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空気を読まない拳士達が幻想入り

作者:sibugaki
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第5話 復讐に燃える男、俺の名を言ってみろ!

 皆さまは覚えているだろうか―――
 この話を遡る事第2話の冒頭。その場面で謎の男が登場した場面を。
 そして、突然氷漬けになりそのまま作者からもすっかり忘れ去られてしまった悲しい男の事を。
 今回のお話しはこの悲しい男を中心にした感じになっております。
 え? ケンシロウ達の活躍が見たいですって?
 その内にね―――




     ***




 空は快晴、世間的に言うなら絶好の洗濯日和と言うだろうか、幻想郷で言うならば絶好の弾幕日和とも言えるほどの青空の下、此処幻想郷に住まう人々は今日もその日一日を逞しく懸命に、そして面白おかしく楽しく生きている今日この頃だったりする。
 そんな人達から少しくらい離れた大きな湖。其処では小さな女の子二人が楽しくワイワイ騒いでいる何とも微笑ましい光景が見られた。
 ふつうなら笑って見ていられる光景だろうしロリコンの方が居たら涎を垂らして眺めているであろう光景なのだが、この子たち二人とも背中に羽の様なものを生やしているのだ。
 まぁ、要するにふつうの人間ではないと言うのは確実に言える事でしょうねぇ。
 
「おっはよぉぉ! 大ちゃん!」
「おはよう、チルノちゃん。今日も相変わらず元気だね」
「そりゃそうだよ! なんたってあたいは最強だからね!!」

 一体何の根拠があっての最強なのか甚だ疑問が尽きないのだが、とにかくその疑問を追及するのはこの話の登場人物達に一任する事にしよう。一々地の文に書くのも面倒なn・・・ゲフンゲフン。

「それよりもさぁ、大ちゃんこれ見てよこれ!!!」
「何なのチルノちゃん?」
「これこれ!!!! 今朝あたいが見つけたんだよ!!!!!」
「どうでも良いけどチルノちゃん「!」が言葉の中に多くあるから聞き取り辛いんだけど」
「しょうがないじゃん! あたいは最強なんだからさ!!!」

 それとこれとは全く関係ないと思うのは作者だけではないと思う。いや、絶対そう思う。ってか誰か思ってほしい。
 そんな思いはさておいて、チルノがやかましく自分が見つけた物を見せたがっているようなので其処に話題を移してみよう。
 其処にあったのは、巨大な氷の塊と、その中で無残にも氷漬けになっている仮面を被った人間(?)と思わしき生き物の類であった。

「何これ? 氷の塊はチルノちゃんがやったと分かるけど・・・中に居るのは・・・一体何?」
「分かんない!!! 大ちゃんなら何か分かると思ったんだけどね!!!」
「う~ん、これじゃ良く分からないよ。氷を溶かして中の人に聞いてみた方が良いんじゃない?」
「おぉっ!! 流石大ちゃん頭良い!! このあたいに次いで最強なだけあるね!!」
「何でも最強に結びつけるのは無理があると思うよチルノちゃん」

 大ちゃんこと「大妖精」の静かなツッコミを軽くスルーしつつ、二人はこの巨大な氷を溶かすと言う目的を実行に移す事にした。
 とは言うものの、此処は人気の全くない湖。ましてや火を起こす道具もないのでお湯も沸かせない。自然解凍を待つにしてもそれでは時間が掛かりすぎてしまってページがかさんd・・・日が暮れてしまいそうだ。

「う~ん、これは最強のあたいでも難しい難題だぞぉ!! どうやってこの氷を溶かそうかなぁ!!」
「火を起こす道具はないし、自然に溶けるの待ってる訳にもいかないし、いっその事湖に落としてみようか」
「それ賛成!!」

 一切の迷いなくチルノは了承した。そんな訳で二人は協力して巨大な氷の塊を湖に落として溶かしてしまおうと氷を押してみた。
 が、やはり見た目は巨大な氷の塊なだけあって全然動きそうにない。非力な少女二人の腕力では到底無理な作業であった。

「駄目だ、ビクともしないよ」
「ぐぬぬ~、最強のあたいの力をもってしても駄目となると・・・こりゃもうどうしようもないね!!」
「どうしよう、他に誰か居ないかなぁ?」

 悔しがるチルノを他所に大妖精は付近に誰か居ないか辺りを見回し出した。当然そんな事をしたって居ないものは居ない事に変わりはないのだが―――

「ならばその氷、この俺が溶かして見せよう!」

 突然、何処からか大声で叫ぶのが聞こえた。男の声だ。それも聞くだけで暑苦しさ満載な声だった。

「うわっ! 誰だ!」
「誰か居るの?」
「俺は此処だ。氷の上を見ろ!」

 声の指示を受け二人は素直に上を向いた。それは氷の上に立つような形で立っていた。真っ赤に燃えるような髪と羽織を羽織った暑苦しい二頭身の男が氷の上に立って暑苦しく自身を激しくアピールしまくっていた。

「俺の名は炎のシュレン。我が魂の炎にてこの氷を見事溶かして見せよう!」
「うわぁ、見るからに暑苦しそうな人だなぁ」
「ちょっと、チルノちゃん!!」

 真っ正直な発言をしたチルノの口を急いで大妖精は塞ぐ。幸いシュレンには先ほどの言葉が聞こえてなかったらしく本人は全く気にしてる様子はない。

「我が魂の炎よ。今こそ燃え上がれ! そして、この氷を見事溶かし尽くしてくれぃ! ぬおぉぉぉぉぉ―――!!!」

 シュレンが雄叫びを挙げ始める。すると彼の体が突如として燃え上がり始め、遂には紅蓮の炎の中にその身をすっぽりと包みこんでしまったのだ。

「あちっ! あちちち!」
「燃えてる! 本当に燃えてるみたい!」
「行くぞぉぉぉ!」

 紅蓮の炎をまとったシュレンは上空へと飛び上がり、真っ逆さまに氷へと落ちて来た。

「氷よ、貴様はこの炎のシュレンと共に、焼け死ぬのだぁぁぁぁぁ―――!!!」

 物騒な事を言いつつ、シュレンは巨大な氷の塊に抱き付き、体を覆っていた炎の熱で氷を溶かし始める。如何に巨大な氷と言えどもシュレンの纏った炎の前では流石に耐えられないのか徐々に溶け始め出す。

「良いぞぉ、暑苦しい兄ちゃん!! そのまま溶かしちゃえぇ!!」
「でも、あのひと大丈夫なのかなぁ?」

 シュレンの命懸けの溶解作業を遠目から見つめるチルノと大妖精。流石に近場に居ると熱いので少し離れて見ていたのだ。まぁ、大妖精はともかくとして氷の妖精であるチルノが近くに居たらそれこそ氷と一緒に溶けてなくなってしまう危険性もあるので止む無しと言った所なのだろうが。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ! この炎のシュレン。例え命を落とす事となっても、この氷を溶かし切ってみせようぞ・・・づぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ―――!!!」

 怒号ととるべきか、それとも断末魔ととるべきか? 
 とにもかくにもシュレンの叫びと共に炎の勢いは更に強く大きくなり、遂には巨大な氷を飲み込み、紅蓮の炎が湖を赤々と照らしていく。
 その巨大な炎の中心で、シュレンと思わしき黒い物体は微動だにせずその場に立ち尽くしていた。

「燃えている……あの暑苦しい兄ちゃんの魂が、肉体が燃えているんだ!!!」
「ねぇ……これで溶かせるんだったらさぁ……別にあの人に頼る必要なかったんじゃないかなぁ?」
「大ちゃん……目を背けちゃ駄目だよ!! あの暑苦しい兄ちゃんの最期の生き様を、私たちのこの目に焼き付けておくんだよ!!」
「でもさぁ、その原因を作ったのって私たちだよねぇ?」

 本来ならば感動の名シーンの筈なのに、今回に限ってギャグ展開にスイッチしてしまった件について。原作並びに炎のシュレンファンの人達には深くお詫び申し上げます。
 でも、だからと言ってこれからも好きかってやっていくのであしからず。
 そんな訳で、シュレンの捨て身の溶解作業をチルノは何故か滝の様に涙を流して見つめており、その隣で大妖精はどうしたら良いのだろうかと迷っているような表情を浮かべながらその場を動けずに居た。
 炎の中で、氷はみるみる小さくなっていく。が、それに比例して炎もまた、徐々にその勢いをなくし始めていた。

「あっちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 そんな時だった。突如紅蓮の炎の中から天空に向かい何かが飛び上がったのだ。奇声を上げながら飛び上がったそれは、一直線に湖の中へと飛び込んでいき、小さな煙をその場に残し沈んでいった。

「やったぁ! 氷の中に居た変な奴を取りだせた! やっぱあたい達は最強だよねぇ!!!」
「チルノちゃん。私たち何もしてないよ。って言うか、さっきまでの空気はどうしたの?」

 突然元のバカキャラに戻ったチルノの対応に困る大妖精。まぁ、そんなのこの幻想郷では日常茶飯事なのだろう。放っておくことにする。別に一々ツッコミを入れるのが面倒だからじゃなからね。
 因みに、必至に氷を溶かしてくれていた例の暑苦しい兄ちゃんはと言えば、完全に溶けてしまった氷の跡地のすぐ脇にて真っ黒な備長炭になって横たわっていた。
 さらば、南斗五車星炎のシュレン。君の熱い闘志は後世語り継がれる事であろう。チルノと大妖精の二人が語るのを忘れなければ―――

「ねぇ、さっきの変な奴どうしちゃったのかなぁ?」
「さぁ、湖に沈んじゃったのは見えたんだけど……上がってこないねぇ」

 すっかり備長炭と化したシュレンの事などお構いなしの如くチルノと大妖精は変な奴の落ちた湖周辺を飛び回っていた。二人の興味は炭と化したシュレンの事よりも湖に飛び込んだ変な奴の方へと傾いていたようだ。まぁ、幻想郷においてはこういった光景は日常的に起こっているのであろう。余りにも壮絶でいて、そして儚い散り様と言えよう。
 ・・・多分死んでないと思うけども。

「ぶはぁ!!」

 暫くして、例の変な奴が湖の水面から勢いよく飛び出してきた。その後、飛び出した場所で必死に両手を動かしてもがき苦しんでいると言う何とも滑稽な光景が映し出されていた。
 滑稽な光景……ぷっ!!

「出て来た出て来た! 変な奴が出て来たぁ!!」
「本当だね、本当に変な顔してるよねぇ」
「がぼぼ、ごぼごぼ!! お前らぁ! 変な奴って言ってないでたすけごぼぼぼぼ―――」

 どうやら遊んでいたのではなく単に溺れていただけのようだ。

「何だ、溺れてるのかぁ? だったら泳いで戻れば良いんじゃないのぉ?」
「チルノちゃん、それが出来たら溺れないと思うんだけど」
「あ、そっか! 流石大ちゃん。頭良いねぇ!!」
「どうでも良いから早く助けろぼぼぼぼぼ―――」

 二人して問答している間も変な奴は徐々に湖に沈み始めてだした。このままだとまた湖の底へ沈んでしまうだろう。そうなると引き上げるのが面倒になりかねない。
 かと言って素手で触るのも危ない。下手に掴んで噛みつかれたりしたら溜まったものじゃない。

「ねぇねぇ、此処に真っ黒な枝があるよ。これを使って変な奴を引き上げようよぉ!!」
「チルノちゃん、それって……さっきのシュレンって人だよねぇ」

 チルノが枝と称して持ってきたのは先ほど命懸けで氷を溶かし、備長炭となってしまった南斗五車星炎のシュレン……の炭であった。
 流石氷の妖精。原作だと結構悲しいキャラだった筈のシュレンをこうも酷使する辺りかなりえげつなかったりする。

「これを使って変な奴を引き上げちゃおうよ!!」
「う~ん、まぁ良いか。他に方法もなさそうだしね」

 あ、大ちゃんが考えるのを放棄した。
 流石の大ちゃんも一々ツッコミを入れるのが面倒になったのだろう。とりあえず引き上げられれば何でも良いと判断した結果なのだろう。
 二人はそれぞれシュレンだった炭の両手と思わしき部分を掴み、クレーンゲームの要領で湖で溺れている変な奴に引っ掛けてそのまま陸地へと持って行く。

「だ・・・だずがっだ・・・げふぅっ!!」

 陸地へと降り立った変な奴はそのまま力なく地面に倒れ込む。どうやら相当体力を消耗したが故に立ち上がる気力すら失ってしまったのだろう。

「ねぇ、あんた誰なの? 何で此処で氷漬けになってたの? 何でそんな変な顔してんの?」
「い・・・一度にそんなに質問してんじゃねぇ・・・そ、それよりも・・・俺の方こそ・・・お前らに・・・質問させろ・・・」
「何? 最強のあたいが何でも答えてあげちゃうよ!!!」

 一々最強を自負するチルノが変な奴の質問に応じるつもりらしい。まぁ、こいつが答えたらどんな回答も珍回答へと早変わりしそうだが。

「んで、何が聞きたいのさ?」
「ぜぇ、ぜぇ・・・ちょ、ちょっと待ってろよ・・・」

 深呼吸を数回し、息を整えてようやく立てるようになった変な奴は、体に付いた埃を数回叩き落とした後、羽織っていたジャケットを両手でつかみ、胸元を強調しながらチルノに尋ねだした。

「お前ら! 俺の名を言ってみろ!!」

 最早お約束とも言うべき名台詞をこの場で大っぴらに言い放った。本来ならば其処でモブキャラたちは震えあがり尻もちをつきながら回答に応じるのであろうが、生憎此処幻想郷では世紀末の常識が通用する筈がなく―――

「あんたの名前なんか知らないよ!!!」
「私も、初めて会う人の名前は分かりませんよ」
「え? あ・・・そう・・・なんだ・・・うん」

 流石にそうもあっさりと答えられた為か返答に困ってしまう変な人。外見も変な人なら言動や行いも相当変な人と言えた。

「えっとさぁ・・・この胸の七つの傷とかに見覚えとかない? それにさぁ、この青いジャケットやジーンズとかにさぁ?」
「それがどうしたのさぁ?」
「ほら、あれだよ! 指先一つでどんな奴でもボンボンやっつけちゃう無敵の暗殺拳の使い手で世紀末の救世主とか言われてるさぁ」
「益々わかんないよ!!!! 結局あんた誰なのさぁ」
「いや、ふつうここまで言えば大抵の人は気付くんだけどなぁ―――」

 一体何がしたいのか。必死に自分の名前を呼ばせようとあれよこれよとヒントらしき物を言ってくるのだが、そのことごとくがチルノには理解されないらしく、首を傾げるばかりであった。
 これでは一向に話が進みそうにない。今回のお話はこれでお開きになってしまうのだろうか。

「そう言えば、この前に文々丸新聞の見出しで見た気がする!」
「それって、例のゴシップ新聞の事だよねぇ大ちゃん!!」
「うん、何でも空を飛んでた魔理沙さんを走って追いかけたり、博麗神社を素手で破壊したり、人里を滅茶苦茶にしたりする亜人が居るって新聞に書いてあったよ」
「おぉっ! それって滅茶苦茶凄いんじゃない!! このあたいと同じくらいそいつも最強って事だよねぇ!!」

 大妖精のその情報に目を輝かせ始める氷の妖精。因みに先の情報には幾つかねつ造が混じってますので騙されないようにご注意ください。

(おいおい、ケンシロウの奴一体何やらかしてんだよ? ってか、それってケンシロウなのか?)

 どうやら変な奴はその亜人の正体がケンシロウだと感づいたようだ。確かにケンシロウは此処幻想郷に来てから散々な事をやらかしてくれちゃっている。
 それはもう幻想郷に住んでいる住人が迷惑するかしないかギリギリのラインでの事で―――

(だが、これは利用出来るな・・・こいつらもただの人間って訳じゃなさそうだし・・・俺様の仲間にすればケンシロウの奴を―――)

 変な奴の口元が歪に歪みだした。が、それを見た輩は誰も居らず、本人だけがにたりと微笑んだだけだったりする。

「おほん、あぁ・・・その亜人ってのはなぁ・・・何を隠そうこの俺様の事なんだよ」
「え? マジでぇ!!!」
「あぁそうさ。例の魔理沙って奴を走って追いかけたのも俺だし、その博麗神社? ってのをぶっ壊したのも俺様、ついでに人里を滅茶苦茶にしてやったのもこの俺様よ」
「すっげぇ! あんたマジですっげぇ最強なんだ!!!」
「当然だろうが。俺様はかの有名な一子相伝の暗殺拳と言われてるあの【北斗神拳】の正統伝承者様なんだからなぁ」
「北斗・・・【珍】拳?」
「北斗神拳!!!」

 一部誤字があった事をここに謝罪申し上げます。

「つまり、貴方がその一子相伝の暗殺拳って言うのを使える人なんですか?」
「その通りよ。良いかお前ら! 俺の名前は北斗神拳伝承者のケンシロウ様よ! 一度しか言わないからよぉく覚えて置けよ!」
「おう! ばっちり覚えたよ!!」
「宜しく、ケンシロウさん」

 ケンシロウと名乗ったそれに向かいチルノは元気よく挙手して答え、大妖精は礼儀正しく応じる。これを読んでる人は間違っても人の名前を勝手に使ってはいけませんよ。使われた人が迷惑しちゃうので。

「んで、お前らは誰なんだ? 俺様が名乗ったんだから今度はお前らが名乗る番だろう?」
「あたいはチルノ!! ここ幻想郷で最強の妖精なのさ!!!」
「ほぉ、最強かぁ・・・こいつぁ良い事聞いたぜ。んで、その隣の奴は誰だ?」
「私はチルノちゃんの友達で大妖精って言います。ケンシロウさんは幻想郷の外から来た方なんですか?」
「外? あぁ・・・まぁ、そう言う事になるかな?」

 返答するのが面倒だったのか、適当に返すケンシロウ(仮名)。

「へぇ、んじゃケンシロウって外の世界から来たんだ!! ねぇねぇ、ケンシロウも元居た世界だと最強だったの?」
「当たり前だろう! 俺は北斗神拳の伝承者だぞ。地上最強の拳法家とは俺様の為にあるような言葉だな」

 自信満々に答えるケンシロウ。それが嘘か真かは言った本人、並びに北斗神拳と関わりのある人間にしか分からない事だったりする。

「ねぇねぇケンシロウ。それじゃぁさぁ! あたいと弾幕ごっこで勝負しようよ!」
「はぁ? 何だ、その弾幕ごっこってのは?」
「幻想郷で行われている勝負方法ですよ。お互いに弾幕を用いて勝負を決めるんです。一応人間が妖怪や神様と対等に戦えるように作られた安全な戦いなんです。スペルカード等もこの弾幕ごっこに使われるんですよ」
「スペルカード?」

 またしても分からない単語が飛び出してきた。此処幻想郷にはまだまだ知らない事が多く存在していそうだ。
 現にこれを書いてる私自身まだ分からない事ばかりで結構大変なのだから。

「まぁ、要するに試合みたいなもんなんだろ? その弾幕とかスペルカードとかは良く分かんねぇが、そう言う事だったらまぁ、受けてやっても良いぞ」
「本当! やったぁ!!」

 ケンシロウがOKの意思表示をしてくれた事に大喜びするチルノ。その辺りが何処か子供っぽかったりする。

(良く分からんが、これでこいつらがどれ程使えるかが試せるな。ま、適当にあしらってやるとするか)

 この時、ケンシロウは完全にチルノを侮っていた。確かにチルノは外見からして小さな子供に見える。だが、幻想郷では外見に騙されてはいけない。
 その意味をケンシロウはこの後すぐに思い知る事となる。

「あ、私は見てますね。でもケンシロウさん。本当に大丈夫ですか? 外の世界から来たって事はケンシロウさんスペルカードもないんでしょうけど」
「あぁ? 大丈夫だって。只の試合なら昔から散々やってきたから問題ねぇよ」
「そうですか・・・まぁ、お気をつけて」
(何を気を付けるってんだ? まぁ、仮にも幻想郷最強ってんだし、それなりに気を付けてみるか)

 そんなこんなでケンシロウ(仮名)対チルノの弾幕ごっこが此処に開始される事になった。

「そんじゃまずはこっちからいくよぉ!!!」
「元気が良いじゃねぇか。どっからでも掛かってきやがれ!」

 開幕と同時に構えを執るケンシロウ。だが、そんなケンシロウに向かってきたのはチルノではなく、無数の氷の塊であった。

「な、何じゃありゃあああああああああ!」

 いきなり突然襲ってくる氷の塊の群れにさっきまでの自信は何処へ行ったのか。すっかり逃げまどっていた。

「ほらほらほらぁ! どんどんいっくぞぉぉぉ!!!」
「ちょ、ちょっと待って! ちょっとタイム! ってか、こんなの反則じゃねぇか!」
「何言ってんのさぁ。これが弾幕ごっこなんだよ!!」
「これの何処が安全な戦いだああああああ! 間違いなくこれ死人でる戦いだろうがあああああああ!」

 笑いながら氷の塊を無数に投げつけて来るチルノ。そんでもってそれから必死に逃げまどいながら泣き叫ぶ北斗神拳伝承者(笑)
 全く以て滑稽な絵面に見えていた。
 そんな絵面を見て、大妖精は一人微笑んでいた。

「チルノちゃんったら、あんなに楽しそうに弾幕ごっこしてる。何だか自分の事みたいで嬉しいなぁ」
「微笑んでないで助けろぉぉぉ! 死ぬ、これまじで俺死ぬからああああああああ!」

 ケンシロウの悲痛な叫びも空しく、その後も続々と降り注ぐ氷の塊に押し潰され、哀れ地上最強の拳法家は幻想郷最強(自称)の妖精にコテンパンにされてしまったのであった。

「えっへん、どうだケンシロウ! あたいが最強だって分かったかぁ!!!」
「あ・・・あぁ・・・い、生きてる・・・俺・・・生きてるぅ?・・・うぅぅ・・・」
「大丈夫ですか? ケンシロウさん」

 勝ち誇った顔で高笑いを浮かべるチルノの足元には、ボロ雑巾の様にズタボロにされたケンシロウの無残な姿が其処に転がっていた。

「にしてもケンシロウって弱いんだなぁ。ケンシロウって元の世界だと本当に最強だったの?」
「あ、当たり前だろうが! 今回はたまたま弾幕バトル初体験だったんで良くわかんなくて負けちまっただけなんだ。ルールさえ分かれば負ける訳ねぇ。北斗神拳は無敵なんだよ!」
「え~~、本当かなぁ?」
 
 流石のチルノも疑い始めて来た。まぁ、北斗神拳を知らない以上それがどれ程凄いのか全く分からない。それでは疑われても当然と言える。

(にしても、このガキ滅茶苦茶強ぇなぁ。これならこいつを使ってケンシロウをぶちのめすのも訳ねぇかも知れねぇな。とりあえずここは何としてでもこいつを仲間に引き入れねぇと)
「ところで、俺様から一つ提案があるんだが」
「何?」
「チルノ。俺と手を組まねぇか? 幻想郷最強のお前と地上最強の俺様達が手を組めば、この幻想郷とやらを俺達の物に出来るんだぜ」
「え~、だってケンシロウさっきあたいと弾幕ごっこして負けたじゃん。つまり弱いって事なんじゃないの?」
「分かってないな。それは幻想郷で最強のお前にだから負けたんだよ。つまり、お前意外の奴になら負ける事は断じてない! 何故なら俺様は地上最強の拳法家だからな」
「そっか、ケンシロウが弱いんじゃなくて、あたいが強すぎたから負けちゃったのか。流石ケンシロウ。其処に気づくなんてあんたも最強なんだねぇ!!」
「あたぼうよぉ! その最強の俺達が手を組んで、この幻想郷を支配してやろうじゃねぇか!」
「しはい? 良く分かんないけど分かった! あたいあんたと手を組むよ!」
「よし、決まりだ! 今日から俺達は同士だ。俺達でこの幻想郷を支配して伝説に名を残してやろうぜぇ!」

 今此処に、恐るべき事が起こってしまった。幻想郷最強(自称)の妖精と地上最強(自称)の拳法家が互いに意気投合し手を組んでしまったのだ。
 果たして、幻想郷の未来はどうなってしまうのか。この最強(自称)の二人の手によって無残にも蹂躙し尽されてしまうのだろうか?

「ところで、拳法家(けんぽういえ)って何?」
「へ―――」

 どうやら、まだ時間的に猶予はありそうなので一安心と言った感じだった。




     第5話 終 
 

 
後書き
次回予告

 幻想郷の救世主となるべく行動を開始したケンシロウ。そんなケンシロウの下へ現れたのは意外な人物であった。

次回、空気を読まない拳士達が幻想入り

第6話「ケンシロウ起つ、幻想郷を救うのは俺の拳だ!!」

お前はもう、死んでいる 
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