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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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マザーズ・ロザリオ編
  第238話 秘密

 
前書き
~一言~

 ……お、遅くなってしまってすみません……。
 更に気温が上昇してきたかと思えば―――夏祭りにまでも参加(強制!!)させられたり、準備だったり、いつもの更に倍倍程忙しくって、リアルがぁ…

 っとと、愚痴はここまでにしておきます! お待たせしてしまって、改めてすみませんでしたっ!!
 何とか1万字、到達しましたので、とりあえず 投稿をします。

 心情の部分、地の文をちょっと書きすぎちゃって……物語的には、殆ど進んでいないのが申し訳ないですが……。
 で、でも、漸くギルドに合流しましたし、これから、これからですっ! 頑張りますっっ!!

 最後に、この二次小説を読んでくださって、ありがとうございます! これからも、頑張ります!



                                      じーくw 

 


 と言う訳で、こんな理不尽極まりないフロアボスを倒す為には当然ながら、攻略のための作戦も変わらざるを得ないかった。

 レイドの上限ギリギリ、と言うのは 当然、と言うより当たり前であり、そして ヒーラー要員を大幅に上げる。つまり、死者が出る事を見越しての布陣で攻める、と言う事だ。たった1人の捨て身攻撃10のダメージよりも、10人で堅実に11のダメージを与える事を重視するのだ。

 ……因みに、言うまでも無い事だが、無数のプレイヤー達がしのぎを削っているこの世界。その中には強者も勿論沢山いる。

 そんなプレイヤー達が集まっても、非常に難敵だと言わざるを得ないのが、《浮遊城アインクラッド》の其々の層に座してまつボスなのだ。

 だが、その無数のプレイヤー達の中には《例外》とも言う者も存在したりしている。 一言で言えば、圧倒的な強者、強者の中の強者、等と呼ばれている者達であり、固有名詞、二つ名的に言えば……この世界で最もメジャーな名である《超勇者(マスターブレイブ)》だったり、《ブラッキー》だったりする。


 つまり、《リュウキ》と《キリト》の2人。


 なぜ、そこまで呼ばれているのかと言うと……、理不尽極まりないボス相手にも全く引けを取らず、立ち回り続けていたからだ。死が当たり前の世界だと言うのに――彼らは全く諦めなかった。仲間達を何度も窮地から救ってきた。単純に考えたら、回復アイテムや蘇生アイテム、MPの節約に大いに貢献をしてくれた、と言う事。


 どんなゲームにも《やり込み》と言う物が存在しており、RPG系で言えば縛りプレイ、即ち低レベルプレイ、と言う物も 無数のVRMMOの中に存在しているが――、単純なゲームの腕とは一線を越えているから 凄まじいの一言だ。


――あの世界(・・・・)はもう消滅したと言うのに、彼らの中では まだ続いている、有り続けている、と言わんばかりだった。


 と、余談が過ぎる様なので、話を戻すが、例外があったとしても、幾ら何でも10人と言う数は少なすぎるのは言うまでも無く当たり前だ。
 この新生アインクラッドの層を上がれば上がる程に、ボスも当然ながら強くなり、20層台の終わりが見えつつあるひとつ下の26層などは幾つもの、大ギルドから精鋭を選りすぐって漸く攻略したのだと、訊いた。

 アスナやレイナ、そして 例外(・・)と称している2人 リュウキやキリトは 最目標、と言っても良い《22層》へ到達してから、ボス攻略は行っておらず、傾向を正確に知っている訳でもないから、更に無茶だ。リュウキがいれば―――と心のどこかで安心感が感じられるが、1人に頼り切った所で、行きつく先、結末は決まり切っているだろう。

「えっと―――ね?」

 レイナは、それらの事を頭に浮かべつつ、今までのボス攻略事情も、アスナと一緒に説明しつつ、言葉を選びながら説明をしていた。

「うん――、幾らなんでも、ここの10人だけじゃ、ちょっと無理かなぁって思うんだけど……」

 アスナもレイナに合わせて、説明をした。時折、リュウキの顔をちらちら、と見ているが、何かを考えているのだろうか、リュウキは ただただ腕を組んで目を閉じているだけだった。

 ……落胆をさせてしまっただろうか? と思ったアスナとレイナだったが、ユウキやラン、そして 他のメンバー達を見て、それは無い、と言う事が直ぐに判った。
 何故なら、理由は判らないが、皆 顔を互いに見合わせて、照れた様に笑っていたから。

「ふふ……勿論。判ってますよ」
「うん。だって全然無理だったからねー」
「「……え?」」


 ランとユウキの言葉を訊いて、思わず殆ど同時に首を傾げる2人。シンクロした動きは、皆の笑いを更に誘う。……が、直ぐにランが説明を続けた。

「実は、私達は25、26層にも挑戦したんです」
「うんっ! あれは熱かったよー! ………うー、でも やっぱり今でも思い出したら悔しいよねー」

 ランの説明に、とびっきりの笑顔で頷くユウキ……だったのだが、最後まで言い終えた後に、少々表情を落としていた。 負けてしまった事が悔しいのだろう……、と予想は容易にできるが、それよりも驚く事がある。

「えーー!? な、7人で?」
「つ、通常の10分の1の数で、ボスと……??」

 10分の1。
 アスナの言う様に、その布陣の規模は 通常のレイド・パーティに比べると10分の1の数しかいない。如何にこのギルドのメンバー達が優れていようと、フロアボスの戦さを考えれば、その戦力差は歴然。……圧倒的に不利である事は間違いない――と言うより、この世界では当たり前であり、考える以前の問題、自明の理だとも言えるだろう。

「そうだよ。うーん、ボクたち的には、けっこう頑張ったつもりだったんだけど……」
「はい。……回復や魔法等の要であるMP(マナポイント)と回復ポーションがもたなくなってしまって……。数を重ねるうちに、効率の良い戦い方などを模索してきたんですが……。最後には、他のギルドの人達に追い抜かれちゃいました」

 そこから先を説明しようとした時、ずっと微笑みを絶やさなかったランだったが、少々表情が曇ってしまっていた。ユウキと比べたら遥かに落ち着きをもっている彼女でもやはり、悔しかったのだろう、と言う事がよく判る。
 それでも、笑顔を絶やさない。それは 皆、同じだった。

「凄いねー。……うん。すっごく伝わったよ。皆、本気だ、ってことが」
「……だな」

 レイナの言葉に、リュウキも頷いた。
 
 だが、気持ちは判らなくもないのはリュウキだ。
 嘗てのリュウキであれば、この世界(VRMMO)を自分の現実世界として、認識していたあの時のまま、ここへと来ていたら――、恐らく彼女達の様な事だってしているだろう、と思える。現に、VRMMOと言うジャンルが始まる前から、様々な記録を樹立させていっていて、色々(・・)と言われていたから。

 ただ、かけがえのない宝物を得た今、その過程での話は正直したくないのも事実だった。

 リュウキは、仲間達との時間を何よりも優先しているから。

 ただ、その中でも 出来る範囲では 昔の血が騒ぐ――と言わんばかりに、色々と無茶な事をしたりしているが(邪神狩り等……)、このギルド、スリーピングナイツが挑戦している難易度に比べれば、格段に低いと言えるだろう。

「う~ん、本気だって事は私もよく判ったんだけど―――」

 アスナは、改めてギルドの皆の顔を、7人の顔をゆっくりと見渡した。
 無謀な挑戦だ、と言えるのだが、何処か親近感が沸々と――と思ってしまうのは、身内にとんでもないのがいるから、仕方がない。
 でも、それは稀中の稀であるから、一先ず置いとく。

 そして、もう1つの感覚を――アスナは感じていた。

 それは、親近感だけでなく、新鮮な――それでいて、何処か懐かしい感覚である。

「でも、なんで? どうして 他のギルドと共同じゃなくて、単独でボスを倒したいの?」

 アスナは その訳を訊いてみたかったのだ。
 そして、その訊いてみたい気持ちはレイナも、リュウキも同じだった。

 やり込み要素として……と考えられるかもしれない。または、オーソドックスでと言えば、ボス討伐の報酬だろう。
 元々、レイド・パーティーで挑む事が大前提であるボス戦。単独で倒した、となれば、それこそ尋常じゃない程の(ユルド)希少(レア)な装備、アイテム――、あの年末に急行した《黄金の剣(エクスキャリバー)》のクエストを凌ぐ勢いで、得られる。

 だが、その動機はこの7人は何処かそぐわない気がした。

「えーっと……、その、ね?」

 ユウキが何かを説明しようと 瞳をいっぱいに見開いて言おうと口を動かすのだが、言葉が出てこなかった。……それは、少々驚いた事に、ランも同じ、だった。

 ユウキの事をしっかりと見守っていて、先ほどから 幾度となくフォローをいれている場面を何度か見ていて――、そして ユウキから『姉ちゃん!』と呼ばれている事もあって、姉妹であり、しっかり者のお姉さんと言う印象が強かった。
 こちらも姉妹、アスナは ちょっぴり見習いたい気分になってしまったりしていた、と思ったりもしていた。

――何か、訳がある――、深い訳が。

 と、再び頭の中を過ぎっていたその時。

「あの、私から説明します。その前に、どうぞ お座りください」

 ユウキとランの肩を優しく触れながら、そういうのは長身ウンディーネ、シウネーと名乗った女性だった。ランも 少し驚きつつ シウネーの顔を見ていたが、柔らかな笑みを向けられ、同じくランも笑顔になった所で 丁度3人も席に着いた。

「皆さんは もうお察しかもしれませんが、私達はこの世界で知り合ったのではないんです。ゲーム外のとあるネットコミュニティで出会って……すぐに意気投合して友達になったのです。もう……2年ほど経ちますか……」

 睫毛を伏せたまま、何かを思い出すように一瞬だけ言葉を切ると、直ぐに再び口を開いた。その僅かな微笑み、表情の緩み、それだけで この後に言う言葉に嘘偽りが無い。決して役割を演じる世界(ロールプレイ)ではない、と言う事が直ぐに3人は判った。

「最高の仲間たちです。みんなで、色々な世界に行って、色々な冒険をしました。……本当に、昨日の事の様に、これまでの思い出が心の中に残ってます。そして、きっとこれからもずっと、色褪せる事は……ありません」

 シウネーは、目を閉じ、遠い世界から現在の世界までを脳裏に思い浮かべているのだろう。その表情は本当に穏やかだったから。

 だが、その表情もやや陰る。

「ですが、残念な事ですが、私達が一緒に旅をできるのも、たぶんこの春までなんです。みんな、みんな……それぞれに忙しくなってしまいますから」

 陰りが見えていたのだが、そこまで口にした所で 再び一変。
 身を乗り出す勢いで、顔を上げて続けた。

「そこで、私達は、このチームを解散する前に、ひとつ……ひとつ絶対に忘れることのない思い出を作ろうと決めました。……無数に存在するVRMMOワールドの中で、いちばん楽しく、美しく、心が躍り―――、そして、とても明るい(・・・)世界を探して、そこで力を合わせて何か一つやり遂げよう、って。そうしてあちこちにコンバートを繰り返して、たどり着いたのがこの世界なのです」

 そこでシウネーは、仲間達を順に見回した。ジュン、テッチ、タルケン、ノリ、ユウキ、ラン。6人は、それぞれ顔を輝かせて大きくうなずく。それだけでも、皆が同じ気持ちなのだ、と言う事がよく判る。

「この世界――妖精郷アルヴヘイム、そして 浮遊城アインクラッドは、素晴らしい所です。美しい街や森、草原、世界樹―――そして、この城を皆で連れ立って飛んだ思い出、翅を広げて――、この明るい太陽の中に、光の中(・・・)に飛び込んで、包まれた思い出は、全員永遠に忘れる事はないでしょう」

 彼女の言葉の中で、少々感じる(・・・)所があった。
 それが、何処か? とは言わない。心の中に、忘れる事なく、心の中に秘めている大切な物。
 それがあってからか、彼女達が、それを忘れる事は無い、と言う想いには強く共感が出来た。

 そして シウネーは、僅かに閉じられた瞼の奥に一際真剣な光を帯びた。

「望むことは、あとひとつ―――。この世界に、私たちの足跡を残したい。……ボスモンスターを攻略すれば、第1層《はじまりの街》にある黒鉄宮、あそこの《剣士の碑》に名前が残りますよね」
「「あ……」」

 アスナとレイナは、一瞬だけ目を見開いてから、大きくうなずいた。
 確かに、ボスを倒したプレイヤーの名は、あの大きな石碑に記録される。

 ……かつて、あの黒金の碑は大きな墓石だった。

 その場所へと向かう事自体、苦痛を伴う物だったが、全てが変わった世界では、役割を変えていたのだ。……いや、本来の姿に戻った、と言った方が良いのかもしれない。死者の名を消す石碑ではなく、シウネーの言う様に、この世界に足跡を、戦いの記憶、戦士としての証を残した者達の名が刻まれるのだ。

 現に、この場にいるアスナやレイナ、そして リュウキの名も残している。

「その……、自己満足も良い所ですけど、私達、どうしてもあの碑に名前を刻んでおきたいんです。でも、問題がひとつあります。ボスを攻略したのが1パーティなら、その全員の名前が記録されるのですが、パーティーが複数になってしまうと、残るのはパーティーリーダーの名前だけになってしまうのです」
「あ――、そうだった。……そうだね」
「うん。確かに。……全員の名を残すだけのスペースがあったら、って思うけど……100層、あるから」

 以前のアップデートで 僅かにスペースが増え、増加したのだが、それでも全員を、と言う訳にはいかない。シウネーの言う通りパーティーリーダーの名に限られてしまうのだ。

「つまり、碑に《スリーピング・ナイツ》全員の名を残そうと思ったら、1パーティーのみで、ボスに挑まねばならないのです。私達、25層と26層で一生懸命頑張ったんですが……、どうしても あと少し及ばなくて……、そこで、皆で相談して決めたのです。パーティーの上限は知っての通り、以前のアップデートで増えた10名。後3名の空きがあります。僭越な話ですけど、私達の中で、最強であるランさんとユウキ、2人と同じか、それ以上に強い人を探して、パーティーに加わってくれるようにお願いしてみよう、って」
「成る程……。そういう事だったんですか」
「だから…… ユウキさんはあんなに喜んでて……。それに、ランさんも……」

 戦いが終わった時の笑顔が全てを物語っていた。
 ユウキは、笑顔を全面に出していたから、判りやすく、ランもユウキの姿に何処か呆れていた様子を見せつつも、微笑んでいたから、間違いない。

 因みに、『リュウキと戦ってみたい』 といっていた時のランの表情は、レイナも、そして アスナも見ていなかったから――そこに疑問は感じなかった様だ。

「はい! ユウキやランさんと匹敵――それ以上と訊いて、本当にドキドキしていますっ。ですが……、あなた方の意向も訊かずに申し訳ありませんでした。……改めて、お願いをします。どうでしょう? 引き受けてはもらえませんか? 私達は、コンバートしてまだあまり経っていないので、十分なお礼が出来ないかもしれないんですが……」

 金額を提示すべく、トレードウインドウを操作しようとするシウネー。
 だが、アスナは勿論、レイナも両手で制止した。

「あ、いえ。ボス戦をしようと思えば、経費が山の様にかかってしまいますから」
「そうですそうです。手持ちのお金は、ボス攻略に回した方が良いですよっ!」

 この辺りからも返答で、アスナとレイナの答えが判ったシウネー。そして、ランやユウキも同様だ。

「う~ん、ね? お姉ちゃん。報酬なら ボスを倒せた物でも十分過ぎるよね??」
「ええ。この少数人数で倒す事が出来たら――。目もくらむ程のお金やアイテムがあるでしょうから」
「じゃ、じゃあ、引き受けていただけるんですか!?」
「ええと――少し、待ってくださいね」

 ぱっ、と花開く様に笑顔になったシウネー、それに連動する他のメンバー。皆を少々抑える様に手を返すと、アスナは深呼吸をした。いい加減な対応はしたくない、と強く思ったのは、このギルド《スリーピング・ナイツ》の皆の真剣さを感じ取ったから、に尽きるだろう。レイナも一緒に頷く。
 ただ、混乱気味だった、と言うのは否めない。

 《絶剣》や《剣聖》の話を訊いて、興味を抱いたのは、つい先日の事であり、そこから 実際に剣を交え――そして リュウキとの息も詰まる戦いを見て、――あれよあれよと言う内に、最前線にまでご招待され、少数精鋭のボス攻略に誘われて。

 云わば、展開の移り変わりが、ジェットコースターの如く早い。
 早いからこそ――、ジェットコースターの様に、ドキドキと胸を躍らせる結果にもなった、と言うのも否定できない。

 今目の前で、目をキラキラと輝かせながら見ている少女、ユウキは 返答を今か今かと待ちわびている様子だ。この笑顔を曇らせる様な返答をしたくない――と言う想いも何処かにあった。

 そして、この何処か不思議な剣士たちと、きっと仲良くなれるだろうと言う確信に似た何かも感じた。

「うんっ」

 レイナもアスナと同じ気持ちだった様だ。アスナと目があったと同時に、にこっ と笑顔を見せながら頷いていたのだ。

「リュウキくんは―――?」

 アスナとのアイコンタクトを済ませたレイナは、紡ぐ様にリュウキの方を向いた。
 今の所、リュウキは言葉を何も発しておらず、位置的に3人の中では一番後ろにいる為、どういう表情をしているのか判らなかったから、レイナは振り返ったのだ。

 リュウキは、眼を瞑っていた。……が、レイナの言葉を訊いてゆっくりと眼を見開いた。

 何処か、表情は穏やか。それでいて、眼の奥に秘められた何かが一際輝いている様にも見えた。

 軈て、返答を待っていた皆の視線も自然とリュウキへと変わってゆく。

「――この手の挑戦は、本当に久しいな。そういえば、皆に止められていたから、こう言った試みをしなくなったのかもしれないから」

 懐かしむ様に、リュウキはそうポツリとつぶやいていた。
 それを訊いた、スリーピングナイツの皆は、『戦うなら、皆で頑張ろうよ!』と仲間達に言われたのだろう、程度にしか考えていなかったのだが、アスナやレイナには言っている意味がよく判った。

 嘗ての世界――。魔法は一切なく、剣1つで目指した浮遊城の世界。

 彼は、全層をただ1人で闊歩し続け、更には出回っているイベント、その中でもボス級の敵への攻略等、全てを1人で行っていたのだ。今思っても危険極まりなく、だが それでいて彼を諫めようとしたりする者も、層が上がってゆくにつれて、少なくなっていき――最終的には、リュウキが心を開き、接する様になって、……他人とのつながりを大切にする様になって、圧倒的に減少した。

 あの生と死が隣り合わせだった世界ででは、心の奥に《他の誰かの為に》と言う想いがあったリュウキだったが、今は 平和な世界。その世界でのこの手のプレイ法は云わばやり込みプレイだ。十八番、とも言えるだろうから、昔の血が騒いだ、と言うのが正解かもしれない。

「オレには、異論はないよ。……少数でのボス戦? 超強敵? ……全部、望む所だ、と言いたい、かな」

 そう言って笑っていた。
 そして、アスナも笑顔で頷くと 改めてシウネーを、そして ランや優希、他の皆を見て言った。

「気持ちは固まりました。……やるだけ、やってみましょうか。この際、成功率とかは置いといて。……ん、いえ 成功率は十分ありますね」

 アスナは、一瞬だけ言葉を切って、言い直した。

――こちらには、妹の最愛の旦那様にして、伝説の勇者様(・・・・・・)がいらっしゃるのだから。

 と、内心では ニヤニヤと破顔しそうだったのをしっかりと我慢したアスナだったが……。

「……今、妙な事、考えてないか? アスナ」

 表情は見られてないと言うのに、訝しむ様なリュウキの言葉が聞こえてきた。本当に妙な所で察しが良いのは変わっていない。

『この察しの良さを、最初から妹の想いに向けてくれていたら――、もっと早い段階で通じ合えたと思うのになぁ』

 と 最早通じ合えている今では別に良い事ではあるのだが、昔の事を思い出していたからか、アスナは再びそう思って、苦笑いをしていた。
 
 その途端だった。ユウキが可憐な顔をまぶしい程に輝かせて、一番前にいたアスナの両手をぎゅっ と強く包み込んだ。 他のメンバーも同じく、盛大な歓声を上げていた。

「ありがとう、アスナさんっ!! それに、レイナさん、リュウキさんもっ!! 剣を合わせたあの時から、そう言ってくれると思ってたよっ! ほんとにうれしいっ! ありがとうっっ!!」

 アスナの手を握り、そして レイナやリュウキの方を何度も何度も見て、笑顔を見せた。
 そして、隣にいたランも、ユウキ程の勢いは無かったが、それでも心底安堵した様に ほっと胸を撫で下ろし、笑顔で頭を下げて喜んでいた。

「本当にありがとうございます。皆さん。……それに」

 そこまで言った所で、ランは口を噤む。
 視線の先にいるのはリュウキだ。……その視線に一番前にいたアスナは気付いたが、恐らくは、自分を打ち負かした相手、リュウキに感謝の言葉を改めて言いたかったけれど、負けてしまっている自分達の手前、遠慮したのだろう、とアスナは感じていた。

「あ、あはは。わたしの事は、アスナって呼んで」
「あ、私は、レイナでっ!」
「……さんは、いらない。リュウキで良い」

 ユウキの勢いに思わず仰け反りそうになってしまった3人だったが、直ぐに返事を返した。ユウキは にっこりと笑って叫んだ。

「ボクも、ユウキで良いよ!」
「私も、ランとお呼び下さい」

 ニコニコと笑いながら手を差し伸べてくる。

 ここで、レイナはふとした疑問が頭をよぎった。

「あれ? そう言えば えーっと……、ユウキは 皆 『ユウキ』って呼んでるのに、ランさんは なんで?」

 そうなのだ。全員ではないが、シウネー、タルケン、テッチは ランの事をランさん(・・)と呼んでいる。呼び捨てで呼んでいるのは、ノリとユウキ、ジュンの3人であり、半数は さん を付けて呼んでいる事に ふと 疑問を持ったのだ。
 だが、それを訊いて、にこっ と笑うのは、シウネー。そして、皆も同様に笑顔を見せた。

「だって……、ねぇ?」
「あははは!! 判る判る! もう慣れちゃったけど、ランは、ランさん、だったなぁ。最初の方は私も」
「うーん、改めて問われると、違和感に思うかもしれませんが、これが自然な形になったので」

 雰囲気と言えばそうだ。
 ランは、何処か気恥ずかしそうにしていた。

「私としては……、私もさん付けしなくても良いんですが……、何でか、こうなってしまったみたいなので……」
「ぶー。ボクとしては、ちょっと不服だったんだよー? でも、テッチの言う様に、自然になっちゃったからね~……、も、さいしゅー的には、『まー、良っか?』 って感じになっちゃって」

 苦笑いをするランと、頬を膨らませるユウキが実に対照的だった。

 それだけで十分だった。

 天真爛漫なお転婆娘のユウキに、御淑やかで才色兼備なしっかり者のラン。

 見ていたら、そういう印象を得てしまうから。

「ふふ……」

 リュウキも同様の印象を得たのだろうか、口元に手を充てて、笑っていた。
 それを見たユウキが更に頬を膨らませる。

「ああーーー、リューキまで! 何だか、ひどいやっ!」

 早速呼び捨てでリュウキの名を呼ぶユウキ。
 このメンバーとは、もうあっという間に仲良くなれるだろう、と感じたアスナやレイナだった。



 そしてその後は、我先に、と握手を差し出す他のメンバーたちと固く握手を交わし、新たに注文した大ジョッキでの乾杯が一段落ついた所で、アスナはふと浮かんできた疑問をユウキに向かって口にした。

「そう言えば ユウキさ……、ユウキ達は、デュエルで強い人を探してたんだよね?」
「うん、そうだよー。ほんとは、姉ちゃんと別々で探すつもりだったんだけど、最初の1回目のデュエルで、結構注目されちゃって……」

 てへへへ、と笑うユウキ。

 つまり、2人組の最強コンビ、《剣聖》と《絶剣》の名が広がった今、別々の場所で散開するよりは、それなりに開けたあの孤島で 2人組でする方が効率がより良い、と言う結論に至った様だ。
 
「それならさ? 私たちよりも前に、強い人はいっぱいいたと思うんだけどなぁ……、あ、 リュウキ君は例外だからね? そこの所は宜しくね」
「っ――、って 別に 例外じゃなくて良いだろ」

 アスナの突然の言葉に 思わず変な所に、ドリンクが入ってしまいそうだったが、何とか堪えるリュウキ。食道ではなく、気管の方へと。……最近では 現実感(リアリティ)が更に増してきた様な気がする――、とどことなく感じたのはまた別の話。

「あはははっ、でも 判るよー。だって、リュウキってば、姉ちゃんに勝っちゃうんだからショウガナイってっ!」
「とっても強かったですから。私も判りますよ」
「スリーピング・ナイツ最強のランだしなぁ! あ、次はオレと戦ってくれ!!」

 ユウキがそういった所で、ランやジュンもずいっ、と身体を寄せてきて――、改めて周囲の視線が自分に集まる気がした。……気がする、ではなく、間違いなく向けられていた。何処か癖のある笑みは、何年も苦楽を共にした、友達の様な、笑顔。
 この質のモノは……いつものメンバー達のそれと同種だった。つまり、そこまで打ち解けている、と言う事だろう。

 つい先ほどまで、いろんな質問攻め+褒め言葉、称賛……等々があって、誰もが認める恥ずかしがり屋さんな、リュウキは正直参ってしまっていたのだ。

「ふふっ、あ ほら お姉ちゃん。話、戻そうよ。私もちょっと気になってた所だから」

 ニコニコと見ていたレイナだったが、アスナの方を向いて、話の軌道修正を求めた。
 アスナが何を訊こうとしたのか、それがレイナも判っていたからだ。

 因みに、アスナとレイナ、ランとユウキが 姉妹である、と言う事は ちゃんと説明済みだ。ユウキが『姉ちゃん』と呼ぶラン、レイナが『お姉ちゃん』と呼ぶアスナ。
 其々に違いがあって、接し方も違っていて、だからこそ、混乱する様な事は無かった。勿論、詳しい事は訊いていないし、訊くつもりも無かった。

「うん、そうだね。あのね、ユウキ」
「んー?」

 リュウキの方をニヤニヤ、と見ていたユウキは、アスナの方に振り返る。

「ほら、私達の前に 黒ずくめの片手直剣使いのスプリガンの人。……覚えてないかな?」
「あ―――……」

 それだけで、ユウキは直ぐにキリトのことに思い至った様だった。こくこくと頷き、何故かユウキにしては、珍しい……と、ちょっぴり思ってしまう様な難しい顔をして腕を組んでいた。
 その横では ランも……静かに目を閉じていた。

「うん、覚えてるよ。確かにあの人も強かった!」
「だよね? ……じゃあ、どうして助っ人を頼まなかったの? 正直、私達よりも、その人と――そこのリュウキくんが組んじゃったら、すっごい事になってたかもしれないのに」
「あはははっ! だよねっ!」

 くすくす、と笑いながらそういうアスナ、そして レイナも 微笑んでいた。……肩身が狭そうなのは、リュウキだ。

 またまた、色々と訊かれてしまうのでは? と一瞬思ったリュウキだったが……、その心配は杞憂となった。

「うーん……、確かに あの人はとても強かった。ほんとにギリギリ勝てた、って感じだったから。……でも、やっぱりあの人はダメなんだ」
「え……?」
「そ、そーなの??」

 ユウキの言葉に、少々驚きを隠せない。

 アスナ達が言っていて、ユウキが思い浮かべていたのは、間違いなくキリトの事。その強さは、アスナとレイナ、リュウキも知っている。本来のスタイルではない状態だと言う事は、ユウキも知らない事実だ。キリトは二刀流使いなのだから。長く、手に馴染んだスタイルの方が本領を発揮できるのも間違いない事であり、ぎりぎりの勝負だったのであれば、本来のスタイルになったキリトが相手なら―――、と何処か見てみたい気もする。

 でも、アスナとレイナは、リズが言っていた言葉も忘れてはいない。

『本当の本気で戦う様な事は起きない方が良い』

 リズは、そう言っていた。
 何処か見てみたい、と思っていた好奇心も、その言葉を思い出せば、霞んで、霧散するから。

 そして、ユウキはゆっくりと口を開いた。


「戦ってて――、ボクの秘密に気付いちゃったから」


 ユウキの言葉。
 それについては、仲間達だけは当然その意味は、判っているのだろう。ランも、シウネー達も、何処か視線は この場にはなく、随分と遠くを見ている様な気がした。それだけで、語りたくない事なのだ、と言う事は、2人は理解した。
 全力でぶつかったからこそ、判る事もあった、と言う事だ。


 キリトに関しての本当の全力は特殊な部類だが、ゲーム(・・・)の中では全力だろう。……リュウキにも同じ事が言えるが。


 ここで、レイナの内にはある疑問が生まれていた。

「(キリトくんは――、実際に戦ってみたからこそ、相手の事を知る事が出来たんだ……。なら、リュウキくんは……?)」

 追及するつもりはない。
 それは、ほんの僅かに生まれた疑問だった。

 キリトが感じ取れたのであれば、リュウキはいったい何を感じたのだろうか? と。
 ユウキとではなく、ランと全力で戦っていて――、いったい何を感じたのだろうか。

 この時、レイナは改めて気が付いた。

 リュウキは、腕を組んで目を瞑り――何かを考えているのでは? と思える体勢のまま、言葉を発する事は無かった。

 そして、ランは そんなリュウキを 一瞬だけ、視線を向けて……そして 視線を戻した。
 2人にも、勝負の時に 何か感じる所が有ったのではないか?

 レイナは、そう思ったのだ。 

 だが、ここでもう1つ、ちょっとした疑問が浮かんだ。


――自他ともに認めている、ヤキモチ妬きさんである自分だったのに、今回はあまり……。


 と言う事。
 だが、よくよく考えてみると キリトが戦って負けた事や、実際に、自分達も戦ってみた事、つまり、沢山のインパクトがあったから、余裕が無かったから、と言えるかもしれないが。

「(う~ん…… まぁ、良いかな……。今日知り合ったばかりなんだし)」

 レイナは今は 深く考えない様にするのだった。



 この時は、思いもしなかった――。

 
 
 感じた小さな疑問が、後々に少なからず、大きな波紋となる事が。

 過去から現在、そして 未来――。大きく広がっていくと言う事が。
 


  
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