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魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者

作者:niko_25p
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第十三話 ファーストアラート 3

ただ一人残されたアスカ。

何もできない自分に苛立つ。

そんな彼をあざ笑うかのように、事態は悪化する。





魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。





outside

エリオとキャロが無事にセットアップできたのを、アスカはヘリの中のモニターで確認した。

「……」

既に閉じられたハッチを恨めしげに睨む。

「くそっ!情けねえ……」

仕方が無いとは言え、出撃できない自分に無性に腹が立つ。

「そんな事はないだろ。ちゃんと”お兄ちゃん”できてたぜ」

カーゴの中のスピーカーから、コクピットにいるヴァイスが軽い口調でアスカに話しかける。

「茶化すんならやめてくださいよ、陸曹。そんな気分じゃない」

不機嫌そうにアスカが答えた。

「なに言ってやがる。出撃できないなりに、ちゃんと仕事が出来てたぜって褒めてやってんだぞ」

からかうような言葉であったが、ヴァイスはアスカの気持ちは痛いほど分かっている。

仲間が出撃しているのに、出撃できないと言うのは屈辱以外の何物でもない。

ましてや初陣。この先を占う意味でも大切な任務の筈だ。

まして、可愛がっているエリオとキャロを見送らなくてはいけない現実。

どれだけ自分の置かれた状況を呪っただろうか?

「仕事ね、オレはフォワード。前線に立つのが仕事だ。女子供を笑顔で送り出すのが仕事じゃねえ。出撃できなけりゃ、あいつらの盾になる事もできねえ」

ヴァイスの思った通り、アスカの心中は穏やかではない。

言葉から悔しさがにじみ出ている。

だが、それでも隊長の命令は絶対である事を、ヴァイスは教えなくてはいけない。

「イッパシな口をきくな、小僧!隊長は……」

「わかってる!」

ヴァイスを遮るようにアスカが叫んだ。

「分かってますよ!タイミングの悪いデバイス変更だった、割り切ればいい!でもキャロの事は全然ダメだった!」

「キャロの事?」

意外な言葉に、思わずヴァイスが聞き返した。

「オレは最初、キャロは実戦を怖がっていたと思ったんですよ。でもそうじゃなかった。キャロは……自分の力を、竜召還の力を怖がっていたんだ。隊長はそれを分かっていた」

アスカはヘリの壁に背中をつけ、自分の掌を見た。

「妹ってのは難しいっスね。こんなんで兄貴代わりなんてできんのかよ……」

「……」

ヴァイスはそれ以上話しかける事はできなかった。

(難しいぜ、妹ってのは)

ただ、そう心の中で呟くヴァイスであった。





アスカside

ヘリのモニターからの映像でしか外の様子を伺えない。

苛立ちを覚えながら、オレはエリオ達の動きを見ているしかないのだが……

「陸曹!リニアレールの内部モニターとかないんですか!」

ライブ映像では、リニアレールの外側しかわからない。中の様子などは全然分からない。

「んなもんあるか!あったら初めっから用意しとくさ!」

もっともな陸曹の言葉。

「う~」

オレはうなり声を上げながら、カーゴの中をウロウロしてしまう。

さっき、リニアレールを突き破ったスバルが危なく落下しそうになる所を、ウイングロードで回避したのを目撃しているので余計に心配になってくる。

スバルだからウイングロードで踏ん張れたが、エリオやキャロだったらまっさかさまだ。気が気じゃない。

「エリオ、キャロ、大丈夫か?」

念話で確認したいが、実戦中に下手に連絡を取り合うと集中力が途切れる危険がある。

「スターズは何をしてんだよ!早くレリックを確保しろよ!」

思わず、その場にいないスバルとティアナに八つ当たりをしてしまう。

くそ、待ってるのがこんなに辛いなんて!

「少しは落ち着けって!隊長達が緊急行動をとってないって事は無事だって事だ」

その通りなんだけど、こんなに近くにいるのに現場に行けないのがもどかしい。

「とにかく座ってろ。お、今リイン曹長から連絡が入った。曹長がリニアレールの停止を試みるそうだ」

リニアが止まれば、戦況が一気に有利になる。

「頼みますよ、リイン曹長」

待つことしか出来ないオレは、祈るような気持ちで座席に腰を下ろした。

でも全然落ち着かず、すぐにロングアーチに念話を送る。

『ロングアーチ、こちらライトニング5。現状を確認したい』

『こちらロングアーチ。現在スターズF、4両目で合流。ライトニングF、10両目で戦闘中です。スターズ1、ライトニング1、制空権確保。ガジェット二型、散開開始し始めています。以上です』

ロングアーチスタッフの一人、ルキノさんが現状を説明してくれた。

空を抑える事ができたなら、少しは有利な状況になったって事だな。

『ライトニング5、了解。ありがとうございます』

念話回線を切ったオレは、またモニターに目を向けた。

相変わらずリニアレールは走り続けている。

時間はそんなに過ぎちゃいない。なのに、なんでこんなに長く感じるんだよ!





エリオside

たくさんのガジェットを撃破しながら、キャロとフリードを連れて8両目に突入した時だった。

目の前に影が指したかと思ったら、それまでとは比べものにならないくらいの大型ガジェットが現れた。

こんな狭い車両のどこに潜んでいたんだろ?

「キャロ!上に行って!」

「う、うん!フリード!」

フリードに掴まって、キャロが戦闘で剥がれた屋根から外に飛び出る。

これでキャロは安全だ。

「フリード、ブラストフレア!」

キャロが上手くフォローしてくれた。けど……

ブンッ!

大型はフリードの炎を、そのキャタピラみたいな腕で虫を払うように凪払った。

うそでしょ!

でも怯んでなんかいられない。

ボクはストラーダを構えて大型に突進した!

「おりゃあぁぁぁ!」

訓練と同じように、瞬間的に魔力を高めて切りかかる!

ガギン!

でも訓練とは違う手応えが返ってくる。

「クッ、硬い!」

一撃必殺の勢いで放った斬撃は、その表面の装甲に止められてしまった。





outside

新型ガジェットとの戦闘を見ていたアスカが叫ぶ。

「エリオ!何やってるんだ、AMFを忘れたのか!」

無論、その声が届く筈もない。だが、叫ばずにはいられなかった。

「スバル、ティアナ!フォローに回ってくれ!」

無茶なお願いと分かっていても、そう思ってしまう。

だが、事態はそんなアスカを更に焦らせるような展開になる。

AMFを発動させた新型が、ストラーダの魔力を消していく。

バックスの位置にいたキャロの魔力まで消されてしまう。

「あ、あんな遠い位置までAMFが届くのかよ!図体がでかいから、出力もでかいってか」

訓練とは違う状況にアスカは驚く。

「って、エリオ?」

モニターに映るエリオは、新型ガジェットの腕とつばぜり合いをしている。

このままでは、力負けしてしまう。

「ヴァイス陸曹!ハッチを開けてくれ!オレも出る!」

「できるか!いいから大人しくしていろ!」

ヴァイスに一喝されるアスカ。だが、事態はさらに悪化していく。

新型とのつばぜり合いから、レーザーを撃たれたエリオ。

大きく躱しはしたが、着地を大きな腕に殴り飛ばされてしまった。

更に掴まれ、二度、三度と壁に叩きつけられるエリオ。

「!!!」

それを見たアスカは、ハッチに向かって体当たりをした。

「開けろ!開けろ!開けろ!」

拳でドンドンとハッチを殴りつけるアスカ。いても立ってもいられないのだ。

「静かにしてろ!お前が行ってどうなる!」

「だけど!」

「だけどじゃねぇ!隊長命令を忘れたか!」

「!クソ、クソ!」

ギリッ!

何もできない悔しさから、強く唇を咬むアスカ。あまりにも強く咬んだ為に、血が滲み出る。

その時、エリオの異変に気づいた。

「エリオ?エリオ!気を失ってるのか!?」

グッタリとしてピクリともしないエリオが、ゆっくりと持ち上げられた。

そのまま、谷底にぞんざいに投げ捨てられる。

「なっ……!」

その光景に言葉を失うアスカ。どうすればいいか、頭が働かない。

「ってキャロ、何を……えぇぇぇぇぇ!」

車外に投げ出されたエリオを追って、なんとキャロもリニアレールから飛び降りた。

”命令違反してでも駆けつけるからな”

出撃前に自分が言った言葉が頭を過ぎる。

「!」

咄嗟に、アスカは支給されたばかりのデバイスに、イヤーカフに触れようとした。

「バカヤロウ!」

「!!」

ヴァイスの怒声が、セットアップをしようとしたアスカを止めた。

「キャロは自分から飛んだ。やれる事があるからだろうが!兄貴のてめえが信じなくてどうする!」

「う……」

その言葉に、何も言い返せないアスカ。

モニターでは、キャロがエリオに追いついた場面が映し出されていた。

「あ、あれは!」

二人を包み込むように、ピンク色の魔力光が発現する。

「キャロの魔力光……」

その光に目を奪われるアスカ。

優しい色合いの魔力光の中から、一匹の白い大きな竜がエリオとキャロを背負って現れる。

「あれが本当のフリード……そうか!落下するって事はリニアレールから、AMFから離れる。だからフルスペックの魔法が使えた!」

そう理解したアスカが、ヘナヘナと腰を抜かす。そのまま前に突っ伏せた。

「なんだよ~キャロ~、できるなら初めから言っててよね~」

アスカはゴロゴロとカーゴ内を転がり出す。安心した途端、力が抜けたようだ。

この状況ならエリオとキャロが後れをとる事はない、と確信する。

「まったく、うぜえ野郎だ」

「すんません、ヴァイス陸曹。お手数おかけします」

「いいって事よ。出来の悪い後輩の面倒を見るのも先輩の役目ってな」

ヴァイスはヘタっているアスカを見て苦笑した。

その頃、エリオが新型を破壊し、スターズがレリックを確保していた。

任務は、無事に終了した。





「………」

全てが終わり、落ち着きを取り戻したアスカが、今は腕を組んで仏頂面で腰を下ろしている。

「どうした?ブサイクになってるぞ」

少し前まで、エリオ達の事が心配で騒いでいたアスカが静かにしているのが気にかかったヴァイス。

もっと喜んでも良さそうな物なのに、何かを考えてるように眉を寄せている。

「……陸曹。陸曹がガジェット側だったとして、次の一手を出すとしたらどんな手段を使いますか?」

停止したリニアレールを見て、アスカが口を開く。

「あ?そんな事を考えてたのかよ。レリックを確保してガジェットも殲滅した。これ以上やる必要なんかないだろ」

ヴァイスの呆れたような声がした。

彼の言う通り、犯人側にしてみてもこれ以上の行動は意味をなさない。

証拠隠滅の可能性も、そもそもガジェットしか出てきていないので、今までと同じ証拠しか出てこないだろう。

だが、アスカの考えは違った。

「ガジェットはリニアレールの制御コンピューターを乗っ取っていた。オレなら最後の一手として……」

そう言い掛けた時、停止していたリニアレールがゆっくりと動き出した。

モニター越しでも、フォワードメンバーとリインが慌てているのが分かる。

「コンピューターが乗っ取られた時にウィルスを仕込まれたんだ!暴走するようにってな!」

スピードが上がる前にリインがリニアレールに飛び乗ったのが見えた。

制御コンピューターを止めようとしたのだろう。

「ヴァイス陸曹!列車のケツに付けてくれ!」

「あ?お前なにを……」

「いいから早く!」

アスカはヴァイスにリニアレールを追わせると同時に、なのはに念話を飛ばす。

『高町隊長!出撃許可を申請します!お願いします!』

『アスカ君?何を言ってるの!?』

突然のアスカの申し出に、なのはは驚いた。

アスカの次の言葉は、彼らしいとんでもない物だった。

『バリアでリニアレールに帆を張ります!空気抵抗でブレーキを掛けるんですよ!少しでも時間稼ぎをします!』

『で、でも!』

戸惑うなのは。そんな事が可能だろうか?

いや、アスカなら或いは……と考えてしまう。

『もうガジェットはいないんでしょう?だったら安全です!それに……オレにも少しはいいカッコウさせてくださいよ』

なのはを安心させる為か、最後の方は少しおどけていた。

時間がない。なのはの決断は早かった。

『危なくなったらすぐに退避するんだよ?』

『はい!ありがとうございます!』

「ヴァイス陸曹!」

「隊長の許可が出たんなら止める理由はねえわな。エリオ達が戦闘していた8両目から侵入しろ、いいな!」

念話を聞いていたヴァイスの動きも早かった。すぐにポイントを抑えて後部ハッチを開ける。

冷たい風が、アスカの長い髪をたなびかせる。

「行ってこい!」「おう!」

眼下にある列車を睨んでアスカは飛び降りた。

「ってか低い!」

バランスを崩して、ダン!と背中を強か打ち付けたアスカ。

「くぅ~」

涙目で仰け反るアスカ。何はともあれ、リニアレールの侵入のは成功した。

「セットアップする暇もないじゃん!オレだけ変身バンク無しかよ!」

誰に文句を言っているのか、アスカがぼやく。が、状況はそれどころではない。

「デバイスのみの起動だ。いいな、相棒!」

《了解ですマスター。ダブルソードモード、起動》

ピン、とイヤーカフを指で弾くアスカ。

それに反応したデバイスが双剣に変わる。

これがアスカのデバイス。その名も、

「ラピッドガーディアン、起動成功!」

アスカのデバイス、ラピッドガーディアンが起動した。

『リイン曹長、聞こえますか?アスカです。今、リニアレールの8両目にいます』

『え?アスカ?何で乗ってるですか!早く退避するですよ!』

突然の思念通話に驚くリイン。まさかアスカがリニアレールに乗っているとは思ってなかったのだろう。

『隊長の許可はもらってます。これからバリアで列車に帆を張ります。僅かですが時間稼ぎをしますので、曹長は管制制御を!』

『わ、分かったです!』

アスカは念話をしながらリニアレールの最後尾に移動した。

「さて、ラピ。お前の実力、オレに見せてくれ!」

《はい、マスター》

アスカはラピッドガーディアンを振り上げて魔法を発動させた。

「ラージプロテクション、ウィンドブレイカー!」

リニアレールの連結部の箇所から、大きくバリアが広がった。

グン、と抵抗が掛かるようにリニアレールの加速が鈍る。

アスカはそのバリアを見て感心した。

「魔力運用のフォローにバリア設置のバランスも完璧だ。演算能力がハンパねえ」

『当然でしょ、ラピッドガーディアンの演算能力は今あるデバイスの中でも群を抜いているのよ』

「シャーリー!?」

デバイスの直接通信で、ロングアーチのシャーリーが連絡をとってきた。

『アスカの【魔力回路の加速】を最大限に生かす為に、演算処理能力にパラメーターを振り分けたんだから、それくらいは当たり前よ。それよりも時間をできるだけ稼いで!もし止まらないようなら、この先の鉄橋をなのはさんのバスターで落とす事になったわ!』

「マジ?展開早すぎないか?」

『鉄橋を過ぎたらその先に駅があるの。もしそこで脱線でもいたら大惨事になるわ。なのはさんは最後の手段なのよ、お願い、アスカ!』

「ちっ!とにかく出来るだけの事はやる。以上だ!」

最後尾から先頭車両に移動しながら、アスカは全ての車両の連結器部分でバリアを張った。そして、先頭車両に飛び込む。

「曹長!」

中では、リインが懸命に運転席の端末に向かっていた。

「アスカ、よくやったです。後は私に任せて脱出するですよ!」

リインは振り返らずにアスカに言う。命令なのだろうが、アスカはそれに従わない。

「ラピ、リリース。女の子を置いてなんて行けるわけないでしょう」

アスカはラピッドガーディアンを待機状態にした。

「ラピの演算能力はピカイチってシャーリーが言ってました。コイツの能力を使ってください、曹長」

アスカがイヤーカフを耳から外してリインに差し出す。

一瞬、何かを言おうとしたリインだったが、結局なにも言わずにラピッドガーディアンを端末に接続する。

言い争いをしているより場合ではないと判断したのだ。

「急ぐです……急ぐですよ……」

リインの焦りが伝わってくる。アスカは静かに作業を見守っていた。

「これでよし。ラピッドガーディアン、一緒にプログラムの防護壁を突破するですよ!」

《了解しました》

リインとラピッドガーディアンが端末の向こうでプログラムの戦いを繰り広げる。だが、

「何で、何でダメですか!」

リインが泣きそうな震える声を上げる。

「こっちのアタックが全部ブロックされてしまうです!何で!」

それでも手を止めずに作業を進めるリイン。

「ラピ、どうなんだ?」

《凶悪の一言です。複数のプログラムの時間差攻撃でこちらに反撃の隙を与えてくれません》

ラピッドガーディアンの答えを聞いたアスカは素早く考える。

(よく分かんないけど、つまりソフトで太刀打ちできないって事か。なら、列車特有の構造を使えば、あるいは!)

アスカは運転席を見回した。そして、目的の物を捜し当てた。

「曹長、離れて!」「え?きゃっ!」

アスカはリインを強引にどけると、運転席のパネルの端にあるガラスの蓋を拳で叩き割った。

「ア、アスカ!?何を?」

「これは緊急停止用の機械式ブレーキです。列車にはいざと言うときの為に手動ブレーキが備わってるんですよ」

叩き割ったガラスの向こうにレバーがあるのが見える。

「結構衝撃があるかもしれません。リイン曹長、掴まってってください」

「は、はい!」

アスカは、ラピッドガーディアンを抱きしめたリインを引き寄せる。

「止まれよ!」

一気にレバーを引くアスカ。

固い。だが、その固さがブレーキであると実感させてくれる。

「うわっ!」「きゃあ!」

急制動が掛かり、リニアレールのスピードが落ちていく。それと同時に、車内が大きく揺れる。

しっかりと踏ん張っていたアスカだったが、バランスを失って壁に何度も叩きつけられてしまう。

それでも抱き寄せたリインはしっかりと守っていた。

凄まじいブレーキ音が響きわたる。それもすぐに収まり、あれほど揺れていた車内が静かになる。

「と、止まった?」

床にうずくまっていたアスカが起きあがって、運転席の窓から外を見た。

鉄橋まで、あと100メートルくらいだろうか。ギリギリだった。

「あ…危ねぇ~」

もう少しで鉄橋を吹き飛ばさなくてはいけない所であった。

ヒヤリと冷たい汗がアスカの額を伝う。

「リイン曹長。お怪我はありませんか?」

何はともあれ、無事停止した事に安心したアスカがリインに声を掛ける。

だが、返事がない。

「……曹長、曹長?リイン曹長!?」

自分に胸でグッタリしているリインを見て焦るアスカ。

「な、何でもないです……大丈夫です……」

か細い声でリインが答える。それに安心するアスカだったが……

「え?」

ボロボロと大粒の涙を流しているリインを見て言葉を詰まらせる。

「な、何でもないですよ!いまクローズプログラムを流しますから!」

アスカに背を向けたリインは、制御装置を落とし始めた。強制的に装置を落とすクローズプログラムを走らせる。

その間にも、しゃくりあげる声がする。

「……リイン曹長」

「だから何でもないって!あ……」

アスカは、リインを今度は優しく抱き寄せた。

「オレは何も見てないし、何も聞いてません。だから、スッキリしちゃてください」

抱き寄せたリインの頭を撫でるアスカ。

「な……何を言ってるですか…リイン…は、上司……さん…です…よ…」

強がっては見たものの、だんだんリインの声が震えてくる。

「ヒッ…クッ………うぇぇぇぇん!怖かったですよぉ!」

それまで我慢していたのか、一度安心してしまったら、もう涙を止める事ができなくなってしまった。

アスカはそのリインをしっかりと受け止めた。

『隊長、こちらライトニング5。リニアレールの停止に成功しました。現在リイン曹長がクローズプログラムで管制システムを黙らせています。念の為、こちらの作業が終了するまで誰も近づけないでください』

念話でなのはに報告するアスカ。これで人は来ないはず。

リインが落ち着くまで、アスカはこのままにさせてやる事にした。





ひとしきり泣いたあと、リインは照れくさそうにアスカから離れた。

「落ち着きましたか?」

アスカはラピッドガーディアンを耳に戻しながら尋ねた。

「えっと、その、この事は……」

モジモジとするリイン。

「オレは何も見てないし聞いてません。曹長はクローズプログラムを走らせてたでけです。でしょ?」

ニパッと笑うアスカ。

「は、はいです!」

ようやく、リインにいつもの笑顔が戻った。





薄暗い、だが極端に広い部屋に一人の男がいた。

白衣を着たその男は、目の前のモニターを見ている。

モニターには、アスカとリインによって停止させられたリニアレールが映し出されていた。

広域次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティ。

彼は楽しそうにモニターを眺めている。

「刻印No.9、護送体勢に入りました」

別のモニターが開き、紫色の髪をした女性が報告をする。

「ふむ」

スカリエッティは両手を白衣のポケットに入れたまま何かを考えている。

「追撃戦力を送りますか?」

「やめておこう。レリックは惜しいが、彼女たちのデータが取れただけでも充分さ」

スカリエッティはそう答え、メインモニターに今の戦闘に参加していた六課のメンバーの記録を映し出す。

その記録にはアスカは含まれてなかった。

どうやら、単純に戦闘データだけを収集していたようだ。

「それにしても、この案件はやはり素晴らしい。私の研究にとって興味深い素材が揃っている上に……」

スカリエッティは、モニターにフェイトとエリオをピックアップする。

「この子達を、生きて動いているプロジェクトFの残滓を手に入れるチャンスがあるのだからね」

残忍な笑みを浮かべて、楽しくてしょうがないと笑うスカリエッティ。

「しかし、最後の暴走劇。あれは君の仕掛けだね、クアットロ」

スカリエッティが振り返ると、いつの間にいたのか、メガネをかけた女性が立っていた。

「クアットロ!」

モニターの女性が声を上げた。先ほどまでの落ち着いた口調ではなく、慌てているような感じだ。

「あらぁ、ウーノ姉様、どうかされましたぁ?」

甘ったるい口調でクアットロは笑う。

ウーノと呼ばれた女性は、呆れたようにクアットロを見る。

「あの暴走でもしリニアレールが脱線していたらどうするつもりだったの?大事故になれば、管理局も本腰を入れて……」

言い掛けたウーノをスカリエッティが制する。

「まあ、待ちたまえ、ウーノ」

クアットロをに目を向けるスカリエッティ。

「中々おもしろい見せ物だったよ。それに、管制系の暴走までに留めていたのは狙っての事だろう?」

「さっすがドクター!機械式のブレーキをキュ~って引けば止まるようになっていましたしぃ……」

一度言葉を区切り、スカリエッティのような残忍な笑みを浮かべるクアットロ。

「その程度の事を思いつかないようなおバカさんに、ドクターの相手をする権利なんてありませんしね」

「ふふ、君はやっぱり面白いよ、クアットロ」

楽しそうにスカリエッティは笑い出した。

ただ困ったように、ウーノはその様子を見ているしかなかった。





なのはside

事件も無事解決して、事後処理も終わったので、私とリインははやてちゃんに報告、と言う名のお茶会をしていた。

まあ、はやてちゃんも最初から見ていたし、報告する事ってあんまりなかったんだけどね。

その時に、リインがうっかり口を滑らせてリニアレールの中の出来事を喋っちゃったから大変。

じっくりはやてちゃんの尋問をうけていたんだけど……

「……っていう事があったです」

ちょっと頬を染めてリインが言う。

「へ~、そうなんだ。アスカ君、優しいね」

少し恥ずかしそうに、でもどこか嬉しそうに話すリインを見て私もなんだか嬉しくなっちゃった。

「はいです!なんか、ちょっとカッコよかったです!」

うーん、この辺の素直な所はまだ子供だからなのかなあ?

そんな事を言うと、ホラ、はやてちゃんがニヤニヤし始めてるよ。

「そうなると、ちょーっと困った事になるなあ」

「?はやてちゃん、どうしたですか?」

キョトンとするリイン。

あらら、またからかわれちゃうよ。

「いやあ、流石にリインをお嫁さんに出すのは早すぎる思うてなあ」

「な……べ、べ、別にそう言う訳じゃないですよ!?」

「何しろ、うちの末っ子に手を出そうものなら、まずヴィータもシグナムも黙ってないやろうしな。アスカ君も大変やなあ」

「だ、だ、だから、そう言うのじゃないです!」

あはは、真っ赤になってグルグルとはやてちゃんの周りを回り出しちゃった。

「ん?何の話をしてんの?」

リインが大いに慌てている時に、ヴィータちゃんが部隊長室に入ってきた。

「な、何でもないですよ!」

そんなに慌ててると、却って疑われちゃうよ、リイン?

まあ、ヴィータちゃんはあんまり拘らないかな?

「?まあいいや。所で、新人達って今日はもうオフシフトになってたよな?」

リインの事は軽く流して、ヴィータちゃんがそう聞いてきた。

「うん。初出動で疲れてるだろうから、休養をとってもらおうと思って。あ……」

一人、例外がいたのを私は思い出す。

「アスカ君は戦闘してないからって、訓練場の使用許可を出したよ。デバイスの調整をやるからって。確か、アルトが手伝うって言ってたけど……どうかしたの?」

話の途中から、ヴィータちゃんの顔がドンドン気の毒そうになっていく。

どうしたんだろ?

「いや、それでか。シグナムがレヴァンティン担いで、鼻歌混じりに訓練場に向かって行ったからさ」

「「「え?」」」

私とはやてちゃん、リインの声がハモってしまった。

すごい明確に、その結末を想像できちゃったから。





アルトside

「ちょ~!!待って待って待って!」

えーと、なんでこうなったんだっけ?

確か、アスカのデバイスを起動して色々動かしていたらシグナムさんが来て……

「痛い痛い痛い!」

細かいデータより模擬戦が一番だとか言い出して……

「ぷりーず!へっぷみー!」

なし崩し的に模擬戦が始まったんだっけ。

「ハード過ぎるでしょう!シグナム副隊長!!!」

逃げても逃げても、全然逃げ切んないよねー。ガンガン攻撃当たってるし。

「新しいデバイスの調整につき合おうと言うのだ、遠慮するな!」

わー、すごい爆炎が上がって、その煽りを思いっきりアスカが食らってる

……最近、シグナムさん何かストレス溜まる事ってあったっけ?

「遠慮します!全力で遠慮します!」

上手くバリアを使っているけど、すぐにレヴァンティンさんにド突かれて吹っ飛ぶアスカ。

「えーと、アスカ!いい数字出てるよ!」

「ア~ルトさ~~ん!!!」

ゴメン、アスカ。私にはシグナムさんを止められないよ。

ちゃんと医務室に連れて行くから許して!





outside

その日、一番ダメージを負ったのは、戦闘に参加していない筈のアスカだった。 
 

 
後書き
はい、ファーストアラート終了しました。
相変わらず下手な文章の上に長文になってしまい、申し訳ありません。
こんな文章でも、様々な方に読んでいただき、大変感謝しています。
本当にありがとうございます。

さて今回、アスカは活躍できたのでしょうか?
一応、主人公らしい行動はできたのではないかと思っています。
なにぶん、戦闘で活躍しないので、別のところで動いてもらうしかないのです。
まあ、最後はシグナムさんオチでしたけど…

エリオsideはもっと丁寧に書くべきでしたね。
端折りすぎたと反省です。

ヴィータさんがちょっとしか出てきませんでした。申し訳ありません。

そろそろ温泉肌色回に突入と行きたい所ですが、その前に訓練シーンをやります。

 
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