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没ストーリー倉庫

作者:海戦型
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=入試編= ヘルプセレクト

 
 人間、頑張ってもダメな時はダメだ。肺がはちきれそうなほど必死に酸素を取り込みながら、俺は残酷な現実というものを悟らざるを得なかった。

「こんのぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

 瞬間、蒼く光る瞳が水面に映るように揺れた「運命」を俺に見せる。運命のなかの俺は背中にロケット弾の直撃を受けてヤ~なカ~ンジ~に吹っ飛ぶという醜態を晒していた。俺はそれを認識すると同時にその場を横っ飛びにはなれる。瞬間、先ほどまで俺のいた場所に複数のロケットランチャーが着弾して閃光が周囲を照らしあげた。
 間髪入れず「運命」が視界に投影。今度は突っ込んで来る敵を躱した後に「転倒させれば後方から来た奴を倒せたのに」と悔しがる俺が映る。その言葉にすぐさま従い体制を低くした俺は目の前から迫る2Pロボットの足を救い上げるように殴りつけた。勢いを殺しきれずにつんのめったロボットと後方から迫った1Pロボが衝突し、ブスブスと煙を上げて行動不能になる。

 俺はもう人生で経験したことがないほど個性を連発して暴れまわっている。レスキューポイント稼ぎも兼ねて自分以外の生徒を助けるために残骸投擲はしているが、正直自分の身を守るのに精いっぱいでそれほど点は取れていないと思う。
 しかも、これだけ頑張っても自己採点ではまだ20ポイントに過ぎず、しかも僅か6分しかない試験時間はそろそろ終了しようとしている。

(厳しいとは思ってたが、厳しすぎるッ!合格ラインに届くにはおそらく最低でも40ポイントは必要だってのに……もう間に合わんッ!!)

 入試成績上位は確か70~55ポイントくらいの戦績だったことを考えると、合格ラインは恐らく40台には乗っていないと厳しい。だからここで骨が折れても30ポイントは稼ごうと必死で足掻いたが、生身でロボットをぶち壊し続けるのは余りにも無理がありすぎた。

 俺の力は戦闘向き個性や拘束力のある個性とはまるで性質が違う。ほかの生徒と違って俺はあくまで「生身で可能なロボットの破壊方法」という大きな縛りがある。だから撃破には必然的に時間がかかるし、むしろ点の取り合いであるこの現場で俺がここまでポイントを取れていることが逆に一種の奇跡なのだ。
(※本人は気づいていませんが、水落石があまりに縦横無尽に動きすぎて周囲はロボットに割り込むのを諦めています)

 というか、そもそも既に鍛えていたはずの腕がやばい。重量10キロは超えた鉄の塊を武器にしてぶん回していたものだから筋肉への負担が半端ではなく、正直いつ筋が切れても可笑しくないんじゃないかというくらい痛い。両利きなので時々持つ手を変えてはいたが、ロボットをぶち壊す勢いを出し続けた以上負担の大きさは推して図るべし。体力以上に危険な状況だ。

 さらに残念なお知らせがある。個性には必ず何かしらのリスクが付きまとうのだが、俺はそれが「凄まじい眠気」という形で現れる。試験前に刺激の強いドリンクを飲んでノリがいい曲を聞いて中二感全開で戦闘に突入したおかげでこれまではアドレナリンがドバドバだったが、流石に5分立て続けに使い続けたツケが微かに俺の意識を奪いつつある。
 運命への干渉、その代償は俺が行動できなくなることで支払われるのだ。まったくもって厄介な代償だ。

(くっそぉ………相澤先生じゃねえけどこの試験方法マジで見直してくれよ!俺はここで止まるわけにはいかねぇんだ……クソカッケぇ未来のヒーローが死ぬ運命を、俺は変えなきゃならねぇんだよ!!………ダメだった時のためのプランも用意してあるけどなっ!!)

 アツいこと言っておいて何だが、ちゃんとダメだった時のための激セコプランは十重二十重ある。要は自分の代理でA組の誰かに事実を伝えてしまえばいいのである。これでも一応未来は変えられる……相手が俺を信じてくれればという限定条件付きでだが。

「あーあ……せめてどっかに超絶ピンチな女の子とかがいて俺がそれを華麗に助けられたらレスキューポイントガッツリなんだがなぁ」

 ま、ないだろう。ダンジョンで出会いを求めるぐらいない。そんなチョロイン侍らせるエロゲ主人公的な展開は現実にはまず起こり得ないわけで、そうつまりデクくんは現実じゃないんだ(錯乱)。――もとい、俺には少なくともそんな瞬間は来ないだろう。
 そんなことを考えていると、向こう側から腹の底を叩くような地響きと共に頭おかしいサイズのロボットが接近しているのが見えた。0Pロボットだ。カービィで言うゴルドー的な。そういえば実はカービィシリーズのシャッツォって初代だけ無敵キャンディで撃破可能だったなぁ、などと思い出しながら、俺は自分の不合格を悟った。
 やっぱ実際問題、デクくんの運命変えるって無茶あるよな。だって本人がガンガン運命変えていく系だもん。しゃーないしゃーない、次善の策でどうにかしましょ。

「…………て~~~……」
「ん?なんか聞こえるな」
「………けて~~~!」
「……ふむ、親に置いてけぼりにされて助けを求める子猫的な切ない響きを感じるな」

 どこかそれなりに近い場所から、女の子の声が聞こえる。この巨大ロボットが迫ってる状況でなんとも情けない声を出しているようだが、どこの誰だろうか。ロボットから逃げている連中かと思ったが、それとは反対方向から声は届いた。

「たぁぁ~~すけて~~~~!!」
「と言われましても、そもそもどこにいるんだ……?」

 
 俺もそろそろ逃げなければいけないし、助けられるなら急いで助けてしまいたいのだが……そう思って周囲を見渡しても、ロボットの残骸とだんだん迫りくるロボットしか見えない。助けろと言われたらとりあえず助けようとするのは人の性だが、見えない相手ともなると一休さんクラスのトンチを利かせないと救出は困難だ。
 と、次の瞬間に俺の眼に「運命」が投影された。



 映ったのは数人の大人と、残骸の隙間にある血溜まり。
 生々しくも人を象ったように広がる朱色を前に、大人たちは沈痛な面持ちで、拳を握り締めている。

『――まさか透明になる個性のせいで気づかれずにロボットに踏みつぶされるとはな……』
『別のロボットの残骸の下敷きになって身動きが取れなかったようだ』
『まったく、全身複雑骨折で済んで運が良かったが、もう彼女にヒーロー活動は無理だな。後遺症が残る』
『葉隠透――惜しい人材を失った。これはヒーロー界の損失だよ』

 その手には、どう見て誰も映っていないように見える写真の張られた履歴書があった。



 俺は、錆びたロボットのようにギギギと首を回して未来視に映った残骸と同じものを探した。
 とてつもなく、嫌な予感がした。俺の予感は「運命」など垣間見なくともよく当たる。

「助けて~~~~!!ちょっ、マジでシャレになんないってアレ!!くぅぅ~~まさか透明だから誰も気づいてない系なの!?なんという殺生!?」

 そこに、不自然に空いた残骸の隙間からパタパタ動くフライング手袋を発見した。
 ………どう見ても葉隠ちゃんです本当にありがとうございました。

「マジかぁぁぁぁぁああああああああああッ!?」

 俺は、ロボットが接近していることも残り時間のことも完全に頭から飛んで彼女のもとに駆け出した。

 マジでキミ何やってんの!?いや、実質的にA組で体力テスト実質最下位近かったのは知ってるけど、なぜに入試のこんなところで盛大に躓いて再起不能の運命抱え込んでるの!?というかあの入試ロボ、切島たちの「俺じゃなかったら死んでたぞ!」はガチだったんだな!?ギャグじゃないんだな!?いくらリカバリーガールがいるからって雄英無茶しすぎだろ!!

 というかこれ、もしかして助けに行った俺も二次被害で死ぬ可能性ある?

 いやいやいや待て待て、葉隠ちゃんといえばA組の立派な生徒。しかも、未来を見るにここで彼女を助けそこなうともれなくこの物語から葉隠ちゃん退場の危機である。原作だとまだ出番の少ない人だがこれから何か重要な役目を果たすのは確定的に明らかなわで、ここで潰えるのはどう考えても駄目だろう。

 結局のところ、今ここで気づいた俺が助けるしかない。
 気づいてて逃げるという選択肢も俺には無理だ。
 俺は結局のところ、この世界で必死に生きてる連中が大好きでたまらないんだから――1人だってリタイアさせたくない!!今こそ迸れ俺の転生式エゴイズムよ!!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
「ヌオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
「おおおおお…………おおっ!?隣になんか走ってる人がいる!?」

 なんか声が多いと思ったら、真横を謎の男が地響きを立てて走っていた。
 体格が高校生とは思えないくらいデカく、地響きのように力強い踏み込みで加速する獣人タイプで頭からかなり強そうな一本角がそびえたったマッスルガイは、俺の見立てではあの哺乳類でもトップクラスに戦闘能力がありそうなサイの個性を持って生まれた存在に見えた。
 それは、まぁいいんだけど。………なぜ俺の横を走っている!?

「え、いやいやなんで!?なんでおたくロボット側に突っ込んでるの!?というかそもそもどちら様!?」
「俺の名前は頼野(らいの)猛角(もうかく)!!あの0Pロボットを見て漢を燃え上がらせた最強の戦士だ!!点数などどうでもいい、敵から逃げるは漢に非ず!!故に俺はあれを仕留める!!しかしまさか俺以外にもアレに立ち向かおうとする猛者がいたとは、俺はお前の漢の心意気に感激したぞ!!」
「ちげーよ!?俺は逃げ遅れの透明少女を救出に向かってるだけで戦う訳じゃないからね!?お前も変な対抗意識燃やしていないで逃げろよ死ぬぞッ!!」
「なぬっ、貴様戦いたいわけではないのか!?しかし細かいことはよくわからんが人命救助の為に巨悪に立ち向かうのも漢の性!!お前を強敵と書いて友と認めよう!!フオオオオオオオオオオ燃えてきたぞぉおおおおおおおおおおおおッ!!!」

 駄目だコイツ早く何とかしないと………と思ったものの、もう何とかできる状況でもないし諦めよう。一応あのロボ撃破可能だし、案外放っておいた方が状況が好転するかもしれん。というかあいつ原作ではA組にもB組にもいなかったよな。今年からヒーロー枠広がってるから同級生になる可能性もあるのか。……イヤだなぁ、汗臭そうで。

「人の話まるで聞いてねぇと思うけど前方2時の方角に要救助者がいるから跳ね飛ばしてくれんなよ!!」
「心配ご無用!!俺は直線距離ならオールマイトさえ超えて世界最速最硬最強だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
「全然拝聴されていらっしゃらない!?」

 幸いというかなんというか、0時の方角にしか突っ走る気のないサイのお方はそのまま0Pロボットに猪突猛進一直線に突っ込んでいった。オールマイトを超えるとはかっちゃん並のビッグマウス……や、かっちゃんは「いずれ超える」だったからかっちゃん以上のジャイアントマウスだな。

 冷静に考えてパンチ一発で上昇気流を発生させて雨を降らせた状態でも万全ではないオールマイトを超えるとか無理だと思う。アレ超えるとなると最早どっかのハゲマント並になんないと不可能だ。汝ハゲる覚悟ありや?俺は遠慮しときますが。

「っと、言ってる場合でもないか………おーい助けに来たぞ~!!」
「おお!?殺伐とした世紀末の世界に一筋の光が!!」
「って意外と余裕あるな君!?」

 まぁ割と天真爛漫っぽいことは知ってたけど、と内心でぼやきながらも瓦礫をどけると、葉隠ちゃんの全身が――あ、駄目だ割と本気モードだったせいか手袋と靴以外装備してないから全然体勢がわかんねぇ。

「さ、逃げるぞ!立てるか?」
「オッケー!と言いたいところなんだけど……瓦礫で足くじいちゃってちょっと歩くのは無理かな!さらに迷惑かけて悪いけど抱えて行ってくれない?」
「分かった、ちょっと動かないで……」

 これ、ガチで見えん。どこが女の子的に触っちゃまずい部分なんだ?ラノベ主人公なら確実におっぱいあたり鷲掴みにしてるぞ。だが俺にはエロゲ主人公的な展開は現実にはまず起こり得ないわけで、そうつまり気を付けていれば何の問題もない!
 というわけでたぶんこの辺なら触って大丈夫だろうと思われるあたりを触って抱き抱える。

 瞬間――本日もうそろそろ打ち止めにしたい「未来視」が発動した。



『やーん太もも触ってるー!』
『ええっ!?ご、ごめん!避難するまでちょっと我慢し――』
『ウルトラ必殺シリーズ奥義!!グラント・ホォォォーーーーーンッ!!!』

 耳を劈く凄まじい轟音と共に、巨大ロボットの前足が砕け散り、バラバラと火花や金属片を撒き散らす。バランスを失った巨大ロボットは不気味なほどゆっくりと体を傾け――水落石と葉隠の真上にすっと影が差した。

『え?』
『え?』
『あっ』

 足をぶち壊した頼野が「やっちゃった」って感じの顔でこっちを見て――直後、俺と葉隠は超巨大な鉄の塊に仲良く押し潰された。

 場面は暗転し――映ったのは数人の大人と、残骸の隙間にある血溜まり。
 生々しくも人を象ったように広がる朱色を前に、大人たちは沈痛な面持ちで、拳を握り締めている。

『まさかあの大型ロボットを転倒させ、それが二人者受験生を瀕死の重傷に追いやるとは………』
『身動きが取れなかった受験生を庇って二人もろとも被害を受けたようだ』
『まったく、全身複雑骨折で済んで運が良かったが、もう二人にヒーロー活動は無理だな。後遺症が残る』
『葉隠透に水落石拓矢――そして責任を感じて入学を辞退した頼野猛角。これはヒーロー界の損失だよ』



 そのビジョンを見た俺は、思った。

「またこのパターンだよ(笑)」
「やーん太もも触ってるー!……って、え?何が?」
「ウルトラ必殺シリーズ奥義!!グラント・ホォォォーーーーーンッ!!!」

 頼野が吠え、その角がロボットの足を豪快な音を立てて吹き飛ばした。

 耳を劈く凄まじい轟音と共に、巨大ロボットの前足が砕け散り、バラバラと火花や金属片を撒き散らす。バランスを失った巨大ロボットは不気味なほどゆっくりと体を傾け――水落石と葉隠の真上にすっと影が差した。
  
 

 
後書き
これといって理由のないEXハードモードが主人公を襲う!

5/16 3時の方角って真横ですやん。修正。 
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