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世にも不幸な物語

作者:炎花翠蘇
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第十章『忠告と贈り物と・・・・・』

 夜も大分深くなり松明(たいまつ)の光が一段と明るくなった。
 かなり更けているのに未だに誰もお開きを提案するものが現れず未だに宴会が続いている。
「輝、今何時?」
「え~と、11時半過ぎ」
「もうそんな時間か」
「ああ、こんな遅くまで続くとは思わなかった」
「まさか少人数でここまで続くとは・・・」
 その言い方だと、輝が予想していた多人数だとここまで続くと予想したいたみないな言い方だ。
「風は?」
「あいつは文に捕まって外について色々聞かれてる」
「そうか」
 外についてって事はかなりの質問攻めにあうのだろうな。外の世界は広いし。
「ふわ~~ぁ・・・ねみぃ・・・」
「もう?」
「お前らと違って結構働いたから」
「確かに。お疲れ様っす」
「だからここらへんで俺は失礼するわ」
 その場から離れようとした時、後ろから突然
「あら、もう寝るの?宴会はこれからが本番なのに」
 紫が現れた。
「ほわぁ!!」
「あ、ゆかりん」
「久しぶり♪」
 突然現れた紫に普通に対応している零。なぜ驚かないのか不思議だ。
「輝も久しぶり」
「ほんと久しぶりですね」
「あら、随分とご挨拶ね」
 ここ数日間輝は何もしなかった訳ではない。小町に八雲 紫について聞いたりしていた。だが、神出鬼没でどこに住んで何をしているのかだれも知らない。唯一分かることは紫が動く時は何かを企んでいる。と小町が推測で言っていた。
 だから零や風と違い警戒をしている。
「で、何しに来たんですか」
「宴会に招待状が必要?」
「・・・・・」
「やめとけ輝。対話で紫には勝てねぇよ」
「零はよく分かっているわね」
 たった二回しか会っていないのに紫は人を見透かしているように思える。輝にもなぜそう思えたのかは分からない。でも、そう思えてくる。この女性、八雲 紫は。
「そうそう。今日は貴方たちにプレゼントがあるの」
「「プレゼント?」」
「そう。三人に渡したいのだけど、ツッコミ君は?」
「風ならあっち――」
「紫ッ!!」
 霊夢がすごいいきおいで輝たちのところに来た。
「あら霊夢。どうしたの?」
「『どうしたの?』じゃないわよ!なんでアンタは面倒な事を起こすのよ!」
「別にいいじゃない。霊夢も得している訳だし」
「それとこれとは話が別ッ!そもそも紫は」
 霊夢は紫にクドクドと説教を始めた。この状況だと口を挟んだら火の粉がこっちに飛び掛る恐れがある。輝と零は二人から離れ、風の元に非難しにいった。



 三十分弱経過したころには霊夢の説教は愚痴に変わっていた。紫の方は聞いているのか聞いていないような態度で霊夢に付き合っている。
 霊夢の怒りが収まったのを見越して輝は霊夢の会話に入った。
「霊夢さん、そろそろいいですか?」
「あぁん?なにが?」
 巫女が『あぁん?』などと言っていいものか。
「紫さんの説教。そもそも、俺らに用があって来たみたいですから。だから」
「ったく、しょうがないわね。これで許したと思わないでね!」
「霊夢は小言ばかり言って疲れるわ。そんなんじゃ顔にしわが出来るわよ」
「なんですって~ッ!!」
 収まり掛けた怒りに油を注ぐ紫。
 怒る霊夢を(なだ)めつつ輝は用件のことを聞いた。
「で、御用は?」
「今のままじゃ駄目だと思って三人にプレゼントをあげに来たの」
「今のままじゃ・・・・駄目?」
「フフ・・・そう、今のままだと三人ともすぐに死ぬわ」
 死というキーワードを聞いて輝は驚きそして恐怖を感じた。
 外の世界だと死という恐怖は感じなかった。今まで死の窮地に立っていないからだ。頭では死は怖いと考えた事はあっても感じたことは無かった。
 だけどここは幻想郷。妖怪、死神、幽霊などがいる。他にも輝が知らない何かがいるかもしれない。
 自分で妖怪が好きといっている輝だから分かる。どの妖怪が危険であるかないか。妖怪に出会えて浮かれていたから忘れていたが全ての妖怪が温厚である筈がない。紫に言われて今置かれている現状に恐怖を感じていた。
「な、なんでそんな事を決めつけるんですか。俺には能力が」
「輝は妖怪に詳しいのよね?」
「え・・・」
「もし牛鬼に出くわしたら輝は勝てるの?」
「・・・ッ!」
 確かにそうだ。
 屍を探している間に食い殺されてしまう。仮に出したとしても勝てる保障は何処にもない。
「か、勝てません・・・・」
「素直でよろしい。だから受け取ってもらえる?」
 ここでいいえと言えるだろうか。
 いいえと答えたらそこで命を捨てたと同じだ。
「ゆかりん、ちょっと質問なのだが」
「ん、なに?」
「俺には能力がまだ目覚めてないからゆかりんの力で何とかしてくれ」
「え、そんなことも出来んの?」
「ああ。紫がちょちょいっとやれば可能だ」
 風の説明を聞いても信じられない。
 そんなことが可能なら紫は何者なんだ。
「確かに。私がちょちょいっとやれば出来るけど」
「なら」
「けどダメ」
「え――――ッ!?」
 返答が意外だったのか零はかなり驚いている。こんな零を見るのは初めてだ。
「ちょっとそれ・・・・マジか?」
「マ・ジ♪」
「零、諦めろ」
「いやいやいやいや、コレばかりは冗談なしに俺死ぬッ!」
「死亡フラグ決定だな」
「決定じゃねぇよ!つか建ててもいねぇし!!」
 いつもと立場が逆転している。中々見られない光景だ。
「そんなお困りの貴方に丁度良い武器があるわ」
 困らせたのはアンタだろ。
 紫は持っていた扇子で輝たちの前を撫でるように滑らすと空間が裂け、裂け目が開き中は無数の目がのぞいている。幻想郷に落とされた時に見た奴だ。紫はそこに手を入れてごそごそと何かを取り出そうとしている。裂け目は四次元ポッケト的な役割なのだろうか。
「どこにいったかしら。え~と・・・あったあった」
 裂け目から出してきたのは日本刀と短い刀、たぶん脇差(わきざし)だろう。
「この刀は鳳凰(ほうおう)、こっちの短いのは焔月(えんげつ)。この二本はどちらとも能力があるわ」
「どんな能力?」
「鳳凰は色んな炎を出せて、焔月は火属性の幻獣を召喚できる。焔月は今の零が使うと危ないから使わない事をお勧めするわ」
 零は鳳凰を受け取り鞘から抜き刀身を眺めた。
「色んな炎って黒炎とか蒼炎とかか?」
「試しに出してみたら」
 紫に言われ零は鳳凰を構え、意識を集中させて風に向けて鳳凰を振った。
 すると刀身から黒い炎が放出され風に襲い掛かる。
「のわぁぁ――――ッ!!!」
 風は横に飛び何とか回避をした。
「ス、スゲェ~~~」
 零は嬉しさの余りに何発か風に炎を撃っている。
「ぎゃぁぁぁぁッ!!」
 それを辛うじて避けている。
 零は必死に避けている風を見て笑っている。さっきからかった仕返しをしているのだろう。
 暫くして輝が止めに入り、風を死から救った。服が所々焦げていた。息も絶え絶えで「あ・・・あいつ・・・・マジ・・・だ・・・・った」と言った。
 確かに、風に攻撃をしていた零は輝いていた。
「次は風と言いたい所だけど、疲れているみたいだから輝にしましょう」
 紫も妙に楽しんでいる。
「輝はこれ」
 次に取り出したのは柄と刀身の間に水晶がはめ込まれている薙刀。
「これは白山刀(はくさんとう)。魂を抜く事と()れる事が能力」
「依れる?」
「言葉の通りの意味。憑依みたいなものかしら」
「ああ」
 白山刀は輝にピッタリの武器だ。
 もし侍の屍を出して攻撃の指示を出しても今の輝だと100%侍を使いきれていない。ある程度自分で行動しているが所詮屍、限界がある。輝も自分で知っている範囲の知識でしか指示できない。だけど白山刀を使えば、屍の(本人)を憑依させれば問題は解決する。自分のことをよく知っているのは本人だし。
「輝、試しに使ってみろよ」
「え~~」
「実際に使わないと分かんないぜ?俺だって実際に使ってなんとなく感覚が掴めたからさ」
「そお?」
「やっといて損はしないって」
 零が言うと説得力ある。実際にいるし。
 ドキドキと不安を抱え輝は白山刀に意識を集中させる。
 すると、水晶が淡く光だした。すると頭の中に声が響いた。
『俺を呼ぶのは誰だ』
「うわぁっ!?」
 輝は驚き、声を上げた。
「どうした?」
「こ、声があああ頭にひ、ひ、ひひ響いたッ!どどどどどどどど――」
「取り敢えず落ち着け」
 取り乱す輝を冷静に対処するが、かなり動揺している。
「ここここういう場合どうすんの!?」
「水晶を頭につけてみたら?」
「えええええッ!!怖いからヤダ!!」
「ガキかお前は」
「17歳はまだガキだ!」
 一向に落ち着きをみせない輝は周りをアタフタと動き回っている。
 痺れを切らした零は無理やり白山刀を奪い、輝の頭を白山刀で殴った。
「っ!!」
 打たれた輝は不思議な感覚に陥った。体の感覚が徐々に無くなっていくのが分かる。
 頭を打たれた輝の体は俯いたまま動かない。
「おーい、輝」
 心配になり零が肩を叩こうとした。
その時、急に輝の体が前を向き。
「最初に言っておく・・・・特に言うことはない」
 と、訳の分からないことを言い出した。
「・・・は?輝なに言ってんだ?」
「俺は輝と言う名前じゃない。弟祢舞(でねぶ)だ」
 どうやら輝の体には弟祢舞と名乗る人物が憑依しているらしい。
「所で」
「ん?」
「一体ここは何処?さっきまで地獄の鬼さん達に料理を作っていたんだけど」
「えっと、この世」
「・・・・・・えぇ!?俺は蘇ったの!?」
「いや、そうじゃなくて、今弟祢舞が入っている体の持ち主、輝が弟祢舞を呼んで憑依させたんだ」
「あ、そう言えば誰かの声が聞こえていつの間にかここに来たんだ。そうかだったのか~」
 零は今目の前にいるのが輝であって輝ではない輝がいる。
 見た目は輝なのに喋りかたや動きの仕草、それに雰囲気までもが違う。
『どうなったんだ?』
 どうやら憑依されても輝の意識はあるようだ。
「君が輝君かい?」
『そうですけど。誰ですか?』
「やや、紹介がまだだったね。俺は弟祢舞。ゆろしく!」
『どうも』
 二人が会話を交わしているが周りには輝の声が聞こえていない。つまり、傍から見れば一人で喋っている可笑しな人である。
「これ、輝君にあげる」
 弟祢舞の手にはいつのまにか飴玉が数個乗っていた。
『いつのまに出したんですか?』
「ああ、これ俺の能力。いつでも何処でも色んな味、形、硬さの飴を作れる能力だ」
『へ~~』
「そろそろ帰るね。困ったことがあったらいつでも呼んで。力になるから!それじゃぁ」
『あ、ありがとうございます』
 弟祢舞が帰ると体の感覚が戻った。
 少々驚いた。まさか本当に憑依が出来るなんて思はなかった。
「輝なのか?」
「おう」
「なんか、すごいな。色々と・・・・」
「うん、すごかった。いろいろと・・・・」
 輝と零は色々とツッコミを入れたいがしないことにした。ツッコミを入れたら負けな気がしたからだ。
「風は?」
 先ほど貰った飴をお皿に置きながら零に尋ねた。
本来なら輝が憑依して弟祢舞に色々とツッコミを入れても可笑しくはないのだが今回はなかった。
「ん」
 零が親指を立てて自分の後ろを指した。そこには鳥居の柱によりかかり地面に座りこんでいる風がいた。
 燃え尽きた・・・真っ白に・・・。の台詞が出てくる位座り込んでいる。
「まだ復活してなかったの?」
「ああ。ったく、これだから現代っ子は」
「俺らも現代っ子ですよ。零殿」
 少し待つとゆっくりと立ち上がり輝達のところに帰ってきた。
 風が復活して早々零に怒鳴りつけていたが、繰り返し(どんでん)になるので輝が仲裁に入りその場を治めた。
 よく飽きずにいつもよくやるものだ。
「さて、遅くなったけど最後は風」
 紫が最後に取り出したのは、一本の剣と二丁の拳銃。
「剣の名はインドラ、放電する能力をもっているわ。こっちの拳銃はイリンとクァディシン、無限に弾が撃てる能力」
「よし、じゃぁ早速」
 武器を受け取って試しをしようと張り切っているが、仕返しをするという魂胆(こんたん)はもうばれている。
 なぜかって?殺気が出ているからだ。
 零もその殺気に気づき動いた。
「いいんじゃね?試さなくて」
「なッ!!」
 鳩が豆鉄砲を喰らったように驚く。
「だってさぁ、能力聞いただけでもう分かるじゃん」
「勝手に決めんなッ!!俺だって感覚を掴みてぇんだよ!!」
「銃撃ったら危ないぜ?それに基本何発入っている銃なのか解かるのか?」
「・・・・っ!!」
 正論すぎて何も言い返せない風。
 誰だって正論を言われると言い返せない。これが現実。
「剣なら!」
「たかが放電するだけの剣を?俺の鳳凰みたいな能力だったら分かるけど・・・」
「・・・・・」
 急に黙って下を向いた。
「ん?どうした」
 零が声を掛けてから間を空けず。
「フザケンナァァァァァアアッッッ!!!」
 と二度目の絶叫を上げ、何時もと変わらないやり取りを行った。
 火の粉が掛からないように輝は二人から離れ、そのやり取りを眺めた。一見仲が悪そうに見えるが、このやり取りがこいつらなりの友情の印なのだから笑える。たまに輝もその中に入る。
「貴方たちって仲がいいのね」
 紫も二人のやり取りを眺めながうらやましそうに言ってきた。
「そうですか?」
「そうよ。仲が良くなければあんな酷いことしないわよ。心から許される仲だから出来ることが貴方にもあるでしょ?」
 本当によく見ている。たったの二回しか会っていないのにそんなことまで見抜くなんて。
「輝は・・・」
「?」
「私のこと恨んでいる?」
 突然変な事を言い出す紫に戸惑ったが、紫の瞳が輝を静かに見つめているのに気づき一旦 (まぶた)を閉じて落ち着き、瞼を開けて紫を見つめ返す。
 ああ、綺麗な眼だ。輝は紫を見てそう思った。
 今まで、いきなり幻想郷に落とした傍迷惑で怪しい奴としか見ていなかった。
 だけど、違った。
 何故違ったと聞かれると言葉が出てこない。見つからない。
けど直感だけど感じた。
 この人は、八雲 紫は傍迷惑でも怪しい人ではない。そう感じた。
 輝は紫の眼をしっかりと見つめて答えた。
「恨んでいました」
「・・・・・」
「だけど今は違います」
「何故?」
 静かに問いかける。まるで答えが解かっているかのように。
「妖怪や幽霊と出合えて嬉しい。まだあったことのない者に出会える嬉しさがあるから。だから感謝しています」
「フフ・・・本当に変わった子ね」
「ハハハ、よく言われます」
 このとき紫への警戒心は解かれ、紫への興味と変わっていた。もっと話をしたい。話を聞かせて貰いたい。輝はそう思っていた。
「あ、あともう一つありました」
「あら、なに?」
 半分冗談半分本音を言葉にした。
「紫さんの様な綺麗で可憐な人に出会えて嬉しいことです」
「~~~~~~~ッッ!!!」
 こればかりは予想していなかったのか驚いている。
「そ、そそれは良かったわね」
 と言い。輝から顔を逸らし、風と零のやり取りに視線を戻した。
 不思議に思いよく見ると紫の頬が赤くなっているのが見えた。
「紫さん頬赤いですよ?」
「あ、熱いからよ!それに松明の明かりが赤いから!ほら、輝の世界って松明焚かないでしょ!?だからそう見えるのよ!!」
「そう・・・・ですか」
「そう!きっとそうよ!!」
 紫の余りにもの説得に納得してしまった。
 そのあと紫は「なんか熱いわね~~」と言いながら扇子で扇いでいる。
 特に気にもしないし、紫が言っていたことも一理あるから輝はそれ以上聞かなかった。



 輝が始めて体験した幻想郷の宴会は1時を回ってお開きとなった。




 
 

 
後書き
更新が遅れてすいません。
次回もいつになるかは不明です。 
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