むリーを尻目に俺は師匠に報告した。


「それで、どうだった?」


「もちろん、やってやりましたよ! 始めて父さんに一本取りました!」


 親指を立てて満面の笑顔を浮かべる。苦節五年。ようやく父さんに勝つことが出来たのだ!


 ガイ師匠には前もって打倒父さんを目指していることを伝えてある。今日、父と再び再戦に挑むことも。


 弟子の吉報にガイ師匠はぶわっと熱い涙を流し抱擁してきた。


「おおっ、そうか! よくやったなハルトぉぉぉっ!」


「ええっ!? ハルト、ついに火影様に勝ったんですか! すごいですっ、おめでとうございます! やっぱり努力は報われるんですねっ!」


 そう言って起き上がったリーも抱きついてきた。


 ここまで我が事のように喜んでくれて非常に嬉しく思うけれど、やっぱり暑苦しく感じてしまう。


「ハルトよ! 父に勝てたからと言ってここで終わりではないぞ。お前の青春はここから始まるのだ!」


「オッス!」


 いや、なんでお前が返事をするんだ!


 何故か俺の変わりに元気よく返事をするリーに大きく頷いた師匠は俺の肩を抱き寄せた。


「そういえばハルト、お前は今年からアカデミーに入学だな。どうだ、気持ちのほうは?」


 ガイ師匠は俺が二年送れて入学する理由を知っている。妹の汐音もとうとう五歳になり入学できる年齢になったため、俺もついに今年からアカデミー通いだ。


 とはいえ、アカデミーで習うことなんて忍者になる上での最低限の知識と技術だけだ。すでに習得している俺からすれば勉学の意味において得るものは何もないと思う。


「そうですか! ハルトもついに今年からアカデミー生ですね!」


「まあそうなんだけどね。でも今の俺からすればアカデミーレベルの知識はなぁ。技術も他のアカデミー生のレベルを考えると本気を出すわけにはいかないし」


「まあそうでしょうね。ハルトくんはすでに上忍レベルの実力がありますから。でも、アカデミーだからこそ学べるものがあると思いますよ!」


 弟弟子のリーとは何度も組み手を行い、ガイ師匠との模擬戦を目の当たりにしているため俺の実力を良く知っている。


 リーの言うとおり、汐音の傍にいるためとはいえアカデミーは今更感があるんだよなぁ。


「リーの言うとおりだ。確かにハルトからすれば事情があるにせよ、今更アカデミーで学ぶことは少ないだろう。だが、そんなお前でもアカデミーで得られるものが必ずある!」


「それは?」


「それは、友の存在だ! 俺とカカシのように、互いに切磋琢磨し合える無二の存在。それが友!」


 暑い、暑すぎるよ! 今、師匠の背後で高く波打つ岩場を幻視したよ!


「お前もそんな存在に出会えるさ。さあ、今日も熱く青春していくぞお前ら! 青春マラソンの始まりだっ! 俺に続けお前たちぃ!」


「オォォッス!」


「うぃーっす」


 明後日の方角へ向けて走り出す師匠とそれを追うリー。弟子として俺も付き合わないと。


 そんなこんなで、駅伝を軽く超える青春マラソン――百キロマラソンが始まったのだった。恐らく家に帰る頃には足腰立たなくなっているな……。

 
 

 
後書き
 幻影剣:デビルメイクライよりバージルから拝借。
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